<68>
炎に飲まれ、体が蒸発しそうになる。
事実、炎に耐性の無い石油由来の服はドロリと溶け出していた。
(ぐぅうう……止まるなッ!)
炎塊の大半は「風球」をぶつける事で相殺できた。
だが、だからと言って平気かと言えば、そんなことは無いのだった。
ここに留まることは出来ない理由はそれだけではない。
ホラ、今も追撃の炎が迫っている!
「くそぉおおおおおおおおお! あんたも容赦ねぇえええええ!」
グバ、と炎を掻き分け、高速で横に跳び出す。
背後で着弾する炎塊の爆風を炎と風の「操作」で受け流し、さらに移動。
炎の残滓を引きつつ移動するハルマサは、火竜にとってはただの標的なのかもしれない。
連続で飛来する炎塊を、ジグザグに動くことでなんとか避ける。
ズン、ズン! と次々に上がる火の柱。
ハルマサの動きはスキルの熟練度上昇も手伝いさらに加速してゆくが、何時までも避けているわけにはいかないようだ。
(周りの温度が……呼吸も辛い!)
明らかに空気が薄くなっている。
不味い。
「ゴァアアアアアアアアアアアアアア!」
(くそぅ、どうすれば……!)
ここでハルマサに出来ることは何であろうか。
「炎操作」「風操作」で、相手の炎塊を弾き返す?
出来るはずもない。敵の魔力、精神力が詰まっている炎塊は、ハルマサの処理可能な領域から飛び出している。
「土操作」で壁を作る? 溶けます。
「水操作」……蒸発します。
「魔力放出」で……何スンの?
じゃあやっぱりこれしかない。
「ハスタァアアアアアアアアアア! 天罰だ! あいつを叩きおとせぇえええええええええええッ!」
【貴様に命令される筋合いは無いわぁアアアアアアアアッ!】
瞬間、天から風が吹き、飛竜は翼の重みに牙を噛む。
「ガァアアア!?」
(よし! 攻撃が……止まったッ!)
流石はハスタァ。文句を言いつつもしっかり仕事をこなす良い男である。
しかもちゃんと省エネだ。熟練度ボーナスでむしろ魔力が増える。
【ぬぅ、落とせはせなんだか。】
「十分だよ! 流石ハスターッ! ありがとうッ!」
【ふ、よせやい。超照れる。】
なんか少し可愛いことを言いつつハスタァの声は消えた。本当に感謝!
ハルマサはギシ、と剣を握り、僅かに高度の落ちた火竜へと空を駆ける。
だん―――だん! ダンッ!
三歩で上空百数十メートルに居る飛竜の懐へ。
懐に来た熱の塊に気付いたリオレウスが爪で掴みかかってくる前に……
「だぁあああああああああッ!」
バギャギッ!
火竜の堅い翼膜を、刃をこぼしつつも毒の剣が大きく引き裂いた。
左翼の三つあるうちの真ん中の一つが大きく破れることとなる。
「ギャォアアアアアアアアアアアア!」
「グフッ!」
火竜はバランスを崩しつつも尻尾を巡らせ、ハルマサをしっかり弾き飛ばす。
防御に使った毒剣が、負荷に耐え切れず砕け散る。
(「身体制御」……衝撃吸収!)
弾かれた勢いのままハルマサは地面に突っ込んだ。
緩和された衝撃でさえ、地面を抉り、左右の岩盤が隆起する。
落ちた先は河岸林から少し岩山よりの草原だった。
「く、ぁああッ!」
すぐさまクレーターから跳び出すハルマサ。
じっとしていれば、いつ火の塊が飛んできてもおかしくない。
土ぼこりと草が舞い上がる草原にて、ハルマサは空の王者が落下してきたことを知った。
――――――ズゥン!
片翼が破れたはずなのに、それでも無様に墜落しないリオレウスは尊敬に値する。
両足で着地したリオレウスは大きく口を開け……
(――――――やばッ!)
その奥に炎の兆しが見えないことで、ハルマサは瞬間的に身を伏せる。
土を操作し、頭を完全に土でガード。
呼吸できないのはご愛嬌。
しかも土と土の間には、風を操作して真空に近くした空気を入れてある。
これぞクッション構造!
時間ある限り層を増やしてやる!
これで防げなければ、もう耳なしホウイチとして戦ってやんよ!
「ガ・ァ・ア・ア・ア・ア・アッ!」
一秒も経たずに、飛竜の口から跳び出す咆哮!
轟音! 轟音!
土に包まれているはずのハルマサの鼓膜はやっぱり破け、土に隠れていない体はビリビリと音の衝撃に震え上がる。
(痛ぁあああああああああああああい!)
耳もそうだけど、なんか頭も痛いッ!
耳と鼻と眼から血を垂らしながら、ハルマサは土から顔を引き抜いた。
「空間把握」したところ、火竜がこちらに向けて、また火を吐こうとしていたのだ。
(もう、そのパターンは良いよ!)
瞬間的に手の平に生じさせた握りこぶし大の石の玉。
ご丁寧に縫い目まで再現してしまった、岩製野球ボール。
ハルマサはそいつをミシリと握ると跳ね起きて、片足を踏み込み、腰を回す。
「バッタぁァァァァ、投げましたァ――――――!」
腰に遅れて、胸が回転。
肩から腕がしなやかに伸び、指がボールを押し出して――――――投球!
