<61>
朝。
木の根元に掘った簡易な洞窟の中で、ハルマサは眼を覚ます。
皮膚が堅いため虫刺されなんか気にしないで良いのが助かるところ。
刺してくる虫がランゴスタ並に大きかったら分からないが、幸運なことにそんな虫の襲撃はなかったようだ。
で、起きた原因ですが。
「ギャォアアアアアアアアアアア!」
「ゴォアアアアアアアアアアア!」
「グァオアアアアアアアアアアアア!」
力一杯鳴いている火竜たちのお陰。
岩山の上から、草の大地の上から、もう咆哮しまくり。
朝日には、彼らを狂わせる魔力でもあるのか。
岩山の上に居る奴も平原に居る奴も、同じ方向に向いて一心不乱に鳴きまくっている。
ニワトリかッ! と思いつつハルマサは起き上がる。
腹が減ったと川べり(キノコが生えているのだ)に向かうハルマサだが、直ぐに足をとめることになった。
川へつづく地面に昨日はなかった珍妙なものが鎮座していたのだ。
「……カボチャ? じゃないか。」
カボチャのような違うような変な作物である。
トリックorトリート!で使われるような、眼の穴が掘り込んである。
(???)
とりあえず触ってみようと伸ばした手が、サクン、と切られた。
というか小指が切り飛ばされた。
何時の間に出てきたのか、カボチャの横には鉈サイズの剣を持った小さな手が生えていたのだ。
「な!? ク…!」
ピュウ、と血が出る手を握りつつ、後ろに飛び退くハルマサ。
小指といえど焼けるように痛い!
直後、土を跳ね飛ばしつつカボチャ頭のモンスターが飛び出してきた。
「ピャー!」
とか言いつつ飛び出してきたのは、ハルマサにも見覚えがある姿である。
こちらの腰ほどまでしかないような大きさで、その体は3頭身から4頭身。
枯れ枝のように細い手足に不釣合いな、体の半分以上はある剣。
(チャチャブーか……!)
というかカボチャ見た時に気付いとけよ、と自分に突っ込むハルマサである。
だが、負傷してしまった現実は素直に受け止めなければ。
ハルマサは「ピッ!ピッ!プゥー!」と小馬鹿にしたような動きを見せるチャチャブーを睨みつつ、叫ぶ。
こんな時には頼れる彼女ッ!
「カーロン、ちゃ――ん!」
【………なんじゃぁ?】
眠たそうな声のカロンちゃんが来てくれました。朝早いもんね。ごめんね。
最近彼女のオートライフドレインに頼りすぎかもしれないが、他に頼れるものもないのである。
(右手の小指飛んじゃって……)
【む……痛そうじゃ。見せるな。……失った部位は復元できぬぞ? 切れ端を持ってきて傷口に押し当てるんじゃな。血止めくらいはしておこう。】
(さすがカロンちゃん。頼りになる……!)
【ふふん! 当然じゃ!】
ありがてぇ……!
僕の小指はチャチャブーの足元にある。
ならば、さくっと倒してやる!
彼が強気なのも、チャチャブーは「観察眼」で情報が読み取れるレベルであった事が大きい。
≪【チャチャブー】:擬態が得意な獣人族。弱点はマスクに隠された頭部。弱点属性はなし。状態異常無効。毒吸収。耐久力:1000 持久力:2000 魔力:0 筋力:6000 敏捷:23000 器用さ……≫
速さ特化型であった。
現時点で僕(敏捷:15519)よりも疾いが、ダイミョウザザミの時のように畳み込まれなければ……
(僕にはスキルがある!)
ギィ! と地面を踏み、チャチャブーの後ろに回り込むように移動。
「風操作」と「撹乱術」の発動により、僕はトンでもなく速くなる!
レベルが上がるごとにスキル発動時の上昇幅が大きくなってるんだよね!
体感だから細かくは分からないけど!
ともあれ、「撹乱術」Lv10はその効果を十全に発揮し、ハルマサはチャチャブーの背後に到達。
だが向こうの敏捷も高い。
チャチャブーは「ピギャー!」と鳴きつつ剣を横薙ぎにしてくる。
「――――――ク!」
咄嗟に身を引くが、チャチャブーはさらに剣を振ってくる。
ヒュ―ヒュ―ヒュオゥッ!
上中下、と体を高速で回転させながら繰り出された横薙ぎの斬撃を、頭を引き、腰を捻り、最後は飛びのいて避けるハルマサ。
ダメージはなかったが、それは向こうも同じこと。
スキルに振り回されているこちらより攻撃が上手い。手を出す暇が無かった。
ていうか前髪切れた。接近戦はまずい。
そしてチャチャブーの剣だが、「観察眼」Lv9では情報が読み取れないレベルのものらしい。
無骨なつくりの黒い剣だが、陽光に反射し、たまに紫色に輝くところを見ると……
「毒、かな?」
【うむ。正解じゃ。お主の手、ちょいと爛れておるぞ。】
「え……ほぅあ――――!」
む、紫色に腫れてる!?
痛いとは思ってたけど、こえぇ――――――!
どんなもの持たせてるんだよ神様!
【はよぅ勝負を決めて安静にせんと治療も出来んぞ。】
「が、頑張ります!」
スキルが一つで足りないのなら、さらに他のも発動するような状況にする!
ハルマサは手を翳し、叫んだ。
「風弾!」
手の先から魔力が噴出し、風となって牙を剥く。
「ピャ!?」
「風耐性」を得たことにより使えるようになったこの特技、とくとご覧あれ!
