<5>
鬱蒼と茂る森の中。
「聞き耳」を立てつつ草を掻き分け歩いていくと、耳にチョロチョロと水が流れる音を捉えた。
(水か!)
思わず走り出しそうになる足を抑えつつ(走ったら即座にスタミナが切れる)、僕は音源へと近づいていく。
そしてバサッと草を掻き分けると――――――
確かに水源はあった。
苔むした岩の間から、細くはあるが、絶え間なく水が流れ出て、小さな水溜りを作り、そして水溜りから溢れ出した水は川の基点となってハルマサの来たほうとは反対側へと流れている。
澄んでおり、とても美味しそうな水だった。
しかし、その前に存在する障害。
そいつが問題だった。
「またお前か……」
そう。
またモスであった。
今まで寝ていたのか、寝転んでいたモスはハルマサに目を向けつつ、バッと跳ね起きる。
確実に豚の動きじゃない。
「君は、モスであって、モスじゃないんだね。」
「フゴッ!」
モスはトーントーンとその場で縦に何度か飛んでいる、その高さがおかしい。
優に1メートルは飛び上がる。
こんな機敏に動かれたら、きっと大剣は当たらない。
ボウガンだって散弾くらいしか当たらないに決まっている。
小さな的に、素早い動き。
普通に強敵だった。
もうこのダンジョンにモスは、スーパーモスと呼ぼう、と思いつつ、ハルマサは叫ぶ。
「だが、僕も以前の僕じゃない! かかって来い!」
ハルマサには勝算があった。
前回やられたのは、あまりに早い挙動にも原因があったが、なによりの敗因は驚いて体が固まってしまったことだ。
ならば予想している今は負けるはずが無い!
……そう思っている時期が僕にはありました。
モスはグッと体を沈ませると、次の瞬間、
「な――――――はや―――?」
残像すら残る速度で突っ込んできた。遅れたように地面が弾ける。強烈な力で踏み切った証だ。
(そんなバカな! 前は本気じゃなかったとでも!?)
混乱するハルマサ致命的に対応が遅れ。
またもやアバラが砕ける音を聞いたのであった。
【執務室】
そうして気付けばまたもや閻魔様の前である。
「で、また死んでしまったと。」
閻魔様の鋭い視線が非常に痛い。閻魔様は睨んでいるつもりは無いだろうが、受け取る側の気持ちとして。
「はい……」
しょぼくれる僕を見て、閻魔様は困ったように微笑む。
「落ち込むなハルマサ。レベルはマイナスになってしまったが。すぐに挽回できるさ。」
「ふふふ、泣きそうですよ……」
デスペナルティによるマイナス修正は以下の二つ。
・レベルダウン。それに伴う全ステータス20パーセントダウン(小数点以下切り捨て・最低1ダウン)。
・スキル熟練度ダウン。全熟練度の20パーセントダウン(小数点以下切り捨て・最低1ダウン)。スキルによって修正されていたステータスの再修正。
以上の修正が罹り、ハルマサのステータスは非常に残念なものになっていた。
ハルマサ(18♂)の残念なステータスはこちら。
レベル:-1
耐久力:1/1
持久力:1/1
筋力:7
敏捷:2
器用さ:3
精神力:4
経験値:次のレベルまで残り3
スキル
棒術Lv1 :4.01
スキルが一気に寂しくなった。
「あの、デスペナ厳しすぎません?」
ついに耐久力まで1になってしまった。
今度手の豆を潰したら、それだけで僕は死んでしまうのだろうか。
いや、そんなことはない。
ないと良いなぁ。
「そうは言ってもだなハルマサよ、生き返れるだけで安いものだろう?」
閻魔様はいつの間にか非常にフレンドリーな感じである。
その容姿に心臓をわしづかみにされている僕としても嬉しいことこの上ない。
閻魔様はこちらを見る。
「それで、なんで死んだんだ?」
「…………。」
前回と同じモンスターに即殺された、などと言っても良いものか。
閻魔様に見放されるんじゃないだろうか。
「な・ん・で・だ?」
「ヒィ……!」
プレッシャーをかけるのはやめてほしい。
結局洗いざらい喋った結果。
「なんで同じ相手に負けるんだ。一度食らった攻撃なら避けれるだろう。」
