<21>
「はぁ…はぁ……」
息が途切れ、体の動きは鈍い。
その背には大きな爪あとが傷を開いており、ハルマサはすでに青息吐息である。
血が出すぎた。
耐久力はほぼ限界である。
持久力はもう無い。
だが、敵も残るは一体のみ。
ビーナスオブキャットで何度も切りつけたので、痺れまくって動きは遅い。
本当にビーナスには助けられている。
敵と僕。
弱り具合では同等。
二人は同時に地を蹴った。
「ギャァアアアアアスッ!」
「だぁああああああ!」
ランポスとハルマサは、二人の中間点、とは言わず、かなりハルマサよりの位置で衝突。
二つの影はもつれ、ランポスの勢いそのままに、転がっていく。
決着は付いた。
上になっているのはランポスではあるが、その背からは大剣が突き出していた。
「ぐ、はぁあああ……」
ランポスの死体を押しのけハルマサは顔を出す。
≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を取得しました。≫
し、しんどい……。
思わずその場に座り込む。
とにかく止血が必要だと、密林から持ってきていた薬草をポーチから出し、背中に刷り込む。
器用さが体の柔らかさも上げているのか、そこまで窮屈な作業ではなかった。
とは言え、それで最後の気力も振り絞ってしまい、草の上に倒れた。
(はは……ちょっと疲れたよ…。少し休もう。)
死亡フラグっぽいセリフを思い浮かべつつ、ハルマサは意識を落とすのだった。
――――――のしっ。
振動を腹に感じて、ハルマサは目を覚ました。
ハルマサの上に何かが、のっているのを感じる。
(重いな……何が……ってえぇええええええええええええ!?)
大きな足だった。
爪は凶悪に曲がり、指は4本に分かれている。
色は青。
トカゲのような体は「観察」すれば実に9m30cm!
長いアギトと頭には立派な赤いトサカ。
十中八九でドスランポス。さっき死ぬほど頑張って倒したモンスターの上位種だった。
「観察」すると≪レベル5習得しなさい≫と弾かれた。
ならば強いのだ。
少なくとも、イャンクックをぶっ飛ばしたドスファンゴと同じくらいには。
(ひ、ひぃいいいいいいいいい!)
仰向けに寝る僕。
その腹に足を乗せ、辺りをキョロキョロ見渡すオオトカゲ。
このまま、内臓を食いちぎりながら食べられる想像がありありと浮かぶ構図である。
ああ、閻魔様。今そちらに行きますんで、などと涙を零すハルマサだったが、いつまで経っても噛み付かれない。
それどころか足もどけられた。
(……?)
まさか、アイルーのように話が通じるとか!?などと妄想が頭をよぎるが、次の瞬間間違いだと分かった。
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 「穏行術」の熟練度が143.0を越えました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫
(あ、穏行スキルか…………143!? ええッ!?)
「穏行術」が発動していたのだ。
僕の体も、ある程度なら攻撃と認識しないような耐久力もあるから、踏まれても「穏行」し続けていたんだろう。
筋肉とか意識して力を抜かないとカッチカチだから地面の一部と間違われていたんじゃないかな。
ランポスはハルマサのことなんか目に入らないように、辺りをキョロキョロと見回している。
何かを探して歩き回っている様子だが、その中心に有るのは、ランポスたちのドロップ品。金貨や皮や鱗など。
自分の配下?を殺したものを探しているのだろうか。
よく見つからなかったものだ。
「穏行術」は敵と近づかなければ発動しなかったはずだ。
効果が出る前にボロクソにやられてゲームオーバーになるのが道理だと思える。
もしかして効果範囲が広がったとか?
とにかく、こんな満身創痍で立ち向かえるはずも無い。
このままに横になっておくのが正しいだろう。
だが、「穏行術」は肌の色が変わるだけなのではなかっただろうか。
白い服は緑色の草原に溶け込むとはいえない。
すぐ分かってしまうだろうに。
そう思い、自分の格好を見てみると、地面が透けて見えた。
(僕の服までカメレオンになってる!)
