「……ねえ、パパ」
「どうしたオルファ、暑くて休憩でもしたくなったか?」
「オルファも休憩はしたいけど、それはパパの方じゃないかな……じゃなくて」
砂漠は暑い。
出来ればこの暑さは勘弁して欲しいのだが、夜に進むとなれば寒さに加えて暗闇が俺たちの敵となる。
何せ、土地勘があるのは向こうなのだ。
いずれにせよ、喋るのも億劫。
「じゃあ何だ? 俺も辛いから、今言うなら手短に頼むな」
「うん。あのね……」
「……パパって、病気なの?」
■
思春期心因性自己認識不全症候群、とでも言えばいいのだろうか?
オルファは、俺がそれに罹患していると疑っているようだ。
三文字で説明しよう、邪気眼である。
「時々だけど、パパ、誰もいない方向に剣を向けてたりするよ。聞いても、『誰かが俺を見てる』って」
「いやホントだって! 最近、時々誰かに見られてるような気がしてるんだって!」
「……アセリア、何か気付いた事はありますか?」
「ん」
首を横に振るアセリア。
くそ、見捨てられたと言うのか。
「やっぱりパパ、前に話してくれた『ちゅうにびょう』になっちゃったんだね……」
「俺を哀れんだような目で見るな!」
「いいんだよ? 『えたーなるふぉーすぶりざーど、相手は死ぬ!』とか言っても」
「そろそろ俺が泣きそうなので勘弁してください」
大体、今の俺の現状そのものがリアルファンタジーだっての。
リアルファンタジーという言葉の並びが面白すぎるけど。
と言うか残念ながら、俺本人はアレを発症しなかったしなあ……
「マロリガンの偵察兵、と考えるのが妥当でしょうか」
「それにしても、気配がそんなに離れてるわけじゃないんだよな。アセリアとオルファなら、何か感知できてもおかしくないと思うんだが」
「確かにアセリアは物理的な感知、オルファは神剣関係の感知能力に優れていますから」
「じゃあ身体能力と神剣の力、両方に優れた存在、か」
それって要するに。
「……エトランジェじゃね?」
■
訓練が一通り終わったのを見計らって、訓練場へと足を踏み入れる。
「よう、イオ。訓練はどんな感じだ?」
「ユート様ですか……ひとまず、順調ですね」
「それは良かった」
まあヒミカからも訓練の質が上がった、と報告されていたし、あまり心配してはいなかったけど。
「ユート様がここにいらっしゃるとは珍しいですが、訓練をお望みですか?」
「いや、今は遠慮しとく。イオと1対1で戦ってたら、命がいくつあっても足りないな」
「そうですか。エスペリア殿からは訓練の希望があったのですが」
「エスペリアは俺が逃げるの分かってて一応言ってるだけだから、問題ないよ。それよりイオ、外から訓練見てたんだけど」
「ええ」
最近本当に諦めモードだからなあ、エスペリア。
一時期は訓練参加を賭けて盤上模擬戦挑んできたけど、十面埋伏喰らってからはそれもない。
「アレだけ強いんなら、戦闘参加できるんじゃないのか?」
「……それは、参加して欲しい、と?」
「いいや、ただの疑問。ヨーティアの助手はラキオスの客分、そんな事させるわけにはいかないって」
そもそも、訓練や建設にヨーティアの世話と研究助手までしてるのだ。
これ以上酷使したら、それこそイオが倒れかねない。
珍しい白スピリットと考えれば、(言い方は悪くなるが)生きた研究資料でもあるだろうしな。
「私はハイロゥが展開できませんので、ご期待には添えないかと」
「あー。それだと剣は防げても、破壊エネルギーの余波は防げないよな……俺みたいにマナ放出して、力任せに防ぐんなら別だろうけど」
「効率が良くない防御方法ですからね」
「それを言われると辛いです」
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そろそろ、俺も訓練を始めた方が良いのかもしれない。
マロリガンにエトランジェがいるなら、エトランジェに対抗できるのは王族かエトランジェしかいない。
そして先代ラキオス王の例を考えた場合、レスティーナを戦場に出すわけにも行かないのだから。
エトランジェ。
俺がこの世界に召喚され、そして佳織も召喚された。
召喚条件が俺と『求め』の契約だったことを考えると、召喚された人物の共通点が見えてくる。
おそらくは俺と近い関係にあった人間の運命が、俺に引きずられているのだろう。
ならば、あいつらも?
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次回登場予定です