いろんな人のダンジョンssに触発されて、私も書いてみることにしました。
主成分は「勢い」で出来ているssです。
※ 主人公のテンションの高さが鬱陶しいかもしれません。
※ 主人公の頭の悪さが鬱陶しいかもしれません。
あと、チートだと思ってたんですけど、それは作者だけの勘違いでした。
ここは1レス目です。
第三部(109~)からは2レス目に移しました。
では以下より始まります。1~4話です。
※誤字多すぎだろって思って第一部をちょっと(というかかなり)修正しました。
<1>
僕は死んだ。あっけなく。
ゲームをしていたら目がすごく痛くなって、頭痛もしてきて、肩こりとかやばくて、寄生獣とか飛び出してくるんじゃないかってくらい痛くて……
気付けばゲームをしていた時のまんまの格好(ジャージ)で、でっかい机に座る閻魔様の前に立っていた。
「佐藤ハルマサ(18)よ。貴様の人生は誰も幸せにせず、社会に貢献をしたわけでもなく、努力して目標を達成したことも無い。つまりはとても残念な人生だった。」
「いやあの、のっけから傷つくんですけど。」
閻魔様は女性で、とっても乳がでかい。長い前髪に隠れがちな、ふっくらとした唇と、切れ長の瞳が扇情的だ。
「む……そうか。無様な姿を晒すことで、優越感など、他人の暗い欲望を満足させたことはあったな。失敬失敬。」
「いや、ほんとに失礼ですよね!?」
「ふ、ついついやってしまう私の悪い癖だ。許せ。」
むん、と胸を張る閻魔様。思春期の少年としては揺れる胸に目が行ってしまう。
「さて、私の胸ばっかり見ているハルマサよ。」
「は、はい!」
そういうことは分かってても言わないで欲しかった!
僕の気持ちも知らないまま、閻魔様は真剣な顔をする。
真剣な顔も美しい。
「貴様の判決は当然『地獄行き』」
「…………ですよね。」
「と言うわけでもない。」
「え!?」
フェイントとかヤラシイなさすが閻魔様!
閻魔様は嫣然と微笑む。
「貴様は何も功を成していないが、これと言って罪も無い。どちらに行くかは私の胸一つ、と言うところだ。」
「……そうですか。」
「そんな貴様にチャンスを与えよう。」
「チャンス?」
閻魔様は机の端から、紙を一枚取り上げると、こちらに渡してきた。細かい字で色々書いてあるが、一番上にポップな字体で目立つ一文があった。
「『ダンジョン探索への参加者募集』……?」
「うむ。」
閻魔様は長い赤髪をサラリと揺らしながら頷く。
「このダンジョンをクリアすれば、貴様を天国に行かせてやろう。」
「ダンジョン……?」
「実は最高神のジジイの趣味がダンジョン製作でな。」
「神様とかいるんだ……」
「何、閻魔たる私も居るのだ。神が居ても可笑しくはあるまい。権限を振りかざしよって忌々しいジジイだがな……」
ため息を吐きつつ頭を振る閻魔様。
閻魔様は確かに威圧感とか存在感とか凄いものがあるから納得できるけど、神様とか言われても……ぶっちゃけウソ臭い。
「……で、神様がなんでダンジョンとやらを作るんですか?」
「趣味もあるが、それ以上にすこぶる暇らしくてな。」
神様なにやってんすか。もっと地上に奇跡振り撒いてくださいよ。
「で、新作のダンジョンが出来たばかりのようだ。約200年ぶりの新作だが、今度のダンジョンは貴様ら人間の作り上げたものを盛り込んだと言っていた。難易度が非常に高いらしい。」
「はぁ」
「貴様は運が良い。ちょうどダンジョンが出来たところに来るなんてな。ダンジョンに挑めるなど……羨ましい! クソ、私も有給を使い切って居なければ……!」
どうやら閻魔様は雇われらしい。机を叩いて悔しがっている。
「えっとその、ダンジョンができていなかった場合どうなったんですか?」
「その仮定は意味が無い。貴様はダンジョンに挑む事が決定している。」
「いや、あの聞くだけでも。」
閻魔様は、ふん、と鼻を鳴らす。
「天国にも地獄にも適さないものは、面倒くさいので基本的に地獄行きだ。」
あー。地獄行きだったんだ。セーフセーフ!
