<97>
ごんぶとビームの直撃を受けたハルマサだったが、「炎耐性」を持つ彼を炎や熱で殺すのは、割りと困難である。
でも死んでいた。
ラージャンに耐久力を削られまくっていたからである。
でもゾンビ化している。取りあえず安心した。
頭の中でナレーションが響いた。
≪ポーン! 耐久値が0となったため、死亡と判定されました。特性「不朽の魂」が発動。発動時のボーナスとして肉体が再生されます。また、不死人常態となりました。火属性、光属性のダメージが25倍となります。また「桃色トーク」が消失しました。≫
ふぅ、今回はいらない特性が消えて逆に助かったぜ……!
と、そこで気付いたのだが、ナレーションがですます調の、聞きなれた声である。
「あれ? AIサクラの声じゃない?」
≪そうですマスター。≫
思わず呟いた言葉に、返事が返ってきた。
「……会話できたの?」
≪親しみがUPしたので可能になりました。≫
親しみってそういうのなの?
まぁありがたいんだけど。
システムのナレーターと会話が出来るのって、かなり有利になるんじゃない?
今までの疑問が全部解決しそうだね。
「というかひまわりは?」
≪実は、前回セリフを噛んでしまったことにショックを受けておりまして。≫
そういえば噛んでいたね。
≪彼女が立ち直るまで、不肖わたくし、AIサクラが代わりを務めさせていただきます。≫
「へぇぇ……。じゃあ、よろしくね。」
≪は、はいッ! ……あ、いえ、失礼しました。エフンエフン。他にご質問などございますか?≫
そんな常に冷静じゃないといけないことはないと思うんだけど……。
それに質問といわれても……
「おやすみマン取り直したいんだけどできる?」
≪条件が厳しくなるので難しいかと。≫
そうかぁ……まぁそうじゃないと「桃色トーク」も取り直しちゃいそうだから良いと悪いが半々って所かな。
そして質問ではないが、聞いてみたいことはあった。
「あの、聞きたいんだけど。」
≪なんでしょうか。≫
「僕、ラージャンに勝てると思う?」
≪………≫
サクラさんはしばらく黙っていたが、コホン、と一つ空咳をしてこう言った。
≪こういう言い方はあまり好みませんが、あえてこう言いましょう。――――――――楽勝かと。≫
とても勇気の出る返答だった。
「……ありがとうサクラさん。」
≪さ、「さん」づけ!? い、いえ、どもいたあしゃって。≫
噛んでる噛んでる。一体どうしたサクラさん。
「グルォオオオオオアアアアアアアアアアア!」
ラージャンが、2キロの距離を瞬く間に詰めてきた。
だが、その速度は、先ほど感じていたよりずっと遅い。
≪敏捷の上昇は、感覚機器の精度と、知覚を上昇させます。≫
頭の中で、サクラが滔々と喋っている。
ハルマサは、ラージャンの地面を擦り上げるようなラリアットを、正面から受け止める。
≪しかし、筋力の上昇は、その反動を受け止める耐久力とは別のものです。≫
後ろでつっかえ棒にしていた脚が地面を抉って深く刺さり、受け止めた腕から血が吹き出た。
≪現在マスターの筋力と耐久力はバランスが取れていません。力比べは危険かと存じます。≫
「だったら、速さで撹乱して―――――――」
ギ、と地面を蹴り飛ばす。
上昇した敏捷を舐めていた。一気に20メートルは移動する。ピーキーな体だ。
だが、すぐさま足をつき、「空中着地」が発動。
先ほどに倍する速度で折り返し、気付けばラージャンの懐に居た。
ごわごわの剛毛にそっと拳を触れさせる。
「――――――気付かれる前に倒せばいいね。」
≪その通りですマスター。≫
――――――――無空波ッ!
インパクトの瞬間、ぶわり、と自分の拳から風が吹き出たようだった。
ドボォ!と肘まで埋まる右手。
振動が内部をかき回し、ラージャンは大きな口と大きな眼から血を溢れさせ、死んでいた。
引き抜いた手は、見事に潰れていたが、それも直ぐに復元する。
いやぁ、ゾンビ化ってチートだね!
あんなに必死こいて攻撃を防いだラージャンが、全然相手にならないよ。
(そして恒例の――――――――――ッ!)
ハルマサは、極自然な動作で手を合わす。
そして右手はナイフに! 左手はフォーク!
「いただきますッ!」
恒例の食事タイムである。
げへぇ! コイツは食いでがあるぜ!
ムシャームシャー! とコリャウメェ!
≪「概念食い」熟練度が上昇し、レベルが上昇しました。また、概念吸収が発動しました。新しい概念として「黄金の煌毛(コウモウ)」を発現します。≫
◇「黄金の煌毛」
帯電し、黄金色に煌く髪を発現できる。発現中は、雷への親和性が増し(雷耐性100パーセント+雷操作のレベルに5の補正)、持久力の減少速度が5倍になる。
きらめく毛か……早速!
「発☆現!」
発言した瞬間、バチィ! と頭の周りを電光が舞った。
触ってみると、電流で痺れていたときみたいに、髪が逆立っている。
自分では見えないけどバチバチいっているこれは……!
≪スーパーサイヤ人みたいですマスター! しかも2ですッ!≫
アイター! ついにやってしまったんですね! ドラゴンボール来ちゃったよ! 強さの上がり方は何となく似てるような気がしてたけど!
あとサクラさんテンション高いッスね!
好きなんですか!
≪は、はい、実はそうなんです。……お恥ずかしい。≫
全然お恥ずかしくないよ!
女の子でドラゴンボールネタについて来れる子って凄く少ないって聞いたことあるし、誇って誇って!
