<17>
アイルーたちの村の名は、『ココット』と言う。
その村の村長は代々ココットの名を継ぎ、村の発展に力を尽くす。
そして今代のココットの頭脳は一級品だった。
彼は今までの村の概念を覆した。
隠れ怯える村から、守る村へ。
それが最も顕著に現れるのは、石を積み上げた壁だろう。
さらに、迎撃のためのバリスタ。
侵入を阻む罠をしかけ。
周りの木を切り払い、虫型の魔物が近づかないように。
これによってアイルーたちは安全な生活を勝ち取った。
だが、それは空しい努力だったのか。
ダンダンダン! ダンダンダン!
「――――――クッ!」
(効いてないだと……!)
渾身で作り上げた武器は、相手の勢いを少し削ぐだけ。
ココットは、雪崩のように襲い来る牙獣たちに必死に速射型のボウガンの弾を打ち込みながらも、歯軋りをせずには居られなかった。
だが――――――
「おい、ココット! あれを見ろ!」
「なんだ! ――――――何? 何だあれは………?」
ココットの視線の先、ボウガンも届かないような場所で、周囲を白の獣に囲まれて、一人で戦う戦士が居た。
単身で群れに挑むなど、正気の沙汰ではない、無いが――――――
「翻弄している……だと……!」
この世界は100匹の弱者と一匹の強者であれば後者に軍配が上がる世界。
後ろにも目があるような身のこなし。霞むような移動。重い攻撃。
縦横無尽に走り回り、群れをかき回している戦士は紛う事なき強者だった。
一体また一体と、確実に牙獣は沈んでいき、戦士は動きをどんどん加速させていく。
いずれ、群れの全てを倒してしまうほどの勢いだった。
必然、防衛をしていたアイルーたちへの負担が減少していく。
今まさに落ちんとしていたアイルーの村は、少し持ち直しているのだった。
ココットは心を決める。
名も知らぬ戦士よ。今はあなたを利用させてもらう!
「皆のものよ! 援軍だ! 援軍が来たぞッ!!!!」
声を張り上げると、周りがざわめきだす。
「援軍?あいつか?」
「凄い!」
「一人で!?」
ココットは、さらに声を出す。
「守りきれ! 時間を稼げば我らの勝ちだ! この戦い、勝てるぞ! 気合を入れろぉおおおおお!」
『おおおおおおおおおッ!』
今、アイルーたちは折れかけた心を持ち直し、強大な敵に向き直った。
敢えて言おう。
レベルアップ、ハンパネェ!
さっきまで脅威の塊だったブランゴたちが、案山子の群れに見えるよ!
「はははははっは――――!」
THE・有頂天状態になっているハルマサは、もう何も怖くない、とばかりに走り回って、手当たり次第にブランゴを蹴散らしていた。
「ふ、どうやら強くなりすぎてしまったようだね!」
などと、野菜王子の真似をするくらい余裕である。(でも怖いのでパンチをわざと食らったりはしない。)
「崩拳!」
どぐぁ、びちゃあ、とまた血の雨を降らせて、僕はその場を離脱。
「ガァアアアアアアア!」
「甘い!」
飛び掛ってこようとしたブランゴを蹴り上げる。
何が甘いのかよく分からなかったが、とりあえず。
この動きの特技はないようだったが、関係なく威力は高い。
もう一度崩拳を使おうとしたが、どうやら特技には再使用までの冷却期間があるようで、ただのパンチになった。
連続使用は出来ないみたいだ。
だがそれでも全く問題ない。
ただのパンチでもブランゴはぶっ飛んでいる。
彼の有頂天に火をつけたのは、さらにもう一つレベルが上がったことだった。
レベルが上がって4になった後、ブランゴを倒した時の経験値は半分になった。
しかし、それでも十匹近く倒すとレベルアップが起こったのだ。
よって今の彼のレベルは5。
もう、誰も追いつけない! そんな気がする!
