<63>
魔力は変質し、風になる。
密度の高い風が、押し込められて暴れ狂う。
青く発光する風塊がハルマサの手の上に出現し、辺りの空気を震わせる。
頭上に煌く青い光に気付いたチャチャブーが、壁を走りあがり、爆弾を投げてくるがもう遅い!
これは「風球」? もちろん違うさ!
繰り出すは「風弾」の上位魔法のさらに上位!
ギ、と風を握り締めたハルマサは、それを下へと叩きつける。
指の間から漏れる風。
握るハルマサの指を切り頬を裂く、烈風の凝集体!
――――――極・風弾。
「だぁああああッ!」
ゴォアッ!
それは以前食らったクシャルダオラのブレスに届かないまでも追いすがる、そんな威力の風だった。
凝縮され、渦巻き暴れる風塊は、爆弾の爆風すら飲み込みつつ、チャチャブーたちに直撃。
岩を掘削し、周囲に飛礫を撒き散らす。
『超』の上にあった『極』、という階位。
消費魔力はバカ高いが、威力は折紙つきだった。
これも「風球」練習している時に、【これ使った方がはやいぞ。】と教えてくれたカロンちゃんのお陰である。
名前の違うその技はこの体だと、「極・風弾」として扱われた。
スキルレベルの高い「風」でしか使えないが、ぶっちゃけこれが必殺技だと言われたほうが納得できる光景である。
ただ、消費魔力が5000で、『超』(消費魔力700)とあまりに違いすぎる。間にいくらか段階がある気がする。
残り魔力の半分を使って放たれた風塊は、チャチャブーの数を一気に減らすことに成功していた。
残りは……壁を駆け上がっていた2匹!
しっかり巻き込まれて半死半生だ!
ハルマサは空を蹴り、チャチャブーたちへと踊りかかる。
2体のモンスターは、互いを回復させようとでも言うのか、向き合って剣を振り上げているところをハルマサに蹴散らされた。
「ふぅ……シンドかった……。」
辺りに落ちた金貨と、残っていた3本の毒剣を拾い集めて、ハルマサは座り込んだ。
あ、カロンちゃん呼ばなきゃ、とも思う。
そんなハルマサだが、レベル9現在でレベル9の敵を倒すと、経験値は320手に入る。
6匹倒した時点で喜ばしいことにレベルが上がっていた。
ボーナスは1280で、一番低い耐久力にとってかなり大きい上昇値である。
ヒャッハー! レベル10二回目ッ!
前回より強いんじゃないかな!? どうなのかな!?
正直覚えてないわーッ!
ハルマサは思考をおかしな方向に飛ばせつつ、疲労のままにダルンと座っていた。
そんな彼が背を預けるのは岩の壁。
彼が侵入してきた方角から見て右方向の大岩である。
――――――ドゥンッ!
(わッ!)
その岩が、脈絡も無く揺れた。
え、ちょ、まじですか。
正直もう今日はこれでおーわりっ! って気分なんですけど。連戦とかやめて欲しいなー……なんて。
貴様の嘆きなど知らん! ワイのターンはコレからじゃい! とばかりに震える大岩は、二回、三回、と震え、四回目には内側から爆発した。
(ちょー! もうホント勘弁してくださァいッ!)
二回目の揺れで危険を察知して飛びのいたハルマサは、その勢いで進行方向の高台へと飛び乗り、泣き言を発している。
そんな彼の前に高さ20メートルはあるような大岩を砕いて現れたのは、今回の目的でもあるモンスターだった。
「グルル……」
GRRRRR……とでも表記できそうな音で喉を鳴らしつつ、蒼い火竜が鎌首をもたげ、ハルマサを見る。
30メートル四方の拓けた空間が一気に狭くなる。
竜の顔とハルマサとの距離は一メールほどしかない。
≪対象の情報を取得することに成功しました。
【リオレウス亜種】:巣を中心に生息する飛竜の雄。長い年月により鱗は硬化し蒼く輝く。足爪に猛毒あり。
弱点部位、弱点属性その他の情報を得るには、「観察眼」Lv11が必要です。≫
見つめていると、蒼竜は鼻からひゅぼっと軽めに火を吹いた。
熱いッ! と思いつつハルマサは思う。
(YES! これは逃げろってことですねッ!)
こんな狭いところで火でも吹かれた日には、人型ステーキの出来上がりである。
「やってられるかァ――――――!」
ていうかこんな至近距離でどないしろっちゅねん。
殺人犯と一緒に居るなんて耐えられない、オレは部屋に戻るからな! 的な心境で、ハルマサは手に持っていた4本の毒剣のうち、2本を投擲。
そのまま後ろも見ずに駆け出した。
だが、「空間把握」で見えるッ!
鼻先で上手く二本の剣を弾き、口を大きく開けている蒼竜の姿を。
その喉奥からせり上がる炎の輝きが、ハルマサには見えてしまったのだった。
(いやだぁああああああああああッ!)
ゴ、――――――ォオオオオオオオオオオオ
背後から迫る爆炎は岩の回廊を溶かしつつ、ハルマサに迫る。
も、燃えてたまるかァ―――――――!
「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
手足を大きく振り、移動は腰から!