正しくは透けて見えるようにスキルが迷彩を施しているみたいだった。
そんな服をどうなって居るのかとまじまじと見ていると「観察眼」が発動。
≪「穏行術」Lv4のスキルが発動しています。≫
とのこと。
何時の間に、こんな使えるスキルになったんだい!?
いや、クック先生の時は気付かなかっただけかもしれないけど!
あ、またファンファーレ。
またファンファーレだ。
またまたファンファーレだ。
またまたまた……
すごい上がってるなぁ……って近! ドスランポス近! 顔の横を大きい脚が! ところでその爪おっきいですね!
どうやらドスランポスとの距離で熟練度の上がり具合が違うらしい。
今頭の上に脚があるんだけど、熟練度が唸るように上がっている。
ガスメーターの数字のところが高速で回転してる感じ。
さっき踏まれてた時もすごかったんだろうな……。
≪チャラ(中略)ーン♪「穏行術」のスキルが150.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫
というわけでレベルアップです。
イヤッフー! レベル5だぜー!
カメレオン能力がパワーアップというか、何だか服ごと体が透けてる。
なんというステルス。でもこのスキルって動いたら体見えちゃうから、待ち伏せにしか使えないよね……
いや、上位スキルに「暗殺術」があるのか。もしやこれを習得したら恐ろしいことになるんじゃ……!
ともあれ。
やっぱりスキルは凄い!
僕の原点はスキルによるチートだったんだ!
忘れるところだったよ。
よし、この機会だ、穏行だけではもったいない! 色々上げていこう!
「観察眼」「聞き耳」に……あれ?それだけしか使えない?
むぅぅ、この際だ! 目、耳ときたから鼻もいけるはず!
匂いをたくさん嗅ぐんだ!
なんか犬的なスキルが出るはず!
そうと決まれば、早速!
スゥウウウウウウ……!
ウホォ! くッサァ! 獣くさぁ! ドスランポス超くせぇ!
しかし我慢だ!
スゥウウウウウウウウウ……!
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫
(計算通りぃいいいいい!ほるぅあ(巻き舌気味に)!キタでしょコレ!)
≪一定レベル以上の臭気を一定量以上体内に取り込んだことにより、特性「臭気排除」を取得しました。あなたの周りは臭いものでいっぱいです。臭いものには蓋、なんていってられない! 消してしまいたい! そんなあなたにこの特性を送ります。良い匂いになれよー!≫
(あれ!? 予定と違う!? こんなネタ的なのじゃなくて! そしてこのナレーション、テンション高いな!)
□「臭気排除」
周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。
波動って何? 僕は一体どうなったの!?
いや、まぁいいか!
臭くなくなってさらに気付かれにくくなったみたいだし!
次は、どうしよう! 呼吸でも止めてみようか!
その時、僕の横に放り出してあったビーナスにドスランポスの魔の手が!
――――――ガジガジ!
ああ、やめろぉ!
僕のビーナスに噛み付くなよぉ!(半泣き)
ク、くそう、ドスアギノスめ! 僕が手出しできないのをいいことに!
なんか! なんかあいつに天罰こーい!
【いぃいいだろぉオオオオオ!】
(なんか頭に野太い声が!?)
【おぬしの願い、聞き届けたりぃいいい!】
ピシャァアアアアアアアン! バチバチバチッ!
(ええええええええ!? 雷!?)
≪天に祈りを捧げたことにより、スキル「天罰招来」Lv1を習得しました。また、スキルの発動に成功しました。「天罰招来」の熟練度が20.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い魔力にボーナスが――――――
「ギシャァアアアアアアアア!」
ああ!? 怒ってる! 雷的な何かを食らった、ドスアギノスが怒ってるよ!
そして。
≪チャラ(中略)チャーン♪≪チャラチャ(中略)ャーン♪ ≪チャラ(中略)ーン♪ ≪チャラチャ(中略)ャーン♪「穏行術」の熟練度が200.0を――――――
(さっきから上がりすぎだよね。)
まぁいいんだけど。
その後『天罰! 天罰ぅ!』と百回くらい願っていたら、2、3回雷が落ちて、ドスランポスはビビッて帰りました。
得たものは多く、とても有意義な時間を過ごせたと思いました。
<つづく>
ハルマサのステ
レベル5
耐久力:116→172
持久力:169→214
魔力 :16 →78
筋力 :178→253
敏捷 :287→392
器用さ:111→126
精神力:152→367
経験値:258 あと60
新しい特性
臭気排除
スキル
拳闘術Lv3 : 42 → 62 ……Level up!
