「よう、佳織」
「お兄ちゃん……」
「俺、佳織に謝らなきゃいけないことがあってだな」
「うん、何?」
「佳織がこの世界に来たのって、俺が『求め』と契約したからなんだよ」
「……知ってるよ。お城で読んだ絵本の勇者様も、そうだったから」
「絵本?」
「うん、昔々の神剣の勇者様のお話。お兄ちゃんは、その勇者様の再来って言われてるんだよ」
「へえ……」
このバカ剣と付き合うのはさぞ大変だったろう。
俺は不干渉条約を結んでるけどな。
そう言えばこの前、バカ剣と協力して新技開発したんだった……試す機会、ないといいなあ。
■
「よう」
「……え、あれ?」
「お久しぶり、レムリア」
「そうだね。こんにちは、ユート君」
「ああ、こんにちは」
そう言えば、この高台はこの子に教えてもらったんだっけ。
すっかり忘れてた。
「でも、会えるとは思ってなかったよ。今日ここに来たのだって、偶然だし……ユート君は?」
「俺は散歩してたら道に迷っちゃってさ。見覚えのある路地を辿ってきたところなんだ」
暇だから散歩していたら、道に迷っただけである。
この場所、レムリアのホームポジションかとも思ったが、ただの偶然か。
場所選択式ギャルゲーだと、ヒロイン毎のホームポジションとかあるからなあ。
あれ、俺の今の生活って擬似ギャルゲーじゃね?
「……綺麗な景色だよね」
「そうだな」
「ちょっと得したかな? ユート君に会えたらいいな、とは思ってたけど会えるとは思ってなかったし」
「淡い期待ってところか。ま、俺もここに来たのはこの前会ったとき以来だしね」
「あ、私もそうなんだよ……奇遇だね」
しかし、期待されてたのか。
俺と話しても、別に面白くもないと思うんだけど。
「ところでさ。こうやって偶然の出会いが2回続くのは、何かの運命だと思わない?」
「どうかな。1回目のアレを、そもそも偶然と呼ぶのかどうかが怪しい」
「でも、これは偶然だよ?」
「それはそうだけど……まさか赤い糸で繋がってる、とか言い出すのか?」
勘弁してくれ。
それだと、俺がバカ剣と契約してこの世界に来たのも運命って事になるじゃないか。
もしくはいずれレムリアが、俺の世界に来る運命でもあったのか。
「ユート君の世界でも、そういう言い方するんだ?」
「あれ、知ってたの……って、そう言えば高嶺悠人って自己紹介したのに、一発で悠人が名前だって分かってたな」
「え、そうだっけ? とにかく、私は運命だって信じたいの!」
……まあいいか。
細かいところ突っ込むと、キリがなさそうだし。
「でも、エトランジェって忙しくないの?」
「それはこの国を守ってるわけだから、それなりには。今日はたまたまやる事が少なかっただけ」
俺にも自覚はある。
自分のために国を守って、国のために敵を討つ。
直接戦うのが俺でないあたり、微妙に締まらないのだけど。
「……ねえ、ユート君」
「ん?」
「この国、嫌い? ……誰も聞いてないから、正直に言って」
「難しい質問だな」
「……それは、どういう意味でかな?」
文字通りの意味ですけどね。
「国って、そもそも何だろう……この国の王様なのか、土地なのか、国民なのか。その辺曖昧だよな」
「ううん……そっか。じゃあ、それぞれ答えて」
「土地なら好きだな、豊かな土地だし過ごしやすい」
「そうだね、私も好きだよ」
中世ヨーロッパの、華やかなイメージそのままって感じ。
「王様はあまり好きじゃないな。いつも偉そうな顔してるし、顔に落書きしたくなる……ああ、でもあのお姫様とは一度話をしたいかな」
「そうなの?」
「ああ。思えば俺、微妙に何回かあの人に助けてもらってるから」
エスペリアの時とか今回の佳織とか。
好きにはなれないが、完全に嫌いにもなれない。
強いて言えば要注意人物?
「国民だったら、嫌いじゃない」
「それは、私も含めて?」
「ああ。そりゃスピリットを差別する人たちはどうかと思ったけど、でも俺の世界にも差別がないってわけじゃないからな」
「……」
「レムリアみたいに俺と仲良くできる、そんな人だってこの国にもそれなりにいると思うんだ」
「……そっか、嬉しいよ。私、この国が大好きだから」
俺にこれを聞いて、どうするつもりだったのだろう?
「ユート君」
「おう」
「私は今日はそろそろ帰るけど、ちょっとゲームしない?」
「1人でゲームとか悲しすぎる」
「違うよ、次に偶然この場所で出会ったらデートしよ?」
デートね……、今までのもそれに近い気はするけど。
どうして俺にそれほど執着するのやら。
身の回りに男がいなかったりするのだろうか。
「時間も場所も分からない、二度と会えるかどうかも分からない運命的なデートの約束」
「ロマンチックだな」
「でしょ、手を繋いでお散歩して、私が作ったお弁当食べて……」
ベタだな、とは言うまい。
今日子に同じ事言ってハリセンが飛んできたことあるし。
しかも佳織と小鳥にまで糾弾されるし。
「……いいよ、じゃあ次に会えたらデートに付き合う」
「ホント!? 絶対だからね!」
「ただし幾ら運命を引き寄せたいからって、弁当作って毎日うろつくのは禁止な」
「……運命を、引き寄せる……?」
「その分の食材を無駄にしたら、農家の人に申し訳ないからな。分かったか?」
「……うん。じゃあ、またね」
「ああ、またな」
■
うっかり話し込みすぎて夕食に遅れ、エスペリアに怒られました。
確かに俺が悪いんだけどさ。
だからって、急遽リクェムの肉詰めを追加するのはずるいと思います。
■
スーパーレムリアタイム。
原作の会話を端折るのにちょっと苦労しました。