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『味方とする陣営、魔物:甲殻種 の個体数が50%以上減少したことにより、敵対する陣営、魔物:魚竜種 の強さが強化されマス!』
そう人形は言う。
強化の内容は以下の通りらしい。
○ガレオス → ドスガレオス
○ドスガレオス → ガレオスキング(って何?)
○ガノトトス・ガノトトス亜種・ヴォルガノスがそれぞれ一匹増加。
ということであった。
(キツイな!)
ハルマサはそう思う。
何故なら、これらの強化が行われた理由が、甲殻種の個体数の減少だからだ。
これから敵陣営は強くなり、甲殻種はさらに減る。
次の強化は何パーセント減ったときだ?
さらに50%減ったときか?
(急がなくちゃ……!)
もう一刻も無駄には出来ない。
魚竜種の集まる場所を見つけ出し、叩く。
甲殻種が一所に纏まってくれていればそこを守る必要もあるだろう。
下手したら手が足りなくなりそうだ。
『残りの魚竜種は16体デス! では、皆様のご健闘をお祈りしマス!』
ボゥン!
ビックリ箱は虚空に消える。
討伐数は最高記録でたったの2体。
聞いた時は喜んだが、あまりに少なすぎる記録だ。
やっぱりこの階層にはプレイヤーが少ないのだろう。
強いプレイヤーはさっさと下に行っているだろうし、弱いプレーヤーは入った途端に死んでいる。
そう予想することはあまりにも簡単だった。
減る数と増える数が同じとは何たる事態。
他人に頼るのはやめたほうが良いだろう。
急いで行動方針を決める必要がある。
入り口付近で飛んで来るオレンジ色の光線は、ほぼ間違いなくガノトトスの類縁のモンスターの仕業だ。
あれが行く手を阻んでくることは想像に難くない。
あれは北から飛んで来ていた。
つまりボスに向かう時に、魚竜種との対決は避けられそうにないのだ。
だったら早急に魚竜種を倒す方が良い。あんまり多くなられたら対処できなくなるだろうし。
ハルマサは、急いで先に進むことにした。恐らく溶岩地帯は北にある。そこに居る魚竜種を倒すために。
ハルマサが現在居るのは樹海。
寝ている間の安全が保障されるので、ハルマサは眠りに突くまでの安全を考え、周りを圧縮して作った穴の中で眠っていた。
ハルマサは急いで服(と言ってもズボンだけだが)を整えると、干し肉を噛みつつ、穴から飛び出す。
そうして樹をスルスルと登り、天辺付近の枝にたどり着いたところで、空にめがけ跳躍する。
狙撃される可能性も高いが、今度はその方向すらも見定めるつもりだった。
一気に地上百メートルほどまで飛び上がったハルマサの眼に浮かんだ「回避眼」の攻撃予知線は――――――13本。
(多すぎる!)
咄嗟に背中から魔力を出して下降する。その上を通り過ぎる4本の熱線と、7本の水流。さらに2本の砂の線。
(砂……もしかして、ドスガレオス!)
そうだ、魚竜種はガノトトスとヴォルガノスだけではなく、砂漠に住まう者もいた!
ナレーションでも気付いたが新たにトライガレオスという種も生まれたらしい。
ハルマサは、今度は姿を消して、再び跳躍。
地形をしっかりと把握する。
この階層に来た時は、「鷹の目」のスキル不足で、また樹海の付近で雨が降っていたため見通せなかった、地形をしっかりと記憶する。
地形どころか、湖から顔を出すガノトトスも見えたりはしたが。
(整理しよう。)
この先、樹海の向こうにあるのは不毛の地。
まず砂砂漠が広がり、その先に岩石がゴロゴロと転がり砂のなくなる岩石砂漠。
さらにその先に低い山脈と、最北の巨大な山。
山からは煙が上がっている事が薄っすらと見えた。
活火山なのだろうか?
砂砂漠には大きな湖が二つ。
丁度この楕円形の大陸の眼のような位置だ。
そこにガノトトスは居た。
ドスガレオスの居場所は、分からない。
なんとかガノスも分からない。
(じゃあ分かるところからだね!)
