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No.18953の一覧
[0]  マブラヴ+SRW α アフター (チラシの裏から移転)[まくがいば~](2014/03/30 23:28)
[1]  マブラヴ+SRW α アフター  プロローグ[まくがいば~](2014/03/30 02:06)
[2]  マブラヴ+SRW α アフター  第一話[まくがいば~](2014/09/14 03:31)
[3]  マブラヴ+SRW α アフター  第二話[まくがいば~](2014/03/30 02:04)
[4]  マブラヴ+SRW α アフター   第三話[まくがいば~](2014/03/31 20:49)
[5]  マブラヴ+SRW α アフター   第四話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[6]  マブラヴ+SRW α アフター  第五話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[7]  マブラヴ+SRW α アフター  第六話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[8]  マブラヴ+SRW α アフター  第七話[まくがいば~](2014/03/30 02:02)
[9]  マブラヴ+SRW α アフター  第八話[まくがいば~](2014/03/30 02:02)
[10]  マブラヴ+SRW α アフター  第九話[まくがいば~](2014/03/30 02:01)
[11]  マブラヴ+SRW α アフター  第十話[まくがいば~](2014/03/30 02:01)
[12]  マブラヴ+SRW α アフター  第十一話[まくがいば~](2014/03/30 02:00)
[13]  マブラヴ+SRW α アフター  第十二話[まくがいば~](2014/03/30 02:00)
[14]  マブラヴ+SRW α アフター  第十三話[まくがいば~](2014/03/30 01:59)
[15]  マブラヴ+SRW α アフター  第十四話[まくがいば~](2014/04/12 00:53)
[16]  マブラヴ+SRW α アフター  第十五話[まくがいば~](2014/04/24 01:00)
[17]  マブラヴ+SRW α アフター  第十六話[まくがいば~](2014/06/16 21:14)
[18]  マブラヴ+SRW α アフター  第十七話[まくがいば~](2014/08/24 21:53)
[19]  マブラヴ+SRW α アフター  第十八話[まくがいば~](2014/08/24 21:56)
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[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十八話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:06a0bd21 前を表示する
Date: 2014/08/24 21:56
「ゲッターの連中とシンジが消えちまった!?」
 事が落ち着くまで、しばらくそこに居て、とミサトに厳命された熱気バサラ。せっかく勇んで来たという
のに、肝心の聴衆がおらず、拍子抜けした彼だが、この佐渡島で起きた出来事を宙から聞かされ、さすがの
バサラも驚きに目を丸くしている。
「それに、国際警察機構の草間大作って言うヤツも、一緒に消えちまった」
 宙が、付け加えるが、バサラは聞いているのかいないのか、ガシガシと髪の毛を掻きむしり、苛立ちをぶ
つけるように、間近にあった石を蹴り上げる。
「だから、戦いなんて、くだらねぇんだよ……」
 戦争なんてくだらねぇ、俺の歌を聴け! が信条であるバサラ。妙な使命感すらある彼は、もしかしたら、
自分がいたら、超電磁ネットワイヤー作戦からの一連の紛争を止められたとでも思っているのでは、と宙は
思う。でも、それでシンジや竜馬たちの消失を自身の責任と感じるのは、行き過ぎだ。
「でな、上をみろ、バサラ」
「ん?」
 バサラがちょうど、謎の透明球体の下に来たので、上を見るように促す宙。今も、ボルフォッグが観測し
続けている謎の浮遊球体。