………でも、もしかしたら地獄って大したことのない場所かもしれない。
落語でクリーンな地獄が出てくる話もあったし。
「あの、ちなみに地獄ってどんなところですか?」
ん? と閻魔様は右眉を上げる。
「人間が良い感じに酷いところを想像していたんでな。それに則って100年ほど前に大改装した。血の池でおぼれ続けたり、針の山を歩き続けたりできるぞ。行きたいのか?」
「いえいえいえいえいえ。」
ダンジョンあってよかったー!
神様ナイス!
安堵しつつ、僕はもう一度紙を見る。
『ダンジョン探索への参加者募集!』
・全10階層からなるダンジョンを踏破し、最奥にあるお宝を手に入れよう!
・意欲のある人なら誰でも歓迎!
・挑戦者の負傷、死亡、その他に対して、神様は一切の責任を負いません。
こんな感じの事がつらつらと書いてある。
そして最後、枠で囲った中に、奇妙な生物の絵がCGっぽく書いてある。
絵に矢印が引っ張ってあり、こんな魔物が出るよ!と書いてあった。
その生物を、僕は見た事があった。
「………アイルー……?」
「貴様知っているのか!?」
「わっ!」
唐突に閻魔様が立ち上がり、胸倉を掴んできた。ふんわりと柑橘系の匂いがする。ハルマサは否応無く鼓動が高まっていく。
こんな美しい上に良い匂いまでさせるなんて!
「あ、ええ、知ってますよ。ゲームに出てきました。後ろ足で立って、言葉を喋るネコです。」
「なん……だと……?」
そう言うと、閻魔様は手を離し、顎に手を当てて「バカな…しゃべるだと…?」などとブツブツと一人の世界に入ってしまう。
僕はとても手持ち無沙汰だ。
閻魔様はしばらくブツブツ言っていたが、一つ頷くと、こちらを見る。
「ハルマサよ! 貴様に頼みたい事がある!」
「……はぁ。」
「このアイルーとやらを捕獲してきてくれ!」
え、と思った。
何でアイルーを? というのと何で僕が?と言う疑問がわく。
「この絵を一目見た時から心奪われた! そして心底悔やんだ。なぜ、なぜ有給が残ってないのかと……!」
閻魔様は拳を震わせていたが、こちらをギラリと睨みつけると、人差し指で僕を指差す。
「だが、そこにこの魔物の正体を知るお前が現れた! しかもちょうど貴様は、罪も功も無いため、天国にも地獄にも送らなくて良い人材! これは貴様に頼むしかあるまい!」
「そ、そうですね。」
テンションたけーと思いつつ、気圧されてついつい頷いてしまう。
僕なら、僕みたいな貧弱なボウヤには絶対頼まないんだけどな、とも思った。
「さぁ行け! ハルマサ! ダンジョン制覇者に、始めて人類の名を刻んで来い!」
まぁ、なんとなくその時嫌な予感はしたのだけど、何かを言う暇も無く、『ダンジョン探索への参加者募集』の紙を持ったまま、僕は意識を失った。
そして目が覚めたら、地面にぽっかりと開いた穴、『ダンジョンNo.23』と書いてある立て看板、それ以外は見渡す限り草原、という場所に居たのだった。
<つづく>
<2>
目が覚めたら、草原でした。
すげぇ良い天気。超快晴。
でも僕の心は暗雲立ち込める酷い有様だった。
だって誰もいない。
閻魔様ー!
閻魔サマー!?
もっと説明とかぁー優しさとかぁー!
しっかりたくさん欲しかったぁー!
