<104>
新しく生まれたカニには、ハルマサと仲良くする気はサラサラ無いらしい。
ガミザミが、ハルマサをガッツンガッツン殴ってきたので、ハルマサはそう思った。
とは言え、耐久力が90万を超えているのに、レベル5相当のモンスターに攻撃されて痛いはずも無く、ハルマサはちょっとぼけーとしていた。
≪……スター。マスター。帰らないのですか?≫
「あ。うん。そうだね。」
あまりにあっけない終わり方をしたので、ボスは一体どんなモンスターだったのかとか、気になるところがたくさん残った。
だが、世の中のことを全て知れるでもないし、こういうものかな、とハルマサは思った。
【ダンジョン入り口】
ハルマサが戻ってきたことをピキーン! と察知した閻魔は、すぐさま飛んできた。
書類仕事から離れたくて仕方ないのだ。
そういう意味では、何度も死につつ、ハイペースで第二層までクリアしてしまったこの少年は、かなり閻魔の助けとなっている。
細身のままだが、筋肉の構成は随分と変化したようだ。力強さが段違いだ。あと何故か半裸だ。
そのむき出しの肩をパンパンと閻魔は叩く。
「よくやったぞハルマサ! 私は嬉しい!」
「そ、そうですか?」
照れている様子を見て、何か違うな、と閻魔は思った。
何が違うのだろう?
……眼か。
そう、瞳の光が違う。
こんなに擦り切れたような瞳をしていたか? もっと前向きな光を宿していたような気がしたのだが。
「何かあったのか?」
「まぁ、色々と。あ、話をするんでしたね。」
「………あとでいい。取りあえず執務室に行く。そこで、お前は少し休め。」
閻魔は手を振るい光を出した。
【執務室】
「カツ丼食うか?」
「あ、すいません。」
なんか閻魔様が凄く優しい。
良いことでもあったのだろうか。
でもお腹減ったな。
カツ丼はきっと美味しくないだろうし……。
「そうだ、2号さん呼んでいただけませんか?」
「む? 別に構わんが。」
閻魔様は、ハルマサの前においてある丼の二倍はあるような器から、もっきゅもっきゅとカツ丼を頬張っていたが、それを飲み下して執務机の伝声管の蓋を開く。
「にごぉ――――――! 直ぐ来い!」
「はいッス。」
間髪入れずに、執務室のドアが開いて、かなり鬱陶しい感じの髪形をした2号が入ってきた。
「ハルマサ君お疲れ様ッス。この剣直して……あれ? ハルマサ君ゾンビになってません?」
2号は驚いたようだった。
「はい、実はそうでして。折角閻魔様にいただいたこのご飯も食べられそうに無いんです。」
「む? そうなのか?」
「あ、ちょっと待って欲しいッス。確かこの辺に解除薬が……」
2号がゴソゴソと懐をあさると、薄汚い小瓶が出てきた。
「はい、ぐいっとやっちゃってください。強くはなるけど、ずっとそれじゃあキツイと思うッス。」
「あ、助かります。」
「いやぁ、あれ条件きついのに良く取得できたッスねぇ。まぁその分強く設定できたんスけど。」
正直、この飢餓感は我慢するのがイヤになるくらいキツイ。
クスリを飲むと、体の中で、何かが変わった。
目の前のカツ丼から凄く良い匂いがするし、閻魔様の甘い芳香が鼻をくすぐる。
人間最高だと、ハルマサは思った。
そして……
「トイレありません?」
「む? お前の排泄機能はもう働いていないはずだが?」
「いえ、ちょっと……」
「ふむ。2号、連れて行ってやれ。」
「………ぅいッス。」
そして軽く吐いた。
吐き気は直ぐにおさまったが、モヤモヤとした黒い煤が肺の奥に溜まっているような、そんな気分は全く晴れなかった。
「ゾンビの時はひたすら倫理観が緩くなるッスから、取り返しのつかないことをやってしまう事も多々あるッス。でも、その責任は全てオレッちにあるんスよ。ハルマサ君が気にすることはないッス。」
2号さんは何となく分かってくれているようだった。
それだけで大分救われるのだと、ハルマサは感じた。
「ほぅ、金貨は全部で712枚か。2号、足りるか?」
「借金を返すには十分過ぎるッスね。寧ろ半分くらいでいけそうッス。ハルマサ君、何か作って欲しいものあるッスか?」
欲しいものねぇ……あッ!