ていうか本当にAIなのか不安になるくらい人間っぽいねサクラさん。
親しみが湧くからいいけどね!
ちなみに体毛は全て金色になるようだ。あそこの毛も電気で逆立っていて恥ずかしかった。
ていうか今全裸なんだよね。
なんか履く物ないかな。袋を持ち歩くためのポケット付きの奴。
「収納袋」を漁ってみよう。
「収納袋」の中からは色々出てきた。とりあえず美味しそうだった「フルフルの霜降り」を食べつつ探していると、ぶよぶよとした餅みたいな色の布を発見。
これは……フルフルのドロップ、「真珠色の艶皮(エンビ)」じゃないか!
これでズボンを作ったら気持ち悪そうだ……いや、すべすべして柔らかくて気持ちいいかもしれない。
というか美味しそうだなァ……あ、ダメだ! 食べちゃダメだ!
ズボンを……
ズボンを作りました。
「と、あんまり遊んでも居られないよね。」
一瞬クエストのこと本気で忘れていたよ。
危ないな……。
それもこれもこの無限に湧き上がる飢餓感がいけないんだ。
ということにしておこう。
忘れっぽいわけじゃないはずさ!
「聞き耳」で探すと、北から大きなモンスターが近づいてきていた。
ハルマサを一度消滅させ、さらにゾンビにもしてくれたあんちくしょう、グラビモスである。
「遠距離からビーム吐くだけのモンスターだといいんだけどね……。」
舐めてかかったら、一気に炎上しそうである。
炎のダメージ25倍らしいし。
彼我の距離は約200メートル。相手の大きさは約30メートル。
どうしようか。
1番。さっきと同じでいいんじゃね?
2番。こっちも遠距離攻撃だ! 適当にビームとか撃ってみようぜ!
3番。巨大化とかしてみようぜ!
4番。罠とか作って安全にいくぜ!
「巨大化してみたいな!」
≪ポーン! 特技「巨大化」を使用するには、ウルトラマンタイマーが必要です。≫
あれ、ステータスは間に合ってるんだ。ウルトラマンタイマーってどっかで売ってるの?
まぁもともと期待はしてないぜ!
次は、2番! ビームだ!
でもどうやって撃つか知らないから、あの常盤中(だっけ?)の凄い女の子の技を借りるとしよう!
そう、レールガンさ!
「となればサイヤ人になるしかない! 発現!」
バチバチバチッ!
レールガンの原理は簡単なんで覚えているよ!
確か……何とかの左手の法則……右手の……?
ローレンツ力だっけ……?
……。
まぁ、細かいことはおいておこう。
要は、電流が流れると磁力が発生するから、それで飛ばせばいいのさ!
こう伸ばした両手に挟み持った鉱物に、右手から電流を流して、鉱物を通して左手へと循環させます。
雷は魔力で作ってルカら、科学と魔法の融合だね!
こうすると何とか力がいい感じに働いて……鉱物が凄い勢いで飛び出していくはず!
おっしゃぁあああああああ!
電力全開!
「ゆけぇ! レールガッふぅ………ッ! ゴフッ!」
凄い勢いで逆に飛び出した金属塊は、ハルマサを貫いて飛んでいった。
ちょ、メッチャ痛い……。
≪流す電流が逆方向かと……≫
そ、そうなの……?
ごめん。ちょっと痛くて……また今度頑張るよ。
もうサイヤ人も発現終了ね。また明日ー。
……なんか前にもこうして後回しにした特技があったような……。
そして思い出した。過去出来なかったあの技を!
こんなのでした。
≪特技「加速」を使うには、耐久力が159,748足りません。持久力が159,698足りません。精神力が159,447足りません。スキル「風操作」Lv15「雷操作」Lv15を習得する必要があります。≫
ちょっと精神力と持久力と「風操作」が足りないけど、レベルアップしたら結構いけそう!
足りないのは風だけ……会得は近い!
という訳で。
「風を使って……倒す!」
方針は決定した。
<つづく>
まぁゾンビ化したらラージャンは楽勝ですよね。
ハルマサ君の胸の傷はくちゅくちゅしながら治っているので心配無用です。
ハルマサのステータス
レベル: 15
満腹度: 124534 → 126316
耐久力: 252325 → 261687
持久力: 123432 → 125215
魔力 : 209782 → 209782
筋力 : 291909 → 308474 ……☆915421(ゾンビ)
敏捷 : 284137 → 300952 ……☆902855 ……★1354283(腕輪)
器用さ: 276410 → 282238
精神力: 109517 → 113062
経験値: 166398 → 248318 残り:79360 ……81920の経験値を得ました。
○スキル(上昇値の大きい順
概念食いLv14: 75105 → 89932 ……Level up!
拳闘術Lv13 : 38920 → 47832 ……Level up!
金剛術Lv14 : 76640 → 84220 ……Level up!
天罰招来Lv10: 2090 → 9450 ……Level up!前回上げるの忘れてたので。
突撃術Lv13 : 70392 → 76931
撹乱術Lv13 : 69850 → 76320
身体制御Lv14: 86445 → 92273
空中着地Lv13: 73428 → 78721
鷹の目Lv12 : 33382 → 37841
剛力術Lv14 : 97850 → 102234
観察眼Lv13 : 70473 → 74391
的中術Lv12 : 27102 → 30992
戦術思考Lv14: 79845 → 83390 ……Level up!
聞き耳Lv13 : 40983 → 42334
PテイスターLv15: 178890 → 173024
○取得概念
黄金の煌毛
◇「黄金の煌毛」
帯電し、黄金色に煌く髪を発現できる。発現中は、雷への親和性が増し(雷耐性100%、雷操作のレベルに5の補正)、持久力の減少速度が5倍になる。