 そのデータはGGGオービットベースに送られ、獅子王雷牙博士の元に送られ、分析が進んでいる。
 バサラはその球体を、睨むように見つめはじめた。
「よくわからないんだが、それが、シンジやリョウが消えたことに、関係あるとか何とか。あ、ちなみにリ
ョウ達、生きている可能性が高いらしいぞ」
 我ながら説明下手だと思う宙だが、バサラは聴いているのかいないのか、じっと、中空に浮かぶ球体を、
見上げたままだ。。
 何が気になるんだと思いながら、バサラに釣られて、球体に目を向ける宙。ボルフォッグが言うには、大
きくも小さくもならず、宙が発見した時と同じ大きさを保っているらしい。透明なので、そこに何かあるの
が分かる感じが宙にシャボン玉を連想させたが、改めて見直すと、その質感は蒸気が固まっているようにも
見えるな、と宙は思う。
 無言の時間がしばし、いつの間にかバサラは顔を上げたまま目を閉じ、何かに集中している風に見える。
「……おい」
「なんだ?」
 バサラが、呟くように訊いてきた。
「なんか、聴こえねぇか?」
 言われ、耳を澄ましてみる宙。サイボーグの聴力をフルに使ってみるが、風の音、波の音くらいしか聞こ
えない。
「何も聞こえないが……」
「いや、聴こえるぜ、確かに!」
 何が聴こえているかはわからないが、バサラは確信したらしい。目つきが変わり、あの燃え立つオーラが
吹き上がる。
「おい、ボルフォッグ?」
『同じく、私のセンサーも、何も捉えていません』
「だよな」
 ボルフォッグに同意を得て、自分がおかしいのではないのは確認できた。なら、おかしいのは、バサラの
はずなのだが、彼は何故か、ハートに火がついてしまったようだ。こうなってしまったら、あとは見守るく
らいしか宙にできそうにない。
「そこにいるんだな、ドコの誰だか知らねぇヤツ!!」
 バサラは、担いでいたギターを構え、高らかに吠えた。見つめる先は謎の球体。そこに何かをバサラは感
じ取ったみたいだ。そして、彼にスイッチが入ってしまった。
「いいぜ! 俺の歌をきけぇ!!」
 ギターを激しくかき鳴らし、歌い始めるバサラ。曲名はファイヤーボンバーの代表曲『突撃ラブハート!』
突如はじまってしまった、単独ゲリラライブの数少ない聴衆を、苦笑混じりに引き受けた宙だったが…… バサラの絶唱が始まったと同時に、謎の球体がわずかだが収縮を始めたのだ。
「……なんだ、こりゃ」
 その収縮は、バサラの歌に合わせるように、収縮を繰り返している。これは、明らかにバサラの歌声に、
この球体が反応している。
「ボルフォッグ、マズくないか、これ!?」
 イヤな予感しかしない宙。球体は、わずかに光を発し始め、その大きさも収縮を繰り返すごとに、僅かず
つだが大きくなっている。
『バサラ隊員に、唄うのをやめていただくのが、最善と思えますが……』
 観測を続けるボルフォッグの声にも、困惑が混じるが、
「コイツが聞くタマじゃないのは、お前も知っているだろ!?」
 バサラが言ってきく素直に言う事をきいてくれる男ではないことは、断言できる宙だ。彼に唄うのをやめ
させるには、後で噛み付かれるのを覚悟で気絶でもさせるしかないが……
「本気で、その手を考えた方がいいかもな……」
 球体は、よほどバサラの歌が気に入ったのか、脈動するように収縮を繰り返すその大きさは、倍近い大き
さになっている。
 そこで、宙は根本的なことにようやく気がついた。
「なんで、このタマっころ、バサラの歌に反応してんだ!?」
 コイツには歌を聞く耳があるのか!? コイツ生命体!?
 輝きは既に月と並ぶくらいの明るさに、そしてさらに激しく脈動を増す球体。コイツの正体云々は後回し
にして、本格的に逃げる算段をした方が良さそうだ、と宙はバサラをどう気絶させようか考え始めた時だっ
た。
『この反応は……』
 ボルフォッグが声に焦りを滲ませ、警告してきた。
『ゲッター線照射量、激増しています! このままでは、早乙女研究所の二の舞になる可能性が!』
「二の舞って、また行動不能になるってか!?」
 それはマズイ、と思った瞬間、宙の世界は白に包まれていた。
 あれだけ響いていたバサラの歌が、遠くなっていく。白い光にすべてを包まれた中、宙はバサラではない
誰かが唄う声が聴こえた気がした。


「まったく、バサラ君にも困ったモンよ」
「……ご苦労様です」
 ビックシューターにミサトを乗せ、佐渡島まで戻る機中。バサラが犯した数々の法律違反を、無理矢理収
めないといけない彼女の立場を考えると、美和としても心から同情するばかりだ。