「いやそんな、セイント星矢じゃあるまいし」
だいたい、あの豚もどきはずるいのだ。
ぴょんぴょんと縦への視線移動を意識付けて置いてから、突然、最高速で突っ込んでくるのだ。
いや、勝手に引っかかっただけだけど。
ていうか早すぎるよ豚なのに。初見殺しにも程がある。
……未だにモスにすら勝てない僕は何なのだろう。
あいつは最弱なのに。
このまま負け続けて、その内ステータスオール1とかになりそうだ。
そうなったら僕はカス中のカス、キングオブカスになってしまう。
「ふぐうう、ううぅうう…」
「な、泣くな。」
思わず涙が流れてしまい、閻魔様に心配をかけてしまった。
「す、すみません……グス…こんなカスみたいな人間ですんません…」
「そうネガティブにならんでも」
まぁでもそうだ。
僕の大好きな歌手も歌っているではないか。
泣いたって何も変わらないと。
まぁ実際女性が泣いていれば、心が変わる男性はたくさんいると思うけど、男の僕は泣くだけ時間の無駄なのだ。
しかも閻魔様に迷惑をかけている。
無駄どころか害でしかない。
僕の涙って、僕の存在と同じくクソだな。
僕は唇を噛み締め涙を拭くと、へへ、と無理やり笑いを浮かべる。
「泣いてる場合じゃないですよね。送ってください。何、モス如き、今度は軽く倒して見せますよ」
完全に強がりだったが、そんな僕を見て閻魔様は微笑んでくれた。
「まぁ確かにお前はカスだが、それでも前向きな良いカスだ。お前の姿勢を私は好ましく思うぞ。それじゃあ、行ってこい!」
閻魔様に褒められ(?)て有頂天なっている僕は、閻魔様の細く長い指から放たれるオレンジ色の波動で、またもやダンジョンへと飛ばされるのだった。
バビューン!
「アイルー頼んだぞー! って聞こえてないか。」
【ダンジョン入り口】
さて、ダンジョンの入り口である。
周りは相変わらず一面の草原。
そよそよと優しく風が吹き、空は呆れるほど良い天気である。
今回は穴の上に転移されなかったのか、ダンジョンに入るまで僕は安全なココでいろいろ出来る。
手に豆はない。
相変わらず傷はリセットされているようだ。
ついでに言えば喉も渇いていない。
何が必要か考えて、とりあえず以前取得していた技能を取り直すことにした。
まず素振りから。
2回目の死亡の際、離していなかった骨を振りかぶり、一回、二回、と振りはじめる。
まぁ四回で当然の如く限界が来て、座って休む間は木製の立て看板を凝視する。
≪一定時間同対象を観察したことによりスキル「観察眼」Lv1を取得しました。≫
まずは一つ。
息を吐くと、ハルマサは骨を手に取り立ち上がった。
<つづく>
<6>
骨を振り終えた瞬間、頭の中にファンファーレが響き渡る。曲はもちろんヴィヴァルディの「春」だ。
≪スキル「棒術」の熟練度が5.0を越えました。耐久力、持久力、筋力、敏捷にボーナスが発生します。≫
「ふう……」
結構時間がかかったが、これで以前とっていたスキルは全て取り直した。
おまけに遠くを眺めていた時にスキル「鷹の目」Lv1を取得している。これは単純に目が良くなるスキルのようだ。
■「鷹の目」Lv1
遠くの対象に焦点を合わせる技術。遠くのものをはっきりと見る事が可能となる。スキルレベル上昇に伴い、焦点距離が延長する。投擲、射撃時の命中率にプラス修正。
現在の状況はこんな感じ。
レベル:-1
耐久力:2/2
持久力:3/3
筋力:8
敏捷:4
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り3
スキル
棒術Lv1 :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:1.76
観察眼Lv1 :2.51
鷹の目Lv1 :1.31
聞き耳Lv1 :3.83
祈りLv1 :1.00
何だかすごく強くなったように見える。
全部平均以下なんだけどね。
しかしまだまだ、こんなことじゃ満足しないよ!
