風よりも速く走り、岩よりも揺るがぬ突撃で、雷よりも鋭い一撃を叩き込む。
小細工が必要ない強さ、それがエトランジェ。
「――煉獄の炎よ!」
「勇者舐めんな!」
肩から斜めに一閃した『求め』に手応えが伝わり、同時に喉が焼けるように痛む。
どうして炎の中突っ切る時に、口を閉じることを忘れるのか。
アホか俺。
まあ閉じていた目は別として、それ以外の全身痒かったりピリピリしたりで大変なんだけど。
これ、全身火傷だろ?
「エトランジェは抵抗力もたk へぶぅっ!?」
右からくるブレインシェイクな一撃に、独り言すら最後まで言えずに吹っ飛ばされた。
頬を伝う生温い感触に、自分が受けたダメージと……そしてそれだけのダメージを受けて、なお立ち上がれることでバカ剣の加護の凄さを実感する。
「痛ぇ、超痛ぇよぉ……」
「インフェルノから追撃まで受けて、それで済んでいる方がよほど異常だ」
「エトランジェに魔法はまず効かねーんだよ。殺したいなら、その剣で急所を狙うんだな」
ゆっくりと立ち上がり、剣を構える。
敵も右手一本で、双剣を水平に構えて腰を落とす。
どうやらさっきの一撃は、左腕が使えなくなるくらいには効いたらしい。
「そのようだ、今度こそ死ね!」
「冗談っ!」
地を蹴ったのはやはり同時。
左から来るフック気味の一撃を、下から『求め』で弾き上げる。
互いに剣を振り上げたような形から、俺の唐竹割りと奴の突きで相打ち。
その未来を覆す、左足での蹴り上げ。
俺のそれは狙い通りに、足元の砂を舞い上げる。
スピリットの剣技は綺麗すぎた。
無駄なく効率よく、最大速度で最大威力の連撃を叩き込む剣。
確かにパチスロで鍛え抜いた動体視力があるとは言え、加護なしでも俺に剣筋が見えたのはそれが理由だ。
次に効率がいいのはどの斬撃かを予測すれば、そこに攻撃が来る。
つまりこいつら、ダーティな戦いには慣れてないわけで。
「何だこれは――」
「――忍法・畳返し斬り。この場合は砂塵返し斬り、でもいいか」
行動不能となった一瞬で、スピリットは神剣ごと一刀両断されたのだ。
■
という夢だったのさ。
回想だけどね。
「死にたい死にたい帰りたい」
「小さき者よ、その剣はただの飾りか?」
ドラゴン。
それが象徴するのは王権であり、財宝であり、名誉であり。
そして圧倒的な、力。
一瞬で勝負は決まっていた。
飛び掛ったアセリアは、その鞭のような尾の薙ぎ払いで洞窟の壁に叩きつけられ。
それを見て警戒し、防御体制を取ったエスペリアに向けられたのは、大きく開いた口から放たれた冷気。
「素質は良い。だが妖精よ、我を討とうとするには未だ力が足りぬ」
無茶言わんで下さい。
「さて、もう一度問う……異界の小さき者よ、その剣は飾りか?」
「飾りって事にしておきたいです」
「ならば、汝は見逃してやっても構わぬが。だが、我を討たんとする者は許せぬ」
「……どうするんだよ」
「まずはこの妖精達が来た町を滅ぼし、そしてそこにいる小さき者が逃げる先全てを破壊するとしようか」
なんてこった。
あの城には佳織がいる。
アレでも二人きりの家族だ。
俺はそれを、また殺されるのか?
自分の運命を支払って助けた命が、こんなところで消えるのか?
俺の運命の値段なんて、所詮その程度か?
「……冗談じゃない」
「どうした、小さき者よ」
(契約者よ……、汝、力を欲するか?)
力を貸せ。今だけでいい。
終わったら龍のマナを喰わせてやる。
これなら、お前の利益にもなるだろう?
(……よかろう、再び契約だ。我は我の利益になる時にのみ、汝に力を貸そう)
それでいい。
だから、それ以外の時は俺に干渉してくれるな。
「行くぞバカ剣、力を貸せっ!」
「小さき者よ、その剣は飾りなのだろう?」
「例え、これが『ひのきの棒』だとしても。お前に、佳織を殺させるものか――!」
■
真横から迫る巨木の幹。
龍の尻尾が、俺にはそう見える。
邪魔だ。
右手で握り締めた『求め』を、横薙ぎに叩きつけて迎撃。
その一撃で、龍の尾は中途から断ち切られた。
「■■■■■、■■■――!」
龍が何か叫んでいるが、聞き取れない。
ただ吼えただけかもしれない。
どうでもいい、今はその息の根を止めるだけ。
振りかぶられる右腕はその鋭利な爪が当たったら、オルファなどひとたまりもないだろう。
だからタイミングを合わせて、大上段に振りかぶった剣を叩きつける。
その勢いで地を蹴り、奴の顔面めがけて俺は跳んだ。
「アイ、キャン、フラァァァァイッ!!」
開かれた口。
冷気が収束していくのが、マナの流れに鈍感な俺でも分かる程。
「小さき者よ、汝に敬意を払うとしよう――■■■■■■」
「この野郎……っ、『来るな』、『来るな』、『来るな』ぁっ!」
光の壁。
俺の前に広がる八角形のそれが、冷気とレーザーに抵抗する。
得意不得意はあっても、障壁は初歩の神剣魔法。
そのイメージは『守り』『不屈』、そして『拒絶』。
何が言いたいか?
俺の張った障壁が見た目ATフィールドそっくりなのは、テレビで新劇場版やってたのが悪いってことさ。
「風よ盾となれ、ウィンドウィスパー!」
さらに俺の後ろには、エスペリアの援護もある。
サードガラハム、お前に俺は殺せない。
そして俺を殺せないのなら、お前が死ね。
「……今なら無防備。敵を、倒すっ!」
「行くよ、ふぁいあぼるとっ!」
オルファの魔法がほとんど効かないのはご愛嬌。
■
「さらばだ妖精よ、小さき者よ……汝の求めに、純粋であれ」
「……じゃあな、ガラハム先生」
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今回ちょっと長いですね
アクション描写は苦手です。
でも好きな作品は軒並みアクションあり。
そして好きな作品はSS書きたくなる。困った。