海鳴市から転移して、目を開けると、青空がマーブル模様でした。
……どこ、ここ!?
『ようこそいらっしゃいました。ここが私、【愚者の聖杯】の生まれた世界……【パンゲア】です』
それを聞きながら、周りを見渡してみる。
空は先ほども言ったように、青系のマーブル模様。
大地はむき出しの土の道と、整然と整えられた芝生。
道の先には、ひときわ存在感を放つ神殿がそびえたっている。
……そして、恐ろしいことに。
「……もしかして、この大陸……浮いてないか!?」
『ええ。半径50kmの円形浮遊大陸です』
狭っ!?
たったそれだけしかないのか、この大陸。
……地平線や水平線もないし、おかしいと思ったら。
「じゃあ、あの神殿だけしかないのか、この世界」
『そうですね。……後ろを向いて、少し進んでください。大陸の端がありますよ』
言うとおりに進んでみると……わお。
そこから先が崖みたいになっていて、下には、空と同じマーブル模様が広がっている。
……ただし、下の方は赤系のマーブル。
『天の青は神聖と生を、地の赤は邪悪と死を司っています。……世界として崩壊する前は、もっと広い大陸だったのですが』
黒聖杯曰く。
この世界に、人類は存在しないらしい。
それは、人間だけでなく、エルフやドワーフといった亜人も、狼男やリザードマンといった獣人も。
天使や悪魔も存在せず、ただ、生と死、神聖と邪悪がせめぎ合い、周囲360℃を占め、浮遊大陸だけが漂う世界。
それが、現在の【パンゲア】の実情だそうだ。
『実質、マスターはこの世界の王になったわけです。……一人ぼっちの王様ですが』
「……まあ、それも悪くないよ。ちょっとだけ寂しいけど」
本当は、ちょっとどころじゃないが。
……ここから、ほかのいろんな世界にいけると考えれば、本拠地としては妥当なところ。
むしろ、最高の条件じゃないか?
なにせ、この世界にほかの要素が入り込む余地はない。
魔術協会は地球から別世界に出れないだろうし、管理局もこの世界には手出しできないそうだ。
……俺の知らない高度な文明があるのかもしれないけど、今のところは大丈夫のはずだ。
『さっそく、神殿をご案内しましょう。向かってください』
「了解だ」
神殿に住むとか、どこの神様だよ。
……まあ、力だけは神様も同じなんだけど。
『あ、それと、私の本体が安置されている【聖杯の迷宮】は、あの神殿の地下にあります。迷宮内には普通にモンスターが徘徊していますので、一人で入らないようにお願いしますね?』
こらこら。
さっきと言ってること違わないか?
この世界に、生物はいないんじゃなかったのか?
『いないのは【人】に分類される知的な生命だけで、生物自体は存在しますよ。バクテリア、プランクトンといった微生物はもちろん、細菌やウィルスといった悪性の病原菌。草花の発育に欠かせない益虫や、その餌になる虫。……この大地を生かす要素は、一通り備わっています。そして、迷宮のモンスターは、これらとはまた毛色が違ってきます』
虫に少し反応したけど、そこはまだいい。
モンスターは毛色が違うって話だが。
『迷宮に住むモンスターは、この世界に流れ込んでいる【人の悪意】が具体的な形を持ったものなんです』
【パンゲア】という世界は、他の次元世界や平行世界とつながっている。
その繋がりは、本当に薄く、どんなに高性能な機器でも認知できないパイプだそうだが、そのパイプから、いろんな物が流れ込んでくる。
その大半が、【人の想い】だそうだ。
【愚者の聖杯】が起こす奇跡や、俺の【力】の源は、その【人の想い】を汲み取って精製された力が元だそうだ。
が、【人の想い】にはいろいろある。
純粋な願いだけならともかく、欲深い悪意だって存在する。
その【人の悪意】が具現化し、意思を持ったものがモンスターとして、迷宮内を徘徊しているという。
『根源が【人の悪意】のせいか、モンスターの種類も人の考えたものが元になっています。ゴブリンしかり、ワーウルフしかり、ゾンビしかり』
もちろん、地下5階以降になれば、ドラゴンや巨人、悪魔や吸血鬼といった凶悪なモンスターも存在するそうだ。
そして、総じて、迷宮への侵入者に容赦がない。
『彼らは、侵入者を【餌】としか捉えていません。【人の悪意】で生きているので、人そのものはご馳走なんですよ』
餌を狩るために、全力で襲ってくる。
だから、容赦は存在しないし、こちらも、容赦してはいけない。
なお、以前にもその迷宮に立ち向かった契約者はいるらしい。
「あれ? お前の願いを叶えようって人、いないんじゃなかったのか?」
『ええ。その人は【強い力】を願い、私はそれを与えました。それで、力を試したいと願ったので、この迷宮を紹介しました』
で、見事に迷宮内のトラップに引っかかって死んだらしい。
強い力を求めたのに?
