<76>
修行とは、己を高める行為である。
しかしこのダンジョンにおいて、ハルマサはその行為の必要性をこれまで感じなかった。
なぜならば、適当に敵に突っ込めば強くなるのだ。
一人で頑張って苦しい思いをするまでもなく、何時の間にか強敵に勝てる力が備わっていく。
チートだなぁ、と思いつつハルマサはこれまでやってきたのだ。
だがここに来て、水中という無敵の要塞の中で攻撃してくる遠距離攻撃特化型のモンスターを相手取った時、何かしら対策を取る必要が出来た。
そう、これからは「修行編」だッ!
「火竜編」が終わったので、次は「フルフル編」だと思っていたが、その前に思わぬ強敵の出現だった。
ちなみにこうやって「~編」と区切るのは、ダンジョンに挑んでいることをどこかゲーム的に捕らえて寂しさを紛らわす一つの手段として、ハルマサの中で確立していた。
よって第二層攻略・2「修行編」である。
ガノトトスを相手取った場面を思い浮かべる。
ハルマサが望む戦い方は、地上に引きずり出しての接近戦である。
それならば、今までのモンスターたちで培ってきた力が発揮できるだろう。
よって、問題はどう地上に引きずり出すか。
……難しいな!
「暗殺術」で水面までは行けると思うんだ。
だけど、水中では簡単に分かっちゃうだろうし。
そこであの放射状の水流撃たれるときついなァ。
ビームも避けれないだろうし。
うーん。
何とか上手く水中から蹴り出せないものかな。
肝は水中戦。「水操作」の錬度と、後一つ何か……。
水中戦での脅威はなんだろうか。
それは素早く動けないことにより、狙い撃たれやすいことだろう。
また、水中でのタックルなども警戒しておいたほうが良い。防御力アップは必須だろう。
他には? ……呼吸か。
恐らく地上での何倍もの速度で持久力が低下するに違いない。
よってこれから主に向上させるのは、
①水中でのスピード
②防御力
③心肺機能
でいいかな?
①と③は川で潜って泳いでみよう。その中で「水操作」も併用すれば良い。
②は……あの、僕の中では最高硬度で作った岩剣があっさり貫かれたことから、盾を作るって言うのも……。
僕の中では?
……そうか!
ハルマサは懐の「収納袋」から輝く黄金の丸い板を取り出す。
表面に美しい紋様のある板は、今朝拾った「金火竜の厚鱗」である。
かなりぶ厚く2から3センチはある
軽く叩いてみると、キンキン、と音がする。
「金火竜の厚鱗」みたいに他のモンスターから奪った素材を使えばいいんだ!
岩剣で切った時も物凄く堅かったし。
まぁ削ったりなんて繊細な事が出来るかは怪しいから、盾の表面に嵌めこむ方向で。
よし②も決まった。
竜の鱗を集めよう。
目標は、全身が隠れる盾の表面をびっしり鱗で覆うこと。
「金火竜の厚鱗」一枚で僕の顔くらいあるから……縦に並べて七から八枚。
横に並べて四から五枚は欲しい。
僕は八頭身ではないだろうけど、互い違いにしたいから八枚だ。
だから、まぁ40枚あれば足りるかな。
絶対火竜足りないから、昏倒させて引っぺがすことにしよ。
さぁ、むきむきしてやるよッ!
ちょっとエロイことを呟きつつ、ハルマサは火竜の居場所を探るのだった。
ハルマサが塩を取りに来ていた(最初の目的はこれである)のは森丘が面する海である。
ハルマサが強制ダイビングさせられた地点からは少し南(毒沼寄り)の位置。
その場所で、空中にあらん限りの力で飛び上がったハルマサは、「風操作」でゆっくりと落下しつつ、「鷹の目」で獲物を探す。
できれば、希少種がいい。
なんか堅そう、とハルマサは思っていた。
「発見ッ!」
すぐさま「風操作」を使って下向きの風を吹かせ、地に着いた瞬間走り出す。
目指す先に居るのは……銀の火竜!