両手剣術Lv4: 28 → 83 ……Level up!
姿勢制御Lv4: 83 → 114 ……Level up!
穏行術Lv5 : 60 → 232 ……Level up!
突進術Lv4 : 72 → 115
撹乱術Lv4 : 97 → 126
跳躍術Lv4 : 78 → 104
撤退術Lv4 : 85 → 113
防御術Lv4 : 46 → 87 ……Level up!
天罰招来Lv3: 0 → 62 ……New! Level up!
戦術思考Lv3: 46 → 67
回避眼Lv5 : 102 → 151 ……Level up!
観察眼Lv5 : 74 → 161 ……Level up!
聞き耳Lv5 : 88 → 187 ……Level up!
的中術Lv4 : 41 → 72 ……Level up!
空間把握Lv4: 55 → 84 ……Level up!
□「臭気排除」
周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。
■「天罰招来」
天に願い罰を落とす技術。天に願うことで、確率で対象に厄災が降りかかる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が上昇。熟練者は自在に天罰を呼び出す。
<22>
「あの木に天罰を!」
【ことわるぅうううう!】
「ちょ、そんなこと言わずに! あの木に天罰を!」
【…………。】
「あれ? 聞こえてない? あのぉー! あの木に天罰を落としてくれませんかー?」
【いやじゃぁあああああああ!】
「ク、じゃああの岩に!」
【ことわるぅうううううう!】
「チキショー! それじゃあなんだったらいいの!? 僕!?」
【いよぉおおし! いぃいいだろ―――――
「あ、ウソウソウソウソ!」
【おぬしの願い聞き届けたりぃいいいいいいい!】
「嘘って言ってるのにぃいいいい!」
ピシャァアアアアアアアン! バチバチバチ!
≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました。「天罰招来」の熟練度が70.0を越えました。レベルが上がりました。また、熟練度が82.0を越えました。熟練に伴い、魔力にボーナスが付きます。≫
「………かふッ。」
す、凄い威力だ……。
魔力は10しか減ってないのに、寝て結構回復していた耐久力(150/172)が一瞬でレッドゾーン(2/172)に突入だよ……。
ドスランポスはこれを3発も……。やはり強さが違うな……。
ていうか死ななくてよかった……。死んでも全然おかしくなかった……!
耐久力2とか、今だから言うけどほんの誤差だよ。
僕、よく生き抜いて来たなァ。
僕は口から煙を吐きつつ、倒れ付す。
折角作ってもらった服も、ケバケバになってしまった。ごめんねネコさん。
僕はさっき手に入れたスキルを試していた。
木への天罰を30回連続で願ってもだめだったけど、何故か僕には初回で天罰。
確率がランダムすぎるよ……。
でもこれは……使える!
「穏行術」と合わせたら最強じゃないか!
さっきドスランポスが離れていったんだけど、その時、奴がかなり遠くに行くまで「穏行術」は発動し続けていたんだ。
だから、なんかモンスターを呼びつけるスキルさえ覚えたら、モンスターがこっちにやってくる頃には僕の姿は既になく、何処からか雷が落ちまくる!
もうスキルレベル上げ放題じゃない?
でもその前に。
僕は、まだ一度の発動したことの無いスキルのことを思い出していた。
それは「祈り」スキル。神や精霊に祈りを捧げることでいろんな恩恵を得られる、だったかな?
レベルダウンで消えちゃってるけど。
今回と同じように、天に「雨を降らせて」と願った時に手に入れたスキルだった。
なんか罵詈雑言が帰ってきて心が折れそうになった記憶があるんだよね。
だけど今考えたら、「天罰招来」と同じように魔術スキルなのかも。
だとしたら効果は期待できるよね。
という訳で、この今にも死んでしまいそうな状態を何とかしてもらうことにした。
(僕の体を癒してください!)