腕を振れば数メートルも吹っ飛ばされて、足を振れば頭が割れる。
瞬く間に仲間の死体を量産されて、ブランゴたちはビビッてしまっているようだった。
レベル5になってからさらに取得経験値が減ったため、次のレベルまでは遠そうだ。
だが、これでもう十分。
ハルマサはもう脅威を感じていなかった。
それから十数分。
ハルマサは賢者タイムに入っていた。
目の前には死屍累々。
思わず、城壁に取り付いているものはおろか、逃げようとする奴まで屠ってしまった。
殺りも殺ったり132匹。
レベルは6になっていた。
ふぅ……。
何やってるんだろうな、僕。
自分より弱い生き物を倒して喜んでるなんて。
ハルマサが賢者タイムに入った理由は、ある特性の取得だった。
□「殺害精神」
殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感が薄れる。殺害に関して理論的に考えられるようになる。
ハルマサは血に塗れた手を見る。
あんなに血を浴びたというのに、何も、胸に湧き上がらない。
ニオイも臭いと思うだけ。
小説だと、こういうときに吐き気とかもよおすものなのに。
手には確かに頭蓋を叩き潰し、肺腑を貫いた感触が残っているが……正直それが何? といった具合。
テンションが下がった後でも生き物を殺した忌避感が沸かないのはおかしな気分だった。
この特性。今まで得た特性と比べて、遥かにまともなはずなのに心は晴れない。
僕はもう、人ではないんだね……
思わずため息が漏れる。
ハルマサは、忌避観を感じないことに強烈な寂しさを感じているのだった。
ブランゴたちの死体は消え去り、死体一つにつき、金貨一枚と尖った爪やくるくると丸められた布?(皮です)が残された。
それをぼーっと眺めていると、声が聞こえた。
「もし、言葉は通じるというのは本当か?」
「……ん?」
見れば、蜂に襲われていたアイルーと、彼よりも体格の良いアイルーが僕を見ていた。
「えっと……誰?」
「おお、本当に話が通じるのか。いや、すまん。私はこの村の村長。ココットだ。」
体格の良い、ココット?さんが軽く目を見開きつつも自己紹介をしてきた。
「あ、僕は佐藤ハルマサです。それで、何か用ですか?」
うむ、とココットは頷いた。
「まずは我らの村を助けていただいたことの感謝をしたい。我らの宴に参加してもらえないか? 貴殿を歓待したいのだ。」
「え、いやそれほどのことでも……」
いや、あるかも。
普通に死んじゃうと思ったし、感謝されてもいいのかな。むずがゆいけど。
あと、お腹もすいたからご飯はすごくほしい。
「じゃ、じゃあご馳走になります。お腹すいちゃって。」
「ふ、そうか。ならばウチのネコどもの腕を堪能してくれ。さ、こっちだ。」
「その前にお風呂はどうだニャ? ドロドロだニャ。」
それはすごくありがたかった。
「いてて……」
お風呂は、気持ちよさを感じる前に、傷に凄い沁みました。
切り傷とか沢山あるなァ……。
もう血は止まってるけど、ヒリヒリするよ。
ネコ用にだろうか底の浅い、木製のお風呂に入らせてもらった後、猫たちが速攻で織り上げたローブを借りて、宴の席に着いた。
ちなみにノーパン。ドキドキしちゃうぜ!
宴は野外で行われるようだった。丸いテーブルがそこかしこに並べられ、50を越えるようなアイルーたちが好き勝手に座っている。
こんな集落が他にもあるって言うんだから驚きだなぁ。
ココットが咳払いをして口を開く。
「では、諸君! 我らの勝利と我らを救ってくれた英雄に! 乾杯!」
『ガシャン!』
皆が杯を打ち付けあい、各々杯を呷ったり、料理をつまんだり、肩を叩きあい、談笑する。
ハルマサはこのような雰囲気は初めてであり、なんか良いなぁ、と思った。
ネコが代わる代わる話しかけてきてくれて、ハルマサも何とか場の空気に混じる事が出来ていた。
どうでも良いが、語尾に「ニャ」とつけるアイルーは半分も居ない。
年を取ると付けなくなるそうだ。
「ふむぅ、それにしても貴殿は謙虚だな。もっと英雄らしくしても良いのだぞ。」
「そうですニャん。ささ、もう一杯。」
「あ、ありがとう。って英雄!? いやそんな。」
ハルマサは、ココットに感嘆され、それに村一番美しいと言われる毛並みの綺麗なネコにお酌され、非常にむずがゆい思いをしていた。
だが、悪くない。
好意的に接してもらえるのはやはり、嬉しい。
ハルマサの顔にも自然と笑顔が浮かぶのだった。
そして宴もたけなわ。
ハルマサを連れて来たアイルー(ヨシムネと名乗った)が、他のネコと共に、布で巻かれた長いものを重そうにしながら持ってきた。
ココットは言う。
「ハルマサ殿。貴殿のしてくれたことに対して、見合うとは到底思えないが、これは我々の気持ちだ。どうか受け取ってほしい。」
ココットが、バサァ、と布を剥ぐと、そこにあったのは―――
煌く黄金色の巨剣だった。
幅広の刃は大胆かつ鋭角に切れ込みが入っており、刀身全体でまるでネコが牙を剥いているように見える。
日の光を照りかえしてキラキラと輝く様は、英雄の聖剣のようだった。
「ビーナス・オブ・キャット。この大剣の名だ。」
「そう、ですか。」
ていうかモンハンに有りましたよねコレ。
大剣で、ネコの紅玉とか使って作るやつだ、確か。
ネコの紅玉なかなか出なくてイライラした記憶あるもん。
大剣を手に取ってみる。
ひやりとした金属の感触。
ズシリと来る重さだ。
まぁ僕の筋力ちょっとアレだから簡単に持てるけど。
刀を触ると、パチッ、と静電気が走り、指先にシビレを感じる。
そういえばゲームでは麻痺属性あったっけ。
これで切ったら、敵がアばばばばば!ってなるんだね。
「ふ、どうやら気に入ってもらえたようだな。何よりだ。」
いや、こんな目立ちまくる装備貰っても。
「穏行」するとき邪魔なんですけど……
というのが本心だったが、すごく嬉しそうにしているココットさんに悪いので言い出せない。
まぁいいか。
あ、そうだ。閻魔様の頼みがあったっけ。
誰かついてきてくれないかなァ……?
