「オルファ、聞いていますか!?」
「聞いてるよ~……」
あーあ、また怒られてる。
今日の訓練の成績悪かったからなぁ。
メニューは精神訓練。
剣を握ったまま精神を集中させ感情をフラットに保つことで、体内のエーテル制御を完璧にしよう、という訓練だ。
オルファの場合、『感情を制御する』って概念がなさそうだし。
「まだ小さいから、アレは難しいんじゃないかな……」
「でも、お兄ちゃんは凄かったよね」
「おっと、佳織か」
独り言に反応が返ってきて、ちょっとびっくり。
「感情がフラットに限りなく近いって訓練士さんも言ってたよ?」
「まあ、アセリアやナナルゥには負けるんだけどな……あいつらは雑念がそもそもないから」
佳織の授業参観、ということで俺も珍しく訓練に参加した。
疲れない訓練なら、参加するのもやぶさかではないのだ。
精神集中は割と得意だし。
パチスロ的な意味で。
「さて、じゃあ飯までには間がありそうだし、俺風呂入ってくるわ。覗くなよ?」
「覗かないよ……」
「いやほら、佳織にそんな気はなくてもオルファに唆される危険性があってだな」
「それはないから。今オルファは、エスペリアさんに怒られてるから」
「そうだった、じゃあ行って来る」
「ごゆっくりどうぞ」
■
「これは……まさかシナニィじゃ、ない!?」
「ふふふ、私のオリジナルブレンドを見切れる?」
「残念だったな佳織。俺は、その技を既に『経験している』……エトランジェに同じ技が、2度効くと思うなよ?」
「なら答えて、このブレンドを!」
「決まっている、こいつは――」
「――シナニィと見せかけたミクルー……だが、その答えはお前が用意したミスリードッ!」
「……正解は、ルクゥテとクールハテのブレンド以外にあり得ない! お茶の師匠(エスペリア)の名に賭けて!」
俺たち、何やってるんだろう。
「流石だね、お兄ちゃん……私ですら、目の前でブレンドされなければ分からないほどの微妙な違いなのに」
「日々エスペリアと、激戦を繰り広げたからな」
ちなみにこのブレンドは、つい先日エスペリアが俺に対して挑んできた切り札ブレンドである。
勿論その時は見事に引っかかり、俺の夕食は地獄と化したのだが。
「こっちの世界で、俺は戦争ばかりやってたわけじゃないんでね」
「そうだね……でもこのままだと、お兄ちゃんは元の世界に戻る気失くしそう」
「確かにな。戦争が終わったら、誰かと一緒に喫茶店のマスターとか始める可能性はあるか」
「うわ、ものすごくあり得る……」
難点って言ったら髪を短くしなきゃいけないところか。
面倒だけど、それでも他の職業よりマシだろう。
■
「ところでお兄ちゃん、今気になる人とかいるの?」
「何を藪から棒に」
「『誰かと一緒に』って言ったから」
「俺が料理できないからなんだけどな……まあいいや、気になる人、か」
アセリアは料理できそうにないので却下。
エスペリアは……全部任せて良さそうだけど、小言を聞き続けるのは勘弁。
オルファはあれでなかなか料理も出来るのだが、ロリコンの称号はいらんです。光陰じゃないし。
佳織と兄妹で喫茶店もアリだが、それはそれでシスコン呼ばわりされる気がする。
あ、気になる人いるじゃん。
「気になる人と言うなら姫様一択、だな」
「レスティーナ様?」
「ああ、何考えてるか分からないから一度話をしてみたくて。喫茶店にしても、看板娘がアレだったら話題を呼べそう」
「確かにレスティーナ様、綺麗だし優しいし格好良いし、お姫様って感じするもんね」
料理の腕が未知数なのが不安点だけど。
まあそこは、最悪俺がカバーすればいいのだろう。
佳織から聞く限り、人格的にはかなり良く出来た人らしいし。
一種の神秘性、カリスマまで持ってるあたり、『お姫様』の最終進化発展系っぽい。
「うんまあ、あのお姫様が喫茶店やるとは思えないけどな。若い天才貴族とかと結婚して女王即位、とかが妥当じゃないか?」
「……まあね」
■
着々とフラグ。
だがまだだ、まだルートは確定しておらぬ。