 本来、彼女が来るまでもなく、部下の日向マコトにでも命じてバサラを形ばかりの拘束をして、基地に連
れてくれば済む話なのだが、バサラのキャラを考えると、そのまま世界放浪の旅に出てしまう可能性もあり
えるので、とりあえず司令自ら説得しました的な既成事実を作っておくべく、ミサト自ら出陣を決めたのだ
った。
「で、そのタマっころ、卯月さんも見たの?」
 佐渡島で発見された、ゲッター線を発する謎の透明球体。上空で哨戒にあたっていた美和からは視認でき
なかったので、何て説明したらいいか、うまく言葉がでない。。
「宙さんの報告を聞いても、漠然としか想像できなかったですね」
「……私も映像見せてもらったけど、なんか出来損ないの心霊映像にしか見えなかったわ」
 佐渡島が見えてきた。いまだ避難勧告がでている島に、人家の灯りは見えない。漆黒の闇の中にうっすら
と浮かぶ島の影は、横たわる巨大な獣を美和に想像させた。
「ん、ちょっと、アレなに?」
 ミサトが驚きの声を上げたのと同時に、美和もその原因だと思われるモノを見つけていた。
 先ほどまで、闇に包まれていた島の一画から、白い輝きが見えたのだ。
「……あそこ、宙さん達がいた場所かもしれません」
 湧き上がる焦燥に駆られ、美和はビックシューターを増速させる。瞬く間に、機体はその光点の上空に到
達したのだが……
「あれ、消えちゃったわね……」
 ビックシューターが、光点の上空に差し掛かった途端、その発光現象が終わってしまった。
「着陸します!」
 美和は、ミサトの確認を待たず、ビックシューターを垂直降下させる。目視での確認だが、見間違いでな
ければ、ボルフォッグの姿が確認できなかったのだ。この見晴らしのいい場所で、あの巨体が見えないこと、
それだけで異常事態だ。
「わ、ちょっと卯月さん、気をつけて!」
「すいません!」
 形ばかりの謝罪をしながら、着陸。最後に機体が思いっきり跳ねて、ミサトの
「ギャフン!」
 というアナクロな悲鳴が聞こえたが、それも気にせず、ビックシューターから降りる美和。降り立った地
には、ボルフォッグどころか、そこで控えていたはずの宙とバサラの姿もない。
「宙さん、宙さん、どこ!?」
 パートナーである宙の姿を呼ぶが応える声はなく、美和の呼びかけは夜に吸い込まれていく。
 焦燥と不安に駆られ、思わず見上げた空には……
 謎の球体が変わらず、その場に浮いていた。


 熱気バサラ、司馬 宙、ボルフォッグが佐渡島で行方不明になった。
 極東基地の面々が、その報告を聞いたのは、長い一日がようやく終わろうとした時だった。
「まったく、何て一日なのよ……」
 驚き疲れたアスカのもらした一言は、きっと極東基地に待機する旧αナンバーズ共通の感想であろう。
 


 シンジ達の跳ばされた世界に話を戻す。

 純夏が、そのメロディの存在を知ったのは、横浜ハイヴから助けられた後、武と再会した時だった。
光神の力で助けられた二人だが、武は純夏と違いすぐには意識が回復せず、昏睡状態が続いていた。
 二人の身柄は、救出された数時間後には、即位間もない悠陽が全権をもって保護することを決定しており、
軍部による不当な拘束や、研究機関での人体実験などの非道な目にあうことはなかった。しかし、救出直後
には意識を取り戻していた純夏は、昏睡中の武の代わりに、悠陽との謁見や、救出前後の事情説明を一人で
引き受けることになり、武と、しっかり時間を取っての再会は、一週間経った後だった。
 病室のベッドで静かに眠り続ける武を見て、その手を取って、純夏にはわかった。何故、武が意識を取り
戻さないの、その理由が。
 武の意識、いや魂と言えるものは、あの兵士級BETAに喰われそうになった時に、殺されてしまったのだ
と。このままでは武が、目を覚ますことはない、純夏にはそれがわかってしまった。
 奇蹟とも言える力によって助けられたのに、武は目覚めることがない。その絶望に涙がこぼれそうになっ
た時だった。
 頭の中で、何かが聴こえたのだ。聴いたことがないはずなのに、深く心に染み込んでいる、そんなメロデ
ィが、純夏の中に満たされていった。
 自然に、そのメロディを口ずさむ純夏。先ほどまでの絶望は純夏にはもうない。武は助かる。目を覚ます、
そんな確信が芽生えていた。
 そして武の手を握り、そのメロディを口ずさんでいると、
「……すみか、うるさい」
 と武が、小さい寝言をもらした。程なく、目を覚ました武を迎えたのは、歓喜の涙を流す純夏の笑顔
だった。

 武を目覚めさせた、あのメロディは何なのか?