これの代わりに、とかどうだろう。
でも、今連れて行っても、ボスとかいたらちょっと邪魔になりそうだし……。
第一層クリア出来てから考えようか。
ココに来たらアイルー居るのはわかったんだし。
「ありがとうございます。ありがたくいただきます。」
こうして。
ハルマサは、武器を手に入れたのだった。
<つづく>
ステータス
レベル:6 ……2 up レベルアップボーナスは120(40+80)
耐久力:180/180 ……123 up
持久力:263/263 ……122 up
魔力 :120 ……120 up New!
筋力 :252 ……126 up
敏捷 :406 ……138 up
器用さ:244 ……122 up
精神力:292 ……126 up
経験値:500 次のレベルまであと138
あたらしい特性
殺害精神
スキル
拳闘術Lv3 :42 ……6 up
蹴脚術Lv3 :34 ……4 up
姿勢制御Lv4:71 ……4 up Level up!
突進術Lv4 :70 ……5 up Level up!
撹乱術Lv4 :79 ……5 up
跳躍術Lv3 :66 ……5 up
撤退術Lv4 :73 ……1 up
防御術Lv1 :5 ……3 up
戦術志向Lv2:18 ……4 up
回避眼Lv1 :94 ……2 up
観察眼Lv4 :73 ……1 up
的中術Lv3 :33 ……4 up Level up!
空間把握Lv2:22 ……4 up
□「殺害精神」
殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感がなくなる。殺害に関して論理的に考えられるようになる。
敵が格下になって脅威がなくなったので得られる熟練度はガクッと下がりました。
格下or格上は、レベルで判断。
ちなみにブランゴたちはレベル4に相当します。
観察眼で筋力とかを判別できたのも観察眼がレベル4だったからと言うわけです。
今回、取得経験値は、レベル3の時20、レベル4の時10、レベルが5の時は5、レベル6だと2でした。
<18>
太陽が沈まないので分からないけど、多分一晩くらい眠ってから、僕はここを発つことにした。
なんか居心地良すぎて住み着いちゃいそうだけど、それはやっぱりダメだよね。
結構な数のアイルーが見送ってくれる中、僕は旅立つ。
ところでアイルーたちの好意により、装備が整いまくりました。
ありがてぇ。
まず装備一つ目!「ナップザック」!
僕がジャージで作っていた形を真似てくれたのか上の面が無い円柱型で、上のほうに紐が通してあり、引っ張ると口をすぼめる事が出来る構造だ。
中には食料やら水やらが入っている。
次に「剣帯」!
あんな大きい剣を引っさげていくのもなんか嫌だったので、お願いしたところ作ってくれました。たすき掛けにした革帯に剣を引っ掛ける鋲がついています。
そして「秘密のポーチ」!
何が秘密かは秘密ですが、中には大事なものを入れておけ、とのこと。金貨でも入れておこうかな。
最後にこれが最も重要だけど、「着る物一式」!
白を基調とした上着にズボンにインナー(下着)も! 靴も作ってくれて完璧です。
これで珍妙な格好とはオサラバダゼぇー!
で、着る物なんだけど、かなり丈夫です。
ブランゴの皮とか毛とか骨とかを使って猫達が一晩でやってくれました。
ただ強いだけの僕よりよっぽど社会に貢献できそうなネコたちだと思う。
盾もほしいな、と思ったけどココには魔物の攻撃に耐えられるような素材は無いんだって。
あっても加工が出来ないらしい。
まぁそこまで欲しいものでもないし、まぁ良いや。
あ、そんな「すいません」とか言って頭下げないで! こっちのほうがよっぽどすみません。
こんな良いもの頂いちゃって……
ちなみに作ってもらったもの全て、メイドbyネコって分かるようになっています。
具体的には剣帯は鋲にネコの顔が彫刻してあるし、布製のものにはネコのアップリケがついています。
服にもよく見れば胸のところで逆立ちしているネコの絵がある。
やたらポーズがカッコいいんだけどもしかしてコレ、ブランド?
まぁ良いものには違いない。僕はホクホクしながら装備を整える。
ブランゴがドロップした金貨とかも持って行けって言われたけど、今のところ使い道ないし、服のお礼として猫たちに引き取ってもらった。
「それじゃあ。」
「ああ、ぜひまた寄ってくれ。」
ココットさんに挨拶をして、僕は出発した。
ココットさんたちはこの世界をダンジョンだと認識しては居ないらしい。
死んだ時死体が消えるような魔物を疑問に思わないかと問うと、「魔物だし」の一言で終了した。
そういえばアイルーも魔物だったね。自分の存在に疑問なんて持ったりしないか。
で、彼ら曰く、密林は東と南と西が海に面しており、北は平原というか草の短い山々があり、さらに北に行けば雪山があるのだそうだ。
南北に伸びる楕円の大陸で、北に行くほど寒いと言うわけだ。
平原や北山に、何があるかはネコたちは知らないらしい。
北は魔物活動が活発なんだって。
という訳で僕も北に進むことにした。
密林に落とされたなら、そこから一番遠いところに下に行く道がありそうじゃない?
ふ、余のビーナスオブキャットも血に飢えておるわッ!
……名前長いなー。これから縮めてビーナスって呼ぼ。
で、密林が深すぎて、どっちが北か分からなくなりそうだと言ったら、木に登って確かめてみればどうか、と提案された。
そりゃそうですね。すいません。
何で今まで気付かなかったんだろう。僕は本格的に僕の頭が心配だよ。
え? モス?
