<88>
クエストの説明が始まった。
『No.54:佐藤ハルマサの属するパーティには、現在この場にいる2匹のプラチナ甲殻種の行動を妨げずに、48時間護衛を行っていただきマス! プラチナ甲殻種は非常に弱い魔物ですが、好奇心と食欲は大変旺盛! 逆に恐れを知らない魔物であり、守り抜くのは大変デス!』
「なるほど。」
確かにさっきからプラチナザザミがハルマサの足を小さなハサミで挟んだり叩いたりしているし、プラチナギザミは足の指に噛み付いている。
非常にこそばゆい。
『プラチナの魔物は、同種を除いた全ての魔物の最優先捕食対象デス! 魔物をひき寄せる芳香を発していマス! 内包する特殊で膨大なエネルギーによって、プラチナを食した魔物は凶暴化し、強さが約5倍ほどになりマス! 見事48時間守り抜き、プラチナ甲殻種が二匹とも成体となった時クエストはクリアとなり、報酬として、アイテムが授与されマス!』
5倍……。
モンスターによっては全然問題ではないが、例えば火竜希少種なんかがこの子たちを食べると非常に厄介なことになる、と。
かなりきつそうではあるが、ハルマサはこの愛らしい子ガニたちを守る気になっていた。
父性本能かもしれない。
『それではぁ、スタート デス!』
しかし、本当にこれで良かったのだろうか。
ハルマサは、現在、ガノトトスを初めとした魚竜種の殲滅を行わなければならないのである。
ここで、48時間も子ガニたちに構っている暇はあるだろうか。
と、ハルマサが思案していると何時の間にか二匹の子ガニは洞窟内の食料を食べつくしており、外へと続く上り坂をチョロチョロと登っていくところであった。
ハルマサが慌てて追いかけるようとすると、後ろにいたガミザミから、心配するような声が響く。
「ギィ?」
「あ、任せといて!」
思わず出た言葉だったが、それは本心でもあった。
ハルマサは、オアシスと砂漠の境界線に立っている。
「空間把握」と「聞き耳」を全開にしつつ、辺りを探る。
子ガニたちは後ろのオアシスの好き勝手なところで好き勝手に動いたり食べたりしている。
この小さな体から、しっかり芳香が漏れているのだろう。
ハルマサには何も匂わなかったが、モンスターには効き目抜群のようで、砂漠から、微かな音をたててモンスターが忍び寄って来ていた。
――――――――……ササササ……ザザザザザザザザザッ!
突如盛り上がる目の前の地面。
「ギャアア!」
ドパァ!
飛び上がると同時に砂を吐きかけて来るモンスターは、20メートルを越える巨体。
砂よりはやや黒色の体を持ち、砂海を泳ぐモンスターは総じて砂竜と呼ばれるが、彼はそれらのリーダー格。
≪【ドスガレオス】:ガレオスよりも一回り大きな体格と、黒く硬化した鱗を持つ、ガレオスのリーダー。詳しい情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv13が必要です。≫
レベル13相当か。
ハルマサは砂を避けつつ、骨で殴りつけながらそう思った。
「シャアアアアアアアアアアア!」
ドブン、と砂に潜ったドスガレオスは驚くほどの速さで接近してくる。
が、ハルマサが地面に放った「突き」で周りの砂を吹き飛ばされ、体を串刺しにされて、動かなくなった。
レベル13相当のドスガレオスは耐久力が4万4千。敏捷が3万二千の猛者である。
しかし、平常状態で筋力30万、敏捷40万のハルマサにとって見れば、油断しまくっても倒されようの無い敵だった。
(問題は……キングだよね。)
定時報告によって知らされたガレオスキングなる存在。
聞くからに一筋縄ではいかなそうではないか。