 純夏自身にも、答えが分からぬまま、その旋律の力を再び使う機会が、また訪れた。悠陽の元に引き取ら
れ、悠陽に協力することになった香月夕呼に引き合わされた時だった。
 その時も、横にチョコンと霞が座り、純夏と武の話を夕呼のフィルターとして聞いていたのだが……
 話が光神に助けられた時に差し掛かった時だった。
 霞が突然、白目を向いて倒れてしまったのだ。
 夕呼が咄嗟に、応急処置を施すが、霞の意識は戻らない。と言うか意識そのものを刈り取られたのように、
何の反応の示さない霞。霞が純夏、もしくは武のリーディングを行った際に、光神についてのイメージが霞
の意識を侵食し、肉体にまで影響を与えたと、夕呼は判断するが、このような症例、前例がない。
 どうすればと、夕呼が珍しく迷っていた時、純夏は導かれるように霞の手を握っていた。
 そして、武を目覚めさせたメロディを口ずさむ。この心の中に溢れる不思議な力を、霞に伝えるように。
 見る間に、霞の中に生命力のようなモノが蘇っていくのが、夕呼にもわかった。
 霞は程なく、「あぅ……」と言う声を上げて目を覚ます。
 夕呼は、純夏に礼を述べると共に、二人に霞の能力を告げ、記憶を勝手に霞に読み取らせていたことを
詫びた。
 霞も、自分の異能を知られたことで、怯え、夕呼の後ろに隠れるが、そんな彼女に純夏と武は、手を差し
伸べる。普通の境遇でなくなり、自分でもわからぬ異能を身につけている自覚が芽生えていた二人には、霞
が他人に思えなかったからだ。
 以来、三人は家族のような絆で結ばれている。
 そして、霞の危機を再び救った純夏は、知ることになった。
 そのメロディの正体を。


「シンジくんの世界の、歌なの? これ……」
「えぇ……」
 光神と呼ばれているゲッター以外に、見つかった新たな自分の世界との接点に、シンジは逸る気持ちを抑
えていた。
 シンジの説明を聞いた純夏や武も、思いもよらないシンジからの説明に、ただ目を丸くしている。そして、
夕呼はというと、
「そう……」
 と短く呟いて、深い考えに沈むように、顎に指をあて、顔を伏せる。
「純夏さんが知っていると言うことは、やっぱり竜馬さんから教えられたのかな?」
 シンジが聞いた純夏と竜馬と思しき人物との邂逅は、幻想的で抽象的であり、歌と言う記憶のやり取りを
どうやって行ったのか、想像がつかないが、何か神秘的な力でも働いたのだろう。そんな感じでシンジは納
得することにした。
「このメロディっていうか、歌って、アンタの世界では特別なモンだったの?」
 夕呼が訊いてくる。その鋭い眼光は、目まぐるしく彼女の脳が回っていることを知らせているようだ。
「えぇと、説明が難しいんですが……」
 あの歌、『GONG』が起こした奇蹟を説明するには、まず霊帝ケイサル=エフェスから入らないといけな
い。だが、あの最悪の存在については、αナンバーズ内では秘匿にするということで決まっており、シンジ
自身も、できれば思い出したくもない。
 ここは自分の世界ではないから構わないかもしれないが、霊帝に対しての心理的抵抗は二年以上たった今
でも、シンジの中では大きいモノなのだ。
「今は、事情や背景はいいわ。『誰が歌っても』特別なのかだけ教えて」
 シンジの中の逡巡を読み取ったように、夕呼が言う。それなら、とシンジは答える。
「誰が歌っても、ということはありません」
 GONGは名曲だし、気分を高揚させるモノがあるが、シンジが魂こめて歌っても、霊帝の負の無限力をか
き消すことは不可能だったろう。考えてみれば、歌で奇蹟を起こしたのは、曲もだが歌い手の力が重要なの
ではと、シンジが気づくと、ある事実が導きだされた。
 純夏さんには、バサラのような、特別な能力があるのかもしれない。だから光神と交信できるのか、光神
と交信できるから身に付いたのかまではわからないが。
 夕呼と目が合う。彼女が小さく頷いたことで、夕呼はシンジにその事を気づかせたかったのだと気づいた。
「あ!」
