【20時】
『霧島です。パスワードは見つかりましたか?』
電話に出ると、霧島さんは早口に言った。
「ええ、なんとか。今は車両基地にいます」
と俺は言う。
『そうですか、よかった。それでは電車の発車準備の説明をします』
「お願いします」
『現在、車両基地のあるアンブレラ製薬地下エリアは予備電力に切り替わっています。予備電力では電車を動かすことができませんので、主電力に切り替えなくてはいけません』
俺は辺りを見回す。
車両基地の広い空間を非常灯の淡い光が照らしている。
トンネル内部よりは幾分か明るいが、それでも暗いことに変わりない。
当然、電車は沈黙している。
『佐藤様には電力供給室まで行って、主電力に切り替えてほしいのです。主電力に切り替われば後の準備はほとんどこちらで行えます――が、ひとつ問題があります』
「というと?」
『当研究所は今回のような事故が起こった際に、被害を最小限に抑えられるよう、三つのブロックに分かれ設計されています。一つは、現在私がいる地上部です。ここをAエリアと言います。このエリアはウィルスに汚染されておらず、安全です。二つ目は現在佐藤様がいる車両基地のあるBエリアです。このエリア絶対安全とは言い切れませんが、汚染は軽微です。問題は三つ目のCエリアにあります。このエリアでは危険な実験が行われていました。今回のウィルス流出も、ここで起こった事故が原因です。そしてウィルスによる汚染が最も深刻なエリアでもあります』
「そのCエリアに、電力供給室があるんですね?」
『ええ、その通りです』
「そこでウィルスに感染する心配はないんですか?」
『空気感染の心配はありません。空気感染はウィルスが拡散した初期の段階でしか起こらないのです。しかし問題は、Cエリアにはウィルスに感染した生物が閉じ込められていることです。その生物から傷を負った場合には、おそらく感染します』
「そうですか……。空気感染しないだけでもマシですね」
俺はそっとため息をつく。
また大変な目に会いそうだった。
『ええ。Cエリアに入ったら、入り口正面にある警備室に寄ってください。そこにCエリアの図面があります。それを見て電力供給室に行ってください。電力供給の操作は電力供給室にあるマニュアルを読めばできるはずです』
「わかりました、なんとかやってみます。あの、ひとつ聞いても良いですか」
『はい、なんでしょうか』
「霧島さんはまだ、研究所にいるんですよね。Aエリアでしたっけ。どうやって脱出するんですか? 他のオペレーターは?」
『所員は市の爆破が決定してすぐに脱出しました。現在残っているのはおそらく私だけでしょう。私も佐藤様と一緒に脱出しますので、電車の準備が完了したら合流する予定です――あ、そろそろ時間です。Cエリアのロックを解除しますので、気をつけてください』
「はい」
そして電話が切れた。
霧島さんも現在この研究所にいる。
彼女も命をかけているということだった。
何が彼女をそこまでさせるのだろうか。
「ティー、起きて」
俺の肩に頭を預けて眠っている彼女をゆすって起こす。
彼女は目をぱしぱしさせて起きる。
「行くよ」
手を引いて、車両基地を歩く。
車両基地にはいくつかの扉があった。
その中に、とりわけ頑丈そうな扉が二つある。
二つの扉には大きく『A』と『C』と書かれている。
俺は『C』と書かれた扉を開ける。
扉を開けた瞬間、濃厚な死臭が鼻腔を刺した。
思わず顔をしかめる。
鼻が潰れそうだ。
中には、白衣の研究員が死屍累々と横たわっていた。
白衣がどす黒く染まって、趣味の悪い柄物になっている。
俺はティーを待たせて、そこに足を踏み入れる。
何体かの死体が、動き出す。
俺はその頭を、潰していく。
バットを振り上げ、振り下ろす。
