「ヨーティアが出先から帰ってきたと聞いて飛んできました」
「いいから帰れ、お前の狙いはどうせ私じゃなくてイオだ、違うかグータラ?」
「ソンナコトナイヨー」
「……棒読みもいいところだな」
こちらヨーティア研究室。
デオドガンまで足を延ばしたヨーティアの話を聞こう、と前線から急遽帰ってきたのだ。
「冗談はともかく。マナ障壁装置は何とかなりそうか?」
「いや、構造は把握できたが解除には至らなかった。解除したら、装置そのものが自爆するようになっててね」
「対策が完璧すぎる……」
向こうからすれば、装置の解除と引き換えに唯一の頭脳を爆殺できればよし。
解除を諦めるようならそれも良し。
こういうときに取れる対策は。
「じゃあ、装置を停止させずに無効化する方法が必要になるな」
「それに関しても、帰りの道中である程度考えてきた……が、今度はこっちが対策を取ることを敵も予想するだろう」
「要するに、次は俺たちが道を切り開いてヨーティアが装置を止める、ってわけだ」
「ああ。装置が完成するまでの間も含めて、よろしく頼むよ」
既に何回か同じ台詞聞いた気がする。
俺、信用ないなあ……いや、変に信用されて重要な仕事回されても困るんだけどさ。
「しかし、解除されたら爆発する仕掛けとか、明らかに解除されること前提じゃないか」
「……アレを作れるのも解除できるのも、今じゃこの世界で5人といないはずなんだがね」
「じゃあ誰が作ったか考えようぜ。えーとまず、ヨーティアが作るわけないな」
まあ、誰が候補なのか分からんけど。
「当然イオやユートも除くとして、あとこんな罠を仕掛けるようなアホは……やっぱ、アイツか」
「俺を当たり前に数えるな」
「この兵器の原型を思いつくところまでは行ったんだ。なら、時間と知識さえ与えてやれば作れるだろう?」
「……それがないから無理なんだって」
つーか、もう3人カウントされてるし。
マジで5人といないんなら、誰が作ったかは確定してるじゃないですか。
「まあいいや、要するに敵はヨーティアの知り合いなんだな?」
「ああ、古い知り合いだ。背が高くて褐色の肌、そして目つきが鋭い男なんだが知らないか?」
「その人って、今のマロリガンの大統領じゃないのか?」
「…………は?」
■
今日も今日とてヨーティアの研究室。
俺とヨーティア、そしてレスティーナ。
……あれ? 軍事、技術、内政のトップが揃ってないか?
そろそろこの部屋、国家戦略研究室とかに改名してもいいんじゃないかな。
「このデータを見てくれ」
差し出された2つのグラフ。
その動きは完全にシンクロしているように見える。
「何のグラフなのか、分かるかい?」
「これは……各国の農産物収穫率と、出産率ですね?」
「流石はレスティーナ殿。そして、この2つは年々低下している」
「だな、グラフになってるから俺にも分かるけどさ。これ、全体的に見ると誤差っぽい感じで微妙に減り続けてる」
言ってみれば101が100になるような、そんな減り方。
このグラフのうち、隣り合った2つの数字を出されれば誤差にしか見えないが……それが続くのならば、それは異常だ。
む。
「なあ、この両方が大きく減ってるのは何だ? 24年前、大戦争でもあったのか?」
「シージスの呪い大飢饉、ですね」
「飢饉って呪いで起こるのか?」
「……分かりません。ですが雨量は充分だったにも関わらず、ほとんどの農作物が収穫できなかったようです」
「ダーツィ大公国が魔龍シージスを殺したから、その呪いだ……なんて言われちゃいるがね。こいつを見てくれ」
新しいグラフ。
今度は全体的に安定した数字だが、25年前などに何度か大きく跳ね上がっている。
「コレが何のグラフか。ユート、分かるかい?」
「俺に話が振られるってことは軍事関係だろ、スピリットのエーテル強化量かな?」
軍事関係でグラフにできそうなものなんて、精々その程度。
どの国も今までスピリットの数は大きく変動してないらしいから、軍事力の変化とエーテル強化量はほぼイコールで結べる。
あれ?
戦争や小競り合いをずっと続けてたはずの北方五国が、スピリットを減らしてないって変じゃないか?
減った分だけしっかり補充されてるなら別だけど。
スピリットだって自然発生だ、数に偏りが出ないわけがないのに。
……戦力バランスがコントロールされてるとすれば、一体誰がそれを……
「おいユート、何をぼーっとしてる」
「え、あ、すまん。続けてくれ」
「頭が回ると思ったらこれだ……まあいい。このグラフを重ねてみよう」
一致――いや、逆転か。
エーテル強化量は他2つのグラフが大きく減る直前、必ず跳ね上がっている。
コレで関係がないって方が嘘だろうな。
「ヨーティア殿は軍事力を増強すれば、農作物と人口が減る、と?」
「……話を変えよう、エーテルってのは元はマナだ。じゃあマナってのは何だ、ユート?」
え。
少なくとも、俺たちの体や永遠神剣はマナで出来ている。
で、俺たちはそのマナを使って神剣魔法を唱えるわけだが……このマナが尽きると、心が喰われる。
正確には俺たちがまず肉体を維持するために、それ以外を切り捨てる。
その後は植物状態になった肉体を、神剣が操作して戦う事になる。
となれば。
「んー……生体エネルギー、かな? 人間も死ぬと体内のマナが無くなるらしいし、命って言っても良いかもしれないけど」
「……つくづく叩き台にし甲斐の無い奴だな。ユートに話を振るのも考え物か」
「では、ヨーティア殿も?」
「そうだ。マナとは――この世界の命そのものだ、と私は考えている」
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お久しぶりです。
ちなみにそこはかとなくイベント順番が変わったり設定が変わったりしてます。
22人目でうっかりしてたからその整合をとる作業に追われてました……。