こちらの世界に来て、三日になる。
この三日間で自分の力を大体把握した。
万能はもちろんだが、指を振るだけで全ての出来事を操れる力。素晴らしい。
……素晴らしいんだが。
「……飽きた」
『ええ!?』
こんなん、カッコよくない! つーか地味!
もっとさ、ビカビカ光って、バーンとなって、ドーンみたいなのあるだろう!?
『い、意味が良くわかりませんが……とにかく、地味だと?』
「地味もいいところだ。……魔法技術体系作るか」
と、言うことで、オリジナルの魔法技術体系を一晩かけて創りました。
『円陣(基盤)』の中に『点(魔力)』を配置し、『線(回路)』を引いて『星(術式)』にして、魔方陣という形で魔法を発現する『俺の魔法』……もとい、【星法陣魔法】。
黒聖杯には不評だが、メインはこっちを使わせてもらう。
指を振って奇跡を起こすのも、即効的で便利なのは認めるので使うけどね。
「さて、大体の準備は整ったので……行ってみますか」
『早速パンゲアに向かいますか?』
「や、そっちじゃなく」
東京近郊の情報誌を読み漁って、ちょっと気になる地名を発見した。
『○○県海鳴市』。
……スイーツのおいしい喫茶店として『翠屋』という喫茶店が紹介されていた。
ここのシュークリームが美味いらしい。
甘味好きとしてはぜひ行ってみたい。
金の心配はしなくてもいいしな。
『……確かに、おいしそうではあるんですよね……私は食べられませんが?』
「うらやましいだろう? ……いや、謝るから、地味に体当たりするな」
後、人前で宙に浮かない!
人に見られて大騒ぎされたくないのです、俺は。
さて、この世界について三日経ったと言ったが、その間、俺はこの世界のことについて調べていた。
『ありとあらゆる全ての可能性を内包した世界』への移動を頼んだわけだが、実際に何があるのか調べてみないと、俺の住んでいた世界のように、BRプログラムがある可能性だってある。
まずは現在の日付。
2008年4月。俺の住んでいたところと、なんら変わらない。
続いて、世界情勢。
俺のいた世界は、日本政府が瓦解し、アメリカに保護されていた。
植民地というほどひどくはないが、日本人が虐待されることなんてざらにあった。
模範的な青少年の選別、なんて理由で、子供同士を殺し合わせるBRプログラムなんてものもあった。
だが、この世界では日本はちゃんと国として権力を持っており、先進国のひとつとして世界に貢献していた。
……流石に、子供が殺しあうような無茶な法案はないようだ。
もちろん、これは表の話。
裏の世界は、ちょっと困ったことがあった。
『しかし、この世界では魔術が普通にあるんですね』
「一応隠匿はされているようだけどな。……魔術協会ねぇ?」
秘密結社というものだろうか。
とにかく、そういったオカルト組織があるらしい。
いんちきかと思ったが、どうも本当に魔術の基盤は確立されていて、英国、エジプト、北欧にその魔術教会があるらしい。
その魔術を行使するものたちは魔術師と呼ばれ、『魔法』を目指して日々、研鑽しているらしい。
……なお、この知識は、ある一人の魔術師から教えてもらった。
◆◆◆◆◆◆
話は、昨日に戻る。
星法陣を完成させる前に、『力』を使って瞬間移動を行使。
だが、到着場所のイメージが定まってなかったため、知らない場所に飛ばされてしまったようで。
「……誰が進入してきたと思えば……まだまだ若造ではないか」
到着した先は薄暗い部屋の中。多数の小さい気配の中から、しわがれた声を発した一人の老人。
顔に無数の皺を刻み、杖をついて近寄ってくる、その老人に、死の危険を感じ取った。
……まるで、銃を突きつけられているような。
「ふむ……小僧、どうやってここに入ってきおった?」
暗い部屋に目が慣れてくれば、多数の気配の正体がわかる。
……蟲、なんだろうか?