それはともかく腹が減る。
クエスト中だろうが何だろうが、食事は欠かせない。
ハルマサは骨を縮めて、突き刺さっていたドスガレオスを引き寄せる。
その肉は……。
まぁ旨いが、肉よりもヒレとか鱗の方が美味しい。
鱗は表面の砂を落とすと青い美しい鱗だった。
そうやってガツガツ食べていると、後ろから子ガニたちが近づいてきた。
「どしたの? 食べる?」
「キィー!」
「キュッ!」
砂竜の肉体を差し出すと、白い子ガニたちは鋏を振り上げて飛びつき、一心不乱に食べだした。
肉を毟って小さく裂いてやる。
なんか親になった気分だな……。
そして、子ガニたちが食べだしたからか、ドスガレオスの体は消えようとせず長い間残り、やがて小さな子ガニたちとハルマサによって骨まで綺麗に食べられた。
ちなみに骨を食ったのはハルマサである。
≪ぱんぱかぱーん! 「概念食い」が発動して、「堅硬なる骨」の概念を取得! 概念に応じて耐久力が15000上昇したよ!≫
◇「堅硬なる骨」
恐ろしく丈夫な骨。高い剛性を持つ。耐久力が上昇する。
「ほほぅ。中々。」
ステータスで耐久力の上昇値を見たが、既に桁が良く分からない次元になっているので、上昇地が大きいのかどうかも良く分からない。
でも「概念食い」っていいね! 好き勝手に食っているだけで見る見る強くなりそうだよ。
概念吸収が稀にしか起こらないのが残念!
キュ~。
考えていると不意に傍らから可愛い音が聞こえて来る。
見てみると、プラチナザザミがお腹(?)を押さえている。
腹が減ったのだろうか。
プラチナギザミは眠っている。鼻ちょうちんが出ていて可愛い。
プラチナザザミはキョロキョロ辺りを見渡すと、湖のほうへと近づいていった。
あの辺りには近づいていなかった。まだ食べるものがあるのだろう。
子ガニたちの食欲は旺盛だ。いや、旺盛すぎるとも言える。
自分たちの体積の何倍もの食物を瞬く間に食べ、眠り、そして直ぐに起きてまた食う。
30cmくらいしかなかった体は、脱皮もしないいまま、この一時間ですでに2倍になっていた。
卵から出てきた時に背負っていた宿では既に弱点部位を隠せて居らず、ハルマサが「土操作」でそれっぽいものを作って載せて上げている。
身長が追い抜かれる時も近そうだ。
それをどこか嬉しく思うハルマサである。
情が移りきってしっかりパパ気分となったハルマサだったが、湖の中に揺らめく巨体を「空間把握」で察知し、直ぐに表情を引き締めた。
「シャギャァアアアアアア!」
「この子たちを食べようとしたな―――――ッ!」
スパァ――ン!
ガノトトスを脳天唐竹割りにして、子ガニたちに提供する。
子ガニたちのお守を始めて早数時間。
(この子達は、まるで餌だね。)
二つのクエストを両立できるか当初は心配だったが、この「護衛」クエストは、「合戦」クエストのクリアに多大な貢献をしていた。
子ガニたちは強烈にモンスターを引き寄せていて、引き寄せた中に魚竜種も混じっていたからだ。
しかも捕食対象、というところがミソだ。殺すわけにはいかないから遠距離からの攻撃が少ない。
凄い楽だ。
「護衛」クエストを始めてから、倒した魚竜種はこれで4匹になった。ガノトトス、ガノトトス亜種、それにドスガレオス二匹だ。
そしてさっきから、オアシスの周りを、ドスガレオスや、中型で草食性のアプケロスというモンスターが2匹、さらにはケルビがウロウロとしている。
先ほど飛び込んできたドスガレオスを三枚におろして美味しくいただいた光景が効いているのだろう。
プラチナ甲殻種は、檻の中にあるエサ状態。
ああ、あれは罠! 罠なんだ! しかし……ああ、エサは美味そうだぁ!
