「何をしている!」
人の来ない薄暗い裏路地、魔力の補給を行っていたら背後から声が掛かった。
振り返れば白を基調とした襟と袖が黒い上着、その下には黒と白のボーダーのシャツ。
そして白一色のズボンを履いている、成人を迎えているだろう大柄な男が居た。
その顔は険しく、ただの人間にしては力強さを感じさせる。
「おい、何やってるんだよ! 誰か近づけば分かるって言ってたのはお前だろ! まったく、本当にお前は使えないな! さっさとそいつを殺せよ!」
私を挟んで男とは反対側、口煩く喚く仮のマスター。
小さくため息を吐きながら仕方なく腕の内の女性を下ろして、男へと向き直る。
「そう言う訳ですので、死んでもらいます」
「お前たち……!」
杭にも似た鎖付きの短剣、擦れる金音を鳴らして取り出し。
「それでは、さようなら」
投擲した。
風を切って走る鎖付きの短剣は男の胸へと直進し。
「!」
飛び込み前転で短剣を潜り抜け、その勢いのまま飛び上がり。
「ハッ!」
空中で体勢を変えながらの飛び蹴り。
それなりの速度、ただの人間ならば簡単に蹴り飛ばされるような威力。
「あなたは、本当にただの人間ですか?」
だがこの身はサーヴァント、人間程度に遅れを取るほど弱くは無い。
その蹴りを掴み、引っ張ってシンジが居るほうへと放り投げる。
「うわっ!? おまえっ!」
「邪魔です、シンジ」
シンジの頭上を越えて男が飛び、路地裏の地面に転がる。
慌てて私の隣を通り過ぎて、男から離れるシンジ。
手に持つ鎖を引き、立ち上がろうとしている男へと狙いを定めて投擲。
「くっ!」
男は苦声を漏らして転がり、短剣に当たる事を拒む。
そうして目を覆っている自己封印・暗黒神殿の下、眉を顰める。
やはりこの男、ただの人間ではないと判断した。
手を抜いているとは言え短剣の投擲を、ただの人間に避けれる物ではない。
それなのに二度、来る事を認識しての回避。
それ以前に、本当にただの人間ならば接近に気が付かない訳が無い。
この男は人間としての反応が弱すぎる、気配断絶の能力を持つサーヴァントかと思ったがそれも違う。
サーヴァントとしての気配は一切無く、人間としての気配も薄い。
では一体何か? 正体は分からないが、ただの人間と侮ってはいけない気がした。
「見た目よりも軽捷ですね」
「おい! ライダー! 何してるんだよ! さっさと殺せ!」
煩わしい、桜の願いが無ければ捨て置くと言うのに。
「シンジ、この男はただの人間ではないでしょう」
「な、魔術師か!?」
「それとも違う、魔力と言ったものも感じません」
生気を吸い取る吸血の対象と成り得るかと言えば、この男は全く持ってそそられない。
趣味趣向の問題ではなく、単純にこの存在の生気が薄すぎて吸い取るほどあるとは思えない。
人間の形をした無機物を見ているような気さえする、もしこの感覚が正しければこの男は『人間に似た何か』。
「……一つ聞く!」
男はすばやく起き上がりながら、私を指差して口を開いた。
「その子をどうする気だ!」
シンジに襲えと言われて、仕方なく血を吸った所予想以上に美味しかった。
名は確か『ミツヅリ アヤコ』、また機会があれば血を吸いたい。
とりあえずこの存在を消し去ってから、もう一度死なない程度に吸いましょうか。
「あなたには関係無いことでしょう、そもそも知った所で何の意味も無い」
「……何を企んでいる!」
「……話の分からないモノですね」
「お、おい! やばそうならさっさと殺せ!」
言われなくとも。
「……そうですね、冥土の土産と言うのですか。 これから死に逝くあなたに教えてあげましょう」
笑うように口端を吊り上げ、足をまっすぐ伸ばしたまま肩幅に開き両手を地面に付いての前傾姿勢。
「血を吸うのですよ、死なない程度にじっくりと」
「なにっ!?」
男が驚くと同時に跳躍、狭い路地裏の壁を跳ねながら鎖付き短剣の投擲。
擦れる音を鳴らしながら鎖が螺旋を描き、短剣が空を駆ける。
「!」
それは怪力のスキルを用いた投擲、数倍に跳ね上がった飛翔速度は避けるのが精一杯であった男を貫くはずだった。
「罪の無い女の子を傷つけるとは……」
だが男は短剣を掴み取り、壁へと投げ付けて突き刺す。
その顔には怒りの形相が焼きついたように、鋭い視線を向けてきていた。