蛭にも似た、灰色の小さい生き物が、老人の足元でうごめいている。
ぱっと見、陰茎にも見えて、かなり怖い。
「見るからに魔力の持ちすぎじゃなぁ。……どれ、その魔力。わしに食らわせてみんか?」
多分、笑ったんだと思われるその老人は、何も持ってない左手を俺にかざす。
死の危険がさらに増した。
……だというのに、俺は必死にあるものに耐えていた。
臭いだ。
腐臭と死臭と蟲の臭い。
特に、蟲の臭いがひどい。
俺が子供の頃、体中を蟻に集られるという事件があった。
アイスをこぼしたまま、地面で昼寝してしまった自分が悪いんだが。
おかげで、蟲に対して一方的な敵意を持っている。
もちろん、益虫という存在もいるので、全ての蟲を絶滅させるという暴挙は行っていないが。
その臭いに混じって、部屋から漂う腐臭や死臭。
そして、老人から漂う加齢臭。
痙攣する胃と麻痺しそうな鼻腔に……正直に言おう。
我慢の限界だと。
「……とりあえず、部屋の浄化をさせてもらうからな?」
「何じゃと……!」
断りを入れ、部屋の空気を『力』で浄化する。
腐臭も死臭も消え、清浄化していく部屋の空気。
あ、蟲の臭いもだいぶ薄れた。
あと、加齢臭も何とかしたい。
臭いものには蓋をしろというが、壷に入れて蓋をするわけにもなぁ……
それなら、若返らせればいいじゃない。
これぞ、根本的な解決方法。
そうと決まれば、早速。
「えい」
「ふ、ふぉぉぉぉぉぉ!?」
指を老人に向け、彼の時間を『力』を使って巻き戻す。
苦痛なのか、気持ちいいのかなんともいえない声を上げる爺様。
彼の体が、一番調子のよかった時まで戻せば、この加齢臭もなくなるだろう。
……しかし、200年ほど巻き戻っているような?
何年生きてるんだよ、この妖怪爺。
しばらくして、彼の周りでゆがんでいた空間が止まり、
「……く、一体なにをしたんだい? 身体が何か……軽いような?」
その場には、さわやかな好青年がうずくまっていた。
……あれ? あなた本当にさっきのおじいさんですか?
身長はさっきよりも1.3倍ほど高く、優男風味だが真面目そうな印象を持つ青年が、自分の体を見下ろしていた。
年を取る間に、何があったんだか。
彼は自分の体を確認した後、ふさふさの髪をひとしきりなで上げ、歓喜の表情を浮かべた。
「……僕の体が……若返っている!? 凄い! この肌の張り、スリムな肉体、そして、懐かしい髪の感触……ああ、若かりし頃の僕の姿だ!!」
口調まで変わってる。
ちょっとやりすぎた感じが否めない。
あと、自分の体を抱きしめて恍惚の表情を浮かべないでください。
ナルシストかあんた。
「ありがとう!! 見知らぬ少年!! 僕の願いを叶えてくれるなんて!! 是非君にお礼がしたい」
……あれ?
俺の初仕事、相手は蟲お爺ちゃんなの……?
