プロローグ 長い夢の始まり
明るくも無く、暗くも無く、熱くも無く、寒くも無い不思議な空間。
そこに、一つの意識がたゆたっていた。
薄ぼんやりとしたまどろみのなか、それは一つ身じろぎした。
それは、長い間そこで変化を待ち続け、そこに在り続けていたのだが、何時までも起きない変化に痺れを切らせ、身じろぎを始めたのだ。
――何故、何も起きない。あの世からは迎えが来るものじゃないのか?輪廻転生のために、意識が無くなる筈じゃないのか?俺は何時までここに居ればいい。嗚呼、つまらない。つまらないつまらないつまらない………。
そんな事を考えながら、激しく身をよじる。自分を拘束する何かが鬱陶しく、不愉快だった。
それが身じろぎするたび、大小様々な爆発が起こり、世界を揺らすが、それは気にせず拘束から逃れるように身を捻る。
何度も、何度も、何度も、身を捻り、暴れ、世界を揺らす。
何時しかそれは、拘束から逃れ、自由を手にする。
拘束から逃れ、それは息を吐く。
……息を吐いた筈だった。
――俺の口は何処だ?
それは、口元に手を持っていった。
――俺の手は何処だ?
それは、手を見下ろした。
――俺の目は何処だ?
それは、辺りを見回した。
――俺の足は何処だ?
それは、一歩踏み出した。
――俺の耳は何処だ?
それは、耳をすませた。
俺の声は何処まで届く?
俺の手は何処から何処までが手だ?
俺の目は何処まで見える?
俺の足は何処から何処までが足だ?
俺の耳は何処まで聞こえる?
俺は、誰だ?
渦巻く疑問。
自問自答。
繰り返し、繰り返し、繰り返し。
それには分からなかった。自分が誰であるかを。
だが、繰り返す自問自答で、自分が何であるかを自覚した。
それは、一つの世界。一つ物語。
さあ、世界は始まった。心ゆくまで楽しもうじゃないか。