思い切り叫んでみたが、開けた空間に僕の声はあっという間に拡散して消えた。
寂しい。
寂しくて思わず立て看板(木製)に話しかけてしまいそう。
もしくは立て看板が話しかけてくれないかな。『オッス!オラ看板!』みたいな。「見たら分かるよ」って返すのに。
「それにしても、ここがダンジョン……?」
立て看板に書いてある数字と、自分が持っている探索者募集のビラに書いてある数字は確かに一致している。
しかし。
底の見えない落とし穴にしか見えない。
もしかして飛び降りなければならないのだろうか。
というかもっと説明とかないのだろうか。
いくらなんでもコリャ無茶だ。
あ、でも良く見たら奥のほうに光が見えるような……良く見えないけど。
むーむー唸りつつウロウロ歩き回っていた僕は、足を滑らせてあっけなく穴に落ちた。
【第一階層・挑戦一回目】
落ちた先は密林だった。
半分意識を失いつつ、また、密かにちょっぴり漏らしつつ。
僕は20秒ほどのフリーフォールの後、叩きつけられてグシャア、とかならず、地表付近で何故か失速。
ふわりと降り立ち、地面にしっかり立つことが出来ていた。
足が子鹿のように震えているが、まぁその辺はどうでもいい。
生きているって素晴らしい。
一頻り生の実感をした僕は、あらためて辺りを見渡した。
THE・密林とでも言おうか。
鬱蒼と草木が茂り、毒々しい色の花や、キノコが群生していたりする。
虫がほとんど飛んでいないのが救いと言えば救いである。
熱帯気候のようで、蒸し暑い。
ギャアギャアと甲高い声で何かが叫び、そこかしこで草木が揺れ動く。
遠くには潮の音さえした。
穴から落ちてきたはずなのに何故か太陽の光も感じられる。
不思議な場所だったが、神が創ったのであれば何でもありか、と無理矢理納得した。
なんだか夢の中のようにも思える。だが、雑多な匂いや音を感じた脳が、いやがおうにも現実なんだと叫んでいた。
「あ、そうだ。モンスター出るんだった。」
ふと思い出した。
モンスターが出るという意識を持てば、この密林の怖いこと怖いこと。
視界を遮る草や葉がそこらに生い茂り、逆に足元の草や枯れかけの枝は、こちらの場所を宣伝するかのように音を出す。
手元でクシャクシャになっていた紙には、階層ごとの大まかなコンセプトが書いてある。
第一階層から第三階層はテーマが『モンハン』だとか。
ちなみに第一階層は下位の村クエ、とかゲームをやりこんだ後が見える分類がしてあった。
同階層の中でも、奥に行くほど手強くなって来るらしい。
モンスターが出てくるんだろうか。
まさか、リアルでモンハンやるハメになるとは。
死亡フラグが「コッチにおいでYO!」と言っている気がする。
さっき聞こえた鳴き声って、もしかしたらランポスとかかもしれないし、そうであった場合、勝てる気が全くしない。
木に登ったら逃げられるかなァ。そうだと良いなぁ。
急速に不安になってきた。
未だに実感が湧かないが、ここに突っ立っていても不安が増すだけのような気がする。
とにかくまずは何か使えるものを……武器を探そう。
モヤシの僕が素手でうろつくには、この密林は怖すぎる。
武器に使えそうなもの……どこかにないか……?
目を皿にして、慎重に歩くこと十数分。
ガサリと草が揺れるたびに心臓が縮まる思いがする。
そうしてギャアギャアと叫ぶような声は近づいて来ているようないないような。
今の僕は、手ぶらである。
そして忘れていたけど裸足である。
格闘技のかの字も知らない僕が、今現在肉食のモンスターと出会って、生き残る確率は実に低い。
また、その前に毒っぽい草とか踏んであっけなく死にそうだ。
精神的に酷く疲れる。
すごく帰りたくなってきた。
くそ、何か、何かあって……!
出来るだけ土の部分しか踏まないように歩くことさらに十数分。
キノコとか、草とか色々あったが、素手で触っても良いものかどうか判断がつかないため放置。
そして大木の下で、半ば土に埋もれるようになっている白いものを見つけた。
「骨?」
触ってみると、手触りは固く、サラリとしている。
祈るような気持ちを込めて引き抜いてみる。
ズル、ズル、と抜けたのは長い骨だった。
「ははは! やった!」
バットくらいある骨だった。
嬉しさのあまり小躍りする。
ゲーム的には『棒状の骨』とかに該当するのではなかろうか。
60センチほどの長さは取り回しに適し、硬質な手触りとズシリとくる重さは力を込めるに申し分ない。
何という安心感。今ならいじめっ子たちにも立ち向かえる気がする。気がするだけだけど。
しかし声を上げたのは失敗だった。
禍福はあざなえる縄の如しとは上手く言ったもので、骨という幸運を手に入れた僕にもさっそく不幸がやってきた。
モンスター襲来である。
ガサガサと茂みが揺れる。
あたりに漂い始める獣臭が、獣の襲来を告げる。
しまったと思った時にはもう襲い。
思わず喉の奥で小さく悲鳴が漏れる。
いつの間にか10歩も離れぬ位置にモンスターの接近を許していた。
背中にコケを生やした豚。
頭はずんぐりと大きく、体は標準的な豚のサイズ。
短い蹄で地をかきつつ、モンスターはこちらを威嚇する。
「フゴッ、フゴッ」
こいつは―――モス。
「モスか……焦らせないでよ。」
ふいぃ、と額を拭う。
モンスターハンターの中で、僕が知る限り最弱のモンスター。
何故か怒っているが、それが何だというのか。
足が短いこいつなら、僕は簡単に逃げられるはず。
目の前で鼻を鳴らしてこちらを威嚇しているモスを見ていると、僕の心にムクムクと湧き上がるものがあった。
こいつくらいなら、と言う気持ちである。
(モスくらいなら、僕にも倒せるんじゃないか?)
