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ニク……
美味しく食べたいです。
彼の胴体サイズという意外と大きい生肉を前に唸るハルマサ。
新しい戦術とかはうっちゃって、とりあえず背中と引っ付きそうなお腹の心配が先に来るハルマサなのだった。
ブタに近いってことは寄生虫とか凄く心配なんだけど……
やはり生しかないか……と諦めかけたその時、彼の頭に電撃走る!
(干し肉! 干し肉が有るじゃないか!)
作り方知らんけどな!
と一人ツッコミしつつ、これは行けるのではないかと思い始めるハルマサ。
こう、風をヒュウヒュウ吹き付ければ!
乾燥して旨みが凝縮されたりしないかなッ!
日光にも晒せば消毒もされそうだーッ!
あ、でも薄く裂いた方が乾くのも早いよね。
僕って頭良い、などと思いながら、ハルマサは薄く削いだ肉を枝に突き刺してダルンと吊るし、光が当たるように枝や葉っぱなどを毟りまくる。
なにかの精霊の怒りを買って「神降ろし」スキルが低下したが、そんなことでは彼は止まらない。
林の中にぽっかりと日の当たる場所を生み出した彼は、むん、と魔力を操作する。
(いよおし、準備は満タン! じゃ無くて万端だ! 「風操作」ぁああああああ!)
手で巻き起こした風を魔力で操り、一点に集約させる。
ヒュボォオオオオ!
大型扇風機の如き猛風を吹き付けると変化は劇的であった。
おおお、凄い勢いで肉の色が変わっていくね。
ピンク色からくすんだ色に!
これはいける!
残りも全部やっちゃうぜ!
風は循環させて、と。
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!≫
あ、なんかスキルでた。
もう多すぎて把握できてないんだけど、今度は何?
≪一定時間以内に一定量以上の対象を解体したことにより、スキル「解体術」を習得しました。習得に伴い、器用さにボーナスが発生します。≫
イェア!
「解体術」ゲット!
おお、肉の部位とその境界が、はっきりと分かるよ!
これで筋を痛めない最高の捌き方が出来る!
まぁ乾燥肉だから関係ないかもしれないけど。
将来食肉店で働けるかも!
あ、将来はどうなるか分からないんだった。
ふ、しかしこの肉の削げやすい面が見えるということはアレが出来る!
「フォ――――――ク!」
実は美食家トリコに憧れてて。
あとホントどうでも良いけどフォークじゃなくてナイフでした。
まぁ叫んだ言葉は特に関係なく、鋭角に切り込んだ手刀によって肉はテュルンと剥けた。
その薄さ、実に数ミリ。
ふわりと風に舞う薄さ。
向こう側が透けて見える薄切りだった。
(き、気持ち良い……!)
ハルマサは新スキルの力を確信する。
これは、良いものだ!
「ナイフ! ナーイフ! ナイーフ!」
テュルンテュルン剥いていたハルマサだが、気付けば、
「あれ、肉は?」
干していたはずの肉が千切れてどっか行っていました。
風が強かったのだろうか。
循環させていた範囲に肉は見えない。
枝にチョビッと残っていた肉片が何とも物悲しかった。
「肉……」
な、泣いちゃダメだ! 君はもう高校3年生なんだぞハルマサぁ!
後、精神力も高いじゃないか、耐えれる! 耐えれるんだ!
まぁ精神力が高いお陰かあっさりと泣きたい衝動は我慢できたが、ハルマサは今度は執拗に肉を固定し始める。
(一度犯した愚は二度と……肉よぉ! 乾けぇ―――――!)
という訳で殺菌できたかは甚だ疑問だが、とりあえずは乾燥した肉を口に出来て、満足したハルマサだった。
この一連の動作で実は新しい特技「手刀斬」が発動していたりとか、食べ終わった後で「風操作」で煙をどうにかすればよかったと気付いたとかは丸っきり余談である。
(「聞き耳」……発動!)
まぁ常時発動しているんだけど、やや集中を高めるという意味でね!
辺りを探ると、意外と小型のモンスターは多いようだった。
小型とは言えどハルマサ並には大きいのだが。
リオレイア、リオレウスは岩山の周辺に高密度で居り、後は時折飛来しては小型のモンスターを捕食したり生け捕りにしたりしていた。
生け捕りは巣に持ち帰っているのだろう。
もしかしたら幼竜が居るのかもしれない。
(まぁだからってどうとも出来ないんだけど。)
実は幼竜が弱いくせにレベル高くて経験値稼ぎ放題とかだったらいいが、そんなことはあるまい。
親竜に現場を見つかってその場でこんがり肉になる方が余程想像しやすい。
というか「観察眼」で見えているのはあくまで対象の強さは、~レベル相当、ということである。
ハルマサの基準に直して読み取ってくれているのだ。有難いことである。
という訳で、弱いモンスターを倒して経験値稼ぎ放題、とかは元々無理な話である。
つまり「観察眼」で情報が読み取れるのは対象のモンスターの強さの四分の一くらいには熟練したと気である、と言い換えることも出来るだろう。
この程度のことに気付けるくらいにはハルマサも頭の使い方が分かってきたということかも知れないのだった。
現在はエネルギーの補充も終えて、場所を移動している。
出来れば、飛竜に近づきたい。
そして、「暗殺術」の熟練を!
格上相手に、どのような戦術をとるにしても「暗殺術」の発動はほぼ必須となる。
よって近づいてこっそり発動、「暗殺術」の熟練が鰻上り!
とか狙いたい。
隙有らばそのままサックリやっちゃうぜぇ……!
と、少し黒いところも見せつつ、僕は岩山へと向かっているのである。
まぁ一撃で絶命させないと見つかってフルボッコになると思うけど……
ん? その一撃で決める技を先に練習すべきだろうか?
必殺技となるような……!
しかし必殺技。チート的になんて響きの良い言葉だろう。
ああ、もう「暗殺術」とかあとあと。
必殺技あったら生き残る確率も上がるでしょ。多分。
とにかく。
(今は、必殺技だぁ――――――!)
ハルマサはむん、と気合を入れつつ、練習に適した場所を探してうろつくのだった。
<つづく>
◆「手刀斬」
刀を模した手で攻撃し、対象の体に強力な斬撃を与える。切断属性。
■「解体術」
物品を解体する技術。対象を解体しやすい部分が分かる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は存在の繋がりすらも断つ。
拳闘術Lv3:57→58
解体術Lv1:0 →4 ……New!
筋力 :4192 →4193
器用さ:14259→14263