【いやじゃ!!!!!】
甲高い声が即答してきた。
(……? 小さい女の子の声……? 前はしゃがれた声だったのに。)
多分精霊の違いだろう、と考えてもう一度。
(僕の体を癒してください!)
【うるさいわ! 死ね!】
「……。」
ああ、まずい。心が折れそう。
雨の時よりも直接的な分余計に効くね。
しかし、僕の精神は大人36人分だぁー!
(僕の体を癒してよ!)
【ズウズウしいんじゃ! この、アホゥ!】
………。
ま、負けるかー!
(どうか僕の体を癒して!)
【お断りじゃ! 消え失せろ! この汚らしい下郎めッ!】
…………下郎て。
もういいや。疲れちゃった。あー折れた折れた。心がぽっきり折れましたー。
寝よ寝よ。
モンスター来ても勝手に「穏行」するでしょ。多分。
僕は木の根のところにお尻を押し込んで三角座りで寝ることにした。
でも最後に。
(どうか僕を癒していただけませんか女神様。)
適当なことを言ってみる。
【め、女神だなどと……もう、しょうがない奴じゃのう! よかろう! 聞き届けた!】
なんか通じた――――――!
【癒しよ、あれッ!】
「おおお!?」
僕の体が輝く緑色の光に包まれて、傷が徐々に耐久力が回復する。
じんわりとした温かい熱が周りから流れこんでくるようだった。
これが生命力って奴か?
ついでに、何故か服も綺麗になっていく。
破れていたところとかが補修され、汚れも落ちる。
【服はサービスなのじゃ。エネルギーが余ったゆえにな。】
(いい人だ――――――!)
その時思い出したかのようにファンファーレが鳴った。
≪天に祈りを捧げたことにより、スキル「祈り」Lv1を習得しました。また、スキルの発動に成功しました。「祈り」の熟練度が80.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫
いきなり80も上がった――――――!?
凄いよ女神さん(仮)!
なんだろう、実はこの女の子って凄い人なのかな?
もしくは祈りを聞いてもらうのに凄く努力が必要だから、成功すると熟練度が凄いとか。
褒めただけですごく簡単にお願い聞いてくれたけど。
あ、回復し終わってる。
しっかり全快。
何処も痛くないっていいなぁ……。
ところで、消費魔力は……全部?
まぁ回復するならアリかな。
とまぁ時間はかかるし魔力はなくなるけど、回復っていいな。
怪我したらまたお願いしよう。
さ、他のスキルの練習を――――――
そう思い、立ち上がって気付いた。
「き、木が!」
僕が背を預けていた木は、みずみずしい葉を広範囲に広げていたはずだ。
そこそこに大きい木であり、僕が座り込んだのも、木陰が大きく日差しが避けられるからだった。
その木が、艶やかで会った照葉が、全部枯れていた。
辛うじてぶら下がっている、という風情の葉が今にも折れそうな朽ちた枝に鈴なりになっている。
少し強い風が吹いたら、この辺りは落ち葉だらけになるだろう。倒木も出現するかも知れない。
つい好奇心に負けて、僕は軽く小突いてみた。
コン――――――ズゥ……ン!
即座に倒れる木。
あたりは枯葉が乱舞している。
非常に申し訳ない気分になる。
何でこんなことになったか。
思い当たることなど一つしかない。
(恐ろしい効果だ……)
さっきの女神様(仮)は「癒し」と言っていたが、その実質はライフドレインなのだろう。
「エネルギーが余った」とは木から命を吸い過ぎたってことだったのか?
使いどころを間違えたら、隣を歩いているアイルーが干物かミイラになって居てもおかしくない。
改めて、「祈り」の強さを知る僕だった。
あと恐ろしさも。
<つづく>
<おまけ>
雨乞いをしようとした際、「祈り」スキルを習得したときのこと。
ハルマサは、敬虔なキリスト教徒が教会で祈るように、膝をつき両手をあわせて握り、天に向かって祈った。
「雨を降らせてください!」
返事は意外なことにすぐ帰ってきた。
高いしわがれ声で。
【あんじゃと!? 黙れダニが! 今すぐそのあさましい口を閉じんと、飛竜のべべを捻じ込むぞ! どだい、全く努力もせずにワシに頼もうなどと、虫が良いにも程があるわ! 貴様の頭の中身はどうなっとるんじゃ! 気分悪いわボケ! いっそ死ね! 死んでワシに詫びろこのド阿呆が! 二度と話しかけるな! 死ねッ!】
「…………………」
≪チャラチャラ(ry 天に祈りを捧げたことによりスキル「祈り」Lv1を――――――
ハルマサの心は一撃で折れたという。
<おまけ終わり>
ステータス
レベル:5
耐久力:172
持久力:214
魔力 :78 →98
筋力 :253
敏捷 :392
器用さ:126
精神力:367→447
経験値:258 あと60
スキル
天罰招来Lv4:62 →82 ……Level up!
