<106>
「佐藤! 一緒にメシ食わねぇか!?」
昼休みになると剛川君が声をかけてきた。
何時からそんな「気さくな男友達」ポジションになったのか知らないが、悪い気はしない。
でも、僕には隣でチラチラ見てくる人が居るのだ。
「ゴメン、先約があるんだ。」
「む、そうか? まぁ……いいけどよ。」
そう言うと、大きな体を萎ませて剛川君は去っていった。
「ご、剛川さん! ドンマイです!」
「細川か……。お前の顔見ながら食うのは飽きたんだがなァ……。まぁ良い。メシ行くぞ。」
「普通に酷いっす!」
彼らは特殊な関係だなァ……。
ハルマサは、暗い顔をしてため息をついている少女、タケミに声をかける。
「じゃあ行こうかタケミちゃん。」
「へ!? は、はひぃ!」
はひぃて。
「……どうかしたの? ……あ、用事があった?」
そういえば彼女の事情を聞いていない。
タケミちゃんだって用事はあるだろう。
「な、ないけど……先約があるんじゃないの?」
「あぁ……。」
なるほど。
ハルマサは納得し、鞄からお弁当を取り出した。
「この前約束したじゃない。一緒に食べようって。」
「う、うん!」
どうやら一緒に食べてくれるようだ。
そして、定番の屋上にやって来た。
しかし、そこで刺客は待っていた。
「待っていたぞ……貴様が帰ってくるのをなッ!」
【………!?】
夜川くんでした。
眼が落ち窪み、頬はこけ、目が不気味に光っている。
彼の横には明らかに人じゃ無い物がフヨフヨと浮いていた。
ツクン、とハルマサの左手の甲が疼く。
「貴様が化け物になったようだが……俺も人を捨ててやったぜ……!」
夜川君は、ば、と横を指で指す。
「見ろ! この死神を! 俺の寿命と引き換えに呼び出した死神だ!」
【………。】
あの物体からはとんでもない、オーラを感じる。
そして、それ以上の……懐かしさも。
「もしかして……カロンちゃん!?」
【ハルマサ……こんな姿で……分かるのか?】
その声を聞いて、確信に変わったよ!
「ちょっと意外だけど……良い骨格だね!」
【ハルマサ……】
「何をべらべら喋っている! さぁ行け死神よ! あい」
【少し黙っとけぃ。】
ドコォ!
カロンちゃんに鎌で殴られて、セリフの途中で夜川君は気を失った。
彼は何が言いたかったのだろうか。
いや、考えるべきはそこではない。
ついに君の姿が見えたんだね!
ちょっと肉が無いけど、全然気にならないよ!
駆け出そうとすると、タケミちゃんが隣でドサリと倒れた。
「タケミちゃん!?」
≪無理もありません。この娘では、あの神の姿を直視するには精神が弱いかと。≫
サクラの言うことは最もだ。ハルマサだって夢で会う時にカエルの姿でなければならなかったのだから。
ハルマサが手を握ると、タケミちゃんは弱々しく笑った。
「ハルマサ君と……ご飯食べたかったな……」
――――ガクッ!
「た、タケミちゃ―――――――――――――――ん!」
≪気絶しただけです。≫
「あ、そうなの?」
ハルマサは直ぐに切り替えて、フヨフヨと浮いている骸骨に向き直る。
「カロンちゃん。その姿のままだと、周りの人に優しくないよ?」
【ハルマサ…………その女はなんじゃ?】
カロンちゃんが落ち窪んだ眼窩の奥で緑色の光を揺らす。
これは………もしかして嫉妬だろうか。
なんか凄い嬉しいな。
【わ、わざわざ我との絆のある手でそのような小娘の手を握ろうとはの……】
はっ! そういえば最後に手を握って…………離れない! なんだこの力!
タケミちゃん一体何者!?
≪筋力は81ありますね……≫
「本当に何者だよッ!」
剛川君より強いじゃない!(剛川の筋力=48)
【全然呼ばれぬし……もうええわい……!………帰る。】
そう言って夜川の頭を引っつかみ、上のほうに飛んで行く。
しかし、その声に混ざる寂しさを、ハルマサはしっかりと捕らえていた。
「ま、待って! ………クッ!」
このままではいけない! ここで逃がしては、男が廃る!
ハルマサは屋上を蹴り、「空中着地」で追いかける。
魔力が少なく、「風操作」を使えないので全力を出せないのがもどかしい!
