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岩山攻略するぜ!
と息巻くのは良いのだが、前回と同じようにチャチャブーが大量に襲ってきたらまたボロボロになるかもしれない。
ゲリョスに「暗殺術」が大して通用しなかったので、さらに不安になる。
前に勝てたのは急に姿を消したからであり、最初から消していたりしたら直ぐに対応されるんじゃ……。
(ここは……なんか相手の動きを止める系のスキルを!)
特技でも良いけど。
そして足を止めるといえば……
(やっぱり土系のものになるよね!)
足元からグアッと。
今回は「土操作」のスキルをゲットするぜ!
という訳で精霊さんに土属性の攻撃をしてもらいます。
「天罰招来ッ! 土系の攻撃を……僕に!」
【いいでしょう。あなたの願い聞き届けます。】
なんか硬い感じの女性の声が聞こえたと思ったら、川原の地面がウネウネと脈動する。
(くるか!?)
ハルマサが身構えた瞬間。
ギュゴォ! と角柱が飛び出してきた。
(地面がウホォ! ありえない速度でギャフッ! 隆起してガハァ! 僕にグフゥ! 連撃を――――――)
角柱や円柱、さらには拳を象ったものまで飛び出してハルマサをタコ殴りである。
下からの攻撃で基本的にアッパーだが、ワザワザ上から叩き落す係りの土塊まであった。
そして軽く翻弄したところで本命の……
「ッてその槍は死んじゃうからッ!」
やたら先端が鋭い岩の槍を、必死に避けつつ、ハルマサは毒剣で切り飛ばす。
【……チッ!】
(舌打ち!?)
云われない悪意に傷つくハルマサ。
なんか精霊さんって人間キライな人多いよね。
最近思うんだけど、世界はもっと僕に優しくあっても良いんじゃないかな……?
岩の隆起による怒涛の攻撃を8発ほど受けたところで、待望の「土操作」が出た。
≪地属性の攻撃を一定量以上受けたことにより、スキル「土操作」Lv1を取得しました。取得に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫
土の精霊さんはチッチチッチと舌打ちを連発し、【何で死なない……】などと怖いことをボソリと呟いたりして帰っていったが、ハルマサは(ストレス溜まってるのかな……?)程度の認識しか持たなかった。
基本的に精霊さんに対しては心が広いハルマサだった。
さらに嬉しい事が。
≪下位「操作」系スキル5つを習得したことにより、中位「操作」系スキルが解禁されます。≫
中位だってさ!
どんなものか分からないけど、光とかだったら嬉しいね!
「太陽拳」が放てるよ!
毒とかでも良い!
そして上位もあるんだ……なんか全然先が見えないところが素敵ですな2号さん!
そして「土操作」であるが、「魔法放出」のレベル(Lv11)に引きずられてか、それともハルマサの器用さが高いせいか、比較的容易に使いこなせている。
こう、地面にですねぇ、手を置いてですねぇ、フンと力を入れるとこの通り!
(フンッ!)
ドゴゴォ!
と地面から2本の角柱が斜めに飛び出して高さ一メートルくらいでぶつかり合って、砕け散った。
(れ、錬金術ッぽーいッ!)
ガンガン読者でもあったハルマサは鋼の錬金術師も大好物である。
まぁ詳しい設定は知らないが、地面に手を置いて色んな物を呼び出すのってカッケー! と思っているのだ。
で、夢中になって遊んでいるうちに、毎度の事ながら敵が来てしまうのであった。
「ゴォアアアアアアアアアアアアアアアア!」
(え、火竜!?)
上空からこちらに急接近する、空を切り裂く羽音を耳にしたハルマサが顔を上げると、岩山の方角から赤い火竜が飛んできていた。
リオレウス(無印)だ。
その口からは、すでに火炎が漏れ出している。
(いつもいつも急すぎる……だけど、受けて立つよッ!)
地面につけていた手から魔力を流し、岩盤を操作。
目の前に幾条もの柱として飛び出させ、複雑に絡ませる。
これは壁だ。
一度に大量の土を操作できないゆえの苦肉の策である。
それが受け止めるのは……火竜の攻撃。
「ガォアアアアアアアアアアアアアアッ! ゴァアアア! ゴァアアアアアアアッ!」
計三発の炎塊が、唸りを上げて飛来し、ハルマサの作った壁に着弾、炸裂。
土の壁は一瞬にして砕かれ、火が飛び散った。
河岸林の長閑な風景は一瞬にして地獄絵図と化し、辺りの酸素が急速に薄くなる。
だが、ハルマサはすでにそこに居ない。
上空でハルマサは呟いた。
「眼くらましには使えるね……。」
彼が壁を作った理由。それはこちらの動きを見せないためだ。
着弾の一瞬前、ハルマサは隠れて「暗殺術」を発動。
遥か空へと跳んでいたのだった。
火竜は飛んでいた勢いのまま川原に突っ込み、地形を変えつつ着地する。
ゲリョスもそうだったが、飛竜は着地するたびに地形を変えるものなのだろうか。
それはともかく、明らかにこちらを見失っている。
ハルマサは、その背へと急行し、剣で首を狩らんとする。
(隙あり……ぃ? ――――ふぐッ!)
バシィ!
しかしこのモンスターもレベル11相当の猛者。
火竜の尻尾は振り払われ、空を駆け下りてきたハルマサを弾き飛ばした。
確実にこちらの姿は見えていないはず。
ならば…………勘?
(ず、ずるい! 僕にも下さぁい!)
やたら硬質だった尻尾を何とかガードし、体力を温存できたハルマサは、「身体制御」によってバランスをとり、空中で反転。
無事に着地する。
今の一撃で50メートルは吹き飛ばされてしまった。
ハルマサは顔を上げ、そして驚愕する。
「ゴァアアアアアアアア!」
(な、もう追撃が……!)
着地した瞬間また跳ぶことになった。今度は横へ。
直前まで居た地面は、炎塊が直撃し燃え上がる。
避けたはずのハルマサの服に、炎が燃え移りそうになり、慌てて炎を「操作」する。
そうして火竜はこちらを見失ったか、キョロキョロとし始めた。
(よ、よし! 今がチャーンス!)
と走り出すハルマサ。
右手には、風を魔力で集めだす。
やがて密集したそれは回転しだし、淡く発光。
暴風を秘めた球となる。
(――――――風・球ッ!)
一撃で決めてやるッ!
しかしハルマサが必殺技を抱えてあと一歩という距離まで走ったときだった。
火竜は、つい、と鼻をあげ、スン、と小さく鳴らし――――――ハルマサの方をギロリと見た。
(あ、あんたもかぁああああああ!)
だめだ、相手の動きを止め―――――「雷撃」を撃ったら「風球」が維持できない!
「ゴォアアアアアアアッ!」
ズゴ、と地面を凹ませて、火竜が天へと跳躍する。
ハルマサそれを追いきれず、一瞬行動を迷い――――――直後、真下に向かって吐き出された炎塊に飲み込まれた。
<つづく>
ステータスは次回!