『落とし穴にはまって、その底に配置された槍に串刺しになりました。……強い筋肉を与えたんですが、20m落下の末の槍の先端は、防ぎきれなかったようです』
……それは死ぬって。うん。
てーか、力=筋肉って、おかしくないか?
『マスターには解りませんか? 筋肉のはちきれそうなあの肉感、鍛え上げられた背中の肉質、ぴくぴくと脈打つ上腕二等筋……おおっと、想像しただけでよだれが』
「キモい」
『ちょっと!?』
こいつ、筋肉マニアだったのか。
俺はマッチョに興味はないので全否定で。
背丈はほしいが、暑苦しい胸板には用はないのです。
……で、目の前には、大きな神殿と、その中に入るための扉があるわけなんだが。
「……おい、黒聖杯? この世界に、人って居ないはずなんじゃなかったのか?」
『いませんでしたよ。マスター以外……いつの間に』
その扉の傍に、倒れている人の姿と、周りの雰囲気とは思いっきり真逆な機械の姿があった。
人の方は女性らしく、長い黒髪が広がって、うつぶせに倒れている。
機械の方は……なんじゃこれ?
標本? 人間の? ……幼女?
「おーい。生きてるかー?」
とりあえず、女性のほうに呼びかけてみる。
抱き起こすと……何、この格好。
胸元広げて、お腹が見えるデザインの黒いドレス。白い肌に、へそが見えててエロい。
で、顔は真っ青で……今にも、血を噴いて死にそう。
てか、重病人!?
「とにかく、どこか寝かせてやれる場所だな……黒聖杯!」
『ええ。寝室に運びましょう。先導します』
手元から離れ、ふわふわ浮かんだ黒聖杯が神殿の扉を開ける。
……ずいぶん重そうな扉だったのに、えらく簡単に開いたな。
神殿内に入っていく聖杯に遅れないように、女性を背負って後を追う。
「……あれぇ!?」
神殿の中を見て、アホが出す声を出してしまった。
外観に反しまくって、扉の先にはとても近代的な玄関ホールが姿を現した。
あれだよ、ちょっとした資産家が趣味で作るこだわりの屋敷ってやつ?
……外観、古代ギリシャ風味だっただけに、この超ギャップにはびっくりだ。
『マスター? 変な声出してないで、こっちです』
「お、おう……納得いかねー」
玄関ホールの奥から姿を見せる黒聖杯。
それを追うと、両開きの扉の前で止まった。
聖杯が軽くあたると、自然に扉が内側に開き、中は寝室になっていた。
壁に簡単な装飾が施されていて、ベッドもキングサイズの贅沢なものだ。
……ここ、神殿だよねぇ?