僕はこの平原で、持久力や敏捷をあげたいと考えている。
筋力は及第点だが、足が遅いのは致命的である。
走ったらすぐ息が切れるのもまた同じく。
最低でも3くらいは持久力がないと足系スキルを上げることは出来ないと思っていたため、今まで必死こいて骨を振りまくっていたのである。
「棒術」の熟練度5.0で色々ステータスが上がるって知っていたしね。
という訳で、この地で少し走っていくことにする。
まずはダッシュだ。
どのくらいの速度でどのくらい走れるか知っておきたい。
「うぉおおおおおおお!」
結果:小学生並の速度で20メートルほど走ったら、足がもつれてこけた。
下が柔らかい土じゃなかったら、また体力が減っていたかもしれない。
草原でよかった。
あと自分で走っていて思ったが、全力で走ってもやっぱり足は遅い。
走り込みが必要だが、高速で動く技能をとる条件を、今の持久力では満たせないと予想する。
よってまずはスローペースで長く走ることを目標とする。
持久力を上昇させないと。
「よし!」
僕は一つ頷くと元気よく走り出した。
「ヒィ……ヒィ……」
まだ!? スキルはまだ!?
歩いているよりは早いかな? という速度でヘロヘロになりながら走り続ける。
持久力はとっくにゼロだ。
モンハン2Gで言えば、スタミナがなくなってもRボタンを押して走り続けている状態かな。
とても辛くて苦しいです……!
そうなってからどれくらい走っただろうか。
もう思考はまっ白で、頭痛、吐き気、胸の痛み、何故か眼球の痛み。
足は鉛を通り越して泥のように感覚が無く、腕を振るのも諦めざるを得ないような状態となっていた時。
頭の中で音が鳴った。
ファンファーレだ!
≪一定の速度で一定時間走り続けたことにより、「走破術」Lv1を取得しました。取得に伴い持久力にボーナスが付きます。≫
≪持久力が無い状態で一定距離を移動したことにより、「撤退術」Lv1を取得しました。取得に伴い持久力にボーナスが付きます。≫
二つ同時の取得だった。
持久力が上がったことで、体がすっと大分楽になる。
思わず立ち止まった僕がなんとか吐き気をギリギリ堪えられたんだから、大きな変化である。
倒れなかったし。
■「走破術」Lv1
長い距離を走り抜く技術。一定距離以上の移動をする際、疲れにくくなる。熟練に伴い持久力にプラスの修正。熟練者は七日七晩止まらず走り続ける事が可能となる。
■「撤退術」Lv1
逃亡する技術。敵対する対象から離れる際、素早く移動できる。熟練に伴い持久力または敏捷にプラスの修正。熟練者は目にも止まらぬ速度で消え去るように居なくなるという。
頼もしいスキル、なのかな?
