<47・改定>
玄関で僕を迎えてくれた母さんは、決めた、と言った。
「ハルマサが居るなら、今日は有給を取る! 前から働きすぎだと言われていたしな! いい天気だし、布団干すから出しておきたまえ!」
「う、うん。」
母さんは寝起きから元気です。
話をするのは、母さんが休むなら夜で良いよね。
なんだか疲れたから、ゆっくりしよう。
あ、その前に処理するものがあった!
ていうかむしろこれが現代に戻ってきた目的だった!
僕は二階の部屋に上がり、まずはやばいものが色々入って居る外付けハードディスクを苦労しつつ、無駄に特技とか使って粉々にした。
「崩拳」使ったら手が痛かったけど、その後飛び散った破片を探すことにとられた時間の方がもっと痛かった。
とにかく、これで危機は去った。
いや、まだか。
この床板の下には爆弾が埋まっているのだ。
ていうかどうしよう。
皆はエロ本をどうやって処理しているのだろうか。
僕は捨てれないからドンドン溜まってしまっているんだよ。
目の前には取り出した30冊はある様々なエロ本。
グラビアあり、漫画あり、ジャンルも色々、何でもあり。
僕って雑食だから。
それはさて置き、よく考えろハルマサ!
案の一!
「しれっと台所にあるゴミ袋に入れる。」
どんな羞恥プレイ!? 僕には無理! 次だ!
案の二!
「コンビニにしれっと捨ててくる。」
いや、家庭ゴミ(?)を持ち込んだらダメだよね。却下。
案の三!
「ゴミステーションに直接イン!」
これだ! 台所からゴミ袋を持ってこよう!
僕はこの時忘れていた。
僕は敵意を持たない個体の気配を読むのが苦手なことを。
つまり、考えることに夢中になっていると―――――
「おおぃ、息子よ! 布団を……おっと、こいつは失礼。気にせず続けてくれたまえ。」
エロ本を前に唸っている所を母親に目撃されることになるんだよ!
(ってこれ一番避けたいことだったでしょうがぁあああああああ!)
僕の馬鹿! アフォ! THE・間抜け!
母さんは扉を開けた格好のまま、頬に手をあて、おやおや、などと呟いている。
って母さん、何時まで見てるの!? 空気呼んで出て行ってくれないの!?
「うむ。実は男性のそういう現場を見るのは初めてでな! 実の息子とは言えど興味はしんしんなのだ!」
「何を格好良く言いきってるの!?」
いや、まぁ理解があるのだから良いのかなぁ……
世の中にはこういうのを汚らわしいとして蛇蝎の如く嫌う人も居るらしいし。
「もう、いいから出てって出てって!」
「ふふふ、押すな押すな。この照れ屋さんめ。布団は手を洗ってから持って来るんだぞ?」
「分かったからぁ!」
僕の羞恥心は膨れすぎて破裂寸前だよ!
母親に見られながら何て照れ屋も何も無いと思うんだけど……
もうさっさと捨てよう。
燃えるゴミの袋……もう僕の部屋ので良いや。何も入ってないし。
詰めれば入るでしょ。
ようし、ちょっと破れそうになったけど、何とか入った。縛ってぎゅっと。
だが、捨てに行くのは今は無理みたいだ。
何か母さんが部屋の前でウロウロしてるんだよね。
ティッシュの箱持ってるけど、それは僕の部屋のティッシュが切れているからなの!?
もし僕が行為に及んでたら、良いタイミングで飛び込んでくる気満々なんだね!?
そんなところまでチェックされているとはぁああああ!
(く、こうなれば、窓から飛び降りてくれるわぁああああああ!)
カラリ、と窓を開けたところで、母親が扉を開け放ち飛び込んできた。
「ダメだぁ! 恥ずかしいからって死ぬな息子よ!」
「えええ!? ここ二階だよ!?」
「君は頭が悪いから早まったかと……! なんだ勘違いか。良かった。」
ふぅと額を拭う母さん。
さらっと暴言吐くよね。
「いや、もうこれを捨てようかと。母さんがいる家の中を通るよりはと思って。」
「なに、捨てるのか!?」
母さんは目を見開いたが、次の瞬間には手を突き出してきた。
「じゃあ、くれッ!」
「ええ!? いやだよッ!」
「息子の性癖をチェックしたいという、母の愛が分からんのかぁー!」
「全然分からないよ!?」
そんな地団太踏まれながら言われても……
「と、とにかく捨てるからね!」
「どうしてもダメか? 晩御飯に君の好物を作ってやってもいいぞ?」
「く……ダメだよ!」
「コロッケだぞ!? もちろんチーズも入れてやる!」
「!?」
く、僕の好物をそこまでピンポイントで……!
いや、惑わされるな!
好物と引き換えに、僕の恥部を満開には出来ないんだぁああああああああ!
「ダメか……仕方ない。今晩はカップラーメンだな。」
「参りましたぁあああ!」
僕の決意は5秒で裏返った。
晩餐がカップラーメンて! 母さんと一緒に啜るのか!?
無理だー!
……本は綺麗に使っていたし問題ないよね。
母子ものは避けていたから、気まずくもないはずだし。
「ふふ、最初から観念して居れば良いものを……もともと今日はコロッケだったのだ。」
な、何だと!?
「では早速!」
「ここで見るのぉ!?」
「ふふ、息子の反応も楽しみたいという母の愛!」
「違う! 何か違う!」
「むぅ、どっちかと言うと巨乳寄り……しかしロリも……金髪もありなのか……」
「やめてぇ―――!」
それから30分くらい恥辱プレイは続いたのだった。
母さんは、ふんふん言いながら呼んでいた本を閉じると、うむ、と頷いた。
「よし、良く分かった! 雑食の少年ハルマサよ! 捨てて良し!」
「や、やったーい。」
もう、悲鳴も出ないぜ……へへ。
その後布団を干したり、おやつを食べたり、テレビを見たりと、ほのぼの過ごした。
夕食の準備を手伝って、卵のかき混ぜ方とかで器用さが活躍し、母さんが驚いたりした。
母さんと居ると落ち着くなぁ……。
これがあと、9回しかないなんてね……残酷だよ。
「ふむ、やはり雰囲気が以前と変わっているな。一体何があったんだ少年。」
コロッケを飲み下した母さんが片眉を上げつつ問うてくる。
母さんが鋭いのか、僕が分かりやすいのか。どっちもありそうだね。
「うん。色々あってね。」
「……朝も言っていたな。どういうことなんだ? 母には話せないか?」
「いや、骨董無形で。信じてもらえないかもしれないけど………話すよ。話そうと思ってたんだ。」
もう、母さんとは暮らせないということも言うつもりだったんだ。
話そうと思うと、途端に口が重たく感じるのだった。
<つづく>