「許さんッ!」
男は軽く力を抜いた左手を腰に据え、右手を高く上げる。
そして天へと向けた手のひらを水平に左九十度捻り、ゆっくりと腰の高さまで下ろしていく。
「ヘンッ……」
右腕を左から右へと水平に振るい、続けて左腕を右から左へと水平に振るう。
「シンッ!」
拳を作った右手を腰に、拳を握った左手を肩の高さに。
それと同時に、男の腰から光を放ちながらベルトのような物が現れた。
「何を……ッ!」
そう言い掛けて、瞬きよりも早く男が変化した。
一瞬の閃光、男は得体の知れない何かに変質していた。
有機的な鎧とでも言えばいいのか、黒と緑を基調として全身を包み。
腹部には六角形に近い水晶のような物と、その下に赤い円が二つ横並びとなって金色に彩られたベルト。
そして頭部の前面には、顔の半分を占めるほどの大きな赤い複眼。
その姿を見て、多くのものが想像するだろうイメージは『飛蝗(バッタ)』。
人型のバッタ、そう表現して差し支えない存在。
「なっ、なぁ!? そ、そんな……!」
奇妙な存在、警戒するに値する何か。
壁の突起に手を掛け張り付いたまま、その存在を見下ろし動向に注意を払う。
「俺は太陽の子! 仮面ライダッ! ブラックッ! アールッエックスッ!!」
「か、仮面ライダー!?」
まるで決めポーズのように腕を動かし、ビタリと静止する。
カメンライダー、そう奇妙な存在が名乗りを上げ、下でシンジがまるで知っているような声を上げる。
ポーズを解きながら、カメンライダーと名乗った存在は右腕を向けて指刺してくる。
「お前たちが一体何者かは知らない、だが罪無き人たちを傷つけるのは見過ごせない!」
「許さない、見過ごさない、ならばどうすると?」
カメンライダーは腕を下ろし。
「罪無き人たちを傷つけられないよう、ここでお前を倒す!」
「………」
カメンライダーはそう宣言して。
「トウッ!」
変化する前とは比べ物にならない速度、跳躍力を見せ。
一気に飛び上がり、私の元まで向かってくる。
同時に私も壁を蹴りながら、下のほうで壁に突き刺さる短剣を引き抜き。
叩きつけるように鎖をカメンライダーへと放つが。
「トアッ!」
迫る鎖を左腕で払いながら、右腕を引き絞る。
「RXパンチッ!」
「クッ!」
赤く燃え上がる右手に脅威を感じ、壁を蹴って避ける。
飛び降りるように落下し、シンジの近くへと着地。
「なんで、なんでだよ!?」
「シンジ、引きましょう」
あの存在とまともに戦って得るものは無いと判断し、シンジに撤退を提案するが。
当のシンジは顔を青くして恐慌していた、こちらの話を聞いていないと判断して首根っこを掴んで走り出す。
「逃がさん!」
続いてカメンライダーも着地して、膝を着いて腕を胸の前に交差させていた。
何かをする気だと、右手で短剣を投げ付ける。
「! 卑怯な!」
鎖付きの短剣は弧を描いてカメンライダーの後方、地面に倒れ付すアヤコへと投げる。
それが分かったのかカメンライダーは飛び上がって短剣を叩き落す。
身を挺して守ると計算通り、その隙に大きく飛び上がりビルの屋上へと逃げ延びた。
「待て!」
逃げ出した女と少年を追いかけようと、バイオライダーに変身しようとした所で動きを止める。
「……ぅ」
あの女から血を吸われていた少女が声を発した。
このまま捨て置く事は出来ず、周囲をマクロアイの透視能力で確認し、他に誰も居ない事を確認して変身を解く。
「大丈夫か!」
倒れている少女、学生服に身を包んだ、肩で揃えられた栗色の髪の少女を起こす。
だが少女は小さく声を漏らすだけで、眼を覚ます気配が無い。
「……あの動き、人間に出来る動きじゃない」
とりあえず病院に運ぼうと少女を背負い上げる。
「一体この街で何が起こっているんだ……!」
その日、運命は変わる。
この街で起こる『戦争』に関わる多くの者の運命が複雑に絡み合い、来るべき未来を大きく変える。
そうして黒き太陽は、『世界』について多く知る事となる。
*あとがき*
書きたいから書いたのでチラ裏。
一応続くけど、書きたいところだけを書くので多分あと1~2話で終わる短編。
イメージはディケイドのてつをじゃなくて、RX本編のてつをで。
めちゃくちゃかっこよすぎ、ディケイドのてつをもかっこよかったけど。