『おめでとうございます、マスター! 初仕事達成ですね!』
「納得いかねー……」
何かひどく釈然としないものが心に残ってしまいました。
おかしいな。虫とは相性悪いはずなんだが……
「……そうか。君はその黒き聖杯を用いて旅をする魔法使いだと言うのだね?」
今までいた場所は彼の家の地下室だったそうで、そこから彼に連れられてリビングへ移動。
お茶を出してもらって、互いに自己紹介。
彼の名は間桐 臓硯。以前はマキリ=ゾォルケンといって、日本に帰化した際に似たような名前に改名したそうだ。
そして、蟲を使う魔術師だそうだ。
この世界には、魔術がある。
彼はその祖、『宝石の翁』が提唱した神秘を行使する魔術師の一人。
臓硯さんから話を聞いて、その魔術についての基礎を教えてもらう。
……その際、魔術回路の生成を試してみたんだが。
『……だめですね。マスターの『力』ではこの魔術を使用することはできません』
とのこと。
俺の力の特性として、『他人の創作した力を使用することはできない』という条件がある。
最初に試したように、ゲームやアニメ、漫画のような術式、魔法、技術は使えないらしい。
もちろん、星法陣を使えば、似たような効果を生み出すことはできるから、別に悪いというわけではないが……
そして、俺の素性を、簡単に臓硯さんに話したわけだ。
結果として、俺は彼から、『魔法使い』として認識されてしまった。
彼ら『魔術師』からすれば、『魔法使い』は特別な存在で、目標だそうだ。
魔術師が使う『魔術』は、時間をかければ、一般人でも出せる結果を術式で行使する技術。
魔法使いが使う『魔法』は、どんなに時間をかけても、人間では絶対に出せない結果を行使する奇跡。
よって、魔術師は魔法を目指し、日々研鑽を続けている。
彼も、そんな一人。
「不法侵入はお詫びします。……後、あの蟲っぽいものは近づけないでください。いや、ホントに」
「むう、そこまで毛嫌いしなくともいいのに……まあ、ユスティーツァにも不評だったし、仕方ないか……」
どうも、肉体だけでなく、魂まで若返ってしまったらしく、本気で優しい青年になってしまった臓硯さん。
……初見の気味悪さから、一転して、だいぶ話しやすくなった。
苦笑いを浮かべ、手元のお茶をすする姿には、さっきの妖怪爺の面影がまったくない。
本当に何があったんだか……彼の歴史を聞いてみたいが、200年分なんて聞いてられないので無視することに。
蟲だけに。
「ところで、君はこれからどうするつもりだい?」
どうするもこうするも、まずは行動拠点の確保しないと。
いつまでもホテル暮らしじゃ、流石に落ち着かないし。
「君さえよかったら、この家に住んでくれてもいいんだよ?」
それは嫌(即答)
……ああ、そんな苦い顔しないでください臓硯さん。
俺は蟲とは相性悪いんです。トラウマ『蟲』持ちなんです。CP-15くらいもらってるんです。ガープス的に。
……BRプログラムが山の中で行われていたら、確実に死んでたと確信できる。
虫への過剰な警戒とそれによる寝不足と、寝不足による注意力散漫で。
開催場所が街中で、本当によかった……
まあ、それは関係ないとして。
彼は渋い顔しながら、思案を続ける。
「しかし、君への恩返しをしなければいけない……そうだ」
と、何かいい案を思いついたようだ。
「孫娘の桜をもらってくれないか?」
……この人はいったい何を言い出すのだろう?
てか、孫がいたのか。
ニコニコ笑顔の臓硯さんは、
「次の聖杯戦争用に仕込んでた孫娘だけどね、僕が若返ったなら、僕自身が参加できる。わざわざ危険な橋も渡らなくてすむが、そうすると桜をどうしようかと思ってね。手駒として使うのもいいが、ここは君にあげるのも手だね。恩返しにもなる。実にいい手だ。どうだい? 胸も大きくて可愛い娘だよ?」
すごい勢いで自分の孫娘をアピールし始めた。
まあ、胸の大きさは素敵だが、ちょっとまて。
「……聖杯戦争って、何ですか?」
「ああ、君は知らないんだったね。聖杯戦争って言うのは、魔法に至るための儀式さ」
詳しく話を聞くと、一般的には、聖杯を手に入れるための魔術師同士の殺し合いだそうだ。
元々は彼、遠坂、アインツベルンの三人が協力して作り出した儀式だが、手に入る聖杯は一つだけ。
その儀式の最中に欲を出してしまった彼が、三人の協力を乱し、儀式は失敗に終わってしまった。