投げるのはピッチャーだろ、とか、バット投げたら乱闘じゃんとか頭の冷静な部分に突っ込みを入れられつつ。
ハルマサが全力で投げた球は、物凄い勢いでバックスピンでホップしつつ飛んでいく。
空気摩擦で燃え上がる寸前までいった岩塊は、今まさに炎を吐き出さんとする火竜の口腔内に直撃し―――火の玉を口腔の中で爆発させた。
「―――――――ッ!」
仰け反って、口から活火山の如く火を噴き出すリオレウスの首の付け根に、ハルマサは「解体術」で、弱点を発見する。
あれは噂の逆鱗か!?
「だぁあああああああああああああッ!」
ここがチャンス! 狙えチャ――――――ンス!
地面を爆発させる踏切りと、地を這うような走りで一息にリオレウスの懐に到達したハルマサは、跳躍し、彼の竜の弱点へと手を突き出した。
その手には――――――風。
「はぁッ!」
――――――風球ッ!
ギュボッ!
火竜の喉を抉る風は、弱点であるもろい鱗を砕き食道内に侵入、炸裂する。
「―――――――――ッ!」
体の中を縦横無尽に暴れ勝る風は、リオレウスの内臓をすら傷つけ、リオレウスは苦悶に身を捩る。
そしてハルマサは知らないことだが、火竜の内臓器官には「業炎袋」というものがあって、外気に触れると大爆発する粉塵が詰まっているのだ。
よって風で体内を蹂躙された火竜は……内側から大爆発した。
カッ――――――!
まず、眼もくらむような光が溢れ、間髪いれず衝撃・轟音の波が来る。
ドカンと言う衝撃が鼓膜の無いハルマサにも衝撃として十分に伝わる、そんな爆発だった。
(じ、自爆!?)
勘違いしながらも「炎操作」「風操作」「身体制御」を使い、しかしハルマサはボロ切れのように吹き飛ばされる。
もう、後一歩で死んじゃう、と言うところまで追い詰められて――――ハルマサはレベルアップのファンファーレを聞いたのだった。
<つづく>
レベル:9 →10 ……レベルアップボーナスは1280
耐久力:3795 →6764
持久力:9728 →14061
魔力 :12705→17795
筋力 :5698 →10574
敏捷 :15324→25659
器用さ:17476→29374
精神力:12110→14913
経験値:2563 →5123 あと5115
拳闘術Lv9 :1946 →2773 ……Level up!
片手剣術Lv9:1725 →3839 ……Level up!
解体術Lv9 :749 →2330 ……Level up!
身体制御Lv11:9082 →12067 ……Level up!
暗殺術Lv10 :5744 →7438
突撃術Lv9 :3610 →4921
撹乱術Lv11 :8345 →10543 ……Level up!
空中着地Lv11:7423 →11265 ……Level up!
撤退術Lv10 :5288 →6232
防御術Lv9 :3280 →4082
天罰招来Lv9:2533 →2593
炎操作Lv10 :3008 →5538 ……Level up!
風操作Lv11 :16236→18430
土操作Lv8 :0 →1328 ……New! Level up!
魔力放出Lv12:17721→21471 ……Level up!
戦術思考Lv9:6922 →8445
回避眼Lv10 :3779 →5794 ……Level up!
観察眼Lv10 :5534 →6573
鷹の目Lv9 :3428 →4462
聞き耳Lv9 :3257 →3964
空間把握Lv10:5839 →7833 ……Level up!
<あとがき>
エクセルすげ―――――!(感動)
表計算を使うことで私の何かが加速しました。
エクセラレーター!
エクセルと格闘するうちに貯金がまるっと無くなってしまったけど、私は元気です。
明日も更新!
>Excel
サンクス!
でもそれが反映されるのは今日書いた明後日の分からなんだぜ!
キレイに整理されたスキル表を待っててくれよなッ!(多分あんまり変わってない)
>もっと慎重にならないの?
あとがきはほとんど読まないとおっしゃっていたのでここで答えてもいいのかアレですが。
失敗した後、解決策がまるで見えなければそうなるかもです。
ポジティブかつ楽観的に動かしているので、突破口がありそうだったらそこを狙って(私が)飛び込ませます。
ただ、この攻略、急ぐ必要がまるでないのも確か。
彼の精神力は高く、地道な下積みも我慢出来るはずですしね。
なんかそういう話書いてみたくなったな。
ともあれ、彼の行動に説得力を持たせるなら彼を急き立てる何かを用意すべき、ということですかね。
大陸端から沈めてやろうかな。
>『(`ェ')ピャー』
ピャー!
まだ次のチャチャブータイムが残ってるんだぜ!
>レベルを上げないでスキルを鍛えまくっておくほうが
断然そうですね。
そういうバランスです。これへの言い訳は無いのですが。
でもレベル上がって行く方がテンションあがりません? 私だけ?
>イメージ
特に無いですかね。あえて言えば色白キュルケかと。いやでも……わかんね。