サルドバルト軍は予想していた以上に多く、そして積極的だった。
けれど。
「ユート様」
「おう、エスペリアか。どうした?」
「戦術について、お聞きしたい事があるのですが」
守るだけなら余裕。
そして。
守りきった時点で俺たちの勝ちは確定している。
「何か気になることでもあったかな?」
「……いつも通りの専守防衛戦術はお見事です。ですが、こんな戦い方は戦術教本になかったのが気になりました」
確かに、俺が以前借りた教本にもなかったな。
「この戦術は、一体どこで学ばれたのですか?」
「自分で考えた」
「ユート様がご自分で、ですか?」
話を少しだけ変えよう。
スピリットの館には風呂がある。
「その理由をお答え下さい、緑コーナーのエスペリアさん」
「ええと、私たちの体は人間のそれよりも疲れが溜まり易いのです。それを癒すために、ですよね?」
そう。
エスペリアに背中を流して貰えないのは残念……いや、そうじゃなくて。
碌に戦わない俺には微妙に分からないのだが、その疲れは野宿では取れないほど深刻なものらしい。
ここで質問。
スピリットを駒としか思っていない人間が、「疲れたから」なんて理由でスピリットが撤退することを許すのか?
「つまりこっちが守りを固めてれば、向こうは勝手に疲れ果てて行動すらできなくなる」
「……そう、なりますね」
「なら敵が元気な時に攻めるより、弱ってからタコ殴りにすればいいんじゃね? 俺も現場で指揮を取る以上、街からあんまり動きたくないし」
「……」
「あれ、どうしたのエスペリア?」
「……ユート様は、本当に発想が自由と言いますか、容赦がないと言いますか……」
褒められてる気がしないのは、気のせいだろうか。
あとエスペリアさん、素直にえげつないと言ってくれていいのよ?
光陰で慣れている俺のハートは挫けない。
あいつら、元気にしてるかなあ。
■
「よくやった、エトランジェ・『求め』のユートよ。今儂はとても気分が良い」
「……は」
今日の晩飯何かなあ。
リクェムが出てくることは確定してるんだよな……
模擬戦で勝てなくなってきたからって、久々にお茶クイズで挑んでくるエスペリアさんマジ鬼畜。
え、王様の話? あんまり聞いてないよ?
それなりに付き合いも長い。
中身のある話をする相手じゃないのは分かってきたし、適当に跪いて「……は」って言ってあげれば終わるし。
そう思うと、このヘタレ王に対しての敵意も湧いてこない。
何だろう、この慈愛にも似た生暖かい気持ちは。
「ふふふ、これで聖ヨトの血は正当な我々だけになった。正しき血筋によって、龍の魂同盟はあるべき姿に戻ったのだ」
正当な血筋って、マナ消失引き起こしたり同盟相手を吸収したりを平気でするのな。
戦争がこの世界の人間にとってゲーム感覚だとすれば、ゲームやってる時の俺とやること変わんないじゃん。
「……エトランジェよ」
「は」
「今回の働きは値千金と言えよう、何か褒美を取らせようではないか」
むう。
俺、アンタの家来じゃないんだけど。
褒美って言われても、今欲しいのは自由……流石にそれはまだ早い。
向こうだって、貴重な戦力を手放したりはしないだろう。
同じ理由で佳織も解放しては貰えない、人質だからな。
なら、選択肢は一つ。
「わたくしは何も要りませぬ。褒美が頂けるのでしたら、いずれそれに相応しき戦功を挙げてから頂きとうございます」
従順さをアピールするしかない。
不利な交渉なのは分かっているが、これも将来への布石だ、うん。
あの姫が王になった時に、温情をかけてもらうとしよう。
「父様、この者の義妹を解放するのは如何ですか?」
……え?
「何を言っているのだ、レスティーナ。それはできぬぞ」
ここは王の方が正しい。
この姫は賢そうだと思ったが、読み違えたか?
いや、それともそうする理由があるのか?
「この者はエトランジェ、この国で戦う以外に帰る道はありません。それにどの道、我が王族には逆らえないのですから」
「やけに入れ込むな、レスティーナ……そう言えば、昔からエトランジェに興味があるようだったな」
「私は聖ヨトの血を継ぐ者、異邦人に魂を奪われるなど有り得ません」
エトランジェですが、玉座の空気が最悪です。
王は姫を疑ってるように見えるし、姫は「アンタ異邦人の力に魅了されてるじゃん、馬鹿なの?」とでも言いそうな視線を王に向ける。
あと、聖ヨトの血にエトランジェって逆らえないのか。初めて聞いた。
でもそれ、死亡フラグだと思うの。
インド神話にいたよね、殺されない条件を付けまくった挙句、屁理屈で殺された奴。
シェイクスピアにもあった気がするし。
■
とりあえず、佳織は解放されることになったらしい。
今後の忠誠を誓わされたけど、まあ別に逃げる気はない。
だってここにいれば、最低限の頭脳労働してるだけでパーフェクトメイドにお世話してもらえるんだぜ?
あと、マジであの姫が何を考えてるのか分からない。
このくらいで俺が感激して忠誠を誓うと思ったか、あるいはどうせ逃げないと読みきったのか。
本当に、佳織と話すのに飽きたから解放しただけなのか。
一度でいい、1対1でお話したいところである。
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最初の謁見で無駄に逆らわなかったせいで、エトランジェの設定を知らなかったようです。
そして第2章クリア。この章だけボスがいないんですよね。
次は日常編でしょうか?