 いきなりの素っ頓狂な声。発した純夏に注目が集まると、
「た、大変です! こ、光神様が、なんか言ってます!!」
 と、彼女は寄り添っていた武の腕を、興奮からかバシバシと叩きながら言う。
「純夏、まず落ち着け。そして俺を叩くな」
 顔をしかめながら、武が純夏を落ち着かせようとなだめている。純夏が容赦なく叩いているので、けっこ
う痛いのだろうと、シンジは同情する。
 だが、シンジには、いま純夏が何故、光神の声を聴けたのかが、よく分からない。その疑問が顔に出てい
たのか、夕呼が説明してくれた。
「鑑は、場所を選ばず光神に何か反応があったら、それを感知できるのよ。光神が居る横浜にいけば、言語
かされたメッセージを聴くこともできる時もあるわ」
 精神感応系の能力が、純夏にあるということで、シンジは納得することにする。しかし、真ゲッターだか、
竜馬だかわからないが、こっちの世界に来て、ずいぶんと神懸った存在になってしまったみたいだ。
「託宣、みたいなモノですか?」
 シンジが自分なりに言葉を選んで言うと、
「まぁ、そんなモンよ」
 と、夕呼が肯定。二人の視線は、目を瞑って、ウ~~ンと唸りながら意識を集中している純夏に向かう。
額にわずかに脂汗が浮かんでいるのを見ると、光神との交信は純夏に負担を強いているようだ。
「えっと、うっすらですけど、あの、意味の分からないお言葉が、聴こえました……」
 ここから横浜にあるという光神こと真ゲッターが居るというクレーターまで、どれくらい距離があるか想
像できないが百キロ単位で離れているのは間違いないだろう。シンジと夕呼、武がそのお言葉を純夏が言う
のを待つ。
「えっと、聞き間違いじゃないと思うんですけど……」
 純夏が、躊躇いがちに、口を開いた。
「……ぼんばー、だそうです」
 夕呼、武は呆気に取られ言葉が出ないようだが、シンジはと言うと、純夏の言葉が予想の斜め上を行った
為、驚く、というより脱力してしまった。
「碇、アンタには、今の言葉の意味、わかるの?」
 夕呼が、そんなシンジに気づき、訊いてくる。が、答えたくても、頭の中で答えがまとまる状態ではなか
った。何で、ここで熱気バサラ、というより彼が所属するバンド、ファイヤーボンバーの決めセリフとも言
える『ボンバー!!』が出たのか、想像すらつかない。
「ゴメンなさい、ちょっと、頭がついていかないので、整理する時間を、ください」
 自分の座っていた椅子に戻り、すっかり冷めたお茶を一口飲んで、深い溜息をつくシンジ。
「ま、いいわ。おいおい時間を掛けて、ゆっくり解明させていただきましょう。アンタ達も、横浜に連れて
いきたいからね」
 夕呼は、これ以上、今のシンジにこの事を問い詰めても、整然とした回答を得るのは難しいと察してくれ
たようで、問題を棚上げにしてくれた。この気遣いには、救われた思いのシンジだった。
「よろしくお願いします」
 と、霞が倒れてからの騒動が、一段落したと思えたら、
「失礼します」
 の声と共に、ドアが開く。席を外していた悠陽、真那、真耶が連なって戻ってきた。そこでシンジは、大
作の居る島に米軍が強襲を掛けてきたことを思い出す。そちらは、大作が居るので、まったく心配していな
かったので、すっかり頭から抜けていたシンジだった。
 戻ってきた悠陽には、わずかに疲労の色が伺える。席に座り、いつの間にか夕呼と霞の使っていた椅子を
並べて寝かされている霞に目を向けるが、
「少しトラブルがありまして。殿下がお気になさることではありませんわ」
 と、立ったままになった夕呼の言葉に、小さく頷いて、自分が居ない間に起きた変事をさらっと流す悠陽。
けっこう光神関係で重要なことが起きまくった気がするのだが、どう切り出していいかタイミングが掴めず、
悠陽の言葉を待つことにしたシンジ。まずは大作たちの方からだ。
「少し、面倒なことになりそうです」
 と悠陽が、大作が居る島で起きたこと、そして米国の対応を簡潔に説明する。
「米国は、攻撃していない、と言ったんですか?」
