<40・改定>
少し考えたんだけど、僕って桃色トークっていう特性を持っているんだよね。
□「桃色トーク」
異性を魅了する語り口。あなたが語る物語は、異性の興味を引き付けます。くだらない話でも問題なし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。
これって喋っているだけで発動するのかな……
あ、でも興味を引くだけってあるし、あんまり関係ないのかな……?
最後の『メッロメロだぜ』の部分に不安は残るけど……喋れないのはもっとイヤだしなぁ……。
ちなみに現在も口呼吸です。
「お、おまたせ。」
部室から渋川さんが出てくる。
卓球部に備品を置いてきたらしい。
並んで歩き始める。
こう、並んで歩くのってモヤモヤするよね!
渋川さんも頬がほんのり赤いし!
でも学校で一緒に歩いてると不味くないかな?
いや、今日で、僕へのいじめは終わらせるんだ!
だから渋川さんと並んで歩くくらいは……大丈夫だといいな。
でも保証はないんだよねぇ……
「渋川さん、僕たち一緒に歩かないほうが良いと思うんだ。」
瞬間的に渋川さんが愕然とし、次いで悲しそうな顔をする。
「……!? ……私…迷惑なのかな……」
ああ、そんな悲しそうな顔を……!
って違うよ渋川さん!
「違う! 渋川さんは悪くないって言うか、僕も一緒に居たいのは山々なんだけど、僕へのいじめがある内はやめといたほうがって思って!」
「私、佐藤君と歩きたいです」
渋川さんは地面の石を蹴りながら口を尖らせている。
す、拗ねないでよ!
断れないじゃないか!
ていうかさっきまで恥ずかしがっていた君は何処に行ったんだい!?
「迷惑かかるかもしれないんだよ!?」
「いいもん。」
良くねぇ――――――!
って叫べればどれだけ良いか……!
まぁ決めたよ。
僕は決めちゃったよ。
(渋川さんに降りかかる火の粉は、全て払ってやるよ! ……コソッとね!)
敏捷には枷もないし、「聞き耳」だってある。
君がピンチになりそうになったら何処に居ても駆けつけるよ!
そして今日中、できるだけ早くにいじめを失くせば、渋川さんへの被害は考えなくても良くなるはずだ!!!!
ついつい拳に力が入る。
早急に、いじめっ子たちへの対処を考えなくては……!
でも、折角だから渋川さんとの会話もします。もったいないしね!
「今日って授業何があるの?」
「ええと……」
並んで歩く渋川さんは、カバンから可愛いメモ帳を取り出すとパラパラめくる。
隣を歩くと、頭一つ分小さい渋川さん。
小動物的な魅力が光る。
答えてくれた内容は以下に。ちなみに僕のクラスは、進学する人で構成される普通科だ。僕は進学する気はあまりなかったんだけど、母親の強いプッシュで普通科に属している。
ともかく時間割。
一時間目
現代国語
おじいちゃん教師の催眠音波が、抗いがたい眠気を運ぶ。最近は受験対策にと、文章問題ばかり解かされる。そのあと、答え合せと解説。一時間目にこれを持ってくるとか、時間割を作る人は一体何を考えているんだ。
二時間目
数学Ⅲ
頭の剥げた恰幅の良い教師が死んだ魚みたいな目で、常に斜め上を見つつ講義をする授業。何処を見ているのか毎回非常に気になる。蛍光灯にピンクチラシでも貼ってあるのだろうか。これも最近は受験対策で、問題の解説ばかり。
三時間目
体育
数個の競技の中から一つを選び、同輩と切磋琢磨する。サッカー、バスケ、卓球など。何故かラグビーも選択しにあり、体育教師が張り切って指導しているらしい。僕は渋川さんと同じ卓球だ。彼女は卓球部らしい。
四時間目
音楽/美術
選択式の授業である。僕は楽器も弾けないし、人前で歌うのもご免だったので、美術。渋川さんもほぼ同じ理由で美術。油絵を描き始めたところだ。
昼休み
55分間。
基本的にいじめられてて、飯は食えない毎日だった。絶対に今日は食べる。久しぶりにお弁当だし。
五時間目
体育
また……? 謎だ。どうやら英語と振り替えらしい。それならそのまま体育を潰せば良いものを、体育教師が強固に反対したという。これも卓球。
六時間目
地理/歴史
選択授業。僕は地理だが、教科書を先生が読むだけの授業で正直退屈だ。これもまた渋川さんと同じらしい。バッティング率が凄い。ストーカーしたかった訳じゃないから許してね。
七時間目
生物/物理
選択授業で、またもや渋川さんと同じ。ここまでなって覚えていない僕って凄い。名前もすごく近いのに。ちなみに生物。先生は髪の毛がくしゃっとした背の高いおっさんだ。受験対策をする。
「選択被りすぎだね。」
「恥ずかしい……私ストーカーみたいになってる……」
「そ、そんなことはないんじゃない?」
いやぁ、渋川さんならストーキングされても大歓迎なんだけどね!
そんな会話をしていたところ、僕の「聞き耳」に、不穏な会話が聞こえてくる。
「おい、来たぜあいつ。」
「ふふふ、じゃあ予定通りやるわよ。」
「まじか! いやぁ楽しみだ! どんな顔すんだろうなァ!」
「ていうか、あの女誰?」
「……さぁ?」
こんな会話。
渋川さん、君の影は本当に薄かったんだね……!
女子にすら「さぁ?」って言われてるし。
こっちを見ているのは……男が2人に女が3人。
主に僕をいじめてくれている人たちだ。
厄介なのは、大きな体した男、剛川と、髪がクルクルしている女……花咲さんだっけ? ドリルさんって覚えてるから良く分からない。
その二人さえ何とかなれば、僕っていじめられないと思うんだけど……
いや、でも彼らじゃない人にもいじめられてきたしなぁ……良くわかんない。
僕ってそんなにいじめたくなる様なオーラが出てるのかな。
そして、そろそろ校舎にたどり着くという頃。
上から何かが、降ってくる。
まさか、コレは!
あの伝説の――――――!
ガシャ――――――ン!
剛川が投げ落としたのは机と椅子。そしてベランダから聞こえる叫び声。
「「「「オメーの席ね゛ぇがらぁッッッッ!」」」」
伝説の『オメーのセキねぇから』だった。なにが伝説かって……ニコニコでの再生数?
ご丁寧にせーの、と調子をそろえての叫びだ。
言った直後、彼ら彼女らは盛大に笑い出す。
いやぁ、まさかこれをやるとは。もう外聞とかどうでも良いのかな。
そんなことを考える僕の横で、渋川さんは身を竦めている。
大丈夫だよ、怖いことなんて無いから。
僕は渋川さんに微笑むと、さてどうしてやろうかと考える。
速攻で効果が望めて……母さんに迷惑がかからないような、そんなこと――――――桃色か?
正直、この桃色特性、効果強すぎるからどうなるか分からないけど……
それしか思いつかないや。
ごめんね花咲ドリルさん。
桃色で君を操らせてもらうよ。
<つづく>
<あとがき>
現在のハルマサ君の強さ。
レベル:10
耐久力:3499
持久力:6050
魔力 :30
筋力 :30
敏捷 :25916
器用さ:22186
精神力:12782
成人男性の平均はレベルが1でステータスはオール10です。