「ギャォアアアアア!」
「はーい! ちょっと痛いよ!」
ハルマサは岩から作り出した剣を振り下ろし、ゴキン! と痛いどころではない衝撃を頭部に叩きつける。
これで、昏倒してくれれば……と思うがそんなやわい種族ではない火竜の、さらに希少種である。
殴られつつも突っ込んでくるほど元気であった。
最早敏捷はハルマサが完全に上回っており、銀のリオレウスと言えど危なげなく戦える。
飛び上がろうとすれば翼を叩き、火を吹こうとすれば頭を叩く。
ただ、気絶させて鱗を剥ぎまくりたいと思うハルマサは、殺してしまいそうな攻撃も出来ず、なんだか、グダグダの戦いとなっていた。
火竜に取り付いて剥がしにかかってもよいのだが、それだと、また盛大に暴れられるのが関の山。
なんだか上手く行かないぞ、とハルマサは眉をひそめる。
試しに魔法を叫んでみる。
「スリプルッ!」
≪ポーン! 特技「睡眠誘導波」を使用するには、スキル「毒操作」Lv17が必要です。≫
(名前カッコイイな! しかも毒操作なんだ。)
「まだまだ! 甘い息ッ!」
≪ポーン! 特技「甘い息」を使用するには、桃色特性の封印を外してください。≫
(え!? 使えるの!?)
なんと二つ目で当たりである。
封印外すってことは……ブレスレットを外せば良いんだね。
よぅし、テイク・オフッ!
おっと。
迫る火竜の尻尾を、剛力状態になりつつ岩の剣で防御する。ガイーン!
さて、ブレスレットを袋にしまって……行くよ!
「甘い息ッ!」
モワーン……
その瞬間僕の肺に溢れる気体。
それを吐き出せば……ピンク色だった。
予想はしてたけどね!
まぁ良いや。多分眠るでしょ。ほれ吸えやれ吸え、もっと吸え―――!
風を送って火竜に吸わせる。
「ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
超絶に怒り出してしまった。
周りの大地を焼きつくさんと、火を吹きまくり、突進を繰り返し、咆哮をしまくる。
ふ、甘い!
「炎の陣」で火を受流し、突進は「剛力」「防御」で跳ね返し、咆哮は……既にヘルメットをつけている!
実は真っ暗の中、「空間把握」で戦っていたのだ――――――!
防音性能の思わぬテストになったけど、バッチリだった。
まぁ「空間把握」なかったら泣いちゃうレベルで外界の情報得られないからね!
体のゴム質スーツによって衝撃もほとんど感じない。
防具って凄い!
とまあそれは良いとして……なんで怒ったんだろう。
ステータスを見てみる。
◆「甘い息」
一定時間、異性をメロメロにし、同性をガチでキレさせる魔性の吐息。所有する桃色特性の数によって効果は変化する。異種族にも有効。
へ、へぇー。
2号さん桃色好き過ぎだよね。異種族魅了して意味あるのか……。
とにかくリオレウスはオスなので怒り狂っているらしい。
と、そろそろ銀火竜の攻撃がピークを終えてきた。
疲れたんだろうか。
かなりガチでキレたんだろうね。桃色三個もあるし。「痛み変換」も併せたら四個だろうか。
ヒーコラ言い出して、逃げようとする銀火竜を殴ると、簡単に気絶した。
持久力なくなるとこうなるのか……僕も気を付けよう。
「ふむッ!」
ビクン!
「ふんぐぐぐぐ……!」
ベリッ!
ビクビクン!
「銀火竜の厚鱗」は、暗いところでも月色に淡く輝く魔性の鱗。
ヘルメットを外したハルマサはその光をとても美しく思った。
気絶している内に急いで剥ごうと思ったのだが、これが中々、結構強固に引っ付いている。
一枚剥くにも、「剛力術」を発動し、渾身の力を込める必要があった。
テコの原理を使おうと差し込んだ岩剣はボキンと折れてしまった程だ。
でも、苦労の甲斐あって既に十枚が袋の中に。
よし、この調子で……と頭の近くを見た時、他のと違う鱗が目に入った。
ん? んん?
とりあえず剥いでみよう。
ふーーーーーん、ぬらばぁ!
ベリィ!
「ギャァアッ!」
「うぉ!」
起きちゃった。
ハルマサは咄嗟に後ろに跳び退り、距離をとる。
しかし銀火竜は、こちらを一顧だにせず飛び去った。
見事な逃げっぷりだった。
場合によっては彼にまた鱗をお願いするかもしれない。
ずっと元気でいて欲しいとハルマサは思った。
で、最後に剥ぎ取った鱗だが……
≪対象の情報を取得することに成功しました。
【火竜の天鱗】:火竜の幻ともいえる鱗。武具に用いれば、天を掴む。
詳しい情報を取得するには「観察眼」Lv12が必要です。≫
ほほぅ……。
「天を掴む」は言い過ぎだと思うが、つまりとんでもなく堅いのだろう。
良いもの手に入れたぜ!
というか天鱗は、雌火竜の奴もあったよね。
じゃあ次は金火竜に突撃訪問だぁ―――――!