「……今にして思えば、若気の至り……いや、愚かな事をしたものだよ」
以降、この『冬木』の地で、その儀式は続いてきた。
聖杯を手に入れるため、失われた『魔法』を甦らせるため、世界の調和を目指すため。
少なくとも、彼は世界のために行動してきたそうだ。
……この200余年あまりは、自分の体の崩壊や、老化による魂の腐食で『若返ること』を重点的に考えていたそうだが。
「そのために、僕の血族をだいぶ傷つけてしまった。……慎二には魔術回路を受け継がせてやれず、桜には非人道的な行いをしてしまった」
その為、彼は孫娘に幸せになってもらいたいそうだ。
……で、俺に嫁がせたいと。
どちらにしろ、孫を物扱いしてる時点で駄目だと思うんだが。手駒がどうとか、仕込むとか。
「とにかく、一度会ってみるといい。今日は家にいるから、今呼んでくるよ」
「は!? ちょっと待ってくださ……行っちゃった」
軽い足取りで階段を上がる臓硯さん。
若い体がそこまでお気に入りとは……スキップまでしだした。
ともかく。
『どうするんですか、マスター? 彼の言うとおり、桜さんとやらを嫁にもらうつもりですか?』
「流石にそれはなぁ……大体、本人の意思を確認しないと」
俺や臓硯さんだけで決めても仕方がないと思う。
第一、俺は今、根無し草。
戸籍すらない状態で、嫁をもらうとかおかしいから。
「さて……どうしようか」
いや、本当に。
<sakura>
せっかくの日曜日。先輩の家に遊びに行こうとしたところを、兄さんに似た人に止められた。
話を聞くと……どうも、その人は、お爺様らしい。
ありえない。なにを言っているんだろう?
間桐の人間はどうしてこう……逝っちゃった人ばかりなんだろうか?
しばらく部屋にいろと言われ、しばらくすると、その自称お爺様が入ってきた。
「喜べ、桜。お前の嫁ぎ先が決まったよ」
……この人は何を言っているんだろう? 私には先輩がいるのに。
どうも、お爺様を若返らせた魔法使いの嫁に私がなるらしい。
余計なことを。
自称お爺様がニコニコと笑顔でいるのが気持ち悪い。
……まあ、善意で言っているのはわかる。
以前の、優しかった兄さんと同じ、笑顔。
私を連れて、階段を下りる前に、お爺様は謝りだした。
「お前には、今まで辛い思いをさせてきたからね。罪滅ぼし……とまでは言わないけど、彼の元なら、幸せに暮らせると思うよ」
……本当に、いきなり何を言い出すんだろう?
幼少の頃から、この家にはいい思い出はない。
この家に連れてこられて、最初に、蠢く蟲の中に放り投げられた。
体中を蟲が這い回り、体の中にまで蟲が入ってきて……
私は、幼少の頃に、汚れてしまった。
今の私に、キレイな所なんてどこにもない。
そして、それを実行したのは、目の前にいるお爺様だ。
……何が、罪滅ぼしだ。
罪滅ぼしだというのなら、元の、私の姿を、返してほしい。
「ああ、更科君。これが僕の孫の桜だよ。桜、彼に挨拶なさい」
リビングのソファーに座っていた男の人が顔を上げる。
私と同年代のようで、デニムのジャケットとパンツに身を包んだ、私と同じぐらいの背丈の男の子。
更科と呼ばれた彼は、私に視線を向け……一度、視線を下げ、再び私と目を合わせた。
……彼も、男の人なんだ。
「……はじめまして、間桐 桜です」
できるだけ嫌悪感を表に出さないように、冷静を装って頭を下げる。
なのに、彼は苦笑い。
「あ~……ごめんね? 嫌な思いをさせちゃって」
彼は、私の胸を凝視してしまったことを素直に詫びてくれた。
……お爺様の知り合いにしては、悪い人ではなさそうだ。
「はじめまして桜ちゃん。更科 十夜という……魔法使いさんだよ」
改めて笑顔を浮かべる彼は、そういって右手を差し出してきた。
おずおずと、その握手に応じる。
「どうかな? 君のお眼鏡に適いそうかな? 孫の桜は」
お爺様は本気で私を嫁に出すつもりらしい。
……おそらく、お爺様にとって、私は邪魔になったのかもしれない。
「いや、臓硯さん? 俺、まだ桜ちゃんを娶るといったつもりないんですが」
「む? 桜のどこが気に入らないのかな? こんなに柔らかい胸に、長年調教してきたから、従順で大人しい子なのに」
……初めて会う人に、何を言い出すのか。
本当に、死んでしまえばいいのに。
「マテや。……胸の柔らかさ云々は素晴らしいものがあるけどな? 調教って何してやがる」
胸はいいんですか?