ほとんどのゾンビは起き上がることができないほど腐敗していて、体力的には楽な作業だった。
動き出さなかった死体も含めて、念のため全ての頭を潰した。
後には地獄絵図が残った。
床に重なる頭のない死体。
喰われて原型がなくなった死体。
飛び散った脳髄。
崩れ落ちた肉片。
その全てが腐敗していた。
扉には血の手形と、血の文字。
血の手形に、血の文字が重なり、また手形、また文字。
黒板消しのない黒板みたいに、それらは何度も何度も重なって、何が書かれているのか読み取れない。
しかしそれを読み取るまでもなく、ここで何が起こったのか大体のことは想像できた。
俺は込み上げてきた嘔吐物を吐き出した。
我慢することができなかった。
それは血のプールに混ざって、一瞬で赤く染まってしまう。
それを見て、また吐き出す。
何度も繰り返す。
ぴちゃり、ぴちゃり、と音を立てて血が跳ねた。
それから、俺の背中に暖かい何かが触れる。
見ると、ティーの手が背中を撫でていた。
小さな手がゆっくりと、背中を摩る。
俺は平常心を取り戻す。
俺がしっかりしないといけなかった。
「ありがとう」
俺は立ち上がって言う。
ティーは心配そうに俺を見る。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
もう一度、笑顔で言う。
彼女は微笑んで頷いた。
非常灯が血生臭い空間を薄暗く照らす。
ここは少し広めの廊下で、突き当りがT字路になっていた。
廊下の途中に金属探知機があり、その脇に警備室がある。
俺はなるべく入り口付近を見ないようにして、警備室に入り、図面を持ち出す。
それから図面を見て廊下を進む。
T字路を左へ曲がって扉を開け、十字路を右、それからまたT字路を左。
途中にいたゾンビを何体か処理して進み、頑丈そうな鉄製の扉の前で止まる。
この先が、機械室や電力供給室等、建物を動かす心臓部が集まった区画だ。
しかし、扉は溶接されていた。
全力で押しても、びくともしない。
「勘弁してくれ……」
俺は呟いて、ため息を吐く。
真似して扉を押そうとするティーを止めて、図面を見る。
この扉の他にもうひとつ別のルートがあったが、少し遠回りだ。
それに、そのルートが通る区画は図面が曖昧で気になる。
そこは大まかな部屋割りしか記されていない。
柱の位置も記されていない。
そして部屋名が記されていない。
改装中なのだろうか。
それとも記されてはならない何かがあるのか。
どちらにせよ、ここを通れない以上しかたがない。
俺は諦めて別ルートをとることにする。
その区画に入ってすぐに、図面との明らかな差異に気付く。
「全く違うな……」
図面通りに行けば通路だったここは、多くの機材が並ぶ実験室だった。
棚には見たことも無い薬品が並んでいる。
何に使うのかも分からない機材の隙間を進むと、円柱状のガラス容器が並ぶ空間に出る。
容器の中には何かの臓器のようなものが入っていた。
「なんだよこれ……」
俺は一つ一つ覗き込んでいく。
それは学校の理科準備室にあったホルマリン漬けの標本みたいだった。
しかし、中に入っているのが何なのか分からない。
何かの生物の一部だという事は分かるが、心臓のようなものに目がついていたり、腕から触手のようなものが出ていたりで、およそ具体的な名称をあげることができない。
それは生々しく現実に存在しているというのに、同時にどこか空想的なリアリティの無さを混在していた。
奥に、ひと際目立つ容器があった。
中に人間が入れるほどの大きさのそれは、ギリシア建築のオーダーのように空間を支配している。
俺はそれに張られたプレートの文字を読む。
「T―002」
中は黄色く濁った液体で満たされていてよく見えない。
