<56>
この体は、適当な動作、言葉を叫べば、ファンファーレがなったり警告音が鳴ったりと、何かしらアクションがある。
つまり、色々試してみるという楽しみがあるのだった。
今まで必殺技と呼べる特技は「溜め斬り」くらいだろうか。
これは硬い装甲を持ったクシャルダオラの防御を抜いたという実績もある、頼れる特技だ。
だが、これは武器の耐久値が著しく減る上に、素早く動く敵には当てるのが難しいという弱点がある。
溜め時間が要るしね。
さらに光るので「暗殺術」と併用できないという致命的弱点もある。
出来れば以前のような、「穏形術」+「天罰招来」のような敵からは攻撃されない状態で攻撃できるというのが望ましい。
あ、でもコソコソしてるのって必殺技っぽくないなぁ。
こう追い詰められた時に光る何かが欲しいよね。
光ったら困るんだけど。
という訳で、まずは威力を求めてみよう。
当てれるかどうかは二の次で良いや。
「む……。半径500メートルに飛竜なーし。」
ということで準備も万端!
目の前のやたら大きい岩に相対した僕は、ざ、と足元の腐葉土を足で掻き、足場固める。
なんか渦を巻いているような大きな岩だ。
誰か螺旋丸でも打ち込んだのだろうか。
(ってそうだ――――――! 「螺旋丸」! これしかない!)
チャクラ的なものを回転させて撃つ!
出来る! 器用さが半端じゃない僕ならできる!
「ぬぅうおおおおおお!」
でもチャクラとか全く分からないので、手の平から魔力を噴出させて、クルクルとまわし始める。
「ってできるか―――!」
ゴメン。超むずい。無理。
一方向には廻せるよ?
魔力で銀河的な形を描けるよ?
でもそこから無理。
斜めにするとか。
マリカにのめりこんだ時みたいに体が傾いちゃうよ。カーブで曲がるときみたいに。
戦ってる最中にこんなこと出来るんだからあのラーメンボーイ、ハンパネェッス。
あ、でも風の通り道をこういう風に作って回転させたら……
結構魔力使うけど……いける!
「ぬぅうううううう!」
片手で風をフワフワ送りながら唸ること数十秒。
「でけた!」
でけたとか言っちゃったけど、出来たよ!
右手の上で縦横無尽に回転し球を形作る風の檻。
ヒョウヒョウ言うとりますでこやつ。フフフ。
おまけにトンでもねぇ圧縮度だぜぇ!
一万越えの器用さと「風操作」Lv10は伊達じゃなかった!
この技、結構難しいのかこの状態を維持しているだけで、結構な勢いで熟練度が上がり、魔力が減って行って……
って減りすぎ減りすぎ!
あ。やばい、止め方わかんないよ!?
あああああ、今開放したら僕ズタズタになっちゃう!
なんかシュイーン! とか言って回転してるしッ!
ああ、魔力がもう半分に!? カロンちゃんに頼ろうか!?
いや、魔力は極力大事にしないと!
前回の死因だし!
ここは……目の前の岩に叩きつけるッ!
「だらっしゃぁああああああい!」
あ、何か特技が発動したっぽい。
押しつける瞬間、風の回転が一気に高まり、青く発光して―――――
メキャゴリュッ!
「ギィイイイイイッ!」
「ええ!?」
岩が盛大に抉れて、四方八方に罅割れが走る。
そんな強い勢いで押し付けたわけでもないのに凄い威力だ……と驚く前に、岩が鳴いてかなりビビッちゃったよ!
いや、これは岩じゃない……!
(ダイミョウザザミだ――――――!)
なんて分かりづらい岩を背負っているんだい君は!
貝を背負ってよ! それか骨!
ていうか君、森丘生息域じゃないでしょ!?
たしか砂漠でしょ!?
なんでトラップみたいにココに居るの!? ずるい!
慌てるハルマサをよそに、地面を掘り返して、脚がにょきにょきと出てくる。
泥がこびり付いた岩のように見えた、赤茶けたハサミを顔の前からぐわ、と振り上げ、奴は鳴いた。
「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「あギャッ!」
耳がぁ、ミミガー!
そういえば至近距離で鳴かれたのって初めてザンス。
バインドボイスじゃなくても痛いよこれぇ!
中ボス級ともなれば、相変わらず大きい。
13メートルだってさ。
ハハハ!……死ぬぅ! 死んでしまう!
