<79>
ガノトトスへ対抗するための修行をしていたのに、食べ物を求めて走り回ることになった。
肉を抱えて帰って来ると、うち捨てられたピカピカデラックスが寂しそうに地面に刺さっていた。
あ、ピカピカデラックス、略してピカデラは僕の盾の名前だよ。
信じられないほど分かりやすいよね。
「竜鱗の盾」っていう名前の候補と最後までデットヒートを繰り広げて、結局はあみだでピカデラに決まったんだ。
ハンドメイドだから愛着もひとしおだよ。
まぁ今はハンドメイドじゃないものなんてほとんど持ってないけど。
とりあえず、「収納袋」を探さなきゃ!
目印の棒は見事に焼け落ちていたけど、空間把握を使えば地下一メートルくらいは探れるので、無事「収納袋」は見つかりました。
干し肉をしまって……と。
もう眠いので、寝ます!
だが、最後にこれだけはやって置く。
ハルマサは明後日に向かって声を張り上げる。
「カロンちゃ―――――――――ん! おやすみ――――――ッ!」
ところがカロンちゃんの耳に心地よい声は返ってこず、警告音が響いた。
≪ポーン! 特技「伝声」の効果は、対象にレジストされました。≫
(着信拒否――――――!)
ちょっと凹みつつハルマサは眠るのだった。
気が付けばまたあの変な空間に居た。
空にはぐるぐる巻きの太陽が浮かび、足元ではひまわりが寝ている。
「ホラ……足元がお留守だよ……スピー……」
やっぱり鼻ちょうちんを出しているひまわりはひとまず置いておいて、ハルマサは辺りを見渡した。
カーネルサンダースは居なかった。
あの一ミリも変化しない顔と妙なテンションは正直苦手だったのでホッとしていると、足元で鼻ちょうちんがパチンと弾け、ひまわりが眼を覚ましたようだった。
ほぁ! とか言いつつ目を開いたひまわりは葉っぱで眼を擦りつつ、こちらを見て嬉しそうに笑った。
「あ! この前のお兄さんだ! いらっしゃい!」
「ああ、うん。お邪魔します。」
相変わらず良い笑顔だなぁ。
「お邪魔なんてッ! 全然だよ!」
「そ、そう。」
「話す相手が居るなんて、幸せだよ!」
嬉しそうにしているひまわりはいつも一人で寂しいのかもしれない。
その気持ちは良く分かるハルマサだった。
ひまわりはよいしょ、と地面から根っこを引っ張り出して、トコトコと歩き出す。
「今日は白菜が良い出来だねぇ。」
「……?」
何となく着いて行くと、ひまわりは茶色い土が適当に塗ってある空き地? 見たいなところにやってきて、白菜がうんぬんと言い出した。
葉っぱを地面に当てると、ズボッと何かを引き抜いた。白菜だった。結構大きい。
「わぁ、ご立派!」
ひまわりは付着していた土を葉っぱでポンポンはたき落としている。あらかた叩き落とすとひまわりは言った。
「食べようか!」
「……そうだね。」
「どうぞ!」
毟り取って渡された一枚の白菜をムシャリと食べる。何の変哲も無い白菜の味がした。
ひまわりも自分の体と同じくらいの一枚を端からシャクシャク食べていたが、ハルマサの視線に気付くと、笑顔になった。
「とってもとっても美味しいね!」
良い笑顔だなぁと再度思った。
(……ハッ!)
目が覚めた。
もう太陽は高く登っていた。
昨日寝たのはもう大分暗くなっていた時間だったが、いくらなんでも寝すぎだ。
寝る前から全裸だったハルマサはやっぱり全裸であり、彼の大事な玉袋は朝の肌寒さに縮み込んでしまっているようだった。
なんか頭痛がする、変な夢を見たせいだろうか。
パン、と頬を叩き、ハルマサは気合を入れる。
何故なら、彼はこれから強敵に挑むのだ。
昨日の内にだいたい準備は終わった。
だから、今日は挑む。
簡単な図式だ。
(今日は……倒す!)
ハルマサは腹ごしらえをした後、ズボンだけを着込む。
靴も、上着も無しだ。
何故ならそこは魔力を放出する部位だから!