何を隠そう、モンハン2Gにおいて、村クエ上位のガノトドス2匹討伐で躓き、攻撃力&防御力32倍のチートプレイに走ったハルマサだが、ハンターのようにモンスターを真っ向勝負で倒したいという気持ちは少なからず持っているのだ。
そして目の前の最弱を僕は見る。
こいつの攻撃は走って、体当たりするだけ。
しかも足が遅い。体が小さい。
ならばサッと避けて、手に持つ頼もしい骨で殴りつけてやれば良い。
(なんだ、簡単じゃないか!)
僕はニィと笑うと、骨を構え、叫んだ。
「さぁ来い!」
だが、僕は2秒後に驚愕する。
なんとあのモスが! 足の短いあのモスが!
「ピギィイイイイイイイイイ!」
「な―――はや―――?」
すごく足が速かったのだ!
ドパァン! と爆発的なスタートダッシュを切り、突っ込んでくるモス。
地面を抉り返しながらの驚異的な加速で瞬く間に距離を詰め、対応できない僕へと飛び上がり、
「がふぅ!」
衝突。
体の中でバキバキと骨が折れる音がする。
(こ、こんなのってないよ……)
弾き飛ばされた僕は後ろの大木へと叩きつけられ、後頭部を強打した。
そうして。
「おかえり。早かったな。」
「……!?」
目が覚めた僕は、机に座る閻魔様の前に立っていたのだった。
<つづく>
<3>
閻魔様の前に立つ僕は、薄汚れた格好で、手には骨。
どこの浮浪者だと聞かれそうな格好である。
触ってみると、さっき潰された僕の腹はなんともなくなっている。
傷が跡形も無く消えていた。
それはさておき、僕は閻魔様に聞きたい事があった。
「あの、なんでまた僕ココに?」
「死んだからだろ。」
閻魔様はこちらを見ずに書類にポンポン判子を押している。
「もう死んでたんじゃ……?」
「ん? ダンジョンは生きている者しか入れないからな。サービスで生き返らせてやっているんだ。お前はまたすぐ死んだようだがな。」
判子を置いて、閻魔様はこっちを見た。
「で、アイルーいたか?」
「いえ、あの、見つける前に僕が死んじゃいまして。」
「………そうか。」
残念そうな顔をする閻魔様に胸が痛くなってくる。
「ま、他の奴とは違って私が協力するお前は、なんと死に放題だ。これは物凄い特権だぞ? 何回でも挑戦できる。そんなの私だって無理だ。羨ましくて仕方が無いな。」
「そ、そうですかね……」
僕は何回挑戦しても、モスに瞬殺される自信があった。
心が重たい。
蹲ってしまいたいが、そうして閻魔様の不況を買った場合、すぐにでも地獄行きになる予感がする。
ダンジョンも地獄みたいなもんだが、希望がある分マシだろう。
一重に僕が今立っているのは、まだ見ぬ地獄への恐怖からなのだった。
まぁそれはさておき、気になる事がある。
「というかアイルーってどうやって連れてこれば良いんですか?」
今回入ってみて分かったが、ダンジョンの中から戻ってくるのは難しい。
頑張ってイャンクックとか飼いならせばあの落とし穴から脱出できるかもしれないけど、飼い犬にも手を噛まれる僕にモンスターテイマーの才能があるとは思えない。
「む? そうか、言ってなかったな。実は神の作るダンジョンには法則性があってな。」
閻魔様が言うには、一階層をクリアするごとに、入り口へと帰ってこれるアイテムを入手できるらしい。
僕がダンジョンから出てきたら、閻魔様には分かるそうなので迎えに来てくれるとのこと。
「ていうか一層をクリアできそうに無いんですけど……」
言ってて情けなくなるが、これは言っておかねばなるまい。
あそこに放り出されたってまたモスに会えば即座に死ぬだろう。
あの階層で一番強いのがモスであれば問題ないのだが、第一層は村クエの下位にあたるそうだからそれも望み薄である。
そうであれば、何かしら対抗手段がほしい。
閻魔様も協力してくれるって言っているし。
僕は、訥々と、最弱のモンスターに一蹴されたことや、それ以上強いであろうモンスターには確実に手も足も出ないであろう事を閻魔様へと伝える。
すると閻魔様はふ、と笑う。
「正直な奴だな。だが、心配はいらん。もともと人間にはダンジョンは荷が重いものだ。それを加味して、貴様には生き返らせた時に特別な術式を組み込んである。」
「術式、ですか?」
嗅ぎなれた匂いがプンプンしてくるのを僕は感じていた。
「その名も、『レベルアップシステム』と『熟練度システム』だ!」
