<62>
キノコをモリモリ食って、川の水をガブガブ飲んだ後、ハルマサは岩山の入り口の一つへとやってきた。
岩山は、この大陸において二番目くらいに高い山だ。
一番は北に位置する山で圧倒的に高い。
対して、岩山はそれほど高くもなく、標高は400mちょいである。
巨大な岩が隆起し、、年月と雨や水が様々な加工をした結果、出来上がったような代物だった。
相変わらず制空権は火竜のもので、今日は一段と活発的にクルクルしている。
岩山に近づくのは「暗殺術」無しではかなり勇気が必要だっただろう。
透明になりつつも、衝撃吸収で踏み込み音を消しながらハルマサは走って岩山へと到達し、ピタリと背中をくっつけて人心地ついたところである。
さて、ハルマサの右にはぽっかりと岩の裂け目が口をあけている。
暗くて奥は見えないが、風がそよそよと流れ出ていることから、どこかに通じていることは分かる。
この辺りは木も生えていて、休んで居ても早々位置を補足されることはないだろうが、ばれたら火竜祭りが開催されることは間違いない。
長いこと留まる気はハルマサにはなかった。
(いくぞ……3……2……1ッ! GO!GO!GO!)
やたら高いテンションのまま、ハルマサは入っていった。
緊張しすぎて頭がハイになっているのかもしれない。
岩山の中は温度が低く、とても静かであった。
時折遠くから、小さく鳴き声が聞こえるくらいで、あとはハルマサの呼吸音と足音くらいである。
裸足でよかった、とハルマサは思う。
だが、その微かな音でさえ反響して良く響く。
頭上は2メートル程の高さ、幅も同様、とまるで人が通るために作られた通路のようだった。
実際その通りかもしれないが、この大きさなら飛竜は入って来れない。
少しは安心しても良いのだが、そうは行かない、とハルマサは感じていた。
「聞き耳」で探ったとき、微かにチャチャブーっぽい声も聞こえたのだった。
あの「ピャー!」という無邪気に聞こえる声である。
先ほどは楽に倒せたが、この狭さでは厄介に思えるのだ。
手元に武器があるのでさっきよりはましか?
あとはランポスの声も聞こえたけど、適当にやっても勝てる相手は基本的に放置だね。
会ったら金貨のために倒させてもらうけど。
「ふぅ……!」
息を一つ吐き、ぎゅ、とランポス革の袋を握ると、また先に進むハルマサ。
涼しいはずだが、背中には汗が浮かんでいた。
途中で、石を蹴飛ばしてしまって大きい音が鳴ってしまったり、ランポスを見敵即殺したりしながら、200m程進んだ頃だろうか。
延々と続くかと思われた岩の回廊は、唐突にひらけた。
いきなり足場がなくなり、一段どころか二段も三段も下がった先に広大な空間が広がっていたのだ。
幅も奥行きも30メートルくらいか。高さは上が暗くなって見えないが相当だ。
向こう側にはハルマサの居る高台より高い位置に穴が一つ開いていた。
もしかしてもう竜の巣? ちょっと心の準備が……などと思ったハルマサだったが、その予想は外れた。
「ピャ?」
「ピャー!」
「ピキャアー!」
チャチャブーの巣だった。
カボチャっぽい被り物をしたモンスターたちは、毒々しい色の剣を振りながら、こちらを見上げていた。
全部で7匹のようだ。
あれ? 森丘にチャチャブーの巣とかありなの?
ずるくない?
モンスターたちの大きさは皆均一で、上位種は居ないようだった。
確か、キングチャチャブーだっけ?
チャチャブーに梃子摺っている現状で、出てこられてもきつかったけど……。
ていうか複数ってキツイよ!
ここでじっとしているのが正解なのかな?
不思議のダンジョン系だと、複数を相手取る時は通路に引き込んで一対一が基本だったけど……
この通路の広さにこの相手だと、逆効果だね!
相手は複数で、素早く動けないこっちをフルボッコ状態になっちゃうよ。
ええい! やってやるッ!
と、決心を固めているうちに、チャチャブーの側からアクションがあった。
腰の後ろにつけた小さなドングリ型の鞄から取り出した、小さな樽を投げてきたのだ。
(……?)
そんなに速くも無いので軽く避ける。
何がしたかったのか、といぶかしんでいると、答えは直ぐに出た。
背後で爆発が起こったのである。
轟音と共に、岩が一部崩れたようだ。道がふさがったかもしれない。
(爆弾ッ!?)
彼の知識には無い攻撃である。
知識に無くてもデータにはあるのだが、ハルマサはどこか理不尽を感じてしまう。
爆風に押し出されるようにハルマサは高台から飛び出さざるを得なかった。
しかしその先に居たのは飛び上がってきているチャチャブーであり、いらっしゃいませ、とでも言うように剣を振り下ろしてきていた。
「ピャアー!」
「ちょ、ずるい!」
キン! と剣で受け止めるが、風を切り裂くチャチャブーの斬撃は、足場も無い状態では止められない。
元々筋力で負けていることもあり、あっけなく吹っ飛ばされて、その先は岩。
(く、「空中着地」ッ!)