 このまま継続的にちょっかい出されたら厄介だと思っていたのだが、まさか虚言で来るとは考えていなか
ったシンジ、この展開の意味を考えるが、先ほどのボンバーダメージが大きく、頭が上手く働かない。
「そう来ましたか……」
 夕呼は、悠陽の短い説明だけで、米国の出方の意味に見当をつけたようだ。ホント、頭の回転の速さが尋
常ではない人だと、シンジは感心すると共に、別行動している隼人の行動が気にかかった。夕呼並に頭が回
る人だから、心配はしていないが、そろそろ年長でありIQ300超えの彼に、色々報告し、意見を聞きたい
ところだ。
「えぇ、舵取りが難しくなります。国内からの圧力も、強くなりそうですし……」
「殿下は親米派の仇敵ですものね」
「それはお互い様です、副司令」
 お互いの意見を交換せずに、同じ結論は当然と言わんばかりに、話をする悠陽と夕呼。このまま話につい
ていけないのも癪なので、ボンバーで疲れた頭をフル回転させるシンジ。
 米国の報告が嘘なのは、大作と交戦した記録を日本帝国が開示すれば、一発でばれる。他国での武力行使
が外交上どれだけの問題になるかわからないが、諸国からの非難は免れないのでは、そこまで考えてあるこ
とに思い至るシンジ。
「……そうか、僕たちのことを公表しないと、米軍の攻撃理由を説明できないんだ」
 そして、それこそが、米国が無茶をした理由、シンジは確信を持ってそう思えた。
「あら、碇、ようやくわかったの」
 アンタにしては時間かかったわね、と揶揄するような夕呼の声。こちらは、天才である隼人の薫陶は受け
ていても、頭の基本スペックは凡人なのだから、無理を言わないでほしい。と心の中だけで不平を漏らし、
オモテでは、無難な愛想笑いでかわすシンジ。終戦後、シンジが一番成長した分野は、もしかしたら処世術
なのではないだろうか。
「いつまでも隠しておけることではありませんので、世界に向けて発信するつもりでした」
 悠陽が、自分が考えていたこれからの展開を語り始める。
 まず、夢物語としか思えない、シンジ達が異世界から来たという話を、現実の話としてこの世界に認めさ
せる。この為の根回しを国内から始めようとしていた矢先に、横槍が入り、段取りを組み直さないといけな
くなった。
 悠陽の、今後の苦労を考えると、自分が関わっているのもあって、そこはかとない罪悪感めいたモノを感
じてしまうシンジだ。
「さて、段取りは大まかではありますが、決まっています」
 悠陽の出す重い雰囲気を払うように、夕呼が言う。この人は典型的な仕切り屋気質だなぁと、シンジは思
った。
「殿下、早速動いたほうが良さそうですわ。内閣の方は?」
「榊首相は、こちらに付いていただけると思います」
「まぁ、首相への説明には、私も同席しますわ。専門的な説明もいることですし」
「はい、よろしくお願いします」
 と、言った具合に二人の間で、トントン拍子に話が進んでいく。シンジに出来ることと言えば、二人の会
話から、今後の展望を予想し、自分がどうすればいいかを考えるだけだ。これからしばらくの間は、シンジ
は、あの島での待機生活になりそうなのは、確実みたいだ。
 悠陽と夕呼、二人の間での話が終わりに差し掛かったと思えた時、
「あ、そうだ、碇」
 と、夕呼が思い出したように、シンジに話を振ってきた。
「あ、はい」
「アンタ達って、自分の世界に帰るアテ、あるの?」
 夕呼に言われ、シンジは我ながら脳天気だと呆れてしまった。自分は、あの世界に、自分の世界に帰れな
い、という心配をまったくしていなかったことに気づいたからだ。
 夕呼の問いは、この場の他の者たちに、様々な思いを抱かせたようだ。シンジに悠陽、真那、真耶、武、
純夏、そして質問者の夕呼の視線が集まる。
 この楽天的とも言える自分の考えが、また人を呆れさせるだろうと思いながらも、シンジは自分の思いを
告げた。
「その件に関しては、まってくと心配してなかったです。いつ、と断定はできませんけど、まぁ、帰れるん