よく分からないけど持久力も増えたし、やっと次のメニューに移れるというもんだ。
次は何にしようか。
反復横跳びかダッシュか……
まぁどっちからやっても一緒だと思い、とにかく頑張ってやってみた。
僕はこんなにも頑張る人間だっただろうかと疑問が湧くが、結果がすぐに出るという事実が僕の行動を後押ししたのだろう。
僕は必死に足を動かしていた。
結果、体の中の多大な水分とカロリーを犠牲に、見事ファンファーレが鳴り響き、以下のスキルを得た。
≪一定時間内に一定速度での移動、停止、方向転換が一定回数以上行われたことにより、スキル「撹乱術」Lv1を取得しました。取得に伴い、敏捷にボーナスが付きます。≫
≪一定時間以内に一定速度以上での移動が一定回数以上行われたことにより、スキル「突進術」Lv1を取得しました。取得に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫
■「撹乱術」Lv1
敵を混乱させる技術。敵対する対象を基点とした効果範囲内で、素早く動けるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は残像を残す速度で動き回り、分身したように見えるという。
■「突進術」Lv1
敵に向かっていく心のあり方。敵対対象を基点とした一定空間内で、敵対する対象との距離を縮める際、ひるまずに素早く移動する事が出来る。熟練に伴い、敏捷または精神力にプラスの修正。上位スキルに「突撃術」がある。
「突進術」の素早く距離を詰められるというのはとても有用である。
何故ならダンジョンでの死因は二回とも、素早く距離を詰められた後の体当たりなのだ。
これを軽視するようでは何で死んだのか分からない。
また、ふたつのスキルは、互いを高めあうためさらに嬉しい。
おまけにもう一つ、反復横とびをしている際に「姿勢制御」の熟練度が2.0を通り越して3.0まで溜まったため、持久力と器用さも一つずつ上がった。
特に器用さは重要だ。
走っている際よく靴紐がほどけてたのだが、結びなおす時間が短縮されて単純に助かったのだ。
というかこんなことすらも満足に出来なかった僕の器用さは本当に酷いと思う。
未だに上手く結べないし。
加えて、「聞き耳」や「観察眼」、「鷹の目」も休憩中に使えるため、ぐんぐんと熟練度を伸ばし、中でも「聞き耳」は熟練度が9.0を越えた。
ココまで、特に聴力に変化がない以上、熟練度はスキルに対する経験値のようなものだと判断するのが正しいだろう。
スキルの能力値変化が起こるのはレベルが上がった時だと考えると辻褄が合う。
という訳で10.0を越えた時、スキルのレベルが上がるかどうか少し期待してしまう。
「さて、と……」
いい加減お腹も空いてきた。
まだまだやりたいない感じはあるが、何か今ならモスに勝てる気がするし、とりあえずダンジョンに突入して腹ごしらえだ!
「トリャー!」
僕は威勢良く穴に飛び込むのだった。
<つづく>
<7>
【第一階層・挑戦三回目】
20秒間の自由落下は、まだ慣れない。
というか、いつか慣れてしまう日が来るんだろうか。
なんかいやだなァ。
緩みそうになる尿道を締めていると、落ちてきた勢いが嘘のように、僕はふわりと降り立った。
思い出したかのように重力が襲いくるので少し気持ち悪い。
さぁ、まずはキノコを食べよう。
未だに名前が分かるキノコは少ないが、それでも食べる分には問題ない。
前は青いキノコしか食べなかったが、今回は新たな味にチャレンジである。
目の前にはオレンジ色、黒色、赤色、黄色、紫色、灰色、など様々なキノコが並んでいる。
特に灰色は何か変なオーラが漂っているように見える。
よく見ようと目に力を込めると、脳の裏でポーン、と電子音っぽい音。警告音である。
≪対象の情報を獲得するには、スキル「観察眼」Lv2を取得する必要があります。≫
「観察眼」スキルが不足しているということか。
今、「観察眼」Lv1スキルは8.93。
まだまだ届きそうに無い。10.0になってもLv2になるか分からないし。
それ以外のキノコで、名前が分かるのはオレンジ色のものだけだった。
≪【キノコキムチ】:寒さを緩和し、スタミナを少量回復するキノコ。≫
オレンジ色のキノコは鼻を近づければなんとも懐かしいというか芳しい匂いがする。
ニンニクと唐辛子の匂いである。
「………はむ。」
口に入れた途端、舌の上で鮮烈な味が踊り、匂いが鼻へと突き抜ける。
コリャあ……ウメェ!
懐かしくも美味しいキムチ味だった。
キノコキムチって加工品だと思うんだけど……まぁいいか。ほんと上手いなコレ。
死んでからまだ二日もたってないだろうけど、なんだか、故郷の味を食べているような懐かしい気持ちになる。
あー、家に帰りたくなってくるなァ。
頑張ろう。
その前にもう一つ……ウマイ!