いや、あんなのもうどうでも良いよ。
楽勝だろうし。
弱いものいじめする趣味は無いって。
殺されたことももうどうでも良いって言うか……これも「殺害精神」の効果なのかなァ。
と、思った矢先にモスに会った。というか進路上に居たんでそのまま進んだんだけど……。
「フゴォ、フゴォ!」
足で地面を引っかき、なぜかヤル気満々である。
そんなに張り切っちゃって……
一応「観察眼」で見ておこうかな。
≪対象の情報を取得することに成功しました。
【モス】:体に苔などの繁殖しているブタ。弱点部位は額など、多数。弱点属性はなし。攻撃パターンは突進だけ。避けたら勝手に死ぬ最速の突撃ブタ。
耐久力:1 持久力:1 魔力:0 筋力:56 敏捷:500 器用さ:1 精神力:1≫
「極端すぎるッ!」
思わず叫んでしまった。
勝手に死ぬって凄いな。
それに筋力60近くも有ったのか……。そりゃ耐久力が一桁の時にこんなんくらったら即死するよね。
最速の突撃ブタとかカッコいい二つ名までつけちゃって…………。
………………あれ?
……敏捷高くない!? 500!? 50じゃなくて!?
これって絶対避けれな――――――
「ピギィイイイイイイイイ!」
ブタが凄い勢いで突っ込んでくる。目がやっと終えるかどうか。
この野郎、前の時は手を抜いていたんだな!?
「オフゥ!」
あまりの出来事に動揺していた僕は見事に吹き飛ばされ、後ろの木に叩きつけられた。
お腹が抉り取られた感触がする。
は、腹! 僕の腹はあるか!? あ、あった良かった……。
あまりの衝撃に木が折れた。
幹は僕の胴くらいはあったんだけど……。
ああ、スピード×体重=威力なんだね。納得です。
お腹をさすりながら最速のブタを見れば、奴は満足そうに一鳴きしつつ消えていくところだった。
あとには金貨一枚とキノコが残るのみである。ちなみに奴の自爆なので経験値は入らなかったようだ。
「や、やられたよ……」
ステータスを見ると、耐久力が100近くも下がっていた。
吹っ飛ばされて木に当たったから?
確かにお腹も背中も痛いけど。
というか背中は剣が刺さって血が出てるんだよね。
しかも痺れて少し体が動かしにくい。
へへ、へ。これが、モンスターを舐めた代償って奴か。
手痛い授業料をありがとう。
もう、どんな奴でも舐めたりしないよ。
次に見かけたら「崩拳」叩き込んで内側からパーン! ッてしてやるよ!
そう決意しつつ、よろよろと立ち上がったときだった。
最初にモスが居た場所に、不自然な霞が、モヤモヤと発生した。
「……? なに?」
モヤはやがて形を成し――――――モスになった。
(そんな! リポップだって!?)
リポップ。
MMOなどで、フィールドにモンスターが湧き出る現象である。
この現象、ダンジョンならではと言えるが、何もこんなところでそれらしくしなくても……。
ていうか早すぎだよモンスター補充されるの。
「ピギィイイイイイイ!」
まぁちょいと痺れた僕に奴の突進を避けれるはずもなく。
僕の記憶に、奴の心なしか嬉しそうな鳴き声が響き――――――
気付けば閻魔様の前に居た。
「おかえり。」
「は、はい。」
「今回の敗因は何だ。」
「敵を、侮ったことです……」
フフ、泣きたいですよ……
さてお待ちかね(誰が)!
今回の下がりっぷりを見てみよう!
デスペナは
1 ステータスの全20パーセントダウン。
2 スキル熟練度のダウンとそれ伴うステータスのダウン。
さらに今回判明したのだが、そのレベルに上がった際のボーナスも引かれるという。つまり、
3.死亡前に得たレベルアップボーナスを高いほうから一つ、再修正。(今回はマイナス80ポイント)
これが上から順番に起こる。そうするとどうなるか?
レベル:(6→)5
耐久力:(180→)63
持久力:(263→)116
魔力 :(120→)16
筋力 :(252→)112
敏捷 :(406→)196
器用さ:(244→)98
精神力:(292→)128
経験値:(500→)158 次のレベルまであと160
こうなるのである。
「なにか感想はあるか?」
「一気に上がって、一気に下がったからよく分からないですね。」
と言うのが率直な印象である。つまり精神的なダメージはあんまり無かったです。
でも実はレベル4の時よりも弱くなってるんだよね。
デスペナ厳しすぎるのは相変わらずです。
「というか一気に装備が整ってるな。なんか有ったのか?」
女神様が、あ、間違えて女神様とか言っちゃった。
閻魔様が僕の服を見ながら尋ねてきた。
特に、刺繍してある猫の絵が大変気になるみたいだ。
きっとネコがお好きでいらっしゃるんだろうな。
ていうかナップザック置いてきちゃった。
ゴメンねネコさん。
ポーチはあるから金貨は持ってるけど。
「実は、件の魔物、アイルーに会いまして。」
「なんだとぉ!?」
うお、そんな寄らんでください。
相変わらず悩ましいおっぱいをしておられる……興奮してしまうよ。
ちなみに観察眼でサイズを測ろうとしたら当然のように弾かれた。
≪「観察眼」Lv134を習得する必要があります。≫
(無理だッッッ!)