そう、僕の大好きなチートの香りだった。
レベルアップし、強くなる。
色々な技能を習得し、さらに熟練し強くなる。
閻魔様が説明してくれたのは簡単に言うとこのようなシステムだった。
とにかく二つのシステムを組み込まれた僕の身体能力は、数値に直すことができるようになっており、閻魔様によって紙に書き起こされた数値は以下の通りである。
レベル:0
耐久力:2
持久力:1
筋力:3
敏捷:3
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り5
熟練度は割愛。
システムを組み込まれたばかりなので、全ては等しくほぼゼロ。
前回生き返るときに組み込まれたため、ひっそりと気配を殺すようにダンジョンを歩いた結果が反映されて、少しだけ穏行スキルと歩行スキルが上がっていたのかもしれないが、デスペナでそれもパー。
ちなみにレベルを除いたステータスの全ての数値は、成人男性の平均を10とした時の値である。
「お前弱いなー。」
「…………。」
一番高い精神力でも成人男性の半分とか。
なんて打たれ弱く折れやすい僕の体と心。
ちなみに各項目は
耐久力……どのくらいまで我慢できるか、という指標。HPと守備力を合わせた感じだろうか。
持久力……連続して物事を行う際、どれだけパフォーマンスを持続できるか、という指標。
筋力………全身の筋肉の強さの平均を示す指標。量ではなく、質。
敏捷………身軽さ、素早さを示す指標。移動だけでなく腕を振る速度などにも影響する。
器用さ……手先や体の動かし方がどれくらい上手いか、という指標。また、技芸をどれだけ上手くこなせるかという指標。
精神力……恐れに対する心の強さを示す指標。集中力などにも影響する。
こんな感じらしい。
「ていうか僕のレベル0ってなんか新しいですね。普通1から始まるものだと思ってましたけど。」
「ああ、お前死んでしまったからな。一つ下がっているのだ。」
「………えっ?」
死んだらレベルが下がるようだ。
今回はレベル1の状態からレベルダウンしてレベルゼロ。
おかげで元々低かったであろうステータスが残念なことになっているらしい。
「賢さとかはないんですか?」
「賢さとか(笑)。お前、頭の出来は人に頼るもんじゃないだろう。自分で努力しろ。」
そうですけど。なんか納得いかないな。笑われたし。
「それでハルマサ。やる気が出たようだから、もっとやる気が出るようにしてやる。」
「どういうことですか?」
「うむ。お前がアイルーを連れてくる事が出来たら、一つ、お前の願いを叶えてやろう。私の力が及ぶ範囲だがな。」
いつの間にかお前呼ばわりになっているのは、親愛の証か、ただの下僕扱いになったのか。
まぁどっちでも良いんだけど。
僕は閻魔様に、とてもとても気になっていたことを何とかする機会をもらうことにした。
「それなら、僕の住んでいた家に返していただけませんか?」
「生き返りたいのか? それはちょっとな……」
「いえ、一日でも、半日でも良いんです」
家に帰ってちょっと作業できる時間があれば良い。
何故なら、僕のパソコンのハードディスクをどうしてもクラッシュしたいからである。
そして床下に隠した宝の数々も処分したい。
パソコンにはパスワードをかけてあるし、床下の宝も早々見つからないとは思うが、見つかる可能性は何時だってある。
それに、母親に別れを言いたい気持ちもある。
閻魔様は少し意外そうな顔をしていた。
「そんなに現世に執着があったのか?」
「ええ、どうしてもやらなければならないことがありまして。」
力強く言い切ると、閻魔様は興味深い、とでも言うように目を細める。
「罪も功も無いお前のような人間は、現世への執着は無い物と思っていたのだが、そうでもないのだな。」
閻魔様は、ぎし、と背もたれに身を預ける。
「ふむ。ではこうしよう。貴様が一層クリアするごとに一日、貴様を現世に帰してやる。これでどうだ?」
「え、えと、嬉しいんですけど……」
そう何度も帰されてもする事がなさそうなのだが、どうしよう。
というか死んだはずの人間が度々現れては僕の家族も困るのではないだろうか。
「死んでる人間が何度も帰ったって仕方がないですよ」