俺は目を凝らして、中を見る。
視線を遮るものを取り払っていくかのように、視界が澄んでいく。
「――ッ!」
驚いて、思わず引きつった声がでた。
中には巨大な人型の何かが入っていた。
身長は軽く2mを超えるだろう。
体毛の無い灰色の肌に赤紫の血管が這い、筋肉が肥大し赤黒く変色した左腕には、鋭い爪が伸びている。
そして、右胸に巨大な心臓が剥き出しになって動いていた。
「生きて――いるのか?」
それは確かに鼓動し、脈打っていた。
動くのだろうか。
こんなものが、動き出すのだろうか。
「行こう」
俺はティーの手を引いて、足早に立ち去る。
触らぬ神になんとやら、だ。
部屋を出た先は通路だった。
一本道の通路に扉が並んでいる。
図面をと見比べてみるが、似ても似つかない間取りだった。
俺は諦めて、一つずつ扉を開けて調べていくことにする。
実験室、資料室、更衣室、談話室、給湯室。
何対かいたゾンビを倒しながら進んでいく。
いくつもの扉を調べ、残り少なくなる。
もしかしたら、この区画から電力供給室にいくことができないかもしれないと、思い始める。
俺は時間を気にしながら、手早く調べていく。
分厚い鉄製の扉を開けようとした時、ティーが俺の腕を引いた。
「どうかした?」
俺が尋ねると、彼女は首を横に振った。
そして言葉を探すみたいに、口を開いては閉じ、何か言おうとしては、口ごもる。
俺は彼女が感情を言葉にするのを待つ。
しばらくしてようやく、彼女は声を出した。
「……あぶない」
そう言って、真剣な目で俺を見つめる。
「心配してくれるのか? 大丈夫、ちょっと見てくるだけだ」
彼女は首を振る。
「大丈夫だって、ここまで無事これたんだ」
そう言って扉を開けようとする俺を、彼女は強い力で引く。
驚いて、少しバランスを崩す。
「いったい、どうしたんだ?」
「あぶない」
彼女は再度そう言って首を横に振る。
「わかった。本当に注意するし、すぐ戻ってくるから」
彼女は黙っている。
何か言いたそうに口を開くが、言葉が出ることなく口を閉じる。
「ここで待ってて、大丈夫だから」
俺は扉を開けて中に入る。
彼女は心配そうに俺を見ていた。
入った瞬間にピッと小さな電子音が聞こえた。
「え?」
見ると、扉の脇に小さなセンサーが取り付けられていた。
嫌な予感がして、踵を返した瞬間、入り口の扉が音を立てて閉まる。
それから、カチリと錠が閉まる音がする。
俺は扉を引いてみるが、全く動かない。
「ティー、閉じ込められた!そっちから開けられないか!?」
叫んで扉を叩くが、反応が無い。
相当分厚い扉だった。
俺は周囲を見渡して、別の出口を探す。
ここは一辺10mぐらいの正方形の部屋だった。
窓も扉も、入り口以外にはない。
ただ、壁の一部が小さく切り取られている。
人が屈めば入れる程度の大きさのそこは、シャッターが下りて閉まっていた。
人が出入りするような場所ではないのは確かだ。
「何のための部屋なんだ?」
この部屋の用途が分からなかったが、あまり良い予感がしない。
ここには濃厚な死臭が漂っていた。
壁や床に付いた、黒い染み。
何かに引っかかれたような傷跡。
おそらく、長い年月をかけて膨大な死がこの部屋で生まれた。
「――っ!」
突然、明かりがついた。
急激な明度の変化に思わず目を細める。
「おいおい、予備電力じゃないのかよ」
悪態をついてごまかすが、あまり歓迎すべき展開じゃなさそうだった。
緊張で、筋肉が強張っていくのが分かる。
『ドアをロックしました。バトルシミュレーションを開始します』
室内に合成音声が響き、壁のシャッターが開く。
どうせこんな展開だろうとは思っていた。
俺は舌打ちして、壁の奥から聞こえる足音に耳をすます。
一体だ。