「さーて水、水。」
キムチ味のキノコを食べて、さらに喉が渇いたハルマサは、「聞き耳」を立てつつ移動を開始する。
前以上に集中し、今度は寝息すらも聞き逃さないと、気合を入れての移動である。
そろりそろりと、地面を注意深く観察しながら進んでいく。
ココでこけて耐久が残り1とかになったら泣くに泣けないしね。
そうして10分ほど、ノロノロと進むうちに、まず「聞き耳」、やがて「観察眼」スキルが10.0を突破。
これまで、熟練に伴ってステータス変化を起こさないスキルは熟練度が溜まっても何も起こらなかったが。今度ばかりは違うようだった。
≪「聞き耳」の熟練度が10.0を越えました。「聞き耳」のレベルが上がりました。レベルアップに伴い、効果範囲が増加します。≫
≪「観察眼」の熟練度が10.0を越えました。「観察眼」のレベルが上がりました。レベルアップに伴い、情報を取得できる対象が増加します。≫
辺りが一気に騒がしくなったようだった。軽く混乱しつつ、目を瞑って集中すると、遠くに水の流れる音を発見する。
そして、また獣の気配がそこに居るのも。
しかし、今度は鉢合わせるような真似はしない。大きく迂回して、中流あたりで喉を潤せば良いのだ。
正面切って戦うだけがダンジョン攻略じゃないはずだ。
そう思い目を開ける。自然とうつむいていたのだが、地面を見て、えらいことに気付いてしまった。
「……ッ!!」
カラスの足跡を何十倍も大きくしたような窪みが、植生に隠れるように左のほうから右のほうへ延々と続いている。
しかも通り道にある大木の根が踏み潰されている。
相等重いということか。
どれだけ大きいんだよ。
ここは大型の魔物の通り道だということか。
というかイャンクックな気がする。モンハン的に。
急いで離れなければ。
くそう、なんで僕はキムチなんか食ったんだ。
匂いで追いかけられたらどうする。
あの怪鳥の速度がモス以下なはずがないだろう!
「聞き耳」全開だ! いや、全開もクソも無いんだけど。集中していかないと!
その時遠くでワッサワッサと翼で空を叩く音がする。
次いでズシーンという音。
(何か聞こえたー!)
今、絶対怪鳥が着地した音だよね!?
しかもこっちに近づいて来てるだと!?
ど、どうしようどうしよう! って決まっているよ、逃げるんじゃイ!
さぁ逃げよう! そら逃げよう!
今こそ「撤退術」を見せる時! 光の速度で走ってやるぜ!
「うぉおおおおおおお!」
僕は用心とかそういうのを全て放り投げて、怪鳥らしきモンスターから全力で距離をとるのだった。
そうして今。ハルマサは全力で隠れていた。
大きな葉っぱの下に、身を伏せて。
多分キムチの匂いのする口を両手で必死に抑え、鼻息も出来るだけしないように、震えながら隠れているのだ。
そのすぐ10メートルほど先。
「ブルフゥ! ブルフゥ!」
(おっとこヌシきた――――――!)
巨大なイノシシが鼻息荒くキノコを食べているのだ。
だだだ誰か助けて――――――!
あれ? おっことヌシだっけ?
<つづく>
ステータス
佐藤ハルマサ
耐久力:2/2
持久力:8/8
筋力:8
敏捷:6
器用さ:4
精神力:6
所有スキル
スキル
棒術Lv1 :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:3.56
突進術Lv1 :1.00
撹乱術Lv1 :1.00
走破術Lv1 :3.22
撤退術Lv1 :2.74
観察眼Lv2 :10.2
鷹の目Lv1 :7.12
聞き耳Lv2 :10.3
祈りLv1 :1.00
装備
ジャージ上下 ……お腹の辺りが少し破れている。
運動靴 ……ナイキ。通気性は良い。
棒状の骨 ……バット的な大きさ。まだ何にも叩いていないので新品(?)同様。
<8>
怪鳥から逃げ出した佐藤ハルマサは逃げた先で衝撃の出会いを体験する。
そこに居たのは、ハルマサの仇敵・ハイパーモスよりもよっぽど強いモンスター。
茶色い剛毛に身を包み、立派な牙を二本口元に携えたイノシシでした。
(こ、このモンスターは! おっとこヌシ、じゃなくて、ドスファンゴ!?)