桁が違ぇ……流石ですね閻魔様。
は! 違う、閻魔様の魔乳を鑑賞している場合ではなかった。
報告をしないと。
「実は云々かんぬんで……」
「ほうほう。えらいな。よくぞあの愛らしい生き物を守った。撫でてやろう、よしよし。」
お褒め頂いた!
触れていただいた頭がとろけそうだよ!
フンハー!
「おかしいな……お前みたいな貧弱な坊主が良い男に見えてきた。フッ……仕事のし過ぎか。」
閻魔様はニヒルに笑いながら離れていった。
残念。
閻魔様は、ギ、と椅子に座ると、こちらを見てきた。
「それでお前はボスが居るかもしれないからアイルーを連れ歩かない、と言ったな?」
「はい。」
「それは大正解だ。」
大正解らしい。
「まぁ連れて行ってたらモスに潰されていたでしょうから、そうかもしれませんね。」
「いや、そうではない。慎重になったのが正解なんだ。何しろ、神が創ったダンジョンのフロアボスは強さの桁が違うからな。」
そういえば神様っていっぱいダンジョン作ってるんだっけ。
幾多のダンジョンに(恐らく)挑戦してきた閻魔様が言うんだから間違いは無いだろう。
そうだな、と閻魔様は顎に手をやる。
「お前にやったレベルシステムがあるだろう? あれで換算すると、フロアに居るザコとはレベルが5は違う。」
「?????」
5違うとそんなに違うのだろうか。
確かにレベルアップするごとに僕もすごく強くなっているけど。
「分かってないような顔をしているな。お前に与えたシステムでは、レベルが一つ上がるごとに、強さがおおよそ2倍になるんだぞ? レベルが5違うということは、もうなんだ。アホみたいに強くなる。」
「ははぁ……」
えーと、1つで2倍なら、2つ違えば4倍で、3つで……8倍、4つで16倍、5つで32倍!?
「さ、32倍も違うんですか……?」
「おお、足りない頭で頑張ったな。」
「フフン! そんなに褒めないで下さいよ!」
「いや、褒めてないんだがな。あと、なんだかお前がさらに良い男に見えてきた……何だこれは……? まさか……いやバカな……」
閻魔様がブツブツ言っていたが、僕はそろそろダンジョンに行くべきではないか、と思い始めた。
蟲惑的かつ扇情的な閻魔様を見ていると、家に残してきたエ○本の事がどうしても思い出されてしまうのだ。
早く一層をクリアして処理しに帰らなきゃ!
「閻魔様! そろそろ僕をダンジョンに送ってください!」
「おお? もう行くのか? その前に茶でも、いや何を言っているんだ……忘れてくれ。」
「あの、嬉しいんですけどやめときます。生アイルーを早く閻魔様に届けたいですし。」
「う、うむ。そうか。私のためにな……フフフ。」
閻魔様は嬉しそうに笑っていた唇を引き締めると、言い難そうに言葉を発した。
「まぁ張り切るのは結構だが、その…なんだ。無理はするなよ。」
「は、はい!」
「…よし。行ってこい。」
ビューン!
僕はまたもや怪しい光に包まれるのだった。
<つづく>
レベル5
耐久力:63 ……117 down!
持久力:116 ……147 down!
魔力 :16 ……104 down!
筋力 :112 ……140 down!
敏捷 :196 ……210 down!
器用さ:98 ……146 down!
精神力:128 ……164 down!
経験値:158 次のレベルまであと160 ……342 down!
スキル
拳闘術Lv3 :34 ……8 down
蹴脚術Lv2 :28 ……6 down Level down!
棒術Lv1 :8 ……2 down
鞭術Lv3 :36 ……9 down
布闘術Lv1 :2 ……1 down
舞踏術Lv1 :1 ……1 down
姿勢制御Lv3:57 ……14 down Level down!
穏行術Lv3 :60 ……15 down Level down!
突進術Lv3 :56 ……14 down Level down!
撹乱術Lv3 :64 ……15 down Level down!
跳躍術Lv3 :53 ……13 down
走破術Lv1 :5 ……1 down
撤退術Lv3 :59 ……14 down Level down!
防御術Lv1 :4 ……1 down
戦術志向Lv2:15 ……3 down
回避眼Lv4 :76 ……18 down
観察眼Lv3 :59 ……14 down Level down!
鷹の目Lv1 :6 ……1 down
聞き耳Lv3 :59 ……14 down Level down!
的中術Lv2 :27 ……6 down Level down!
