「戦勝の勢いを以て、引き続きダーツィ大公国に攻撃を仕掛けよ、か」
好き放題言ってくれる、とは言えない。
上の命令には逆らえないのが俺の宿命なのだ。
「ユート様、どうかなさいましたか?」
「いや……この戦争はいつまで続くんだろう、いつになったら終わるんだろう、と思ってな」
確かにエトランジェの力は凄い。
何度か使っただけだが、それは嫌というほど分かる。
だからそれを手に入れた側が、つい有頂天になって戦争を仕掛けるのも分からないではない。
今回の戦い、それを使わずに勝てたのだ。
使えば次も余裕だろう、と踏んでいることすら容易に想像できる。
でもそれって、喜んでエアガン振り回す子供とどこが違うんだ?
「――申し上げにくいのですが」
「いいよ、何でも言ってくれ」
「レスティーナ殿下からの書簡です」
「もう読んだんだろ? 内容だけ聞かせてくれるか?」
「『サルドバルト・イースペリア間に不穏な空気あり、要警戒』との事です」
知らせてくれただけ有難いけど。
どっちも龍の魂同盟じゃなかったのか。
「武器だって使い続ければ錆びる、磨り減る……なあエスペリア、俺達はあとどれだけ戦い続ければ平和になれる?」
「……すぐに、平和になるはずです。ですから、今は……」
分かっている。
エスペリアにこんなことを聞いても仕方ない。
でも。
俺はいつまでエスペリアたちを戦わせれば、解放される?
あいつらはどれだけ他人から奪えば、満足する?
俺は本当はただ、何もしないで――誰にも迷惑を掛けないで、のんびりと暮らしていければそれでよかったのに。
そんなことすら、許されないと言うのなら……
「……エスペリア」
「はい」
「まずはいったん足を止めて、守りを固めつつ戦力の増強だ。それが終わり次第ヒエムナ、ケムセラウトの順で落とそう」
■
「カオリ、入りますよ」
「あ、はい。どうぞ」
レスティーナ様。
フルネームはレスティーナ・ダイ・ラキオスというらしい。
人質となっている私に、色々と良くしてくれた人。
「それは……もう、本が読めるまでになりましたか」
「あはは、そうは言っても絵本ですから」
「いえ、このような状況かつ短期間で、新しい言葉をそこまで習得できるのは誇ってもいいと思いますよ」
レスティーナ様がいなかったら、きっと私は今頃暗い地下牢に閉じ込められていた。
感謝してるけど、それ以上に。
美人で気品があって頭も良くて、私もそうなりたいと思ってる。
「カオリの世界の人々は、皆このように勤勉なのですか?」
「そうでもない、と思いますよ。私もそれほど勉強家ってわけじゃないですけど」
勤勉、という言葉から程遠い人を知っているだけにコメントが難しい。
お兄ちゃん、今も戦っているのかなあ。
……お兄ちゃんの評価は難しい。
例えば今戦っているのは、何のためなのか。
本人は自分のためと言うだろうけど、それが本心かどうかは分からない。
行動は読めるんだけど、思考は読めないんだよね……
「ならば血は争えないということですか。ユートも書類を自分で作れるほど、読み書きを覚えたようですから」
「私、義妹なんですけど……お兄ちゃんは本気を出すと凄いからなぁ」
「……正直なところ、ユートの本気は底が知れないのですが」
読み書きをマスターするほどの何があったんだろう。
お兄ちゃん、滅多に本気なんて出さないのに。
■
「訓練は青と緑、次いで赤スピリットを重点的に、ね。これはユート様の指示?」
「ええ、そうですよ」
「私、ユート様自身が訓練してる所を見たことないんだけど」
「『どうせ剣を振っても筋力が付くわけでもないし』だそうです」
「あの人、やる気を根こそぎ奪い取るわね……エスペリア、疲れた顔してるけど大丈夫?」
「……ええ、ありがとうセリア。私は、まだ頑張れます」
ところで。
基本的に弱音を吐かないエスペリアの『まだ頑張れます』は、結構致命的な状態だと思うのだけど。
それほどまでに酷いのだろうか、あの隊長。
まあ、ひどいわよね。
能力はあるだけになおさら。
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色々な人の評価。
佳織がいい性格になってきました。強い子です。
ニートの性格は信用してても人格が信頼されていないのですね。