だん、と作り出した足場を蹴りつけ、体を回転。
岩に足から着き、膝で衝撃を殺し、すぐさま移動する。
チャチャブーが素早い動きで迫っている。
ガツン、と岩を抉る斬激に肝を冷やしつつ、さらに移動。
岩に叩きつけられることは回避したが、短い間に2回も「空中着地」を使ってしまった。
火竜に挑むのは明日にしようかな……などと弱気が思考をよぎるが、それもこの場を乗り切ってからである。
毒の剣を振り上げ、小さな7匹の悪魔たちは迫ってくる。
その速度はハルマサにとって脅威以外の何物でもない。
スキルが発動しなければ勝れないということは、何もしていない状態では彼らの動きが捉えきれないということでもあった。
フンドシ一丁のハルマサには、かすり傷すらかなり怖い。
幸運なことは、この岩山の岩が頑丈なことだろうか。
踏み切っても、崩れる事が無いので動きは阻害されない。
それは相手も同じだが、着地の直後に敏捷が上昇するスキルを持っているハルマサにはとても重要なのだ。
一体なら、距離をとってしまえば如何様にも出来るが、7体はキツイ。
「――――――クぅ!」
一瞬にして繰り出される剣は3つ。右腕、頭、左脚、と狙いも降られる方向もバラバラで、勢いだけが等しく速い。
頭を下げつつ右手の剣で「防御」をし、左足を狙うチャチャブーに風を放つ。
そしてすぐさま離脱。
一瞬開く距離。だがすぐさま追いすがり、振られる剣の数、今度は増えて、倍の6!
(理不尽だぁアアアアアアアアアアアア!)
広いように思えたこの空間も、高速で動くモンスターを相手取っては狭いと感じるものだった。
ハルマサは縦横無尽に跳びまわるが、相手も壁走りなんて軽くやってくるモンスターである。
これほどの脅威を相手にして、スキル熟練度の上がり方は芳しくない。
やはりレベルが近い事が関係しているのか。
(くる……しいな!)
ギィン! と剣を弾きつつ、ハルマサは流れる体を「身体制御」で押さえつけ、少しからだの流れているチャチャブーの頭を掴み、隣で剣を振り上げていたチャチャブーに叩きつける。
(同士討ちでもして………お願いだから数減ってくださーいッ!)
先ほど右腿を切られて右足がズクズク痛んでいる。そろそろ限界なんだよぉ!
だが、その期待も裏切られる。
チャチャブーの説明にある「毒吸収」。
これは同士討ちの危険をなくすと共に、ハルマサの精神力をへし折らんとする特性だった。
ズバッ!
「ピャア~……」
切りつけられたチャチャブーは、紫に発光し、どこか気持ち良さそうな声を出す。
そしてハルマサが「風弾」で凹ましていた被り物がポコンと復元したのだ。
(もぅ無茶苦茶だよ……!)
全てを投げ出してしまいたくなる光景だ。
ていうか、こいつら仲間が瀕死になった時、切りつけて回復させたりするんじゃない!?
ドンだけ性格悪いんだよ! 神様なんかケツにウンコ詰まって死ねやファ――――ック!
神を口汚く罵りつつ、ハルマサは以前もこんな苦しい事があったな、と思い出していた。
あの時は、どうやって乗り越えた? いや、死んだんだった。
でも、解決策はあったはずだ……
――――――「暗殺術」か!
思いついてすぐさま発動ッ!
体を透過させつつ、ハルマサは上に跳ぶ。
全力での跳躍は足場にヒビを入れ、チャチャブーたちは消えた標的に戸惑い、隙が出来る。
ここに来てようやく作り出せた隙。
この機会を逃すほど、ハルマサには余裕もないし、慈悲も無い!
(はぁああああああああ!)
空中で右手を開き、ハルマサは魔力を凝縮させ始めた
<つづく>
レベル:9
耐久力:2930 →3929
持久力:7609 →8271
魔力 :15008→15438
筋力 :4463 →5217
敏捷 :15770→17512
器用さ:23381→24021
精神力:14171→14516
経験値:2928→2929 あと2189 ……ランポス一匹倒したので。
拳闘術Lv6 :220 →588 ……Level up!
片手剣術Lv6:0 →386 ……New! Level up!
身体制御Lv10:8425 →8730
暗殺術Lv9 :4836 →4942
撹乱術Lv10 :6345 →7204
空中着地Lv10:6685 →7011
撤退術Lv9 :2929 →3742
防御術Lv9 :1754 →2599 ……Level up!
風操作Lv11 :16892→17227
魔力放出Lv11:16130→16560
戦術思考Lv9:4278 →4623
回避眼Lv9 :4250 →4605
観察眼Lv9 :3424 →3819
空間把握Lv9:4781 →5026