空間把握Lv2:18 ……4 down
洗浄術Lv1 :1 ……1 down
祈りLv0 :0 ……1 down リストから削除されました。
閻魔様はレベル136相当の猛者。レベル1の人の2の135乗倍強いです。第一層のフロアボスなんざ一ひねりですね。
<19>
さて、バビューんと飛んできて、またいつもの平原にきた。
ほら、あれだよ。ダンジョンの入り口(穴)のあたりに広がる平原さ。
ここに来るのももう四回目(内、一回は気絶していた)。
この人ッ気の無い空間にもそろそろ慣れが出始めるところである。
「ハイ! キャシー! 相変わらず綺麗な年輪! 元気にやってた!?」
ついつい立て看板(キャシー)に話しかけてしまうほどだ。
いや、別に寂しいんじゃなくてね。
それにしても、今回のレベルダウンで気付いたのだが、僕にいつの間にか魔力が備わっているんだ。
ビックリしたよ。
今回のデスペナで10分の一くらいになっちゃってるけど、まぁあるだけでなんだかテンションが上がるよね。
今回もなんかスキル手に入れていこうかな……。
魔法とか。
それに魔法とかさ!
と言いつつ、まずはこの背中に乗っている大剣を使えるようにしておこう。
目標は……体力有り余ってるしレベルが上がるまで行こうか!
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 「両手剣術」の熟練度が10.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。レベルアップに伴い、耐久力・持久(ry ≫
「ふぅ……」
超高速で振りまくってたら、意外と早く溜まった。
体のスペックの成長を感じるなァ。
最初なんか棒を四回振っただけでバててたのにね。
今回は一度も休憩しなくて良かったよ。
持久力高いもんね。三桁だよ三桁!
大人10人分かー。
ファンタジー漫画の主人公たちのようにはいかないけど、十分超人のレベルだよね。
モンハン風に言うなら、スタミナゲージが10本あるようなもんかな。
違う。それじゃ画面が見えなくなっちゃう。
10倍減りにくいということで納得しておこう。5倍ランナー!
ところで、大剣を持ったら試してみたい事がある。
モンハン2Gでの、あの技である。
足を開き、ビーナスを掲げる。
右肩に担ぎ上げ、体を反らし、背の真後ろに刀身が来るほどギリギリと体を捻る。
確かこんな格好だったよね。
振り下ろそうとしつつもそれを無理やり止める感じで力を決める。
すると剣がピカッ!と光りだした。
やっぱりあったみたい。
そう。
「溜め斬り」である。
さらに待つともう一回ピカッ!
どうでもいいけどコレ何だかすごく疲れる。
そして3回目が光ると同時に、自然と腕に力が、今までにない力が篭る。
上半身の筋肉が血管を浮き上がらせながら膨張し、
「うぉおお!?」
――――――どごん!
「うわっ!」
腹に響く重い衝撃と共に、勝手に振り下ろされた剣がクレーターを作ってしまった。
周りの土地がぐらぐらと揺れる。
草の生えた土の表層がめくれ上がる。
姿勢制御が無ければこけていたかも知れない。
◆「溜め斬り」
大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。
凄い威力だなァ……。
遠くに差してある立て看板が、抜けて、穴に落ちるくらい。
……立て看板?
「ってそれはまずいよ!」
僕は駆け出した。
目の前では今まさに落ちんとするキャシー。
穴の中に飛び込んだ僕は空中のキャシーを掴むと、振り向きざまに穴の外に投げる。
全然興味なくて、言葉をかけてられても無視していた男。
だけど、私の命の危機に、身を挺して庇ってくれて……!
私、あれからあの人のこと……なんだか気になっちゃう……!でも素直になれないの……!
こんな感じで、キャシーが人間だったらすれ違いまくる感じの切ないラブストーリーが始まるところなのに、残念ながら彼女は立て看板。
こっちの気持ちには応えてくれないんだよね。
いや、何の気持ちも無いけど。
流石に看板に発情するほどアホでもバカでも変態でもないよ。
という訳で、魔法の練習も出来ずに、僕はダンジョンへと落ちていくのだった。
あ、剣は持ってるよ。
【第一層・挑戦四回目】
さて、前三回は怖さのあまり足元ばっかり見ていたけど、実はこの落下中って上空からこの大陸を俯瞰できるチャンスだ。
ははぁ、白い山が確かに見えるよ。あっちに行ったらいいんだね。
それと……、やっぱり見えた。
アイルーたちが作っているであろう集落がちらほら見える。
密林ってアホみたいに広いけど、「鷹の目」のおかげで結構見える。
ココット村も見える。ココから見て東にある。相変わらず城みたい。
やがて地表に近づき、ふわり、と勢いが殺される。
選択肢は二つある。
一つココット村によって、装備を整えてから、北に向かう。
もう一つは、このまんま北に向かう。
ココット村に行くと、また美味しいネコ飯が食べれる。
でも、閻魔様に僕やるよ!的なことを言って出てきた手前、寄り道するのはナンカなァ……
大剣で遊んどいて言うのもあれだけど、ここは北へ直進しよう!
そうと決まればランニングだ!
いや、待てよ?
戦闘で使えるスキルを熟練するためにジャンプしつついくか?
いや、むしろ新たなスキルを狙ってバク転しつつ行くとか、枝の上を飛び移りつつ行くとか……
むむぅ。持久力が豊富だから選択肢が増えて困っちゃうな。
……よし決まった!
枝から枝へジャンプしつつ、剣を振りながら行こう!
大丈夫、今の僕なら出来る!