「ま、まあいいか。先に、この人だ」
ベッドに女性を寝かせ、様子を見る。
息が荒く、苦しそうに顔を歪めている。
……病気だったら、下手な魔法は使えないな。
とりあえず、体力を回復して、抵抗力を上げよう。
「じゃ、早速……【五点星法陣・肉体の癒し】」
円の中に五芒星を描き、対象の体力が戻るように【力】を込める。
【星法陣】に難しい術式はいらない。
ただ、陣を敷き、その効果を願うだけだ。
願い方しだいで術の効果が変わってくるので、正確に願わないといけないのが難点だが。
イメージを失敗すると、とんでもないことになる。
……俺は、転移系でこのイメージにミスすることが多かったりする。
「……」
とにかく、術は完成。
女性の寝息が安定していき、表情にも苦しさがなくなった。
意識はまだ戻らないが、先ほどよりは大分ましだろう。
「よし。じゃあ、次だな」
『表の生体ポッドですね』
あ、あれそんな名前なんだ?
俺はてっきり標本かと。
『……間違いではないのが痛い所ではありますがね』
「は?」
その、生体ポッドとやらは【力】で浮かせて、寝室とは別の場所に持っていく。
なんでも、魔法の実験を行う部屋だったそうで、床には奇怪な形の魔方陣が描かれている。
五芒星でもないし、六芒星でもなく……なんだ、これ?
波打つ螺旋? トリックアートかこりゃ。
『で、この少女ですが、どうも生命活動が止まってますね。普通に死体です』
「……やっぱ標本じゃないか」
標本と一緒にいたってことは、あの人が持ち主?
……幼女愛好家の上、死体愛好家?
なにそれ、こわい。
『生命活動は止まってますが、肉体は綺麗なものですよ。蘇生してみますか?』
……それは俺も考えた。
けど、ね。
「死んでるんなら、起こすようなまねしちゃ駄目だよ。誰かに願われたんならともかく」
死んだものを生き返らせる。
それは、とてもすばらしい奇跡。
そのはずなんだが、どうしても、食指が伸びない。
だってねぇ……
人殺しが、甦りを手伝っちゃ駄目だよねぇ。
向こうの世界で、俺が殺したクラスメイトたちに、なんて詫びればいいんだか。
「さて、とりあえずこれは置いて、彼女の介抱をしようか。死んでる人間より、生きてる人間だよ」
『……そうですね』
何か言いたそうな黒聖杯は無視して、再び寝室へ。
部屋に入ると、黒髪の女性は起きていた。
上半身を起こして、こちらを見る。
……あれ? なんか、あのポッドの中に入ってた少女の面影が……
「……ここは、どこ?」
何か疲れたような声が、耳に届く。
体調は戻ったようだが、それでも、辛そうだ。
何しろ……目が、死んでる。
「ここは、【パンゲア】って呼ばれる世界の浮遊大陸。……と、言っても、俺も今日来たばっかりの所なんだけどね」
「……パンゲア? ……あの、アルハザードではないの?」
は? アルハザード?
聞き覚えがないんだが。
「少なくとも、その名前は聞いたことがないな。……黒聖杯ならわかるかな?」
ひょっとしたら、【パンゲア】の施設の中に、そんな名前の場所があるのかも。
ああ、それと、一つ聞いておかないと。
「それで、一つ質問だけど、あなたの傍に落ちてた生体ポッド、あれ何?」
こっちは軽い気持ちで聞いてみたんだ。
本当に。
でも、彼女にとっては、軽くないことだったらしく。
「……あなた。アリシアをどこに連れて行ったの!?」
彼女の背中に、何か雷が発生するのが見えたよ?
え? ひょっとして、怒ってる?