とにかく、更科さんは真剣な顔でお爺様に問い詰め始める。
「言っただろう? 聖杯戦争のために、仕込んだと。……何、性魔術も交えた肉体改造だよ。桜は養子でね、間桐の魔術との属性は合わなかったんだよ」
その為の、調教。
……私は、その為の、道具に過ぎなかった。
「……人殺しの俺が言うのもなんだけど、碌な事してないな、魔術師って奴は……」
顔を歪め、嫌悪感をあらわにする更科さん。
彼も魔術に身をおくのなら、これくらいはよくある事だと知っているんではないのか?
「ああ。君は魔術師から成った者ではなかったね。だが、魔法という神秘を得るためには、多少の犠牲はつきものだよ。等価交換という奴だ」
「……それ持ち出されたら、反論できないじゃないか」
魔術の為の犠牲に納得できなくとも、等価交換という法則には、理解せざるを得ないらしい。
彼はしばらく目をつぶり、
「……仕方ない。彼女を引き受けよう」
と、諦めたように答えてしまった。
……今度は、私の人生まで、他人の手に委ねられてしまった。
本当に、どうしたらいいんだろう。
「おお、良かったね、桜」
「……はい」
まったく良くはない。うれしいことは何もない。
私は、とうとう、自分の自由も与えられず、見知らぬ人の物になってしまう。
「そのかわり、条件を提示するが、構わないか?」
「条件?」
「まずひとつ。今後、彼女の人生に、一切の干渉をしないこと」
……え?
「さらに、彼女に理不尽な要求、危害を加えないこと」
……ええ?
「この二つが条件。……彼女は俺が引き受けるんだから、それくらいは構わないよな?」
「……まあ、そうだね。条件を飲むとしよう」
お爺様がその条件を承諾した。
……これって、私が、間桐の家から開放されたってこと?
「よし。……じゃあ、桜ちゃん?」
更科さんは、私を見据えて、こともなげに言った。
「君はどうしたい? 君の願いを叶えてあげよう」
私の願いを叶えてくれると。
……その、願いが、叶うのならば。
「……私の人生を、私のキレイな体を……『遠坂 桜』を、返してください!」
それを、願った。
◇◇◇◇◇◇
必死な表情の桜ちゃん。
それが、君の願いだというのなら。
「いいよ。叶えてあげよう。……黒聖杯?」
『そうですね。プランとしては、改造される前まで肉体を若返らせれば良いかと』
一応、それで願いは叶った形にはなるか。
じゃあ、早速。
「え? そ、それじゃあ、私、5歳からやり直し……ですか?」
「え? 駄目?」
「だ、駄目です! 5歳じゃ……先輩が振り向いてくれないじゃないですか!」
……先輩?
え、なに? 桜ちゃんってば、好きな人居たの?
「……臓硯さん?」
「むぅ……確かに、桜にはその、衛宮とかいう少年の監視を任せていたが……まさか、篭絡されていたとわ」
いや、完全に片思いだろ?
……けど、確かになぁ。
「その先輩とやらがロリコンでペドフェリアじゃないと振り向いてくれないよな。うん」
「……そんな先輩、私が嫌です……」
うん、俺も仲良くはしたくないよ。
じゃあ、どうしようかなぁ?