俺はバットを構えて、それを待つ。
そして、それの姿が見えようとする瞬間、緑の影が飛び出した。
一直線に飛び掛ってきたそれを、後ろに跳んで避ける。
目前を、鋭い何かが切り裂く。
俺はそれにバットを振り下ろすが、俊敏な動きで避けられた。
間合いが開き、見合う。
それは爬虫類のような何かだった。
体表を緑の鱗が覆い、鋭いトカゲ目が光る。
太い両腕の爪は鋭く伸び、口には尖った牙が並んでいる。
一見して爬虫類の特徴を持っているが、二本足で構える姿は、どこか人間のようにも見える。
こいつが何なのかは分からないが、こいつを倒さないことにはこの部屋から出られそうに無かった。
俺はじっと待つ。
これまでの戦いから俺は学んでいた。
こいつらは知能があまり高くない。
身体能力は優れているかもしれないが、その動きは単調だ。
無闇に仕掛けるよりも、相手の攻撃を見て対応した方がいい。
どうせ凝った攻撃はしてこない。
異形の爬虫類が動く。
予想通り、一直線に向かってくる。
動きは速いがそれだけだ。
俺はタイミングを計る。
地面を蹴る緑の脚を見る。
その脚がひときわ深く沈んだ瞬間に、俺はバットを振り下ろした。
寸前で、異形が消えた。
金属音を響かせて、バットが床面を叩く。
やばい!
一瞬で、冷や汗が噴出した。
心臓の鼓動が、高く鳴り響く。
「おあああああっ!!」
わけの分からない叫びを上げて、右に跳ぶ。
根拠は無い。
そこが一番安全な気がした。
一瞬遅れて、緑の豪腕が凪ぐ。
首筋を掠める爪先を、必死に首を傾けて、避ける。
そして無様に、床面を転がる。
転がって、転がって、転がって、起き上がる。
異形は、さっきまで俺がいた場所で構えていた。
俺は異形を見据えながら、そっと首筋を撫でる。
血はついていない。
――危なかった。
心臓が馬鹿みたいに暴れまわっていた。
あいつは一直線に向かってくると見せかけて、直前で横へ跳んだのだ。
明らかに、俺の動きを見てから対応していた。
俺は後ずさる。
心を落ち着ける時間がほしかった。
異形がゆっくりと距離を詰める。
緩急をつけていた。
おそらくこの異形にはある程度の知能がある。
それが分かった。
やがて、部屋の角に追い詰められた。
異形が前傾姿勢で構えて甲高い雄叫びで威嚇するが、俺は落ち着いて構える。
暴れまわっていた心臓が落ち着き、冷静になれていた。
くるなら、こい。
異形がひと際高く鳴いて地を蹴る。
俺はタイミングを計る。
地を蹴る緑の脚を見る。
そして、それが深く曲がった瞬間に、バットを振りかぶった。
――が、振り下ろさない。
一瞬遅れて、異形が横に跳ねる。
俺はそれをしっかりと見て、着地する瞬間に振り下ろした。
バットが生々しい音を立てて異形の頭をへこませる。
奇声を上げて、異形が床面を転がる。
俺はその上から更にバットを振り下ろす。
動きが止まるまで、何度も。
異形は脳髄を垂れ流して、ようやく沈黙した。
『バトルシミュレーション終了』
合成音声のアナウンスが響いた。
俺はほっとして、息を吐く。
『バトルシミュレーションLv2を開始します』
「ちょっと待て!!」
思わず叫ぶ。
Lv2って何だ。
いままでのはLv1で、更にやばいのがこれから始まるって事か。
冗談じゃない。
「くそっ」
悪態をついて、構える。
とにかく、敵を倒すしかなさそうだ。
シャッターが開かれ、奥から足音が聞こえてくる。
一体、二体、三体。
「嘘だろ……」
いくらなんでも三体は無理だ。
せめて段階を踏んで、二体にしてほしかった。
萎えそうになる心を奮い立たせてバットの握りを確かめていると、不意に大きな音が響いた。
何かを殴りつけるような音だ。
シャッターの奥からではない。
俺は音源を探って、意識を集中する。