「あ、うん。今、別の場所に……て、こらこら!」
ベッドから降りようとした彼女を押しとどめる。
……さっき背負ったときも思ったんだけど、彼女、大分軽い。
体に力も入ってないみたいで、俺を押しのけようとしてるのに……それが、意味を成さない。
俺の胸に手を置いて、もがいてるだけになってしまっている。
「落ち着いて寝てろって。今のところ、あれには手を出してない。別の部屋に置いているから、安心してくれ」
「お願い、アリシアに、会わせて」
や、会わせろって、あんた。
「おい、現実が見えてるか? あの少女は死んでる。生命活動が止まってるんだぞ? ただの死体だ」
「死んでないわ。アリシアは死んでいない! アルハザードの秘術さえあれば、アリシアは蘇るのよ!」
死んでた目に、狂気が宿る。
この目を、俺は、知ってる。
……絶望してでも、生き抜こうとした、俺の友人と同じ目だ。
彼女にとって、あの少女……アリシアは、自分の命よりも大切なわけだ。
それが、死体であっても。
……ひょっとして、母親なのかな?
「わかったよ。あんまり動かせたくないんだけど……」
必死になって俺に掴みかかってくる彼女を、横抱きに抱える。
それによって、暴れていた彼女が、どうにか落ち着いてくれた。
「その、アリシアだっけ? 彼女のところに連れてくから、暴れるなよ?」
「……わ、わかったわ……」
何で人の顔見て、すぐに目を逸らすんですか、あなた。失礼な。
さて、黒聖杯、向こうの部屋に置きっぱなしなんだけど、まだいるかな?
彼女を抱えたまま、魔法実験室に移動。
中に入ると。
『……あ、マスター』
「おう。……まだ、その子見てたのか?」
生体ポッドの女の子の前に、見上げるように佇む黒聖杯。
……そういえば、黒聖杯の本体も、彼女と似たような状況で迷宮の奥に安置されてるんだっけ。
「……アリシア……」
『目が覚めたんですね。……この子は、あなたの?」
「娘よ。……私の研究の被害者よ……」
ああ、科学者なのかな、彼女は。
彼女は、ポツリポツリと話し始めた。
名前はプレシア=テスタロッサ。
魔導師らしい。リンディさんと同じような人かな?
20年以上も前に、彼女は自身の研究を失敗し(魔導炉の研究らしく、それが暴発したそうだ)アリシアを亡くした。
アリシアをよみがえらせるために、さまざまな研究に手を出し、人造魔導師開発にも手を出した(クローン人間のことらしい)。
けれども、どれも上手くいかず、彼女の世界でおとぎ話とされていたアルハザードの存在を確信し、ロストロギアを使ってそこに行こうとした(ロストロギアで次元振を発生させ、その歪みから行けるらしい。……とっても危険に聞こえるんだけど)。
で、それを実行した結果が、別の場所に落ちてきた。と。
『アルハザードですか……聞いたことがありませんね。少なくとも、私の知りえる情報ではないです』
「……そう……」
彼女の目に、暗闇が落ちる。
本気で絶望したような瞳。
……どうしたもんかな、これ。
『そうですね……プレシアさん? 娘さんを甦らせたいんですよね?』
「……当たり前じゃない。その為に、私は悪魔に魂を売ったのよ……」
非道なこともしてきたんだろうなぁ。クローンとか、扱い酷そうだし。
と、言うか黒聖杯? その流れってもしかして。
『どうせ、悪魔に売った魂なら、もう一度だけ、願ってみませんか? アリシアさんの復活を』
きっとそうなると思ったんだよ。
それやるの俺だろ?