いや、もしかしたらブルファンゴかも知れない! けどこんな8メートルもあるようなモンスターがブルファンゴだったら僕は泣く!
現在進行形で泣きそうだけど。
ちなみに体長8メートルくらい、という情報は「観察眼」が教えてくれました。大きさを見て取ることは、対象のレベルが高くても出来るらしい。
こうしてみると、僕の目は一気に便利になったな。
まぁそんなことはどうでも良い。
僕は緊張で暴れ狂う心臓と、荒くなりそうな息を必死に抑えつつ、音がしないようにゆっくり鼻で呼吸して、ドスファンゴの巨大なケツがフリフリ振られるのを見ている状態だ。
すごく苦しい。
肺が! 肺が!
どっかから、颯爽とヒーローが現れないかなァ。
そしてドスファンゴをズバッとやっつけておくれよ!
……まぁこれが後に考えればフラグだったんだけどね。
とにかく、気付かれたら即死亡、の未来がはっきりと見える現状である。
もしかしたら逃げられるかもしれないが、出来ればこのままやり過ごしたい。
少し開けた場所で、キノコ食ってるドスファンゴを見つつそう思っている時。
唐突に頭の中でファンファーレ、ヴィバルディの「春」が流れた。
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫
「…………ッ!」
危うく鼻汁噴出すところだった。
全く心臓に悪い。
……しかし、ファンファーレである。
かくれんぼが得意になる系のスキルが手に入ったのかもしれない。
さっきから結構な時間隠れてるしね!
かなり期待しつつナレーションを待っていると、聞きなれたお天気お姉さんの声ではない、陽気な声が響く。
≪一定以上の脈拍で一定時間口を開かなかっことにより、特性「桃色鼻息」を取得しました。取得に伴うボーナスは特にありません。興奮しまくりの中、鼻息だけのお澄まし顔でよく頑張った! 感動です! そんなあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!≫
なれよー! と叫んでナレーションは途切れた。
いつもと声もテンションも違うナレーションである。
そして特性というのは初めてだ。
僕はいぶかしみつつスキルを確認する。
□「桃色鼻息」
異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性を虜にするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。
(いらなぁあああああああああい!)
説明もテンションがおかしかった。
なんともふざけた説明と内容だ。
しかし特性について少し理解した。
どうやら体の性質なんだろうな。「特『性』」って言うくらいだし。
説明がハジけているのは……多分ネタだからだよね。そう思いたい。
特性が全部こんなんだったら泣いちゃうかも。
しかし新しく得た特性。
この状況では鬱陶しいことこの上ない。
フェロモンとか、余計に気づかれやすくなってない!?
鼻息で呼気すると、意味不明な化学物質(フェロモン)が体から発せられ、口で呼気すればキムチの香りが飛散する。
絶体絶命である。
取得した特性で無駄に追い詰められる佐藤ハルマサ(18歳)。
その時、もう一度ビバルディの「春」が脳裏で鳴り響く!
(こ、今度こそ! まともなの! 頼むからまともなの来てくださぁい!)
祈るハルマサに、頭の中でナレーションはかく語る。
≪敵対する対象を基点とした空間の一定範囲内で、一定時間移動せず、また攻撃を受けなかったことより、スキル「穏行術」Lv1を取得しました。取得に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫
(き、キタぁ――――――――!)
涙が出るほどうれしいとはこういうことを言うんだね!
早速確認だ!
■「穏行術」Lv1
気配を隠す技術。対象による索敵に引っかかりにくくなる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「暗殺術」がある。
なんか肌の色が変わったような……若干黒くなった? まさかカメレオン的な技術だろうか。
それにしても、敵の攻撃範囲内だからかもしれないけど、凄い勢いで熟練度が上昇している。
あとまぁ、あのイノシシ、僕より確実に強いしね。そのせいかも。
「観察眼」で詳しく見ようと思ったら≪ポーン≫て弾かれたし。Lv5は必要なんだって。
そんなことを思いつつも、僕は息を潜める。スキルのおかげか、緊張感を受けつつも息がそれほど苦しくならない。
スキルってやっぱりチートだぜぇフゥハハー!