祈りLv4 :0 →80 ……New! Level up!
■「祈り」
神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、確率で様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率上昇。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。
<あとがき>
「祈り」を何とかしてみた。
<23>
さて、さっきの「祈り」によって空っぽになった魔力だったが、しかしスタミナと同じくじんじわと回復しているようだ。
適当にゆっくり30数える間に1回復している、という戦闘中に回復しきる速度ではないが、連戦でもしない限りは「天罰招来」の使用は問題なさそうである。
ハルマサは先に進むことにした。
レベルが上がったことで「聞き耳」の範囲はさらに広がり、一キロ先で針が落ちた音も聞き取れるのではないかと言うほどだ。
自然と雑多な情報が頭の中で飛び交うが、混乱を避けるために今はとりあえずモンスターの気配のみを拾い上げている。
ていうかこの辺りランポスめっちゃいます。
あっちに3匹後ろに6匹、進行方向にはドスランポス率いる10匹くらいの群れがあるし、ランポス祭りですね。
無効が気付いていないのにこっちが位置を把握しているというのは、優越感がやばい!
今も、ホラ。左側からランポスが4匹くらいで移動してくる。
このまま行けば後いくらかもせずかち合うスピードで。
4匹だったら、強くなってる僕なら問題ない!
これは、待ち伏せしちゃうしかないね!
僕は、ランポスたちの進路上に素早く移動。
上手い具合に風下にいい感じの木があったので、その後ろに身を潜める。
ついでに、
(「溜め斬り」………!)
剣を持った手を肩に担ぎ上げ、体を捻り、力を込める。
「溜め」が始まる前に、「穏行術」が発動する。
すぅ、と透明になっていく僕の体。剣まで透ける。
ピシュン! と剣が光り、力が漲る。一段階目。ランポスはあと、3秒ほどでここにくる。
剣が光るのは見えるから、「穏行」との平行使用は無理そうだ。
ピシュン!
2段階目。剣が光を増し、腕の筋肉が膨張しだす。
ランポスは――――――もう来た!
「ギャア!」
(でりゃぁあああああ!)
地を蹴り飛び出しつつ、木に近い場所を通るランポスに向けて、打ち下ろす。
動けば、攻撃すれば、穏行は解ける。
突然姿を表した僕に驚くランポスを、斬る!
――――――斬! 続けて轟音!
剣はランポスの首を刈り取り、勢いのまま地面を叩く。
クルクルと回るランポスの首が落ちる先は陥没した地面。
デスペナを食らったときから比べて、筋力は倍ほどになっているためか、ダンジョンの入り口で試した時とほぼ同等のクレーターが出来上がる。
ぐらりと地面が揺れる。
はっきりとオーバーキルだ。やりすぎた!
反省しつつ他のランポスを見ると、なんかよろめいていた。
姿勢制御であまり感じなかったが、かなり揺れたらしい。
(ラ、ラッキー!)
というわけで、今がチャンス!
地面に埋まりかけているビーナスオブキャットを引き上げながら、一番後ろを進んでいたランポスに接近。
ビーナスで下から切り上げる。
「おおおおお、りゃ!」
ズパン! とランポスの首が飛ぶ。
首の後ろの鱗が血液と共に飛んで行く。
ビーナスって、実は結構名剣だ。
普通の剣ってどれくらい切れるのか知らないけど、ランポスの鱗を切断できるこのビーナスはかなりの切れ味だと思う。
さっき拾ったランポスの鱗ってかなり硬かったんだよ。
軽いくせに頑丈とか、夢のような素材だよね。
「空間把握」によって後ろからの襲撃を察知。
慌てず、横に跳んで避ける。
僕の方が君たちよりも素早くなったみたいだね!