「ん? 恐らく死亡扱いにはなっていないぞ。お前をダンジョンに送った時に、生き返らせたため、肉体はこちらに引っ張られている。今、お前は死亡ではなく失踪扱いだろうな。」
「し、失踪!?」
僕は間違っても家出するような子どもではないし、多分部屋にはつけっ放しのプレステ2が置いてある。
母親にとって謎過ぎる状況だろう。
死んでいるならともかく、居なくなるだけだったら中途半端だ。心配させてる気がするなァ。
第一層のクリアを早急に目指さなければならない。
閻魔様にアイルーを献上し、母さんの混乱を解くために。
確かにやる気は出たのだった。
「じゃ、行って来い。」
「ま、待って下さい!」
閻魔様はあげ掛けていた手を下ろす。
「あの、靴とかもらえません?」
「なんだ。そういうことなら早く言え。」
そう言って閻魔様は指を鳴らす。
「え? ……おお!」
気付けば僕は靴を履いていた。
すごいな閻魔様。本人に気付かせず靴を履かせるなんて。
靴は運動靴だ。
素足で履いてるから違和感あるけど。
「お前の靴っぽいのを持ってきてやった。これで良いか?」
「は、はい!」
「じゃあ行って来い!」
ビューン!
とかそんな感じで閻魔様の手からオレンジ色の波動が飛び出し、僕は意識を失った。
迷宮探索リスタートである。
<つづく>
<4>
【第一層・挑戦二回目】
今回は直接穴の上にでも転移してきたのか、気付けばあたりは密林だった。
相変わらず、蒸し暑い。
僕は、遥か頭上に見える入り口の穴確かめた後、少し場所を移動した。
もしかしたら他の探索者が降ってくるかもしれないからだ。
鬱蒼とする密林の中で、少し開けた場所を見つけた。
大木が倒れており、それに巻き込まれて周りの気が倒れた結果できたと予想できる空間である。
「はぁ……」
僕はそこにたどり着くまでに体力を消耗し尽くしていたので、倒れている大木に腰掛けて休憩を取る。
ただ歩いただけなのに、持ち歩いていた骨が重いし、肺も喉も横っ腹も何故か頭も痛い。
さすが持久力1である。幼稚園児以下じゃないだろうか。
一頻り呼吸を整えた僕は、立ち上がり(その際立ちくらみがしたが踏ん張った)、この場所に来た目的を果たすことにした。
目的は、戦いに役立つスキルの習得。
どうやったら手に入るかわからないので、適当に色々やってみることにしたのだ。
チートは大好きなので、期待が高まり、やる気は満々だ。
ちょっと位の苦しさなら我慢できる気がする。
そして最初に選んだのは簡単な運動。
すなわち素振りである。
「ふん! ふっ!」
ブンブンと野球のバットの持ち方で素振りをする。
こんなモヤシの僕でも、昔は草野球に参加した事がある。
三振して、相手側のピッチャーに自信をつけさせただけだったが、その後悔しくて、バットの持ち方くらいは調べたのである。
まぁ、野球には二度とお呼ばれしなかったので意味のない行為ではあったが、人生何処で何が役に立つかは分からないものだ。
骨をバットのように持ち、振る。力強く、体重を乗せるように。
しかし、やる気溢れる心と違い、僕の体は貧弱そのもの。
バットを振る度に体は流れてしまう。
二回振ったら息が切れ、三回目には汗が噴出し、四回目には肩が外れそうになる。
もうちょっと頑張れよ僕の体……!
流石、レベルマイナスは伊達じゃない。
モスに瞬殺された時と比べてもさらに弱くなっていると確信できる。
しかし、頑張らなければ、死に続けて弱くなり続けるだけである。
その内筋力が衰えまくって呼吸も出来ずに、死に続けることになるかもしれない。
なんという地獄。
しかし、振り続けることでその地獄スパイラルから逃れ出る事が出来るかもしれないのだ。
それでまぁ、休み休み振り続けていると、突然脳裏にファンファーレが響いた。
聞いた事がある曲だ。
……高校のチャイム代わりに使われていた……えーと、ヴィヴァルディの「春」の一節か。
頭の中で響くっていうのが気持ち悪いな。
ファンファーレに次いで、頭の中に、聞き取りやすく綺麗な声が響く。ニュース番組のキャスターさんみたいな声。
≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 長物を一定時間内に一定回数以上強振することにより、スキル「棒術」Lv1を取得しました。取得に伴い筋力にボーナスが発生します。≫
おおお!? 何かキタ!