ハルマサは、透明なまま、湖へと空を走ろうとして、ゾクリと背筋を凍らせる悪寒に体を捻る。
恐らくは「心眼」の警告。
じゃあ警告の原因は――――
下からハルマサの居た場所を白いモヤが通りすぎる。
「ピェエエエエエエエッ!」
「ピェエエエエ!」
(ヒプノックかッ!)
恐らく今の攻撃は、睡眠状態を引き起こすガスを吐きつけてきたのだ。
≪対象の情報だよ!
【ヒプノック】:尾羽が美しい鳥竜。天敵や獲物を、睡眠ガスで眠らせることで生存を図る臆病な性格。発達した脚部の攻撃は強烈。詳しい情報を取得するには、「観察眼」Lv12が必要です。≫
確かに油断は出来ない。
レベル12で、さらに睡眠ガスも吐く。
だけど、ヒプノックではたいした脅威でもないような……
――――――ゾクリ。
逃げろにげろ――――――――ニゲロッ!
(――――――ッ! 「空中着地」ッ!)
ハルマサが空中を蹴り、さらに足の裏から魔力を噴射し逃げた瞬間、ハルマサの近くにあった大木がズタズタになり、根元から折れて飛んだ。
幹に刺さっているのは白銀に輝く太いトゲである。
しかしハルマサはそれを見ている余裕が無かった。
(ここに来て―――――――――ナルガクルガか!)
やはりどのモンスターも避ける通ることは出来ないのか。
ハルマサの前では、獰猛に牙を剥いて唸る生粋の暗殺者、迅竜ナルガクルガが居た。
そのレベルは――――――14。
巨大なかつ体は強靭な四肢に支えられ、漆黒の体にはしなやかさが見て取れる。
前腕にある翼は発達して、ブレード状になっている。
なにより、疾い。
ハルマサは、やれるさ、と自分を鼓舞するように呟いたが、それはどうしても空虚に響いた。
【第二層 火山前広場】
ズゥ……ンと崩れるように倒れた岩肌の巨竜を一瞥だにせず、少年、エコーズ・サルマリは額を拭った。
「ふぅー。やってられねぇな。熱い。」
拭いてもその次の瞬間には玉の汗が吹き出てくるようだった。
エコーズは金髪の少年だ。
血気盛んで、向こう見ず。
しかし、その行動を肯定してしまう実力の持ち主でもあった。
「愚痴ばかり言うものではないと、ワタシは思う。」
傍らに居た背の低い人物、マリオネ・キルデガが、深く被った黒い帽子の下で呟く。
マリオネという女性の格好は黒尽くめで酷く暑苦しい。こんな場所では特にだ。
とにかく熱い。
「愚痴じゃなくて、事実なんだよ。」
「事実を嘆くことを、愚痴という。そうワタシは思う。」
はいはい口じゃ敵わねぇよ、とエコーズは肩をすくめ、目の前にそびえる巨大な山を見た。
今二人は魔物が群雄割拠する山脈を抜け、この階層最後の難関に挑もうとしていた。
山は天辺から絶えず黒い煙を吐き出し、周りに熱を撒き散らしていた。
二人、エコーズとマリオネは、クエストの存在を半ば無視していた。
二人の焦点は第二階層などには無い。
もっと深く。
得るだけで、名誉となるようなお宝を。
エコーズは義務のようですらある出世欲で、マリオネは家族のために、このダンジョンに来ているのだ。
決して遊びなどではない。
クエストなどという、遊びに関わっている暇も無い。
二人がぽっかりと口を開ける火山の中に入り、そして中からは獣の怒号が響き渡る。
<つづく>
満腹度: 55889 → 55931
耐久力: 52584 → 52584
持久力: 54822 → 54864
魔力 : 87750 → 88707
筋力 : 55252
敏捷 : 83537 → 86307
器用さ: 119018 → 120627
精神力: 44021
観察眼Lv12 : 18344 → 22003
空間把握Lv12: 35490 → 38559
心眼Lv10 : 5473 → 7822
身体制御Lv12: 29011 → 30620
魔力放出Lv13: 54875 → 55832
鷹の目Lv10 : 8409 → 8993
暗殺術Lv11 : 16730 → 16772