玉座の間に呼び出された。
どうやら、俺に客が来ているらしい。
オルファによるとスピリット、との事だが。
俺を訪ねてくるようなスピリットに、心当たりなど……ないこともないけど、でも玉座の間っておかしくないか?
それ、国家としての賓客待遇だぜ?
「お待たせして申し訳ありません、『求め』のユート、只今参りました」
「遅い! 呼んでからどれだけ経ったと思っているのですか!」
「……は」
いきなり怒られた。
悪いのは俺じゃないのに、俺に伝えるのを忘れてたエスペリアなのに。
理不尽すぎる。
まあ俺が怒られることでそれぞれの面子が立つんだし、文句は言わないけどね。
「――いえ、突然押しかけた私に非があります。お気になさらず」
「そう言って頂けると助かります」
レスティーナと一緒にいたのは、確かにスピリットだった。
杖型の神剣に赤い瞳、白い肌と髪……レッドスピリットだろうか?
でも、姿以外にも何か違和感がある。
何がおかしいかは分からないのだが、何かがおかしい。
何と言うのか。
本人が気付いてない骨折箇所を、第三者の視点で見た時のような違和感がある。
最近違和感ばかり感じてる気がするな……。
「ラキオスのエトランジェ、『求め』のユート様ですね?」
「その通りです。今後ともお見知りおきを」
「私はイオ、スピリットです……出会えた事を、マナの導きに感謝します」
仕草は落ち着いた大人の女性、とでも言えばいいか。
俺の周りには今のところ自称お姉さんやメイドしかいないから、妙に新鮮だ。
「私は主の言葉を伝えに、ラキオスへ来たのです――ラキオスの聡明な女王レスティーナ様と、エトランジェ『求め』のユート様に、と」
イオがレスティーナへと手紙を差し出す。
蝋で封印してある手紙とか、初めて見たよ……
それだけ重要な手紙なんだろうけど。
「預からせていただきます」
■
読み終わった手紙は、即座にレスティーナによって焼却処分されてしまった。
……あれ、俺まだ読んでないんだけど。
俺にも何かあるんじゃなかったの?
「分かりました、イオ殿。すぐに使者を出しましょう」
「ありがとうございます、主人も喜ぶでしょう……案内役を勤めさせていただきます」
俺、置き去りで涙目。
この会談、俺がいる必要はあったんだろうか。
「ユート、使者としてイオ殿に同行せよ。持参する書簡は四半刻の後、館に届けさせる。エスペリアを伴うが良い」
「……承りました」
「此度は国を離れる事が出来ぬ私の代理を、そなたに勤めてもらうことになる。くれぐれも、先方に失礼のないようにせよ」
「はっ」
結局それだけかよ……本当に俺、何のためにここに来て怒られたんだ。
それとも人前で話せない程、俺に手紙を渡せない程に重要なことだったのか?
エトランジェの立場上、俺に手紙を渡すとなれば側近経由だしな。
その側近にも見られたくない、と言うのなら分からなくもないが……。
■
「不純物を除き、純粋なる元素へと姿を変えよ――『ピュリファイ』」
「しかし何度見てもそれ、便利な魔法だよな……」
「その代わりに、と言うのも妙ですが。私には戦闘能力はありませんので、万が一の時はお願い致します」
「分かってる」
イオの『理想』。
戦闘能力はないが、生活に密着した魔法(火をおこしたり氷を作ったり)を使える神剣。
まあ、イオの力なのか剣の力なのかは不明だけどね。
「……でも確かにある意味理想と言えば、理想なわけだ」
「ユート様?」
「いや、俺が元いた世界にはエーテル技術に似た物があってな。ただ、それは生活を便利にするのと同時に軍事利用もされてた」
むしろ、最近は軍事研究のデータを民生に流用してるって噂すらあるな。
良くも悪くも科学は力、とそういうことなのだろう。
「マナに関する技術も、今は軍事利用が主体だけどさ。こういう使い方ができるんなら、神剣ってのも悪いものじゃないと思う」
俺はバカ剣のこと、嫌いじゃない。
確かに最初はキンキン煩かったし厄介だったが、今じゃ滅多に喋らない。
契約中だけは信用できるんだよな、こいつ。
あれ、エスペリアが頷きつつ考え込んでるのはいいけど。
どうしてイオが無表情にこっちを見てるんだ? 何か俺、地雷でも踏んだか?
■
次回おそらく賢者編。
そしてニートは自覚のないハイスペック。