「アリシアを……甦らせることができるの!?」
『当然ですよ。肉体のほうは何とか水準値の状態ですし、魂魄の方も大丈夫のようです。……後は、願いの力しだい……どうしますか? プレシアさん?』
はたから聞いてると悪魔の取引のように聞こえるな。
けど、あいつは善意で言ってるんだよなぁ……
「……願うわ。アリシアの復活を。私にできること、捧げるものがあるなら、何を持っていってもかまわない。私の力でも、魔力でも、体でも命でも! お願い……アリシアを、甦らせて……!」
……いや、代償は、取らないけどね……
力強く、そして、悲痛に願った彼女は、そのまま蹲って泣き出してしまった。
黒聖杯はそれで満足したようで、
『ではマスター? 始めましょうか?』
とか、気軽に言ってきやがった。
俺の心情軽く無視だよね? それ。
「お前な……死者蘇生、俺がやっていいと思ってるのか? 俺は、人殺しだぞ?」
前の世界でも、【力】が手に入ったのに、誰にも干渉せずにこっち側に逃げてきたのに。
自分が殺した人たちを救わずに、別の人を甦らせるとか……
『そんなの、関係ありませんよ』
だが、黒聖杯には、どうでもいいことのようだ。
関係ないで済まされた。
『今、あなたに力があって、その力で、アリシアさんを甦らせれる。そして、それを、プレシアさんに願われた。……あなたが、人殺しでも、人の願いは叶えられます。現に、これまでに4人の願いを叶えてます』
確かに、事実だけど……あいつらに、どう、言い訳したものだか……
『マスター。私も、彼女の復活を願います。……プレシアさんの、私の願いを、どうか、叶えて貰えますか……?』
二人分の願いになってしまった。
ここで断ったら、俺、絶対に後悔するよなぁ……
俺自身、プレシアさんの願いを叶えたくなってきてるし……
母は強しってこと、なのかね。
「……お願い、お願いします、お願いします……」
プレシアさんは、泣きながらも、いまだお願いを繰り返している。
あんな母親の姿を見て、突っぱねられる人がいたら……いや、いるんだよな、確実に。
実際、俺の親父がそうだったし。
……なら、やるしかない。
親父と同じ人間にはならないって、決めてるし。うん。
「……奇跡……じゃ、ちょっと弱いな。再生でいくか」
『ええ。サポート始めます』
「いらね。俺だけでやる」
この業は、俺が背負わなきゃ。
死者蘇生は、理を破る大罪。
古来より、反魂の術は不幸しか呼ばない。
なら、その不幸は俺が背負う。
それで、この親子には幸せになってもらおう。
俺の分まで。
「【九点星法陣構築】」
円環に九点配置、つなげて、星にして。
母の願い、聖杯の……同じ境遇を持つものの願い、俺の願いを乗せて。
うたう。
九つの星は究極の双極、再生と破壊をつかさどる。
それをすべて再生……蘇生の方向に持っていく。
「……【蘇生する魂】」
魔方陣が回る。
何の属性も乗っていない、半透明の魔方陣が、淡い、やさしい光を放ちながら、ゆるゆると回る。
その光は、ゆっくりと、ポッドの中の少女に纏わりつき、やがて、少女全体を光に灯す。
……何秒、何分、何時間、そうしていたかわからないが、光は、収まっていく。
「……あ、ああ……」
プレシアさんから、感嘆の声が漏れる。
少女の胸に、命の鼓動が見て取れる。
彼女はすぐに生体ポッドを操作し、中の液体を排出。
少女は呼吸を始め、口から液体を咳き込みながら吐き出す。
……アリシア=テスタロッサ。
彼女が目を覚ました。
「アリシア……私が、わかる……?」
「……ママ……?」
「アリシア……」
無事、成功したようだ。
本当にできるものなんだな。この【力】。
……証明されてしまったな。本当に、何でもできるってことが。
「……これで、よかったんだろな。本当に」
『よかったんですよ。これで』
アリシアちゃんを抱いて、幸せそうに泣く、プレシアさんを見ながら、そう交わした。
で、終わってたらよかったんだが。
「ま、ママ!?」
「……あら?」
一つ咳き込んだ彼女が、血を噴いてアリシアちゃんごと倒れてしまった。
……そういえば、最初見たとき、重病人っぽかったんだよな……
あ、安心して気を抜いたから、再発したか?