彼の一世一代のスプリントが始まった。
「で、帰ってきたと。」
「…………。」
ハルマサはチリチリになった髪の毛を直そうともせずに部屋の隅で膝を抱えている。
死に戻ってきた彼は、無言でその位置に収まったのである。
閻魔としてはメンドくさいと思わないでもないが、短期間で2層まで行った人物だ。
探索者の中ではお気に入りでもあるし、話は聞いてやろう、と思う。
というか裸で恥ずかしくないのだろうか。
右手に束ねて持った二本の毒々しい色の剣とか、反対の手の青い色のみすぼらしい袋とか気になるものも持っている。
話聞きてぇー、と閻魔は思った。
「何かあったのか? 話したくなかったら、まぁ構わんが。」
「……脚が毒で腫れてたんです……炎操作でも全然無理で……カロンちゃんは植物ないから無理とか言いますし……」
ブツブツ言い出した。
「要領を得んな。順を追って話してくれないか?」
「………実は……」
なんか色々大変なのだそうだ。
一日で金貨を110枚も集められるくらい。
でも閻魔なら余裕でクリアできそうだったので、感情移入も出来なかった。
というか火であれば、閻魔の場合、吸収してしまうのだ。
「そうか。大変だったのだな。そんな貴様に一つ良いものをやろう。」
でも、労ってやるくらいは出来る。
働きに応じた報酬もやろう。
今回金貨をたくさん持ってきたので、その褒美として倉庫で埃を被っていた「収納袋・中」を与えることにした。
これからは金貨回収も大変になるだろうしな。
「良いんですか……?」
「性能はあまり良くないがな。入ると言っても5万リットルくらいだ。」
「数字大きすぎて良く分からないんですけど……とりあえずたくさん入るんですね。」
「うむ。少々の衝撃や熱などにも耐える天国仕様だ。聞く限りでは貴様が居るところでは壊れはせんだろう。でも、あまり手荒に扱うなよ? 中のものには衝撃が行くからな。」
「はい。」
シャキッとハルマサは立ち上がる。
もう復活したらしい。
両手に毒々しい色の剣を持って仁王立ちである。
……少しは前を隠すべきではないか?
「……服を取り寄せてやろう。」
「助かります。」
いや、隠せよ。
遠まわしに指摘してやったろうが。
髪の毛チリチリのくせに何を堂々としているんだ。
というか何で髪の毛回復してないんだ? そんなにダメージがあったのか? 毛根に。
「服が燃えてしまって大変だったな。」
「ええ、ですが精一杯足掻いたんで食いはありませんッ!」
無駄に男らしいな。
……もしや楽しんでないか!?
じいっと見ていると、ハルマサは居心地悪そうに瞳を揺らす。
ようやく前を隠す気になったか?
「あの、閻魔様。そんなに見られると……」
ほ、頬を染めるんじゃない! あと見てない! 私は決して見てないぞ!?
そして隠せぇ――――――!
ハルマサの部屋着らしいジャージとついでに下着を転送してやったら、「もう少しで危ない趣味が……」などと言いつつハルマサは服を着込んだ。
ふぅ、困ったやつだ。
ちなみに靴は要らないらしいから裸足である。
床においていた「収納袋」をポケットに入れ、ハルマサは決意のこもった顔で、「お願いします!」と叫んだ。
いや、近いからそんな大声出さんでも聞こえてるぞ?
「うむ。頑張って来い。」
「ハイッ!」
元気でよろしい。少々やかましいが。
閻魔の手から飛び出した光に包まれて、恍惚の表情を浮かべつつハルマサはダンジョンへと飛んでいった。
<つづく>
いつもいつも逃げ切れると思うな!ということで。
たまにはこういう死に方もしとくべき。
デスペナ計算?
2時間かかりましたとも。
でも、もう慣れてきたぜ……!
次は半分でやってやる!
死ぬ前にレベル上がってしかもちょいと粘ったので、その分の上昇値も換算しています。
レベル9 →10(死ぬ前)→9
耐久力:3929 →6720 →3119
持久力:8271 →10588 →5346
魔力 :15438→19466 →9923
筋力 :5217 →7687 →3474
敏捷 :17512→21496 →11610
器用さ:24021→29326 →15411
精神力:14516→18782 →9756
経験値:2929 →5009 →2558 あと2560
拳闘術Lv6 :558 →446
蹴脚術Lv2 :25 →20
両手剣術Lv8:2887 →2309 ……Level down!
片手剣術Lv6:386 →1576 →1260 ……Level up!
棒術Lv1 :7 →6
鞭術Lv2 :28 →22
布闘術Lv1 :1 →0 ……Level down! 消えます。
解体術Lv4 :173 →138 ……Level down!
舞踏術Lv1 :6 →5
身体制御Lv10:8730 →9711 →7768
暗殺術Lv9 :4942 →3953
突撃術Lv9 :3867 →3093
撹乱術Lv10 :7204 →8872 →7097
空中着地Lv9:7011 →5608 ……Level down!
走破術Lv6 :592 →473
撤退術Lv9 :3742 →5339 →4271
防御術Lv9 :2599 →3872 →3097
天罰招来Lv8:2533 →2026
神降ろしLv11:12329→14216→11372
炎操作Lv9 :1618 →3547 →2837 ……Level up!
水操作Lv5 :325 →260 ……Level down!
雷操作Lv8 :1662 →1329
風操作Lv11 :17227→18342→14673
魔力放出Lv11:16560→19308→15446
戦術思考Lv9:4623 →5722 →4577
回避眼Lv9 :4605 →4723 →3778
観察眼Lv9 :3819 →4991 →3992
鷹の目Lv9 :3668 →2934
聞き耳Lv9 :3540 →2832
的中術Lv8 :2144 →1715
空間把握Lv9:5026 →5888 →4710
洗浄術Lv2 :20 →16 ……Level down!
折紙術Lv1 :9 →8
描画術Lv1 :3 →2
調理術Lv1 :9 →8
書いていて思ったんですけど、こんなずらずらとスキル並べて誰が読むんだって言う。
今度からデスペナの時はステータスだけ書こうか。