そんな心境だろうか。もう辛抱たまりまへん、とでも言うように、よだれを垂らしつつドスガレオスとアプケロスの一頭が同時に飛び込んでくる。
それを見て慌てたように残りのアプケロスとケルビも飛び込んできた。
もちろんボッコボコにして、ハルマサはドスガレオスを、子ガニたちはアプケロスやケルビを味わった。
「ふぅ他のモンスターをココまで狂わせるなんて……。」
ケルビまで惑わせるとは大した物である。
新米パパから熟練パパを得て、親バカの領域まで突入しつつあるハルマサ。
彼の明日はどっちだ。
迷走するハルマサの精神はさて置き、そろそろ日が沈もうという時間になっていた。
だが、子ガニたちは短いサイクルで食って寝てを繰り返すので、恐らく夜も動き回るだろう。
「……だからパーティを対象としたクエストなのかな。」
ハルマサも腐った肉体の影響か、眠気を全く感じないが、普通の人間ならきついだろう。
なにせ二日連続で徹夜だ。
死んでしまったことを少し悲しく思っていたハルマサだったが、この肉体のメリットは計り知れないので、もう僕ゾンビでよくね? と思い始める始末だった。
夜になると、散発的な魔物の襲撃もほとんど無くなり、一番最後に襲ってきた桃色の毛並みをした牙獣種、コンガの肉体を炎弾で丸焼きにして食べてから、結構時間が経っていた。
ちなみにコンガの肉は意外なことに「おいしそう」に分類されるらしく、ハルマサはとても食べれなかった。
子ガニたちは空腹を我慢しきれずにオアシスの外に行こうとしているようだ。
もう子ガニと言ってもハルマサの身長を追い越していたが、行動には未だ慎重さがなく、危なっかしい。
ハルマサは二匹を止めようとして、ビックリ箱がカタカタと喋っていた内容を思い出した。
『プラチナ甲殻種の行動を妨げずに、48時間護衛を行っていただきマス!』
こう言っていた。
そうか、これは想定されている苦労なのか。
ハルマサは子ガニたちの後を警戒しながらついていくのだった。
<つづく>
満腹度: 90715 → 100319
耐久力: 108497 → 130926 ……「堅骨」効果でスキルアップに加え15000up
持久力: 89338 → 98943
魔力 : 112701 → 119456
筋力 : 115226 → 161854 ……☆485561
敏捷 : 138669 → 163494 ……☆490483
器用さ: 149811 → 164541
精神力: 66803 → 69454
経験値: 96538 → 132378
金貨 : 217 → 325
○取得概念
堅骨
○スキル
PトレーナーLv14: 48981 → 90234 ……Level up!
概念食いLv12: 6048 → 24803 ……Level up!
棒術Lv12 : 7445 → 23307 ……Level up!
聞き耳Lv12 : 6283 → 20884 ……Level up!
拳闘術Lv12 : 19305 → 33892 ……Level up!
空間把握Lv13: 44882 → 58330
解体術Lv12 : 8477 → 21330 ……Level up!
鷹の目Lv12 : 11843 → 23946 ……Level up!
回避眼Lv12 : 20391 → 27730
蹴脚術Lv11 : 3784 → 10482 ……Level up!
剛力術Lv12 : 28993 → 35587
観察眼Lv12 : 26885 → 33054
突撃術Lv12 : 30001 → 35774
撹乱術Lv12 : 33254 → 38921
的中術Lv12 : 25073 → 30721
撤退術Lv12 : 22384 → 26734
魔力圧縮Lv12: 29843 → 34039
空中着地Lv12: 35801 → 39821
戦術思考Lv12: 26789 → 29440
水泳術Lv10 : 3021 → 5668 ……Level up!
魔力放出Lv13: 57890 → 60449
心眼Lv12 : 19075 → 21569 ……Level up!
土操作Lv12 : 19237 → 21114 ……Level up!