しかもレベル12相当だよこの人!
か、勝てるか――――――!
「ひ、必殺ゥ……「暗殺術」ッ!」
逃走用必殺技、「暗殺術」を発動する。
逃げるが勝ちだぜ!
と逃げようとしたところで、ダイミョウザザミは水を吹いてきた。
「ギョワァ!」
ブッシャアアアアアアアア!
回避眼に映るのは、放射状に広がる水の激流。
範囲攻撃か――――!
そりゃ、相手が消えたらつい範囲攻撃かましちゃうよね!
って攻撃早くて避けれな……!
「か、カロンちゃんバリア――――!」
【我はバリアでは……ぬおあッ!】
突然呼び出されたのにカロンちゃんは、ちゃんとバリアーを張ってくれました。
激流に容易く吹き飛ばされながらも、バリアーに守られたハルマサは体勢を立て直そうとする。
ちょ、どんな密度だよこの水ゥ!
即座に「水操作」でたよ!?
「暗殺術」もチャラチャラ言いながら熟練度が上がっている。
と、思いきや直ぐに攻撃は止み、ふぅと一息つく間もなく、ダイミョウザザミの死の鎌がバリアーの上からハルマサを地面へとめり込ませる。
そういえばぼんやり緑に光ってるから丸分かりですよね。
ていうか攻撃と攻撃のつなぎが短すぎるんですけど。
叩きつけた後、さらに爪での連撃が襲ってくる。
頭上に掲げた腕への衝撃は緩和されているはずなのに、かなり重い。
ハルマサの膝はクレータみたく抉れている穴のそこへととっくに着いている。
ぱ、パワーあるッスねザザミさん。
【む、不味い。「守りの壁」が割れるぞ。】
(えぇえええええええ!?)
【いや、もっと強固に張りたいところなんじゃが、なに分お主の魔力が少のぅての。】
(ご、ごめんなさーい!)
僕のせいかー! やっぱりね―――!
こうなったら、あのドドブランゴ戦の手しかない!
「天罰招らぁい! 雷こーいッ!」
【デート中だといっとろうが、あああ!? 姉さん!?】
【ハスタァ、お主……】
あんたまだデートしてたのかよ! カロンちゃんにばれてしまったのは自業自得だよ!?
後で怒らないでくださぁい!
ハスタァの墓穴はどうでもいいとして、ダイミョウザザミの速度は実はそれほど早くない。
レベルダウンした僕でも捕らえられるほどである。
死んでなかったら僕の方が早かったかも。カニ系は総じて遅いのかも知れないね。
イャンガルルガやナルガクルガみたいに影しか見えないような速度じゃない。
これなら、痺れてくれれば対応できる!
「一番最初の、あの弱いのでいいから!」
【む? あのカスみたいな雷でいいのか?】
「そ……そうそれ!」
あれで死に掛けた僕の立つ瀬がないけど、カスみたいなあの雷だよ!
でっかいの撃たれたら僕の魔力なくなっちゃうからね!
【よかろぉおおおお! 天罰てきめぇんッ!】
バチィ!
結果的にカニは痺れました。
0.0001秒くらい。
落ちた瞬間何事もなく殴ってきたよ。
ピンボールみたいに吹っ飛ばされましたぁ―――!
しかも飛んでいる最中に追いついてきて、地面にめり込ませてくれるおまけ付き。
ドラゴンボールか! 全く容赦ねぇぜ!
「ぜ、全然使えねぇ――――――!」
【だからカスみたいだと言っておろうが。】
【ハルマサ。あと2秒で限界じゃ。】
カロンちゃんがわりと絶望的な事実を伝えてくる。
まわりこんなに緑がふっさふさなのに……ってああ!? 死の森に!
僅か数秒の間に枯葉剤をばら撒かれたみたいになった森で、ハルマサは考える!
あと2秒だってよ――――――!
もう死ぬよ!
いや、待てよ!
ハスタァの雷でダメなら、もうちょっと強い雷なら……!
バリアーがビシビシと罅割れ、カニの一撃が頭に届く瞬間!
ハルマサはイメージする。
自分の手から、放出される雷をッ!
「―――雷弾ッ!」
バリィ!
瞬間的に迸る直径1メートルほどの雷の奔流。
特技「炎弾」の雷バージョンだ。
ダンジョン入り口で遊んでいた時に発見したものである。
他に水や風なんかがあった。土は試してないけど、ありそうだね。
まぁそれはいいとして、ハルマサの貴重な魔力500ポイントを食って生まれた太い雷によって、ダイミョウザザミの鋏の動きが一瞬止まったッ!