「よし、一度体は改造前まで戻して、桜ちゃんの魂の年齢まで成長させる。その際、間桐家に引き取られなかった場合を想定し、『遠坂 桜』のままで急成長させる感じだな」
これなら、願いは叶えられる。
「しかし、それだと、君には何もメリットはないだろう? 桜を遠坂に返すとなると、僕も君には恩を返せたとは思えない」
「別に、恩を感じる必要はないですよ」
大体、臓硯さんの願いを叶えたのは、偶然に等しいし。
それに、
「それでも心苦しいなら、これ以上、桜ちゃんに干渉しないでください。……それで、等価交換にしましょう」
これ以上、彼女が苦しい思いをするのは、俺も嫌だしね。
「……わかった。条件を飲むといったのは僕だ。……桜。これからは、お前の好きにしなさい。僕は、これ以上、お前に干渉をしない」
「お爺様……」
「その代わり、聖杯戦争で出会ったら……容赦はしないよ? 僕は、聖杯を手に入れなければならないからね?」
「……はい」
……まあ、そこは俺の干渉する領域じゃないから、ほっとくか。
正直、その聖杯戦争には、関りあいたくないし。
魔術師同士といえ、バトルロイヤルなら、プログラムを思い出してしまいそうで。
「……じゃあ、始めよう。黒聖杯、サポートをよろしく」
『はい。マスター。因果律に干渉を開始。対象『間桐 桜』。肉体時間引き戻し開始』
桜ちゃんの周りの空間が歪みだし、彼女の姿が縮んでいく。
作業開始から、俺の中から『力』が抜け出て、彼女の体に干渉される。
その姿が、着ていた服に隠れて、幼女の体になった瞬間。
「次、成長開始」
『肉体成長開始。因果律に干渉。対象『遠坂 桜』」
今度は、縮んだ姿が大きくなっていく。
服の襟から顔を出した彼女の髪が、藤色から黒に変わっている。
正しく、彼女本来の髪だ。
ほかの部分は、なんら変わりない……
はずだったんだけど。
『干渉終了』
黒聖杯の声で、元の身長に戻った桜ちゃん。
彼女が、閉じていた目を開け、自分の体を確認すると。
「「あ」」
「……そういえば、遠坂の現当主も、そんなに大きくはなかったね」
何が起こったかといえば、彼女の服の端から、ある物が覗いている。
……ブラジャーだ。
「え、なに? 彼女の大きさは、調教の結果だというのか、あんた?」
「まあ、多分ね? それに、幼少から性行為を行っていれば、その為の成長ホルモンも多く分泌され、あの大きさになったのかも」
「詳しく説明しないでください! ううぅ」
涙目で蹲る桜ちゃんに萌えてしまった俺は、間違いじゃないはずだ。
うん。
回想終了すると、こんなことが昨日あった。
ちなみに桜ちゃんだが、その後、遠坂の当主の所に身を寄せて、遠坂の家で暮らすそうだ。
そこら辺の戸籍の移動は臓硯さんがやってくれるそうだ。
本人、最後にボソッと「ああ、桜を僕の嫁にしても良かったな。この体なら、桜を満足させられるだろうし」とか言い出したので、ぶん殴っておいたが、多分間違いじゃない。
とにかく、これで、俺の初仕事は終わった。
『いえ、マスターの初仕事は蟲お爺ちゃn』
俺の初仕事の相手は桜ちゃんなの!!
余計なことを言うな、黒聖杯!
さて改めて、海鳴市に行ってみるか。
シュークリームが、俺を待っている!
<4月×日 多分晴れ>
初めての転送事故。間桐家の地下室に転送し、蟲お爺ちゃんを爽やか好青年に若返らせる。
孫娘の桜ちゃんをもらって欲しいと言われ、しぶしぶ承諾。
その後、彼女の願いをかなえて、遠坂家に放流。
まさしくキャッチアンドリリース。
願いが叶った後の桜ちゃんには、先輩(衛宮とかいったか?)攻略をがんばってほしいところ。胸のサイズは縮んだが、それでも大きいことには変わりないし。
恋愛の願いを叶える訳にはいかないしね。
……ちょっと惜しかったかな。あんな可愛いお嫁さんは。
あと、俺の初仕事の相手は桜ちゃん。←重要
所得スキル:星法陣魔法
現在位置:海鳴市・駅前ビジネスホテル。
※前回に比べて、いろいろと甘くなってるような気がする。
まあ、元々甘かったし、いいか……なぁ?
ちょっと不安を抱えつつな作者でした。