しかも圧倒的に!
(ハルマサの敏捷は(元の数値)+(撹乱術Lv4の補正)+(撤退術Lv4の補正)=392+(392×0.4)+(392×0.2)≒627 ランポスは350くらい)
そこからは、まさにスーパーハルマサタイム。
小枝を振り回すかの如く軽々とビーナスオブキャットを操り、ランポスたちに襲い掛かる。
襲い掛かってくるランポスに逆に詰め寄り、裁断。
鳴き声を上げようと―――仲間を呼ぼうとしたランポスも横薙ぎの一撃で吹き飛ばす。
そうして瞬く間に残り2体のランポスを屠ってしまう。
3匹目を倒したところでレベルアップが起こり、力が漲ったため最後のランポスは衝撃でエグイ姿になっていた。
≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を取得しました。レベルが上がりました。全ステータスにボーナスが付きます。≫
おお、おおおお! 力が! 力が(ry
とにかくパワーアップだ!
今回のレベルアップボーナスは、デスペナでマイナスされた分の80!
これは大きい。
戦闘ごとに強くなってしまって、ランポスの皆さんには申し訳なくなるね!
未だにモスの敏捷を越えられないのは悔しいけど、多分スキルを使えば勝てるよね!
モスなんかもう怖くないぞー!
………もしかして、あの異常に早いリポップが行われるモスのところって、経験値を稼ぐ絶好の場所なんじゃ……?
耐久力1だったし、出現した瞬間に殺し続ければ、最初の頃でもかなり早くレベルが上がるじゃないか!
今なら勝てるけど……戻るの面倒だし、いいや!
僕は常に前へと進む! なんてね!
……ん?
ウキウキとしていたハルマサだが、彼は自分の着ている服が、今の戦闘でかなりお汚れてしまったことに気付いた。
特性「臭気排除」のおかげでニオイこそしないが、女神様(仮)に綺麗にしてもらった服が汚れたままになるのは申し訳ない、と思うハルマサである。
早速聞き耳で水場の場所を探る。
この森丘フィールドは意外と水場が多いらしい。
あっちからもこちからも水の音が聞こえる。
池などもあるようだ。
モンスターの気配も探り……今度は寝ている奴の呼吸すら拾う勢いで集中。
安全そうな水辺を見つけ出した。
レベルが上がったことで魔力も増加したし、ちょうどいい。
身奇麗にすると同時に魔法の練習でもしよう!
思い立ったらあとは常人の数十倍の体力を持つハルマサである。
ぴゅッと走れば、すぐに目的地へとたどり着くのだった。
<つづく>
Level up!
レベル:5 →6
耐久力:172→252
持久力:214→302
魔力 :78 →158
筋力 :253→337
敏捷 :392→479
器用さ:126→207
精神力:367→453
経験値:328 あと310
両手剣術Lv4:83 →87
姿勢制御Lv4:114→117
穏行術Lv4 :232→234
突進術Lv4 :115→119
撹乱術Lv4 :126→130
跳躍術Lv4 :104→105
走破術Lv2 :21 →26
撤退術Lv4 :113→114
戦術思考Lv3:67 →69
聞き耳Lv5 :187→190
的中術Lv4 :72 →77
空間把握Lv4:84 →86
<24>
ジャバジャバ。
僕はインナーのみになって、ネコさん作の服を水につけてジャブジャブやっていた。
「アイ○ァナビィヨアジェン○ゥマァ~ン♪ 上手く○ぎれ、てぇ~♪」
大声で歌いながらの洗濯である。
別に静か過ぎて寂しいわけじゃないよ!