まぁ、浮かれてたら、即☆殺されるんだけどね!
ていうか誰か助けて……
そんな感じで、現実逃避したり、愚痴を零したり、息を潜めたりしながら数十分。
(何時まで食べてんの!? ねぇ!? ドスファンゴさーん!?)
ドスファンゴは、未だにケツを振っていた。
食べているのはキノコからその隣にあった雑草類に変わっている。
モシャモシャと美味しそうに食べちゃってもぅ……
しかし、「聞き耳」立てつつ、ドスファンゴを「観察」している上に、息を潜めて「穏行」している状態が続いたおかげか、熟練度がハッピーなことになっていた。
特に前二つは、入り口の草原で使っていた時とは、熟練するスピードが全然違う。
やはり危険な場所でこそ、熟練度は上がるのだろうか……
という訳で現在のスキルたち(抜粋)。
「穏行術」Lv2 :24.3
「観察眼」Lv3 :30.5
「聞き耳」Lv2 :22.1
「穏行術」上がりすぎだよ! レベル上がっちゃってるし! 嬉しいから良いけど!
レベルが上がった「穏行術」は、やっぱり肌の色に現れてるみたい。
さらに黒くなってるんだよね。大きな葉っぱの影に隠れるみたいに。
カメレオンになっちゃったぜ! でもこれって服着てたらあんまり意味なくない……?
まぁそれよりも精神力アップの方が嬉しい。
ステータスのプラス修正は1.0上がるごとに行われるから、いまじゃあ精神力が30とか半端ないことに。
大人3人分ダヨ! 無駄に心臓強くなっちゃったな……
この状況でもドキドキが抑えられてきたよ!
おかげでさっきから呼吸が楽です。
今なら痴漢されても、やめて下さいって言えるかも。
なんか僕やたらと狙われるからな……電車内ではモテモテです。僕の尻が。そんなにプリプリしてるのだろうか。
それはさて置き、「穏行術」に加えて、「観察眼」もレベルが上がったみたいです。
30.0越えた瞬間ファンファンーレが鳴ったよ。
よく見えるようになりました。今ドスファンゴが食べてる雑草には、軽い止血の効果があると見た! って具合に。
僕もう野生で生きていける子になってしまったよ。
耐久力2しかないから基本戦略は「命大事に」だけど。
こんなどうでもいいことを考えられるほど、ある意味状況は安定していた。
僕が下手に動かなければ、ドスファンゴはそのまま去っていくんではないか、という期待も大きくなり始めた。
まぁそんなことはなかったんですけどね。
最初に異変を捕らえたのは、僕の耳ではなく、ドスファンゴだった。
不意に頭をあげるドスファンゴに危機を感じた僕は、耳に意識を集中する。
すると、聞こえるではないか。
ワッサワッサと死の羽ばたきが!
あああ、ヒーローに来て欲しいとか言っちゃったから!
いや、言ってないけど思っちゃったから!
とんだダークヒーローが現れたじゃないかァ!
心の中で数十分前の自分に錯乱パンチを食らわせる僕の上に、遥か上空から舞い降りるうす赤い怪鳥。
「ピェエエエエエエエエエエエエ!」
密林の支配者、イャンクック先生が優雅かつ迅速に舞い降りてくるのを、身を隠していた葉を吹き散らされあっけなく穏行を破られた僕は、呆然と眺めているしかないのだった。
あ、これは死んだかな☆
<つづいて>
ステータス
佐藤ハルマサ
耐久力:2/2
持久力:8/8
筋力:8
敏捷:6
器用さ:4
精神力:30
特性
桃色鼻息
スキル
棒術Lv1 :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:3.56
穏行術Lv2 :24.8
突進術Lv1 :1.00
撹乱術Lv1 :1.00
走破術Lv1 :3.22
撤退術Lv1 :2.74
観察眼Lv3 :30.7
鷹の目Lv1 :7.12
聞き耳Lv2 :22.6
祈りLv1 :1.00