<87>
ガサリと、樹海を抜ける。
途中でバンビのような姿をしている草食のケルビというモンスターを捕まえて食べてみたが美味くない。
多分「おいしそうな生肉」をドロップするモンスターだったのだろう。
「お腹減ったな……。ガノトトス食べた――――い!」
樹海をスポーンと飛び出していった先は、サラサラの砂が続く砂漠だった。
耳を澄ませば、砂の中に何かが居ることは分かるが、位置の特定は難しそうだ。
そんなもんは――――――――スルーだ!
僕の心はガノトトスに夢中―――――――!
飢餓感で頭がパッパラ隊になっているハルマサは、湖に向けて疾走する。
彼は森丘フィールドから真北に来ており、樹海の、湖には程近い場所から出てきていたため、直ぐに目的地へと到着した。
このハルマサのあまりの速さに、砂に潜っていた砂竜と呼ばれる魚竜種たちは攻撃できず、見送るだけとなったのだった。
湖の周りは少しだけオアシスのようになっている。
その中で、翠色のガノトトスがヤオザミを齧っているシーンに、ハルマサがやってきた。
≪対象の情報を取得したよ!
【ガノトトス亜種】:稀に現われる翠色のガノトトス。長く生きたため鱗が変色している。水を吐いて攻撃する。詳しい情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv14が必要です。≫
どうやらナルガクルガと等しい強さらしい。
だが、ハルマサは速さ特化型であったナルガクルガさえ圧倒した男。
遠距離特化型のガノトトスに、地上で負けるはずも無い。
「ヤオザミを放せぇ―――――!」
と勢いよく叫んでハルマサはガノトトスにとび蹴りを入れる。
ギャオウ! と吹き飛ばされたガノトトスにさらに追撃の岩付き骨アタック!
ブスッと突き刺しズルゥと地面から抜き出す聖者の骨には、巨大な岩塊が付いていたが、今や30万にもなったハルマサの筋力なら、軽々と振り回せるのだった。
どうでも良いが、握った手がじゅ、と煙を立てていた。
そういえばこの骨、聖属性だったね。
とはいえ煙程度で怯むハルマサではなく、ガノトトス亜種はメッタ打ちである。
右から殴られたと思ったら左側から打ち上げられ、すぐに叩き落される。
骨の先の圧縮された岩が砕けるほどの連打。
水の中に居れば対抗できるかもしれないが、地上の魚竜なんてこんな物であった。
だが、そう上手くはいかないらしい。
ハルマサは、「心眼」の警告に従いその場を跳び退る。
直後水のビームが湖面から飛び出し、翠のガノトトスを抉った。
「ギャァアアアアアアアア!」
(仲間にも効くのか……!)
地上のガノトトスは怒ったようで、30メートルの巨体を立ち上げ仁王立ちし、水を吐いてくる。
ボロボロなのに頑張るなぁ……。
水は広範囲を抉る放射状のものだった。
ハルマサは、全力を出す。
横に跳び、回り込み、まだ水を吐き終えていないガノトトス亜種の後ろに回りこみ、よく見た。凄く良く見た。
(見つけた!)
「解体術」がしっかり発動。
やっぱり背ビレの付け根のうんたらかんたら……ココが弱点だァ――――――――!
―――――――手刀斬ッ!
ハルマサの横薙ぎの斬撃は、後ろからガノトトスの頭を切り飛ばした。
切断面から血が噴出して、巨体が倒れ伏す。
ハルマサがあんまりにも速く動くものだから、水中の魚竜は反応できず、むざむざと同種を殺されることとなった。
ハルマサが魚竜の巨体に隠れつつ、食欲に負けて魚竜をモリモリ食べていると、後ろから「ギィ!」と声が聞こえる。
振り返れば先ほど齧られていたカニである。宿と片腕をなくしているが、それでも元気そうだ。
「ん? ああ、無事……じゃないけど助かったんだ。良かったね。」
「ギィ!」
ハルマサがモグモグしながら話しかけると、宿を失くして弱点部位のコブを露出させたカニがカチカチと残っている鋏(ハサミ)を鳴らす。
ヤオザミかと思ったが、鋏の形が違う。
鋏と言うより、カマキリのような折りたたまれた鎌のような手をしていた。
「観察眼」で見れば「ガミザミ」と呼ばれる甲殻種である。
甲殻種の肉は以前食べた事があり、味は「普通」だった。
ということは今のハルマサにとって美味しくない、ということだ。
以上の理由から、甲殻種のガミザミは食欲の対象にはならず、普通に対応できているのだった。
そのガミザミが、ハルマサの腕をカマでくいくい、と引っ張ってくる。
なんだろう、とハルマサは立ち上がり――――――直後頭を引っ込めた。
そして、シュパァと、湖から飛来した水流が後頭部を削った。
「ちょっと待ってて。」
ハルマサは、やんわりとカニの手を押しのける。
「収納袋」から、「セレーンの大腿骨」を取り出して握った。
相変わらず聖属性がじゅうぅ、と手に優しくないが、これほど使える武器も無い。
「先にあのお魚さんを倒してくる、よッ!」
よ、といった時、既にハルマサは水に飛び込んでいた。
飛び込んだ瞬間、彼は失敗したかな、と思った。
いくら敏捷の高い彼でも、水の中では満足に動けない。
よって魚竜から狙い撃ちにされてしまうのではないか?