ここはまわりを木に囲まれた池である。
太陽が水面に反射して少しまぶしい。
清涼な空気が気持ち良かった。
手元では水につけて擦り合わせているだけで、汚れが落ちていく服がある。
血液って落ちにくい汚れのはずなのだが、Lv1とは言え洗浄術スキルをもつハルマサにかかればこんなもんである。
このスキルを上げれば、いずれデコピンで染み抜きが出来るようになるかも。
『ふん! 染み抜きデコピン!』『スパァーン!』『まぁ! 生地から醤油の汚れが吹き飛んでいったわ!』
なんちゃって。
ちょっと妄想してしまうハルマサであった。
「~♪ スット○ンジカメレオ~ン♪ よーし終わり!」
テンションが上がってきたのでしっかり一曲歌いきってから、服をパン、と広げる。
水滴がその一発でほとんど生地から吹き飛んでいく。
なんて便利なスキルなんだ「洗浄術」。ちなみにLv2になっている。
まぁ洗い通しだったしね。
この服、丈夫な分だけ洗いにくいようで時間だけはかかったのだ。
洗っている間中歌い通して、非常に気分が晴れたのは内緒だ。
その時ファンファーレ、ビヴァルディの「春」が鳴った。
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫
お? また「洗浄術」かな?
≪一定以上の声量で、一定範囲内に同種の生物がいない状態で一定時間以上歌い続けたことにより、特性「寂寞(セキバク)の歌声」を取得しました。あなたの境遇は寂しくて、思わず同情して泣いちゃいそう! そんなあなたにこの特性を送ります――――――
「そっち!? 歌の方なの!? しかも同情とか余計なお世話だよ!」
―――友達作れよー!≫
「うるさいよッ!」
まさかの歌関連であった。しかもまたネタ系特性。調子に乗って歌ったことをなんとなく後悔するハルマサである。
□「寂寞の歌声」
寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。
「また無駄な特性を手に入れてしまった……」
ネタ系特性はほんとに苛立たせてくれるな!
友達なんか、友達なんか……一人もおらんわ! 悪かったなぁ!
ハルマサは無駄に精神的なダメージを負いつつ、服を木に干す。
ここは太陽の光も豊富で、すぐに乾くだろう。
「さて、と。次は……お待ちかねの魔法だぜ!」
テンションを上げるハルマサ。
重ねて言うけど、寂しいわけじゃないよ!?
ハルマサは腕を突き出しつつ叫ぶ。
「いでよ! ファイヤーボォオオオオオル!」
広げた手から炎は出ない。代わりに警告音が響いた。
≪ポーン! 特技「超炎弾」を使うには、レベルが1足りません。魔力が442足りません。器用さが393足りません。精神力が147足りません。特性「炎耐性」を取得する必要があります。スキル「魔法放出」Lv5を取得する必要があります。スキル「火操作」Lv7を習得する必要があります。規定のポーズをとる必要があります。≫
(ハードル高――――――い!)
魔法を侮っていた。
思った以上に魔法って厳しいんだね……。
魔力あったら出来るというのは大間違いなんだ……。
ステータスとかはいずれ何とかできるとしても、特性……もなんか適当にやるとして……ポーズ!
ポーズが分からない! 五里夢中すぎる!
あとスキルね! 魔法放出とか……出来たらやっとるわ!
だが、一つ気になる事がある。
それは「火操作」スキルの存在である。
(これは……「雨乞い」の時も足りないって言われた奴の同類だ……。)
火はちょっと火種が無いけど、風とか水なら!
まずは水から。目の前に池があるし。
僕は水に腕を突っ込んでぐるぐる回してみた。5分くらい。
何も起こらない。
水面をパシャパシャ叩いてみた。5分くらい。
やっぱり何も起こりません。
「崩拳」を突っ込んでみた。
体中に水を被ったが、それだけだ。
「何か起これぇえええええええ!」
ズパーン! とビーナスで水面に「溜め切り」三段階目を叩き付ける。
水が飛び散って干していた洗濯物がびちゃびちゃになった。
≪ポーン! 水の精霊の怒りを買いました。「祈り」の熟練度が下がりました。熟練度低下に伴い精神力にマイナスの修正がかかります。≫
「ええッ!?」
確かにちょっとやりすぎたけど、それだけで熟練度下げなくてもよくない!?
踏んだり蹴ったりだよ精霊さん!
ステータスを確認すると、熟練度は5も下がって75になっている。
もう、水いじりは止めとこうか!