◇「堅硬なる骨」
恐ろしく丈夫な骨。高い剛性を持つ。耐久力が上昇する。
<あとがき>
なんかツッコミがたくさん来ている!(予感がする!)
このあとがきの部分は家で書いてるんですけど、前回のはきっと突っ込まれまくってるんだろうなァ……とね!
やはり書いたものは一日か二日置くのがベスト!アラが見つけやすいです。
でもこの連続更新を止めるのもどうかと思ったので昨日はやっちまったわけですね。
今日のは昨日の内に書いた奴なのでちょっとはマシな筈ですぜ!
明日も更新!
間違い色々ありましたねー。
指摘していただいた方ありがとうございます。特に無刃さん。あれは致命的でした。
>ガル・ヴィンランド
イケメンかと思いきやイカメン騎士ww
やられたぜ!でもかっこいいなこの人!
>桃色特性には絶対、好感度の高い異種族を人化させるものがあると
桃色は同種にしか効かないんで……他にそういうスキルを作るしかないな!
>ゾンビ化は予想してなかった
苦し紛れでした。今では結果に満足しているようなしていないような。
>満腹度のシステムは正直デメリットばっかりで
ハルマサ君がますます人外へと堕ちてゆく「概念食い」発動のキーでした。
>骨が聖属性……ゾンビ化したら持ってるだけで死ぬんじゃないか
いやぁこの骨の元となっているセレーンさんも悪い方にやられてますし、そこまでの強さはないんじゃない? と思って作中のようなちょっと痛いぜ的な描写に。
でも直りにくいので彼の手はボロボロです。
>着信拒否されたのって腕輪外してるからだよね
あぁ、やべ。おやすみマンの効果は衣服だけです。と直しておかないと指輪消えちゃうジャン。と今気づきました。腕輪もちゃんとつけてますよ。
カロンは誰か分からない人からちゃん付けで呼ばれたので拒否しているだけです。
>不死体躯で耐久値は回復するん?それとも物理的外傷が直るだけ?
耐久値も回復してます。逆に手足の欠損とかは治りません。
>ttp://www.youtube.com/watch?v=hsd0QbQB8tE
仮面ライダーか! 主題歌の曲名がかっこいい!
>そのうち通背拳や雷神も使えるようになるのか
なるんじゃないかな、と作者は思ってます。捻糸棍の漢字間違ってて慌てて修正しましたけど。
>死ななくなったと思ったら制約が増える…
彼女の場合は少し特殊なのです。
あとボーナスが二つなのはあまり意味がないです。
>フルフルのほぁああああああ弾幕
心が病んでいた時間帯のことなので若干黒歴史気味です。お恥ずかしい。
>4号うざ、こういう理不尽キャラ死ねばいいのに
4号はツンツンしてるだけです。嫌いな男性にはしゃべりかけないという裏設定があったり。
>4人ぐらいいるんじゃないの
居たらいいですねぇ。一人が働き一人はギャンブルにおぼれ一人が親孝行に励み、そして残りがssを書くことになるでしょうけど。
>赤フルに火は殆ど効かないんじゃ
アウチ!
ちょっとだけ効いたという描写に直しました。サンクス。
>聖人の骨が出てきた時点でハルマサがスタンド使いになったと思ったわw
ちょっと意識しましたね。最初は「キリストの大腿骨」って名前でしたし。
スティールボールランはちょっと読めてないんですよねぇ……。
>ひまわりはひまわりなのに小さいんですかね?
最近は部屋で栽培できる小さなひまわりもあるらしいですよ。
>擬人化するんですね。わかります。
擬人化好きな人多すぎる!
おとといくらいにこのスキルで擬人化したら面白くね?って思ってたんですけど忘れたので、しばらくないですよ。多分。
>カロンちゃんってアイツか?アイツなのか?w下手するとハルマサ泣くぞww
ハルマサ君は積極的に泣かせたいんだぜ。
明日もよろしく!