「うららららら!」
こうして僕はビーナスを振って枝葉を切り飛ばしつつ、木の上を跳ねて進むのだった。
「聞き耳」を発動させつつ、数十分もそうやっていただろうか。
ついに密林の終わりが見えてきた。
ちなみに別に新しいスキルは出ませんでした。
<つづく>
ステータス
耐久力:63→67
持久力:116→139
魔力 :16
筋力 :112→140
敏捷 :196→211
器用さ:98→100
精神力:128
経験値:158 あと160
新しい特技
溜め斬り
スキル
両手剣術Lv2:28 ……28 up New! Level up!
姿勢制御Lv3:62 ……5 up
跳躍術Lv3 :64 ……11 up
走破術Lv2 :21 ……16 up Level up!
観察眼Lv3 :63 ……4 up
鷹の目Lv2 :10 ……4 up Level up!
聞き耳Lv3 :68 ……9 up
◆「溜め斬り」
大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。
■「両手剣術」
両手剣を扱う技術。両手剣で攻撃する際、力を込めやすくなる。熟練に従い、筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者はどんな固い守りも叩き割る。
<20>
シュパン、と枝を切り飛ばし、進路を曲げずに突っ切った先は、延々と広がる丘陵地帯だった。
まばらに木が生え、一面に生えた短い草がそよそよと風に揺れている。
密林から流れ出した幅の広い川が緩やかに流れていた。
ちなみに川の水は飲める様だ。
レベルアップした「観察眼」は本当に卑怯だね。
遠くのほうに雪山も見える。
このフィールドにも山があるため、雪山の頭くらいしか見えないけど。
えー改めましてどうも。ついに3死してしまったハルマサです。
レベル5なのにレベル4の時よりも弱くなってしまったんですけど、それでも僕は元気です。
レベル3の時よりは格段に強いんで、問題ないんです!
それはさておき、今目の前には初めて遭遇したモンスターが居る。
モシャモシャと草を食んでいる恐竜みたいなモンスターで、こいつはアプトノスだったっけ。
近くでみると大きいなァ……。動物園で見た象より大きいんですけど……
眺めるだけではなんなので、「観察」EYE! 発動!
≪対象の情報を取得することに成功しました。
【アプトノス】:草食でおとなしい魔物。気弱ですぐに逃げるが、時には反撃してくる個体もいる。
耐久力:242持久力141魔力6筋力100敏捷34器用さ21精神力18≫
なんだかんだでこのモンスターも極端だった。
モスみたいに地雷が無いだけマシだろうか。
あの突撃ブタ式多段ロケットは、恐ろしかった……。
ナップザックは惜しいけど、もう会いたくないな。
せめてこっちの敏捷が500超えてからにしてもらいたい。
それにしても……
このアプトノスも、攻撃が当たったらハルマサは即死する。
思えば、僕がヤオザミに勝てたのも、ブランゴに勝てたのも、すごく運が良かったんだな。
僕の方が小回りが効くとか、敏捷が勝っているとかで切り抜けてきたけど、一歩間違えば今でもレベルマイナスのどん底状態だったかも知れない。
モンスターが平均的に強すぎるんだよね……。
いつまでも黄昏ては居られないので、先に進むことにする。
密林と逆に向かって進めばいいから分かりやすい。
先ほどのアプトノスを見て思ったが、ここはモンハンで言う「森丘」のマップに相当するのかもしれない。
で、森丘といえば、僕はもう一つ思い浮かべるモンスターがある。
飛竜戦の時とかにやたらとじゃれ付いてきて迷惑するあいつ。
「ギャア! ギャアッ!」
「ランポスか!」
そうランポスである。青と黒の縞々皮に茶色いトサカ。鋭い牙を長い口にそろえ、両足には鋭い爪を持つ、小型の肉食恐竜のようなモンスター。
分類は鳥竜種だっけ。
もう何処が竜か全然分からないよね。
あ、恐竜か。
こいつも意外と大きい。こっちの身長くらいはある。
もう驚かないよ……!
凄い勢いで接近してきたので、「聞き耳」で捕らえた時はもう遅かったんだ。
「ギャア!ギャア!」
「ギャア! ギャア!」
「ギャア! ギャア!ギャア!」
そしていつの間にか増えていた。
五匹も居るよ……?
クッ!「観察」EYE!
≪対象の(ry
【ランポス】:小型の肉食モンスター。集団で狩りを行うため、囲まれたら危険。
これ以上の情報を取得するには、「観察眼」Lv5が必要です。≫
な、なんだって! 今まさに囲まれているじゃないか!
しかも、この「観察眼」Lv5ってヤオザミと同等……?
「ギャース!」
「うわッ!」
ガキン!
ブランゴ戦で手に入れた「空間把握」の範囲外から、姿がぶれる様な速度で突っ込んでくるランポス。
モスほど素早くも無いが、今の僕では回避は間に合わない。
ビーナスで防御しなければ死んでいた……
軽く吹っ飛ばされながらも思考する。
こんな奴が5体。
ブランゴとは違いこれは僕のせいじゃないのにきつい戦いばっかりだよ!
上手く着地すると同時に横に跳ぶ。「跳躍術」と「撹乱術」、「撤退術」のなせる早業だったが、そこまでして、ようやくランポスの攻撃をギリギリ避けられた。
これはかなりきつい!
(でも、僕はブランゴ戦でも生き残った男! これくらい、何てこと無いさ!)