用意の整ったハルマサは、ガノトトスが居るであろう海辺へと盾も突っ込んだ「収納袋」を持って駆け出した。
砂浜には、カニが居る。
親指ほどの小さなカニも居れば、食べ応えのありそうな大きなカニまで色々居る。
そしてこのダンジョンには、とても大きなカニが居る。
ガノトトスは主にそういうカニを目的としてこの砂浜の辺りも縄張りとしているのだった。
ハルマサがやってきた時、まさにガノトトスがカニをバリバリ食べているだ最中った。
「暗殺術」を発動しつつ、そっと岩陰から食事の風景を伺うハルマサ。
「観察眼」で見れば、食べられているのはヤオザミらしい。
いつぞやにハルマサと死闘を繰り広げたカニも巨大な魚竜には勝てなかったようで、宿としている甲羅に噛り付かれている。
(ちゃ、チャンスなのか!?)
どうやって引き摺り出そうか考えていた相手が勝手に出てきている。
でも、とハルマサは思った。
(水中に居る相手を引きずり出す実力が欲しいんだ!)
ガノトトスがここに居る個体だけなら、このまま襲い掛かるのもありだ。
だが、それでは何のために準備をしてきたのか分からない。
ついでに言えば、昨日は手も足も出なかったガノトトスと、戦えるようになったのか、訓練で得た力を試したいとも思った。
ハルマサは袋から盾を取り出すと、まずは魚竜を水に追い込むことにした。
はぁあ、と手に纏めるた魔力を水にする。
「水遁・水龍弾の術!」
適当なことを叫びつつ手から発射した水は「水操作」の賜物かやや収束しつつ、魚竜に直撃する。
「ギャァオゥ…!」
ダメージを受けたというより奇襲に驚いた魚竜は、慌てて水の中へと戻っていった。
計算通り!
しかも、
≪スキル「水操作」の熟練度が20480を超えたことにより、スキルレベルが上昇します。≫
レベルも上がった!
準備は揃ったと、駆け出そうとするハルマサ。
しかし彼の前で、ボン! と煙を上げて虚空から何かが出てきた。
『?』が各面に描かれた立方体の小さな箱だ。
その箱の上面がパカッと開き、中からバネ仕掛けのおもちゃが飛び出してきた。
ビックリ箱だ。
(なんだこれ。)
びよん、びよん、と揺れる丸い顔をハルマサが指先でつつくと、キ―――――……ン、と頭に響く音がする。
クシャルダオラを倒した時に出てきた指輪をつついた時と同じ音だった。
これも、ダンジョンを作った神と関係あるのだろうか。
『プレイヤーNo.54:佐藤ハルマサが、魔物:甲殻種を魔物:魚竜種から救出したことにより、クエスト「うお・カニ合戦」を開始しマス!』
頭にキンキン響く声で、バネ仕掛けのおもちゃはカクカク口を動かして喋りだした。
『プレイヤーは甲殻種から望外の信頼を、魚竜種からは無上の敵意を向けられマス! プレイヤーが第二層クリアによるフィールドリセットまでに魚竜種を殲滅すると、討伐報酬として、最も多く魚竜種を討伐したプレイヤーにアイテムが授与されマス! 奮ってご参加下サイ! 残りの魚竜種は16匹デス!』
言うことは全て言ったのか、ビックリ箱は閉じられ、消える。
クエスト……?
このダンジョンにはそんなものもあるのか。
まぁいいや。
魚竜を倒せというなら、倒そうじゃないか。
アイテムにも興味は尽きない。
(俄然面白くなってきたぁ―――――!)
ハルマサは透明化を解除し、海へと飛び込む。
やはり盾が重い。だが上手く振り回し、重心を移動するコツも得た。
なにより魔力を噴き出して移動できる!
ユラリ、と海の深いところで大きな影が揺らめいた。
クエスト「うお・カニ合戦」。
それはプレイヤーに敵対するほうのモンスターの、強さが倍増するものであることを、ハルマサはまだ知らない。
<つづく>
満腹度: 40234 → 40614
耐久力: 30361 → 30462
持久力: 39168 → 39548
魔力 : 58399 → 59314
筋力 : 29017 → 29556
敏捷 : 61620
器用さ: 90659 → 91379
精神力: 28528
盾術Lv9 : 2943 → 3044
暗殺術Lv11 : 15441 → 15821
剛力術Lv10 : 4982 → 5521 ……Level up!
水操作Lv12 : 10087 → 10807 ……Level up!
魔力放出Lv13 : 43967 → 44882