「モンスターボール欲しいです。」
「……まさかポケモンスキルまでゲットしてるんスか?」
「え、ええ。まぁ。」
「ハルマサ君は渋いところを突いてくるッスねぇ………。」
ポケモンは渋いらしい。
「まぁ問題ないッス。材料調達に時間かかるんで、一日くらいかかるッス。借金返済の350枚と、ボール用の金貨100枚貰っていくッスよ。それじゃ、また後で。」
パタン。
2号は執務室を出て行った。
あれ、桃色対策のアイテムは?
そう思っていると、閻魔様がシュッと後頭部にスプレーを吹きかけてきた。
「……? どうかしました?」
「………本当に全く態度が変わらないのだな……。」
「???」
閻魔様はエフン、と空咳をする。
「いや、そうではなくて……これが桃色の縛りを解くスプレーだ。名前は特に無い。」
閻魔様は小瓶を渡してきた。
頭をプッシュすると液が吹き出るようだ。
ラベルにリンゴ味、と書いてあるのはツッコミ待ちだろうか。
「それとだな。現世にお前を送る前に言っておく事がある。」
「はい。」
閻魔様がたたずまいを直したのでハルマサも直す。
「お前が現世で善行を積む必要はなくなった。」
「……は?」
「先日評議会でそう決まってな。取りあえず、人間にかけた桃色を解除すれば良いそうだ。」
なんでまた。
「何時もは来ない最高神が評議会にふらっと現れてな。『今度のダンジョンがかなり難易度高いから、あれクリアしたら許してあげる』と言って全ての議論は終了した。ハルマサを地獄に叩き落すと騒いでいた奴が最高神に心酔しているものだから、もう、鶴の一声という奴だ。」
なるほど……。
「という訳で、現世では純粋に休んで来い。」
「はい。」
「そして帰って来たら私にダンジョンの話を聞かせてくれ。」
「はい!」
閻魔様は、楽しみにしているぞ、と唇を吊り上げて、おもむろにハルマサへと指を伸ばし、前髪を攫う。
「あの……?」
「……なんでもない。取りあえず送るぞ。またな。」
「……?」
閻魔様の声を聞きつつ、ハルマサの意識は飛んだ。
<つづけー!>
これで第二部終わりです。次は現世へ。いい事しなきゃなんて考えてたら作者の頭が破裂しそうだったのでカット。さっさと第三層にいきたいのじゃ!
明日更新するかは、本当に私の気力次第ですね。
感想たくさんありがとうございます。
なんか最近PVの増え方がおかしいし……誰かF5連打したりしません?
>神威が出たのに何故虎砲が出ないしwww
無空波と同じシチュになっちゃうので難しいかと。
>レベル18とかやべえ大ピンチと思ったけど全然そんなことなかったw
ステータス的には十分レベル18ですからね。敏捷はレベル19~20位だし。
>何度かのデスペナのせいでハルマサくんは本来のLVよか弱体化していると思うのですが、それにしてはモンスターとのLV差にみあった強さになってるという気がします。もしかして死ぬ度に敵LVはハルマサのパラメータに対応したLVに割り振り直されるのでしょうか?
特にそういうことはないです。最初にハルマサ君を苛めるつもり満々で大量のモンスターとそのレベルを設定しました。
あとはハルマサ君が勝手に踊ってくれた結果です。ゾンビにならなければもう少し第二層は続いていたでしょうね。
>ハルマサ>>>>>>二層他プレイヤーくらいの実力差がありそうなんだけど実際どうなの?
からめ手には少し弱いですが、まぁそれくらいはありそうです。ゾンビ状態がチートすぎるんですよね。
>2階クリアしたらハルマサ1度1階にいって食い倒れの旅でもするかな?