じゃないかな、と……」
 やはりと言うか、予想通りと言うか、シンジを見る皆の顔が、微妙な感じになっている。夕呼だけは、や
っぱりね、とでも言いたげな苦笑を浮かべているのが、何だか悔しいシンジだ。
「その根拠は?」
 と夕呼。自分が見捨てられるとは、まったく思っていないシンジの楽天的思考を、言葉にして説明するの
は彼にも難しい。ただ、シンジがいま、言えることは一つだ。
「仲間を、信じていますから」


 こうして、戦艦『加賀』における、非公式の会談は終了となった。
 シンジは、再び真那の後ろを歩き、先ほど使っていた部屋に向かう。そこでしばらく待機したのち、大作
たちの待つあの島に帰還することになった。
 今後の連絡には通信は使わず、悠陽は武か純夏を、夕呼は島に送っている誰かを連絡係として、口答と文
書によって連絡を取り合うことになった。通信を傍受されることを、警戒してのことだ。
 他に、島の周囲二十キロを、飛行航行禁止区域にすることも決まった。その周辺地域の警戒には、大和級
を旗艦とした艦隊を編成し、それに当たるとのこと。
 大仰とも言える警戒かもしれないが、シンジ達のこの世界での価値を考えれば、これでも足りないくらい
だと悠陽と夕呼は言っていた。
 悠陽と夕呼は、やらなければいけない事がエベレスト並に山積している状態なので、即刻、『加賀』を離
れ帝都東京と新潟に戻るそうだ。
そして、シンジはと言うと……
 神代がドア前で待つ、シンジが使っていた個室に戻ると、神代が軽く目礼して迎えてくれた。神代がドア
を開けてくれ、真那に先導される形で部屋に入るシンジ。わずか一時間ほど休憩に使っただけの部屋だが、
ここに戻ってきて、ようやく肩の荷が降りた気がするシンジ。ベッドに腰をかけた時、我知らず、大きな溜
息が出てしまった。
「お疲れですか、碇様」
 そんな彼に労わりの言葉を掛ける真那。悠陽に、彼を島に送り届けるまで、加賀に乗艦することを悠陽直々
に命じられ、内心の喜びを面に出さないように自制するのに、必死だったりする。
「さすがに、色々あって、疲れました」
 苦笑気味にそう返すシンジ。確かに、彼にとっては激動とも言える一日だっただろう。彼はこの後、『加
賀』で島に向かい、限界水域ギリギリで、戦術機に乗って島に戻ることになっている。本当なら、その戦術
機も自分で操縦したい真那だが、そこまでは高望みというモノ。今は、彼と同じ部屋にいるという幸せを感
受して満足する真那であった。
「僕の居た島まで、どのくらいかかるか、わかりますか?」
 シンジが、この艦に来る際に着ていた、白いツナギのような服を手に取りながら真那に訊いてきた。
「三時間ほどかかるかと…… 碇様、お着替えになられるのですか?」
 今の服を脱がれるのは、心惜しいが、今、手にとっている服を着ている姿も捨てがたい。と言うジレンマ
に一人煩悶する真那、そんな彼女の複雑な思いに気づくわけもないシンジが、答える。
「だって、これ借り物ですから。あ、でも下着とかもそうか……」
 そう言えば、シンジは着の身着のままで、この世界に来てしまったので服も、あの白いのしかないとのこ
とだった。これからのシンジの生活に不自由が生じてしまう、そう思ったら、
「わかりました、万事この月詠にお任せ下さい」
 体が勝手に動き出す真那だった。シンジに一礼して、部屋の外に出て行く。
 使命感に燃える真那、その背中を見送る形になった神代は、肩をすくめるしかなかった。


 そして、『加賀』の飛行甲板上。武御雷二機、瑞鶴改、不知火二機が肩を並べて駐機している。
 瑞鶴改を挟んでいる為、武御雷の脚元に立つ山城少尉と、不知火の脚元に立つ宗像、柏木両名との間には
距離があり、それにお互いの立場も考え、干渉しあわないで居た。
 シンジを生で見て、そのことで盛り上がっていた美冴と晴子だが、ふと晴子が視線の先にいる山城を見て、
ある記憶の引き出しが開いた。