そうハルマサは思ったが、そんなことは無かった。
ハルマサには今、遠距離攻撃できる手段があるのだから。
(「突き」ィッ!)
ギュンと伸びた聖者の骨は、魚竜の知覚を上回る。
しかし、尖ってもいない先は特技の貫通属性を発揮できず、魚竜の頭を強打しつつ鱗ですべり――――――湖の底に深く突き刺さる。
(これは、これでオッケー! 縮めぇ―――!)
現在骨が縮まれば、固定されていないほうと固定されているほうでは、固定されていない方が動く。
ハルマサは骨でガノトトスに急接近すると、拳を放つ。
ただ、骨の縮む速度が速く、距離が極端に近くなって腕を伸ばしきる事が出来なかったが……それが新特技を発動させた。
――――――ブォン。
打つ瞬間、体中の筋肉が収縮し、その力と振動が拳に収束。
その手は高速で小刻みブレつつ、強大な威力となってガノトトスの鱗を貫いた。
そして内部にて、振動が爆発。
ドゥン! と強制的に振動が起こった内臓は裏返り、衝撃に脳の血管が破れ、ガノトトス(無印)は絶命した。
≪ぱんぱかぱーん! 新特技「無空波」が発動したよ! この特技も持久力を消費して、さらに腕を損傷するから気をつけて!≫
確かに凄い疲労だ。
打った拳は骨が折れたし。
だけど、水中にてガノトトスを倒すほどの特技。
(これこそが……必殺技か!?)
代償は確かに大きいが、追い詰められたら積極的に使おうと思うハルマサだった。
ガノトトスの死体を放り投げ、地上に出れば、翠のガノトトスは消えていた。
まだ全部食べていないのに残念だ。
だが、新しく手に入れたこいつを食べれば………!
「ギィ!」
あ、そうだった。
再度、ガミザミが腕を引く。
「うん。行こうか。」
ハルマサはガミザミに連れられて、オアシスの一角へと歩いていくのだった。
オアシスの一角には、木々に隠れて目立たないような洞窟がある。
こんなところ、連れられてこなければ絶対に分からないだろう。
緩やかに下っている岩の洞窟の中は一気に温度が下がっており、肌がゾクリとした。
ガミザミについていくと、やがて淡く光る結晶がある空間に来た。
ぼう、と照らされる空間にて、ハルマサは二つの卵が鎮座しているのを見たのだった。
「これは……?」
ハルマサが呟くと同時、二つの卵はぷりん、と弾け、中からまっ白なカニの幼生が出てきた。
白いだけではなくどこかキラキラと光るような色で、ガミザミやヤオザミを縮めたような姿をしている。
二匹のカニは、甲殻に覆われているというのにフワフワと柔らかそうである。
体長30cmほどのカニたちはプクプクと泡を吹くと、傍らに置いてあった木の実なんかをモギモギと食べ始める。
非常に愛くるしい姿だった。
≪【プラチナザザミ】:非常に非力な存在。しかしその体には、大きな可能性を秘める。
耐久力:5 持久力:300 魔力:2300000 筋力:2 敏捷:3 器用さ:6 精神力:43000≫
ん? 聞き間違いかな230万とか聞こえたんだけど。
だが、もう一つの白いカニ「プラチナギザミ」も同じようなステータスである。
これは一体……?
と思っていると、突然ぼわん、と目の前にビックリ箱が出現した。
定時報告には早いよね? と思っていると、ビックリ箱から顔が飛び出し、喋りだす。
『プレイヤーNo.54:佐藤ハルマサが複数の条件を満たしたことにより、プレイヤーのパーティ1つを対象とした、クエスト「プラチナ甲殻種の護衛」が始まりマス!』
二つ目のクエストの始まりだった。
<つづく>
満腹度: 88716 → 90715
耐久力: 107144 → 108497
持久力: 87439 → 89338
魔力 : 108230 → 112701
筋力 : 104777 → 115226 →345678
敏捷 : 134421 → 138669 →416007
器用さ: 146707 → 149811
精神力: 64501 → 66803
経験値: 83738 → 96538
金貨 : 196 → 217
概念食いLv10: 2603 → 6048 ……Level up!
拳闘術Lv11 : 15984 → 19305
鷹の目Lv11 : 8993 → 11843 ……Level up!
剛力術Lv12 : 26389 → 28993
身体制御Lv12: 37829 → 40339
空間把握Lv13: 42387 → 44882
観察眼Lv12 : 24391 → 26885
魔力圧縮Lv12: 27430 → 29843
戦術思考Lv12: 24487 → 26789
突撃術Lv12 : 27834 → 30001
魔力放出Lv13: 55832 → 57890
蹴脚術Lv9 : 2049 → 3784 ……Level up!
心眼Lv11 : 17348 → 19075
棒術Lv10 : 5739 → 7445
的中術Lv12 : 23384 → 25073
回避眼Lv11 : 18734 → 20391 ……Level up!
空中着地Lv12: 34670 → 35801
撹乱術Lv12 : 32573 → 33254
解体術Lv10 : 7883 → 8477
走破術Lv9 : 2853 → 3400
PトレーナーLv13: 47901 → 48981
◆「無空波」
拳を相手に密着させた状態から腕を高速振動させ、衝撃波を相手にたたき込む。中位までの装甲を必ず貫通。持久力を50%消費し、特技に用いた拳は破壊される。