狙うのはチャチャブーではなく、その前の地面!
チャチャブーはバックステップして少し遠いけど問題なし!
ぶわ、と土ぼこりが巻き上がりチャチャブーの意識が僕から逸れた(らいいな)!
ハルマサは前方に向けてジャンプし、チャチャブーの真上で空を踏む。
行き先はもちろん、
(真下だぁー!)
「空中着地」「撹乱術」「突撃術」の3つが同時に発動。
この瞬間、ハルマサの敏捷はスキル補正により53540。
ぶっちゃけチャチャブーの意識が逸れていようがいまいが関係なかった。
「だりゃあああああああああ!」
真下に向け、拳を突き出す。
これなら攻撃の狙いをつけるために足を止めなくて良い!
突き出すのは無論左手である。
腐ったトマトみたいな右手だと、ぶつけた瞬間ぐちゃあってなりそう。
「突き」が発動。
拳を突き出す動作が洗練され、腕の肉が盛り上がる。
アホみたいな速度で突き込まれた拳にチャチャブーが反応できるはずも無く、チャチャブーは頭をカチ割られ、絶命した。
「ふぅ……強敵だった……」
毒による油汗がでている額を拭っていると、カロンちゃんが割りと感心した風に言葉を発した。
【ほぅ、カニ相手の時はワザとチンタラ動いとるのかと思ったが、やれば出来るではないか。】
「……そだね。」
ザザミ相手でも、スキルを発動できていれば速さで優位に立ていたかも知れない、とハルマサは思う。
もしかしたらリオレイアにだって速さで勝てるかも。
色々反省点はあるが、岩山に突入する前にスキルの有用性に気付けたのは大きい。
そのことはチャチャブーに感謝したいハルマサだった。
加えて、もう一つ感謝したい事があった。
チャチャブーのドロップは、何だか良く分からないつくりの小さな細工だったが(奇面族の秘宝らしい)、もう一つ、チャチャブーの使っていた剣が残っていたのだ。
(うわ、紫ッ!)
思いも寄らないところで武器ゲットである。
しかもその切れ味は先ほど体感したばかり。
これは使えるぜ! とばかりに飛び上がるハルマサであった。
その後、風で吹き飛ばしてしまった自身の小指を捜すことに結構な時間を使ったが、無事くっ付いてほっとするハルマサだった。
「じゃあね女神ちゃん。また後で呼ぶかも知れないけど。」
【ふ、良かろう。今日は他の呼び出しがあっても断ってやるわ!】
なんか束縛しているようで申し訳ないね。出来るだけ呼ばないつもりだったけど、積極的に呼んだ方がいいのかな。
いやしかし魔力が……!
「他の人からも呼び出しもあるの?」
【ふふん。我は人気なのじゃ。】
「分かる気がするなァ……。」
あの魔法の威力だと、頼りたくなるかも。
「女神ちゃんはみんなのアイドルなんだねぇ……」
【だと良いのじゃがの……そう言ぅてくれるのは貴様くらいよ……ふふ。】
何か暗いよカロンちゃん!
またの、と言って女神ちゃんはバビュンと帰っていった。
僕にはもったいない神様だね。
さて、手に入れた剣である。
近くで見たら黒いどころかほとんど紫で、うっかり触ったら毒に侵されそうなドギツイ色である。
大きさは鉈サイズ。
切れ味は、石を豆腐のように切れるくらい。
この上の段階はなんだろう。クシャルダオラを豆腐のように切れるくらい?
良く分からない。
まぁとにかく力もいれずに石を真っ二つに出来るこの片手剣(というには少し小さい)は僕の助けとなりそうだ。
盾も欲しいところだけど贅沢は言ってられないよね。
で、この剣があれば、ついに「暗殺」スタイルが完成するんじゃないかな。
背後にそっと忍び寄り……首を一閃!とか。
火竜に試してみよう。
ちなみに金貨は6枚出ました。ランポス革の袋に入れて……と。
よーし! やる気はMAX!
充実している!
やるぞぉおおおおおおおー!
ハルマサは、気炎を巻きつつ、「暗殺術」を発動して岩山へと突撃しようとして、その前に腹ごしらえをするため川べりへと向かうのだった。
<つづく>
毎度ステータスです。
今回はレベル9.5相当のチャチャブーを倒したので結構上がっています。
まぁ同レベルは格下扱いなんでそうでもないですが。
耐久力:2909 →2930
持久力:7562 →7609
魔力 :14698→15008
筋力 :4260 →4463
敏捷 :15519→15770
器用さ:23047→23381
精神力:13628→14171
経験値:2608→2928 あと2190
拳闘術Lv5 :118 →220 ……Level up!
身体制御Lv10:8392 →8425
突撃術Lv9 :3766 →3867
撹乱術Lv10 :6243 →6345
空中着地Lv10:6583 →6685
撤退術Lv9 :2877 →2929
神降ろしLv11:11827→12329
風操作Lv11 :16581→16892
魔力放出Lv11:15820→16130
戦術思考Lv9:4237 →4278
回避眼Lv9 :4247 →4250
観察眼Lv9 :2971 →3424
鷹の目Lv9 :3295 →3668
前回投稿分は割りと本気でスキルのことを忘れていました。
スキルないとそりゃあ死んじゃいそうになるよ。
手に入れたのは「奇剣チャチャブー」系の片手剣ではないです。
大きさは少し小さい感じで。