「あ、じゃあ痛いけど、ゴメンね?」
「グル……」
金のリオレイアに「甘い息」使ったら簡単に鱗は集まった。
何か従順すぎて情が湧くレベルだ。
ただ探しても天鱗は無かったため、あれは結構レアだったのかも。
そういえばゲームでもなかなか出なかったしね。
とにかく、これで材料は揃ったぜ!
手に入れた鱗を地面に並べて、圧縮した魔力で包み込み……鉱石に変質!
そうして出来ました!
終に完成ッ!
ババーン!(口で言った)
最強の盾、ピカピカデラックスッ!
略してピカデラだね。
作り出した盾は、幅70センチ縦170センチ、厚さは10センチで、とんでもなく重い!
表面には露出させた鱗が光り輝きかなりゴージャス。
豪華さでは天空の盾なんか眼じゃないぜ!
「さぁ、金ちゃん! ちょっとここに突進してみて!」
「ギャァ~」
「いや、僕をベロベロ舐めるんじゃなくてね? ここに……まぁいいや。」
ちょっと懐き過ぎだよね!
騎竜の戦士とかになれそうだけど、「甘い吐息」は制限時間がある。
我に帰った金火竜と、戦うのは心情的にかなりキツイので、ここらで別れておく事にした。
「じゃぁね! 付いてきちゃダメだよ金ちゃん!」
「グルル……」
「ダメって言ってるのに……。ゴメン!」
ハルマサは全力で逃げて、見えなくなった一瞬で地面に潜り、やり過ごした。
「ギャォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
遠くで咆哮する金火竜の金ちゃんの声は、どこか寂しそうですらあった。
こ、心が痛い……。
<つづく>
耐久力:24209 → 27406
持久力:33004 → 34025
魔力 :46070 → 51943
筋力 :31638 → 36859
敏捷 :56566 → 58416
器用さ:73565 → 83890
精神力:35741 → 36528
両手剣術Lv10:5781 → 7433
解体術 Lv10:4021 → 6398 ……Level up!
身体制御Lv12:20143 → 23281 ……Level up!
突撃術 Lv11:10432 → 12032
撹乱術 Lv11:16530 → 16926
空中着地Lv12:22538 → 22861
走破術 Lv9:2163 → 2853 ……Level up!
金剛術 Lv8:877 → 1377 ……Level up!
防御術 Lv10:4360 → 6726 ……Level up!
剛力術 Lv9:2213 → 4982 ……Level up!
炎操作 Lv11:13228 → 14986
土操作 Lv11:12538 → 15527
魔力放出Lv12:34829 → 37745
魔力圧縮Lv11:8036 → 10993 ……Level up!
戦術思考Lv11:18447 → 19234
回避眼 Lv10:8345 → 8826
観察眼 Lv11:12839 → 14699
鷹の目 Lv10:7693 → 8409
的中術 Lv11:13904 → 14372
空間把握Lv12:25249 → 27001
心眼Lv4 :0 → 72 ……New! Level up!
PトレーナーLv11:5991 → 10272 ……Level up!
◆「甘い息」
一定時間、異性をメロメロにし、同性をガチでキレさせる魔性の吐息。所有する桃色特性の数によって効果は変化する。異種族にも有効。
■「心眼」
第六感ともいえる動物的な勘。確率で、危険を察知する事が可能となる。レベルアップに伴い、スキルが発動する確率が増加する。眼を瞑っていると発動しやすい。
<あとがき>
真のヒロインは金ちゃんだったんだぜ――――!(嘘です。)
火竜系の防具って水属性あんまり効かないらしいです。
だからガノトトス戦に向けて集めても良いよね。
あと今回、全部グダグダ!
明日は、明日は頑張る!(とか思っていたら明日も酷い。ちくしょう!)
明日も更新!
感想ありがとうございます。力出ますね。
>金貨1000枚
閻魔様が桃色解除薬みたいなのを作ってくれるのです。
何話くらいか作者もよく覚えていないけど。
>稀少特性の答え
そこのところをさっき書いたのだけどお気に召すかどうか定かではない!(力強く)
何ちゃってアストロンは上手い言い方ですな。
>レベル50までのモンスターがいうこときいたりしたら
ポケモンスキルはこれから急上昇して行っちゃうのであるかもしれません。
>波紋・幽波紋
……あるな!
こういうの考えるの楽しい。ちょっとわくわくしてきたぜ!
>先のお話だったのですか
申し訳ないです。
あとキャラに期待もしてはならない!
>ロケット団
初期しか知らないけど彼らの行動は好きです。よってスキルではなくとも何かしらで出てくる可能性は大ッ!
>あわわ
確認したけど、このキャラはえらい可愛いですね。
でも閻魔様はもっとこう、キリッと! してるのだろうか? やっぱりよくわからない。
修正:甘い吐息→甘い息