下手に弱いもの食べたら地雷が爆発するようにしてやったので、食い倒れの旅は予定にないですね。
>崩拳と通背拳の間にいろいろ入れればいいコンボができそうだ
考えましたが、結構むずい。どうしても一歩のコンボが頭に浮かぶ……
>漫画「影技―シャドウスキル―」の主人公の所属する傭兵国家クルダの技で自己暗示してリミッター外して尚且つ、相手にも暗示掛けて弱くすると言う裏設定がある技……特技かな?です
ほほぉ……そのうち読んでみたいですね。リミッターはずしっていう反動がある技とか好きです。
>ポケモン食べれば特性がやばいですよねー。火炎無効とかコンプリートしたら属性攻撃状態異常全無効の化け物がwwww
夢がありますよね。だが、その幻想をうt(ry
>子が生まれるならその子(と金ちゃん)は擬人化すると信じるよ!
擬人化したほうがよかったのかな。巨人族になっちゃうけど。
>産卵が最終イベントとかいいね
完全に思い付きですけどね。MMOってぜんぜんやったことないんですけど、産卵イベントとかそれを邪魔するイベントとかないんですか?
>カロンちゃんと閻魔様はまだかのう……そろそろハルマサハーレムが見(ボソ
ハーレムは……書くのが難しい。どうネタにするかですよね。振り回される主人公は個人的にあまり好きではないですし。
>だから正しいのはテツザンコウ
なるほど。彼はかっこよすぎですよね。惚れる!
>桁が大きくなってきたんでカンマか空白入れるか端数切り捨て表示するかしないと。
ディスガイア風に、「16万」とかにするかもです。まぁシェンガオレンとか億単位ですからね。
>レベルがカンストするのは100くらいかな?その頃にはステータスは億を超えているだろうなぁ
レベル100は、とても描写出来る気がしない。3階まではまぁこのままインフレが続くのですが。
>少なくとも『恋人は不定形生物』よりは随分まともだろうし。
沙耶の唄を思い出した。
それはそれでよくない?
>プライマルアーマー
コジマ粒子はとても危ないとおばあちゃんが言っていました。
>金ちゃんレベルアップでウロコ復活
してますね。体も大きくなっています。そしてフィールドリセットでも消えてません。足りないものだけ補充するのが2層のリセットなので。
>通背拳は拳法の流派名であって技名ではないのサ(鉄拳チンミだと必殺技()笑だけど)
なるほど! 中国武術はいろいろあって難しいです。拳児読んだんですけどほとんど忘れちゃいましたし。参考資料に何か買おうかな。
>お、レベルアップしたということはもう加速も使えるステータスになったのか。
早速使ってへばりました。強いんだから代償もなくっちゃね。
>実は二層のラスボスより、このクエストの方が難しいんじゃね?とか思ったりする。
そうですね。難易度は同じくらいです。パーティで挑めばそれほどでもないって意味で。
経験値はハルマサ内のシステムなので、それがどう判断するかですね。
>ゾンビ化して食べ物の好みが反転してるはずなのに血がまずいって、普段の彼は血を飲んでも特にまずいとは感じないタイプなんだろうか?
作者はあまり感じませんね。それはさておき、きっとすげえ美味いって感じても、彼はまずいと言ったでしょう。その辺の描写が足りませんけど。
>偶然で龍破を発動するのは無理そうな上、風操作のほうが高威力で隙ができにくいんじゃないかなぁ。
実際そうでしょうね。そういうシチュが発生したら躊躇なく使わせますけど。
>この更新速度できちんと過去のネタを拾えるってすごいです 数字が細かいから適当に後付けできないのに、やってくれるぜ
実はそんなにすごくもないです。レベル何ぼでどれくらいのステータスになるかはわかるので、レベル15、6で使えるように設定していただけなんです。
>スカーレット・ニードル
セイントの技は規格外すぎますよね。あれって毒なんですかね? もはや呪いの領域では。
>サクラたん擬人化してパーティに入れてくれたらちゅっちゅちゅっちゅ 閻魔?知るか
移り気過ぎるww
.hackの移り気な夢見人っていう歌詞を思い出した。あれなんて歌だっけ。