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遠くからピーヨピヨピヨと小鳥のさえずりが聞こえる森丘の川のほとり。
ハルマサはそこでうつ伏せになり、右腕を川に突っ込んで脱力していた。
「はぁー……」
本当にしんどい……。
「不死体躯」が無かったらきっと毒で死んでるよね……。
今は毒と回復力が一進一退の攻防を繰り広げている感じである。
そういえば気になることが。
明らかにネタ系っぽい説明の「不死体躯」ってしっかり発動してくれてるんだよね。「痛み変換」は発動してないのに。
これって「痛み変換」だけが桃色認定されて、ブレスレットで封印されているってことかな。
いざとなれば気持ちよくなりながらここで毒に耐えていただろうことを考えると、これは本当に助かる。
………それじゃあ同じネタ系の「臭気排除」はきっと発動しているだろう。
「臭気排除」の発動が起こっていようが居まいがモンスターに見つかったのは関係なかったってことになっちゃうよ。
まぁくさいにおい以外はスルーだから分からないでもないけど。
何はともあれ「不死体躯」は発動し、体の回復力は高まっている。
だが、毒の解毒能力はついていないのか、体中は未だにまだらな紫色である。
下手したら全身が紫色だったかも知れない。僕の代わりに毒を浴びた岩には同情するね。
川に浸している右腕は、ゲリョスの体液をもろに浴びたので、二倍くらいに腫れています。
左手の骨折はむしろ治りつつあるから、どっちが骨折したか分からない状態だね。
あー……しんど。
さっきから何回目か分からないため息を吐くハルマサ。
連れが居たら鬱陶しいといわれるレベルである。
彼は二層になってから途端に難易度が上がった現状に少々疲れていた。
よってここで少しマッタリしていくことにしたのである。
誰も聞いてないし愚痴も吐きまくってやる!
あ、でもその前にカロンちゃんに毒治してもらお。魔力もそれなりに回復したし。
「カロン……ちゃーん。ヘールプ。」
呼んだのだが、しばらく反応は無く、やがておずおずといった感じで天から緑の光が降りてきた。
【ほ、本物か?】
第一声がこれである。
「ほ、本物ですけど? 僕のニセモノでも居たの?」
【いや……我が降りておる時、確かに死んだと思うのだが……】
「あー……」
火竜の炎に巻かれた時に呼び出して、【すまんが無理】とか言われて死んだのでした。
そういえばカロンちゃんには事情話してなかったね。
実はカクカクで。
【ふむ?】
しかじかなのです。
【なるほどのぅ。死に放題じゃな。】
注目するのはそこなんだ。
「いや、そうは言うけど死ぬのって痛いし、なんか大事なものが抜けていくような感覚するし結構イヤだよ?」
【我も死にとぅはないの。まぁ生きておるなら……本当に生きておるのか? まだらに紫色じゃが。不死人にでもなったか?】
不死人……ゾンビか。
僕の外見って思ったより酷いのかな。
毒ですよ毒。
【ふむ、まぁその程度の毒、我が力を入れれば……むん。】
ペカー、と回復する僕の体。
「すごい!」
腕をクルクルと回してみる。
その他の傷も、ライフドレインで回復している。
健康って……イイ!
今なら神だってフルボッコに出来るよ!
むしろしたい!
体が弱ると弱気になるって本当だね!
その逆も然りッ!
健康な体には元気な精神が宿ぉ―――――る!
「よっしッ! ちょっと火竜殴ってくる!」
【待て待て、もう魔力も無くなるぞ。】
む、それは不味い。
しかたない。
ご飯でも食って安静にしとこうか。
お腹の減りも尋常じゃないし。
【じゃあの。】
「うん。あ、プリンのことゴメンね!」
【な、何で知っておるのじゃァぁぁ……】
と言いつつカロンちゃんはフェードアウトしていった。
さぁて……
その後またイノシシを狩って、肉をゲット。
どうやら体を傷つけずに首を落とすと肉になるみたい。
肉ばっかりだと栄養的に心配だけど、知ったこっちゃないね!
メンドクサイから生で食ってやるわー!
そしてお腹が一杯になったら、ハルマサは寝た。
火竜にさえ見つからなければ良いや、と彼は楽観的に考えて、森の多い川のほとりで眠りに着いた。
「うーんうーん! ……バハァッ!」
目隠しされて「だーれダッ!」聞かれて、手が肉球だったから「アイルー!」って言いながら振り向いたらチャチャブーだったという嫌な夢から、ハルマサは叫びながら跳び起きた。
寝転がって川の中に頭を突っ込んでいた事が原因らしい。髪の毛が顔に張り付いてくる。
というか水攻め状態で良く寝続けたな僕は。耐久力が減っているのに。
ハルマサは頭をふって水気を飛ばしつつ立ち上がる。
何故か感じる股間の辺りの開放感。
(……あれ? 服は?)
何故か全裸であった。
ジャージは中の人が溶けて消えたように、横になった姿で置いてあった。
その上にハルマサは立っている。意味が分からない。
一応指輪と腕輪はつけたままのようだ。
その時ファンファーレが聞こえた。
いつものチャンチャラ言うやつではなくてベートーベンのジャジャジャジャーン!という運命的な奴だった。
≪条件:1「溺死」、を満たしたことにより希少特性「D」を獲得しました。残りは4つです。≫
……?
なんだろうこれ。
ステータスを見てみる。
こう、瞼の上を見る感じ。慣れたもんだね。
□「D」
それは誘う文字。24日以内に文字を全て揃えよ。ではなくば、待つのは破滅。残り時間23:23:59
(説明、少なッ!)
これじゃ何にも分からないよ!
集められなかったら破滅とか!
一体どうなるの!? 気になるけど体験したくないッ!
2号さんは一体何を考えてこれを入れたんだろう。
ハルマサがうろたえているとさらにファンファーレ。
今度は聞きなれたヴィバルディの春だった。
≪一定の範囲内に一定数以上の敵対する対象が居る状態で一定時間以上睡眠状態にあったことにより、特性「おやすみマン」を取得しました。≫
(それ、オムツぅ――――――――ッ!)
ところがどっこい。
□「おやすみマン」
安全に就寝する存在の在り方。寝ている間、存在が別時空へと転送、保存され、誰にも邪魔されず休息を得る事が可能となる。※転送には、衣服は含まれない。
(何かスゲ――――ッ!)
名前は今までないほどネタなのに!
別時空と来ましたか!
そして『※』の部分なんだけど……
だから起きたら裸なんだねッ!
誰に脱がされたのか凄く気になってたんだよッ!
寝ている間に取得して勝手に発動して、起きたからその知らせが届いたんだね。
でも、これで今度から何処でも寝れるね! ありがとう新特性。僕は敵の前でも躊躇無く眠りに着く男になるよ。
嘘だけど。眠りに着く前に殺されるって。
うーん、よーし。
うっかり寝すぎちゃったみたいだけど、体の調子は何時に無く良い。
火竜の巣である岩山の攻略……始めますか!
でもその前に、服服。
ハルマサはいそいそと衣服を着込むのだった。
<つづく>
24日はスパン長すぎたか。
期日来る前に作者が忘れるわ。
でもやる。それが勢いssクオリティ。
□「D」
それは誘う文字。24日以内に文字を全て揃えよ。ではなくば、待つのは破滅。
□「おやすみマン」
就寝時周囲と同化する技術。寝ている間はあなたの存在は別時空へと保存され、誰にも邪魔されず休息を得る事が可能となる。※衣服は含まれない。