でも! 攻撃は! 当たると! 即死しちゃうんだろうな! いい加減攻撃重いよ!
ガッキンガッキンとビーナスで攻撃を受け止める。
おちおち考え事も出来ない怒涛の攻めである。
防御に構えた大剣の向こうで、また「回避眼」の命じるまま体を反らせたすぐそばで、牙を打ち合わせる音がバッツンバッツン!するもんだから寿命が一秒ごとに縮まる思いである。
油断してたら跳び上がって上から攻撃してくるし、同時に他の奴まで攻撃してきた時なんてもう……
(死ぬわ! でりゃぁああああああ!)
僕はビーナスを盾に、目の前のランポスに突撃。軽くサイドステップで避けられたが包囲網からは脱出する事が出来た。
「ギャア!」
レベルアップにより拡張した「空間把握」で知覚した、追いすがり飛び掛ってくるランポスにすぐ向き直りざまに剣を放つ。
向こうもこっちも移動中なら、そんなに早くは感じない。
当てるのは難しくない!
(何時までもやられてると思わないでよ!)
「ふんむ!」
回転そのままに大剣を叩きつける。
こんな無茶な行動も「姿勢制御」でしっかりと体重の乗った攻撃となる。
攻撃はランポスの鱗を抜いたようで、血を散らしながら、ランポスは弾き飛ばされた。
ランポスはすぐに立ち上がったようだが、血は流れたまま。
(よし! こいつら、そんなに堅くない!)
こっちの攻撃は通じる!
噛み付いてくるギアノスを「回避眼」による攻撃予知線の外に間一髪跳んで避けながら、空中でバランスを取った僕は剣を振り下ろす。
ランポスの首をしたたかに打ち据えた大剣は、このランポスにもケガを与える。
血が飛び散って、白い服に斑点が出来る。
こうなると、この剣の麻痺属性のありがたさがよく分かる。
その威力は、計らずしも自分で確認済み。
斬りつけるごとに相手の動きは鈍くなり、こっちは熟練度アップで動きが素早くなっていく。
一撃で倒せなくてもいい、着実に避けながら当たる時だけ攻撃する!
ガツン! と牙をむき出して向かってきたギアノスに、腰を落として大剣を構え、攻撃を凌ぎきる。
「防御術」もレベルが上がった。
もう体勢が崩れない!
食らえば即死する攻撃だからだろうか、受けるたびに熟練度アップのファンファーレがなる。
そして敵が首を引いた一瞬の隙に、剣を支えていた右手を握りこみ、踏み込みと共に突き出す!
システム補助による不思議な力が体中に漲り、腕を通して相手の体で爆発する。
――――――「崩拳」!
拳に残った感触は、「堅い」、である。
大剣で切り裂けたとしても拳で破壊できるとは限らない。
ブランゴを爆発させた攻撃は、しかし、ランポスには致命打たり得なかった。
だが、隙を作る効果はあったようだ。
僕はランポスの横をすり抜けるように飛び込み前転、横から来ていたランポスを回避する。
「空間把握」と「聞き耳」、ともに良好! 周囲の状況が手に取るようだ!
そして起き上がりざまに、先ほど拳を突き込んだランポスに、剣の一撃。
当たると同時に、雷っぽいエネルギーが迸り、剣の効果が発揮されていることを確信する。
この調子! この調子だ!
そうして、息が切れ始めた頃、ようやく一体を絶命させることに成功する。
だが、僕は膝が砕けそうになった。
≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。≫
20!? たったの!?
このブランゴたちよりよほど強いモンスターたちでも、その経験値はそれほど大きく変わらない。
あわよくば、レベルアップしてくれと、淡い望みをかけていたハルマサの期待はもろくも崩れ去る。
そこで膝を突かないのは、精神力のおかげだろう。
(う、ぉおおおおおおお!)
荒い息をつきながら、ハルマサはランポスに突撃するのだった。
<つづく>
気になるあの子のステータス
ランポス
耐久力140持久力180魔力20筋力150敏捷350器用さ120精神力160
ブランゴ
耐久力110 持久力110 魔力80 筋力90 敏捷30 器用さ30 精神力110
各項目は10~20位の個体差があります。
ハルマサのステ
レベル:5
耐久力:67→116
持久力:139→169
魔力 :16
筋力 :140→178
敏捷 :211→287
器用さ:100→111
精神力:128→152
経験値:178 あと140
変動スキル
拳闘術Lv3 :42 ……8 up
両手剣術Lv3:58 ……30 up Level up!
姿勢制御Lv4:83 ……21 up Level up!
突進術Lv4 :72 ……16 up Level up!
撹乱術Lv4 :97 ……33 up Level up!
跳躍術Lv4 :78 ……14 up Level up!
撤退術Lv4 :85 ……26 up Level up!
防御術Lv3 :46 ……42 up Level up!
戦術思考Lv3:39 ……24 up Level up!
回避眼Lv4 :102 ……26 up
観察眼Lv4 :74 ……11 up Level up!
鷹の目Lv2 :14 ……4 up
聞き耳Lv4 :88 ……20 up Level up!
的中術Lv3 :41 ……14 up Level up!
空間把握Lv3:55 ……37 up Level up!