エスペリアの防御、アセリアの斬撃、(ほとんど牽制レベルだけど)オルファの魔法。
正直、敵は滅茶苦茶弱かった。
「いえ、ユート様の的確な指示があってこそです」
「でもエスペリアが指揮を取るなら、同じ戦法にしただろ?」
「それはそうですが……」
やってることは単純。
後衛を盾が守り、その間に前衛が敵をなぎ倒す。
まあエスペリアの説明聞いてれば、それ以外の選択肢なんてないしな。
「というわけで、俺がいなくても何とかなりそうなので」
「なので?」
「そろそろ次の敵が来る頃だけど……悪い、ちょっと用を足してくる」
「……分かりました、くれぐれもお気をつけて」
赤くなっちゃって。
エスペリア、可愛いなぁ。
■
それに気付いたのは、本当にただの偶然。
用を足し終えた瞬間に、ふと思い立ったこと。
「……あれ?『どこに敵がいるか分からない状況で単独の立ちション』ってこれ、死亡フラグじゃね?」
咄嗟に、ジッパーも開いたまま横っ飛びに転がる。
いや、本当はサイドステップするだけのつもりだったんだが……爆風で、吹き飛ばされたのだ。
たった今、俺が立っていたその場所こそが、爆心地。
その時背筋が冷えた俺を誰が責められるだろうか、いやむしろ褒めるべき。
「あ、あぶねー……」
「――全く悪運の強いことだ、一撃で確実に仕留めてやろうと思ったのだが」
底冷えする声。
目をやれば鮮やかな真紅の髪と瞳の美人が、丁度草むらから現れる。
「それと――」
だがこちらに向けた双剣が、全力で彼女は俺の敵だと主張していた。
「――そのみっともないモノを早く仕舞え」
「ならこのタイミングで攻撃するんじゃねえよっ!?」
■
竜巻のような攻撃、と言えばいいのか。
双剣、つまり赤スピリットの近接戦闘力を馬鹿にしていた俺は、早くも後悔していた。
左、右、左下、左上、右下、右――
双剣が扱い難い武器なのは認める。
だが使い手のスペックが高いなら、そんなのハンデにならない。
そりゃそうだ、例え手足を縛ってあってもフリーザ様に戦闘力5で勝てるわけがないからな。
今のところ攻撃の軌道が見えているから、バカ剣で受けられるのが救いではあるけど。
――逆手の刃で斬り上げた、次の順手での切り払いにバカ剣を合わせて力任せに飛び退る。
「エトランジェ、流石だな。神剣を使いこなせていないようだが、アベンジャーと呼ばれたこの私を相手に仕切り直しまで持ち込むか」
「……っ、はぁ、っはぁっ、っは、はぁぁぁっ……」
……大きく深呼吸して息を整えるけど、正直、もう戦えない。
敵の声もほとんど聞こえてない。
バカ剣の強度がアホみたいに高いせいで盾にできたけど、もう握力が保てない。
ゴールしてもいいだろ、これ。
どうして俺は、エスペリアを呼ぶなり何なりしなかった?
どうして俺は、戦ってるんだ?
どうして俺は、こんな所で命のやり取りなんかしなきゃいけない?
エスペリアは戦闘中だ、今呼んでしまえば自分が死んででも来るだろうがそれは困る、まだアイツには居て貰わないと。
俺が戦うのは、死にたくないから。
そして俺はあの日自分の運命を差し出したから、こんなクソッたれな世界に居る。
そうか。
あの日俺が佳織を助けるために契約した悪魔は、バカ剣、お前だったのか。
俺が売り渡した運命に、お前は俺以外の運命まで巻き込んだのか。
それがお前のやり方で。
それが、俺があの日支払った代償か。
なら――
「赤スピリットを相手に、間合いを取ることの意味を教えてやr――」
(――奇跡の代償を踏み倒されたくなかったら力を貸せ、『求め』!)
(…………煩いぞ……契約者よ)
■
もうボロボロなんです。
「……ユート様、大丈夫ですか!?」「パパ、どうしたの!?」
「もう無理早く帰って寝たい」
「申し訳在りません、戦闘中とは知りませんでした。こちらも手が離せず……如何様にも罰を」
「じゃあ悪いけどエスペリア、辛いからちょっと肩貸してくれ。あと、そう言えば倒したスピリットがこれ持ってたんだけど、機密文書ってこれじゃね?」
「――はい、確かにその通りですが。ユート様、お一人で敵を……?」
「ああ、ほぼ相打ちだったけど……砂で目潰しした一瞬の差で俺が勝った」
「「……」」
頑張ったはずなのに二人の目が冷たい。
どうしてだろうね。
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序盤だけちょっとシリアスになるニート。
ここから下がる予定です。