その瞬間、凄まじい勢いで入り口の扉が吹き飛んだ。
吹き飛んだ扉が壁に激突して室内を震わせる。
そして、入り口にはティーが悠然と立っていた。
『エラーが発生しました。バトルシミュレーションを終了します』
アナウンスが響き、壁のシャッターが閉まる。
異形はシャッターの寸前まで迫っていた。
俺は呆然と、目の前の光景を見る。
凸凹になって吹き飛んだ扉、扉が無くなって開いた入り口、入り口に佇むティー。
どうしても、それらが上手く結びつかない。
彼女は立ちすくむ俺の前まで来て、心配そうに見上げる。
俺は彼女の腕を見る。
細い、綺麗な腕だ。
何かを殴ったような傷は見えない。
彼女の足を見る。
細い足だ。
傷があるかどうかは分からないが、分厚い鉄の扉を蹴り破れる様には見えない。
「君が――やったのか?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「君が、扉を破ったのか?」
俺は言い直す。
彼女は微笑んで、頷く。
俺は一歩後ずさる。
彼女は不思議そうに首を傾げる。
もう一歩、下がろうとして、止める。
俺はゆっくりと深呼吸する。
ゆっくりと、ゆっくりと、今日一番深い深呼吸をする。
「ありがとう、助かった」
俺は笑って、彼女の頭を撫でる。
自分では上手く笑ったつもりだったけど、もしかしたら引きつっていたかもしれない。
そんな俺を見ても、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
どうでもいいと思う。
彼女がどんな方法で扉を破ったのかは分からないが、そんなものはどうだっていい。
大切なのは彼女が俺を助けてくれたということだ。
それだけで十分だ。
「行こう」
俺は笑顔で言った。
それから彼女の手を引いて、扉が吹き飛んだ入り口をくぐり、通路に戻る。
それから慎重に、隣の部屋の扉を開ける。
さっきみたいなことにならないように、よく確かめる。
空けた瞬間に、死臭がした。
先の部屋よりも何倍も濃い匂いだ。
俺は室内に入らず、扉の外から中を見渡す。
室内は二つの空間に分かれていた。
まずは機械が置かれた空間。
そして、その奥の空間。
二つの空間は壁で仕切られていたが、ガラスの小さな窓から僅かに奥の空間がみえた。
壁の脇にある扉から奥の部屋に入れそうだ。
俺は危険が無いことを確かめて中に入り、扉を開けて奥の空間に入る。
そこには何も無かったが、濃厚な死臭がした。
何なんだここは。
俺は機械の置かれた部屋に戻り、机の上に置かれた資料を手に取る。
『死体焼却の手順』
それを流し読みする。
どうやら実験で出た死体を焼却する部屋のようだ。
ここには何もなさそうだった。
俺は通路に戻って、次の扉を開ける。
この部屋も二つの空間に仕切られていた。
手前の空間は、機材や資料が置かれた空間。
奥の空間は、ベットとトイレが置かれただけの、刑務所の独房のような空間だった。
二つの空間は壁で仕切られていたが、大きなガラス窓が奥を丸見えにしていた。
まるで奥を監視するための部屋のようだ。
ここも、脇にある扉から奥に入れそうだ。
俺は危険が無いことを確かめて室内に入り、奥の扉を開ける。
そこは、本当に独房のような部屋だった。
室内にはベットとトイレ以外何も無い。
ガラス窓はマジックミラーになっていて、ここから手前の空間を見ることはできないようになっていた。
この部屋にも何もなさそうで、俺は出ようとする。
そこで、机に置かれたひとつの資料が目に留まった。
『T-204計画』
と書かれている。
その文字を最近どこかで見た覚えがあった。
それがどこだったのかは忘れたが、とにかく、どこかで見たような気がする。
俺はそれを手にとって読み進めていく。