「あの、斯衛の衛士さん、どっかで見たことあるなぁって思ってたんですけど……」
 晴子の言葉に、美冴も彼女に顔を向ける。言われてみると、どことなく見覚えのある顔だ。
「彼女、『京都の奇蹟』の人じゃないですか?」
 『京都の奇蹟』。そのキーワードで、宗像も彼女が誰であるかを思い出す。
「ほう、あれが、山城上総少尉か……」
 横浜ハイヴの光神による消滅、と言う後に起きた大事件の為、霞んでしまったが、彼女も確かに奇蹟の名
にふさわしい、生き残り方をした人物。美冴より年上のはずだが、まだ少尉なのは、昇進には、家格も関わ
ってくる斯衛だからだろうか。
 彼女の方も二人の視線に気づいたらしく、軽く会釈をしてくる。美冴と晴子も同じく会釈だけして顔を戻
す。
「何か私達、けっこうラッキーですね。将軍様だけでなく、横浜と京都、両方の奇蹟の当事者を見れたんで
すから」
 そう言う晴子に、
「それに私は、正体不明の少年にも会えたしな」
 と自慢気に加える美冴。懐かしの母校の制服を着たあの不思議な雰囲気の少年のことを思い出す。イカリ
シンジ、あの少年の為に将軍と副司令が、わざわざ洋上まで出向いてきたのだ。そんな重要人物の顔を拝め
た事が、美冴にとって、今日一番の収穫だった。
 遠くから、ヘリのローター音が聞こえてきた。あのUNブルーはきっと夕呼の迎えの機体だろう。美冴と
晴子は、このまま彼女に随伴して、新潟に戻ることになるだろう。
 きっと、あの少年絡みで動いていると思われるデリング中隊の面々が、少し羨ましいなと思い、その考え
に苦笑する美冴。
「どうしたんです、宗像中尉?」
「いや、今回は鳴海中尉達の方が珍しく当たりだったのかなと思ってな」
 あの少年との接点が、このままデリングに取られるのも、伊隅ヴァルキリーズの一員として、何か納得い
かない。後に、鳴海孝之から、自慢気に彼のことを語られるかと思うと業腹でもある。
 そんなことを考えていると、艦橋から夕呼、霞が並んで現れた、と思ったらその後から、強化装備姿の白
銀、鑑両名、斯衛の赤服の強化装備の士官、そして最後に煌武院悠陽殿下が現れた。
 慌てて直立不動になる美冴と晴子。悠陽が武の誘導で着艦したヘリに乗り込むのを視界の端で見送りなが
ら、近づいてくる夕呼に敬礼をする美冴。
「宗像、柏木。アンタ達両名は、このまま『加賀』に搭乗。ある場所で、さっきの碇をある島まで、あっち
の武御雷が運ぶのに付いて行って、そのまま彼らに随伴して。それと、明日0800時に新潟に着くように
誰か不知火で寄こすように平に伝えて。これより、緊急時以外は無線通信の使用は禁止、わかった?」
 夕呼らしい理由の分からない命令を、内心のほくそ笑みを面に出さないように努めながら、美冴は
「了解しました」
 と返す。じゃあ、頼んだわよ、と背を向け霞と共にヘリに向かう夕呼を見送りながら、美冴は小声で呟い
た。
「面白くなるのは、これからか……」
 

「そういうわけで、山城、お前はある御仁を、この座標にある島まで運ぶ任についてくれ。そして、明日、
白銀がその島に向かうまで、その場で待機。その間、お前が乗せる少年以外に、その島にいる少年のことを
できる限りの範囲で構わないから調べて見てくれ。いいな」
 月詠真耶の命令に、敬礼して、
「了解しました」
 と短く答える山城上総帝国斯衛軍少尉。そのまま、隣りに駐機していた武御雷に搭乗する真耶を見送って
いると、中天に輝く満月が見えた。
 ふいに、その唇に微笑みが刻まれる。
「やっと、始まるのですね…… あの御方が仰っていた、救いの刻が……」
 そう呟いた彼女の声は、海風に運ばれ、そのまま消えていった。


【ちょい、後書き】
 前回、素数で恥ずかしい間違いがありました。知らなかったんじゃないよ、間違えただけだよ、と言い訳をして、こっそり修正しておきます。ちなみに、次で、長い一日が終わる予定です。



 


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