なんか風やっても意味あるのか分からないよね……
まぁちょっとやって見るけども!
手のひらを振ってみた。
僕の今の敏捷力なら、風を巻き起こすことなんてわけないよ!
ブォオオオ!
ザワザワザワ……
木々が揺れた。でもそれだけだった。
(い、一回じゃ足りないのかも!)
ブゥン!ブゥン!
ザワザワ~。ザワザワ~。
≪チャラチ(中略)ャーン♪ 新鮮な空気を森に送り込んだことにより、木の精霊が歓喜しました。「祈り」の熟練度が80.0を越えました。熟練に伴い精神力にボーナスが発生します。≫
も、戻ったー! やったー!
って、嬉しくねぇエエエエエエエ!
「風操作」出ろよぉおおおぉおおおおお!
ハルマサは悔しさで地面を叩くのだった。
さて、ずっと同じ場所で、バチャバチャバサバサ音を出していると何が起こるでしょうか。
答え:モンスターが寄ってきます。
必死にやりすぎていたツケだろう。
地下から忍び寄る奴に気付かなかった。
地面にorzしてドンドン叩いていたハルマサに、地を割って飛び出してきたのは、見覚えのある突起。いや鋏(ハサミ)だ。
「ぐふッ!」
鋏はハルマサを殴りとばす。
一メートルは上空へ飛ばされるハルマサ。
「や、ヤオザミか!」
ショックを受けつつも体をコントロールして足から着地。一足飛びにその場から離れる。
地面を掘り返して現れたのは、果たしてヤオザミだった。
ギチギチギチギチ!
鋏を打ち鳴らすヤオザミの、攻撃力はやはり高い!
200以上あったハルマサの耐久力は一撃で50ほどになっている。
いや、土の中からの攻撃だったから、大分威力は削がれていたはずだ。
直撃を貰うと、非常にまずい。
とりあえず「観察眼」!
Lv5だから詳しいところまでばっちりです!
≪対象の情報を取得しました。
【ヤオザミ】:硬く厚い甲羅を持つ小型の甲殻種。足は遅く、不器用。ヤドに守られた部位に即死部位あり。弱点属性は雷、炎。
耐久力:133、持久力:202、魔力:100、筋力:435、敏捷:38、器用さ:2、精神力215≫
足遅かったのかー! まぁ、じゃないと勝てませんよね! そうですよね!
ちょっと勝てたからって、俺強いとか調子乗ってた過去の僕を殴りたい!
ってヤオザミの筋力高いよ!
普通に即死するよ!
だが、あの時倒せたのだから、今の僕が倒せないはずは無い!
だってあいつの動きなんて止まっているようなものだ! 僕はあいつの10倍早い!
後ろに回りこんで「突き」を使おうか!
いや、弱点属性があるんだ、そっちを使おう!
という訳で「天罰招来」!
【いぃいいだろぉおおおおおおお!】
野太い声が聞こえる。
一撃で成功するとは! やはり僕の時代か! いや、レベル上がったおかげだろうけど!
【お主の願い、聞き届けたりぃいいいいいッ!】
(やっちゃってくださいッ!)
ピシャァアアアアアアアアアン! バチバチバチッ!
「ギャバババッ!」
雷が落ちても、ヤオザミはピンピンしている。
何故なら雷が落ちたのは……僕のビーナスだから!
【ぬぅうう! 避雷針があったかァあああああ!】
(ふ、ふざけんなぁああああああ!)
「カハッ……!」
痺れまくっている僕は、怒鳴ることも出来ないのだった。
だけど、ビーナスを通電したため「天罰」の威力は減少していたらしい。
耐久力はまた2だけ残ったぜ!
僕ってよくよくしぶといネ!
≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました――――――
自爆による熟練度上げを行うハルマサの目の前では、ヤオザミがビックリしたのか少し距離をとっていた。
<つづく>
レベル:6
耐久力:252
持久力:302
魔力 :158→178
筋力 :337
敏捷 :479
器用さ:207→217
精神力:453
新らしい特性
寂寞の歌声
スキル
天罰招来Lv4:82→102
洗浄術Lv2 :1 →11 Level up!
□「寂寞の歌声」
寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。