――――ドォン!
一歩、二歩……!
「カロンちゃ――――んッ!」
声を張り上げると、カロンちゃんは振り返ってくれた!
【ふ、ふん! 今さら追いかけても、もう遅…………な、なんでその女連れて来とんじゃ―――――!】
タケミちゃんを荷物のように肩に乗せての移動である。手が離れないんだもん……。
【少し信じておったのに………ふぐ……アホォ――――――!】
スピードをさらに上げて飛んで行ってしまう。
何処まで上がる気!? もう空気薄いよ!?
でも、逃がすかぁ―――――――!
伸びろ! 「セレーンの大腿骨」!
ヒュガ!と伸びて、屋上に突き刺さる骨。
反動を受け、爆発的にハルマサは加速する。
「話を聞いて!」
【ぬぁ!】
近くに行って骨を離し、カロンちゃんの衣を掴んで止める。
カロンの飛ぶ力は些かも衰えては居ないが、どうやら燃料が切れたらしい。
ガクン、とカロンのスピードが落ち、ハルマサと一緒くたになって落下していく。
「早く止まらないと、夜川君がシワシワになっちゃってるよカロンちゃん!」
カロンが何かを吸い取っているのだろう。
ヒュウヒュウと息をする夜川は既に皮と骨だけであり、生きているのが不思議なくらいである。
【いやじゃ! 寄るな! 離せぃ!】
「タケミちゃんとは友達だけど……僕は君が好きなんだよカロンちゃん! そんな寂しいことを言わないでよ!」
「ええ!?」
あ、タケミちゃん。起きてたの? というかこの異常事態で寝たフリ出来る君って凄い。
【ほ、本当か……?】
「本当なの佐藤君!? この骨の人が好きなの!?」
【うるさいわ! これはこやつの魔力が低くて……】
「骨でも構わないに決まってる! 僕が好きなのはカロンちゃんの声や、優しさなんだ!」
【!?】
もはや外見なんかどうでも良いやっていう境地に達しているんだよ。
僕も時々ゾンビだし。
落下しつつ、二人の視線を受け止める。
バタバタと服が風を孕む中、タケミちゃんは「そう……」と寂しそうに笑った。
「私ね――――――」
彼女が小声で言った言葉は聞こえなくて、「何?」と顔を寄せると、顔を挟まれ、唇が重ねられた。
「……!?」
「ゴメンね。突然。」
「…………。」
彼女は寂しそうに笑っていた。
そして、空中でハルマサの体をトン、と押す。
バカ! もう地上までほとんど時間が……!
【離せ。その娘、見捨ててやるな。】
「――――――ッ!」
カロンを掴んでいた手を離しタケミの手を掴んだ瞬間、地面が―――――――
――――――ズンッ!
ごばぁ、とアスファルトがめくれ上がり、折れ上がった二枚が、中心のハルマサを叩き潰そうとする。
それを飛び出すことで避けたハルマサは、両手に気を失ったタケミを抱えていた。
「死のうとするなんて、何を考えているんだい君は。」
地面に横たえた彼女に言う。
気を失って聞こえていないだろうけど。
さら、と額を撫でると、タケミちゃんはピクリと動く。
「せっかく生きてるのにね……。」
もったいないよ。絶対。
【……。】
「カロンちゃん。」
夜川君を持ったままのカロンちゃんがフヨフヨと頭上で漂っている。
【……またの。】
「きっと呼ぶよ。召喚も試してみるね。」
【……期待せずに待っといてやるわぃ。】
そう言って、カロンは飛んで行ってしまう。
夜川君、死なないと良いけど。寿命とか言ってたしなぁ……。
彼は何をそんなに僕にこだわっていたのだろう。
つ、とタケミちゃんの頬を撫でる。
「タケミちゃん。お弁当の約束……ゴメンね。」
君にどう接して良いか、よく分からないから。
「また今度ね。」
彼女を学校の保健室に運び、前と同じく適当な場所で弁当を食べて、ハルマサは学校を早退した。
帰る途中でさっき墜落したところに警察とか来ててかなり焦ったが、多分大丈夫だよね?
家に怒鳴り込まれたときのために、何か母さんに渡しておこう。
<つづく>
骸骨姿のヒロインもありだな……。
すげえイチャイチャさせたくなる。イチャイチャというかカタカタというか。