「――――――ッ!」
ハルマサはその場を緊急離脱する。
爆発的な踏み切り。
よし、上手いことに蹴った穴から土埃が舞って……上手いことじゃなかった――――――!
土が動きの後を追って、居場所がばれてしまう!
(「風操作」ぁ! 渦巻け!)
くん、と指を上げる動作と共に、ごぉ! と巻き上がる土と枯れ葉。
完全に相手はこちらを見失ったと確信した僕は、このまま逃走しようと走り出そうとして……ウロウロとこちらを探すダイミョウザザミの背中の殻を見た。
その岩は、ハルマサの螺旋丸もどきによって大きく抉れ、今もボロボロと剥離していた。
しかも……
(見える! はっきりと見えるぞ! 壊れやすい点が!)
「解体術」スキルが発揮されていた。
ハルマサは逃げるのを止めて、す、と近づく。
(これなら、「突き」で……いや、「手刀斬」って言う特技もあるの? これだ!)
切断属性、たしか殻を壊すのには有効だったはず!
ちょっと岩に手を突っ込むの怖いけどね!
【ハルマサ、何を……? さっさと逃げんのか?】
(いや、できることをやったほうが後々楽になると思ってね!)
【……ふむ?】
だ、と駆け寄るハルマサ。
だが、彼の接近は、ブルファンゴにすらばれた事をハルマサは忘れていた。
ダイミョウザザミは、背後の気配を、眼に頼らず、しっかりと感じ取ったのだ。
腕を突きこもうとする瞬間、「空間把握」で察知した、風を巻き込むバックブロー。
(ちょ、間にあわな――――――)
高速で旋回したダイミョウザザミの爪は、ハルマサを殴り飛ばし、大岩に叩きつけた。
<つづく>
レベル:9
耐久力:2047
持久力:2946 →5050
魔力 :9275 →10310
筋力 :4193 →4200
敏捷 :15325→15347
器用さ:14263→17646
精神力:8510 →9869
経験値:2559 あと2559
解体術Lv4 :4 →121 ……Level up!
身体制御Lv10:6907 →7632
暗殺術Lv9 :633 →2733 ……Level up!
突撃術Lv8 :3752→3766
撹乱術Lv10 :6168 →6179
撤退術Lv9 :2844→2852
天罰招来Lv9:2416→2533 ……Level up!
神降ろしLv10:7211 →8361
水操作Lv6 :0 →325 ……New! Level up!
風操作Lv11 :9790 →12006 ……Level up!
魔力放出Lv11:10519→11437
戦術思考Lv9:3736 →3945
観察眼Lv7 :817 →1220
聞き耳Lv6 :274 →549
空間把握Lv9 :2438→2789 ……Level up!
◆「雷弾」
魔力を変質させ、低級の電圧の雷として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超雷弾」などがある。
◆「風球」
魔力を用いて風を球状に圧縮循環させたものをぶつけることで衝撃を与える。球に内包する風の密度により威力は変化。一定以上の密度より、切断属性が付与される。
■「水操作」
水を制御する技術。魔力を用いて、外界の水を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。
<あとがき>
岩に擬態するのはバサルモスだろうが――――――!(挨拶)
と、思うでしょうがこのssではそんなことはあったり無かったり。
というかカニとの戦いが書きたい気分だったので。
突然ピンチに陥るハルマサ君は健在ですな。
調子に乗ってる彼は死ねばいい。
風球とか解体術とか、名前変えただけじゃねぇか、っていうのはご尤もです。
でも安直だからと言えど、名前を変えないよりはいい! と思ったり思わなかったり。
この作品の1割はパクリで出来ているんだ。
残りが勢いで、誤差みたいなところに作者の想いがあったり無かったり。無いかも。
螺旋と名前につけないのは、「球」という定義自体に、ある点から一定の距離を三次元かつランダムに動く点の軌跡の集合体、的な意味が含まれているからです。含まれてるといいなぁ。
解体術は、解体屋から。直死の魔眼でもいいけど。
あと前回と同じような感じで切れているのは、偶然です。ホントダヨ!
明日も更新!
>通り縋さん
ありがとうです。
他にも誤字脱字たくさんあると思います。申し訳ないです!