不意に手に持つ骨の棒が軽くなる。
うお! 何だコレ!
数時間つけていたパワーアンクルを外したような感覚だ!
しかもそれがずっと続くとは!
これが筋力アップの恩恵か!
しかも何だか骨が手に馴染む。
本当にスキルを得たみたいだ。
どうやら当てずっぽうだったけど上手く行ったらしかった。
初心者に優しいシステムだなァ。
「ふふふふ! 今なら、素振りが10回連続でいけそうだー!」
初スキルである。
テンションが高くなるのは仕方がないだろう。
「ふん!ふん!ふん!……ふんっぐ! ……はぁ、ちょっと、ハァ、休憩……」
しかしダメだった。
調子に乗って振っていたが、持久力は変動していないので、すぐにバてる。
記録は変わらず四回である。
おまけに手首をくじきそうになった。
だが、スキルを覚えたことで、テンションが上がっていたのだろう。
僕は集中して骨を振り続け、頭に二回目のファンファーレが響くのはそう遠い時間ではなかった。
≪「棒術」の熟練度が2.0を越えました。熟練に伴い筋力にボーナスが発生します。≫
骨バットを振り続けてどのくらい経っただろうか。
「棒術」Lv1スキルの熟練度が5.0を超えた時に気付いたのだが、自分のステータスの見方を発見した。
なんか、こう自分の頭の中を目で見るような、そんな感じである。
で、熟練度アップはしっかりと反映されており、以下のような状況となっている。
レベル:0
耐久力:2/3
持久力:3/3
筋力:9
敏捷:3
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り5
スキル
棒術Lv1 :5.03
姿勢制御Lv1:1.12
筋力は「棒術」Lv1スキルが1.0上昇するごとに1あがり、さらに5.0になった時は、耐久力・持久力・筋力・敏捷にボーナスがついたのだ。
また、同じ姿勢をとり続けたことにより取得したスキル、「姿勢制御」の取得時のボーナスが持久力アップであったのも嬉しい。
一心不乱に振り続けてきたわけだが、なんと筋力は平均に届きかけている。
スゴイ進歩である。
体重を乗せた一撃が放てるようになっているのが自分でも分かる。
まぁそれでも素振りは20回もしたらバてるのだが。
筋力の上昇に伴って発覚したのが、筋力は素振りに使わないところの筋力も上がっているということである。
全体的に筋力が無かったもやしの僕が、今や筋力だけは大人の人とタメ張れる。
見た目が大して変わっておらず、少し筋肉がついたかな、というくらいなのにスゴイ進歩である。
耐久力が落ちているのは手が豆だらけになっていることを反映しているのではないだろうか。
手に豆が出来ただけで、HPの3分の1が減るなんて、流石僕である。
もしかしたらお腹が減って喉が渇いているので、そのせいかもしれないけど。
そしてステータス画面で視線を下にずらせば、スキルも見る事が出来るようだ。
■「棒術」
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱えるようになる。
■「姿勢制御」
姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。上級スキルに「身体制御」がある。「よろめき」に弱耐性。
以上のように大まかな内容が分かる。
「棒術」スキルも5.0ときりが良いので、そろそろ違うことをしたい。
というかお腹減った。
しかし、そこらに生えているキノコなんかは食べたくない。
モンハンシリーズには、結構恐ろしい効果を持つキノコがたくさん出てくるので、どうも尻込みしてしまうのだ。
「これとかは多分いけると思うんだけど……」
目の前にあるのは薄っすらと青いキノコ。
おそらく「アオキノコ」であると予想できる。
モンハンシリーズでは薬草と調合することで回復薬になるという、貧乏ハンターには欠かせないキノコである。
でも、怖くて手が出せない。
もしこれが、毒入りでも、僕には判断できないのだ。
うーむ、うーむとキノコを見て唸っていたら、頭の中でファンファーレが響いた。
≪一定時間同対象を観察したことによりスキル「観察眼」Lv1を取得しました。≫
「新しいスキルか!」
■「観察眼」Lv1
対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、情報を取得できる対象が増加する。
都合いーなー。助かるけど。
キノコを見てみると早速効果があるようだ。
≪対象の情報を取得しました。
【アオキノコ】:増強作用を秘めたキノコ。食べれないこともない。≫
おお、一応食べれるようだ。ありがたい。
そのままアオキノコの隣のシイタケっぽいキノコを見てみると、頭の中で警告音が響いた。
≪ポーン! 対象の情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv2が必要です。≫
そうですか。
レベルってどうやったら上がるんだろう。
というかなんで見ただけで情報が……
不思議で仕方ないが、このダンジョン自体が不思議の塊なのでもう気にしないことにする。
諦めこそが適応への近道なんじゃないかな。多分。
では早速。
アオキノコを毟り取り食べる。
「いただきます!……ムグ………………味がしないな………」
すごく塩がほしい。
網と火があれば最高だ。
キノコを5つほど土を払い落としつつ食べたところで、今度は喉の渇きが気になりだした。
水……どうやって探せば良いんだ?