「ママ! しっかりして、ママ!」
「……おいおい」
せっかく娘復活して、ようやくこれからって時に……
もう一回死者蘇生はやだぞ。俺。
少女……アリシアちゃんは、プレシアさんの容態を気にかけながらも、周りを見渡して……
俺と目を合わせた。
間髪いれず、大声で言葉を紡ぐ。
「お兄ちゃん! お願い、ママを助けて!」
『早速、願われてしまいましたね、マスター?』
「ホントに早速だな」
プレシアさんにはもう意識がない。
ちんたらしてるとお亡くなりコースだな、これは。
……再生使うか? いや、ここはあれだ。
奇跡だな。
蟲お爺ちゃんと同じ要領で何とかなるな。
話を総合すると、プレシアさん結構高齢のはずだし。
流石に、百年単位じゃないとは思うが。
「んじゃ、【八点星法陣・神秘なる石】!」
円環に八つ星を配置、正四角形を二つ描き八芒星にする。
八点星法陣は奇跡、天変地異を司る、神の御業。その一つ……若返り。
陣を反時計回りに廻し、彼女の肉体の時間だけ巻き戻す。
プレシアさんの周りの空気が歪みだし、しばらくすると……
「え?」
妙齢の女性が、若い女子の姿に戻っていく。
具体的に言うと17歳位。
どうせ若返るんなら、ぴちぴちのほうがいいよね。うん。
「……ママ……?」
「あ~。若返らせて、『病気を患った』って事実を消滅させたから、しばらくすれば目を覚ますよ。……アリシアちゃんだっけ? 立てる?」
若くなったプレシアさんを、目を白黒させてみているアリシアちゃんに声をかけてみる。
俺の声に反応して、立ち上がろうとして……
「……立てない……」
もがくだけもがいて、涙目でこちらを見てきた。
……いかん。可愛いぞこの子。
『……マスターはロリコンでしたか』
「誰がロリコンだ」
とにかく、二人を寝室に連れて行くことにしよう。
ゆっくり養生すれば、二人とも元気になるはずだ。
<5月◎日 曇り>その二
海鳴からパンゲアへ移動して、パンゲアの現状を聞く。
半径50kmの円形浮遊大陸……一人だと広すぎな土地だが、大陸……?
とにかく、神殿に向かうと、行き倒れと標本が神殿の入り口に居た。
行き倒れの方はプレシア=テスタロッサさん。
標本の方はアリシア=テスタロッサちゃん。
二人は親子らしい。
で、プレシアさんの願いでアリシアちゃんを蘇生させ、アリシアちゃんの願いでプレシアさんを助けた。
アリシアちゃんの方はともかく、プレシアさんの方は臓硯さんと同じ手を使ったけど……後で怒られないよねぇ?
女性だし、若返ってぴちぴちの肉体手に入れたんだから、怒られはしないと思うんだけど……
まあ、二人とも、今は寝室で一緒に眠ってもらってるから、詳しくは明日だな……
追記……つか、今寝てたんだが、悪夢のせいで目が覚めた。忘れないうちに書いておく。
元の世界の殺してしまった友人たちに、『生き返らせろ』と責められる夢を見た。
肉体がないと生き返らせれないので、勘弁してくれと言ったら、喰いつかれた。
『お前の体をよこせ』と。
最初に殺した友人に、首を噛み付かれたときに目を覚ました。
……後悔というか、罪悪感というか。
深層心理とやらで、感じているのかな、これは。
もっかい寝ます。おやすみ。
現在地:【パンゲア】神殿内自室(神官長の部屋だったそうだ)
※自分のHP作れば、原本の多次元日記載せるんですが、そこまで余裕がないのです。
作者です。
流石に、再うpはなぁ……今更デスね。
正直、プレシアさんを出したいがために改訂したと言っても過言ではない。
でも、今回のテコ入れで黒聖杯のフェイトクローン憑依イベントが消えました。
で、プレシアさんが若返って……あれ? ±0?
……作者でした。