地面を見ても分からない。
上を見上げても分からない。
観察眼なんて見つめてただけなのにスキルが発生した。
だったら、他にも何か適当にやればスキルが発生しないかと色々試行錯誤する。
雨乞いスキルとか無いかな、と思いつつと祈ったり踊ったりしてみたところ、「祈り」Lv1と「舞踏術」Lv1を得て、精神力と敏捷がそれぞれ上昇した。
それは美味しかったが、雨乞いは出来なかった。
それどころか、「雨降れやぁ!」と叫んだところ、
≪特技「雨乞い」を使用するには、レベルが10足りません。魔力が900足りません。器用さが1997足りません。精神力が1994足りません。スキル「舞踏術」Lv9、スキル「神卸し」Lv9、スキル「水操作」Lv9、スキル「風操作」Lv9を取得する必要があります。触媒「雨の結晶」「雲貝」が不足しています。魔法陣を作成してください。≫
以上のナレーションが頭に響いた。
なんか色々足りないことはよく分かった。
しかし「雨降れ!」って叫ぶだけで発動するなんて。
と言うかスキルじゃなく「雨乞い」って特技だったんだ。
特技って何だろう。
しかも魔力も使う。
魔力って僕には存在しないけど、このステータスの方式だから、大人の平均所持魔力の90倍もの魔力を使って、さらに色々触媒やら何やらを使わないといけないのか。
雨乞いって大変だね。
ため息をつきつつ、そういえば何かここは周りが静かだなァと思い、そして気付く。
「そうか、音だ!」
という訳で、遠くの音に気を配る。
これで、さっきの「観察眼」と同様、音に関する何らかのスキルが出るはず。
さっきから遠くでギャアギャアと甲高い声がしていたのでちょうど良いと思い集中してみた。
そうして3分くらい経っただろうか。
水探しに使えそうなスキルがやっとでた。
≪一定時間、同音源について注意を払ったことにより、スキル「聞き耳」Lv1を取得しました。≫
■「聞き耳」Lv1
一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。
「これは……使える!」
水探しにも使えるし、何より索敵に使える事が嬉しい。
このスキルは有体に言って耳が良くなるスキルらしい。
聞き流していた音も、はっきりと聞こえるようになった。
今なら後ろからの奇襲にも驚かないだろう。
避けれるかどうかは別にして。
音に集中すると、せせらぎの音こそ拾い上げる事が出来なかったが、前方、後方、左方に動く獣の気配を感じる。
やはり便利だ。
思わずニヤリとしつつ、僕は敵の居ないであろう右に向かっていった。
<つづく>
現在のステータス
佐藤ハルマサ(18歳♂)
レベル:0
耐久力:2/3
持久力:3/3
筋力:9
敏捷:4
器用さ:3
精神力:6
経験値:次のレベルまで残り5
スキル
棒術Lv1 :5.01
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:1.13
観察眼Lv1 :1.09
聞き耳Lv1 :1.12
祈りLv1 :1.00
■「棒術」Lv1
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱える。
■「舞踏術」Lv1
踊りの技術。体を動かし喜怒哀楽などを表現できるようになる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。熟練者は、踊りで言葉さえも伝えることが可能である。
■「姿勢制御」Lv1
姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。上級スキルに「身体制御」がある。「よろめき」に耐性が付く。
■「観察眼」Lv1
対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、情報を取得できる対象が増加する。
■「聞き耳」Lv1
一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。
■「祈り」Lv1
神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。