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No.18799の一覧
[0] 【ネタ】DQ5異伝~極悪ノ花嫁~【北斗の拳×DQ5・転生】[鳥巣 千香](2010/05/14 16:57)
[1] 第一話:If you don’t know, you can behave like Buddha.[鳥巣 千香](2010/05/12 23:50)
[2] 第二話:CONSTANT Dropping wears Aways A stone.[鳥巣 千香](2010/05/13 18:41)
[3] 第三話:Charity is not for OTHERS.(but for yourself)[鳥巣 千香](2010/05/14 17:02)
[4] 第四話:It is no use crying over spilt milk.[鳥巣 千香](2010/05/15 16:41)
[5] 第五話:TO sit on the stone for 『TEN』 LONG years.[鳥巣 千香](2010/05/16 22:52)
[6] 第六話:The die is cast.[鳥巣 千香](2010/05/17 23:27)
[7] 第七話:Facts are stubborn things.[鳥巣 千香](2010/05/18 23:31)
[8] 第八話:Old sins breed new shame. [鳥巣 千香](2010/05/20 18:00)
[9] 第九話:Blood is thicker than water. [鳥巣 千香](2010/05/22 21:49)
[10] 第十話:He thinks that roasted larks will fall into his mouth.[鳥巣 千香](2010/05/26 23:56)
[11] 第十一話:Avoid even the appearance of evil. [鳥巣 千香](2010/05/28 22:24)
[12] 第十二話:Genius is only one remove from insanity.[鳥巣 千香](2010/05/29 22:38)
[13] 第十三話:Condemn the offense,but pity the offender.[鳥巣 千香](2010/06/10 20:29)
[14] 第十四話:Even a chance acquaintance is decreed by destiny.[鳥巣 千香](2010/06/11 16:35)
[15] 第十五話:Sweet after bitter.[鳥巣 千香](2010/06/14 22:39)
[16] 第十六話:THE Beast That Goes Always NEVER Wants BLOWS.[鳥巣 千香](2010/07/05 22:40)
[17] 第十七話:Nurture is above Nature.[鳥巣 千香](2010/07/05 22:40)
[18] 第十八話:What is learned in the cradle is carried to the grave.[鳥巣 千香](2010/07/10 21:49)
[19] 第十九話:All that is alike is not the same.[鳥巣 千香](2010/08/01 22:21)
[20] 第二十話:Engage in futile regrets.[鳥巣 千香](2010/08/12 21:03)
[21] 第二十一話:Marriage is made in heaven.[鳥巣 千香](2010/08/12 20:39)
[22] 第二十二話:The devil is sicked.[鳥巣 千香](2010/09/01 14:28)
[23] 第二十三話:A chance acquintance is a divine ordinance.[鳥巣 千香](2010/09/01 21:24)
[24] 第二十四話:Walls have ears.[鳥巣 千香](2010/09/04 15:38)
[25] 第二十五話:Love is the star to every wandering bark.[鳥巣 千香](2010/09/11 13:31)
[26] 第二十六話:The Past stands besides happiness forever.[鳥巣 千香](2010/09/23 19:43)
[27] 第二十七話:Sorrow and Joy are today and tomorrow.[鳥巣 千香](2010/10/14 21:33)
[28] 第二十八話:The life needs a rest.[鳥巣 千香](2010/11/22 23:29)
[29] 第二十九話:The traveler in the dark thanks for the tiny spark.[鳥巣 千香](2011/01/17 22:02)
[30] 第三十話:Experience teaches.[鳥巣 千香](2011/06/14 20:49)
[31] 第三十一話:NAMELESS LOVE STORY[鳥巣 千香](2011/11/28 23:24)
[32] 第三十二話:再会[鳥巣 千香](2012/01/25 15:59)
[33] 第三十三話:家族[鳥巣 千香](2012/05/04 21:11)
[34] 第三十四話:過去[鳥巣 千香](2012/05/18 15:11)
[35] 第三十五話:憧憬[鳥巣 千香](2012/12/03 20:38)
[36] 第三十六話:紋章[鳥巣 千香](2013/02/24 20:27)
[37] 第三十七話:盗賊[鳥巣 千香](2013/04/12 21:08)
[38] 第三十八話:穿孔[鳥巣 千香](2013/07/07 20:42)
[39] 第三十九話:来福[鳥巣 千香](2013/12/05 19:40)
[40] 第四十話:来復[鳥巣 千香](2013/12/05 19:41)
[41] 第四十一話:祈誓[鳥巣 千香](2014/03/26 20:24)
[42] 第四十二話:魔塔[鳥巣 千香](2019/06/07 04:47)
[43] 第四十三話:悪夢[鳥巣 千香](2019/07/05 01:37)
[44] 第四十四話:幻夢[鳥巣 千香](2022/04/10 04:30)
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[18799] 第二十一話:Marriage is made in heaven.
Name: 鳥巣 千香◆754b057a ID:6d242b0a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/12 20:39
第二十一話:Marriage is made in heaven.
     (縁は異なもの味なもの)



夜が更けるまで、俺は宿で時間を潰すことにした。
厳密に言えば、宿以外で時間が潰せない。
一歩街の外に出れば、街の奴らがジロジロと俺を見ちゃ、
ヒソヒソ話をするんで、鬱陶しくてしょうがねえからな。
流石に部屋の中に入ってきて、どっちを選ぶのか、と、
聞いてくるような不躾な奴は居ねえ。
「つっても、やることもないんだがな」
ベッドにゴロリと転がったまま、息を吐く。
一応、誰かが来る可能性を考えて、顔は布で覆ったままだ。
《昔》は、暇つぶしに何をやってたか。そう考えて苦笑する。
食料を奪う、女を攫う、その女を抱く、訳もなく誰かを殺す。
それくらいしか、して来なかった。
そういうことを知る前のことは……、考えるのをやめとこう。
《昔》のこと、特に、ガキの頃のことを考えたり思い出したりすると、気分が悪くなる。
気分だけなら良いんだが、頭痛だとか、足がすくんだりとか、ロクなことにならねえ。
盗みに入るのに、体調が整ってないのは致命的だからな。
「……酒でも飲みに行くか」
目を覚ましたのは昼過ぎで、夕飯が終わって、少し腹も減った。
酒場は、丁度宿の上にあるし、景気付けだ。
しばらく酒場なんぞに行く余裕もなくなりそうだしよ。
「よっ、と」
ベッドから身を起こす。ここの酒場は武器持ち込みが禁止らしいので、
荷物は部屋に置いていく。ま、金の入った袋だけありゃいいだろ。
武器が必要になるような事態にはならねえだろうしな、多分。
……またこないだみてえな喧嘩になったら、アイツが止めに来るんだろうか。
って、何考えてんだか、俺は。
がちゃり、と部屋を出る。宿から直接酒場に繋がってりゃいいんだが、
あいにくそうはなっておらず、一旦外に出る必要がある。
「兄さん、眠れないのかい?」
「おう、まあ、そんなとこだ」
宿の親父が声をかけてくる。
「ま、そりゃそうだわな。散歩して、教会でお祈りでもして、ゆっくり決めなよ」
どうやら、親父は俺が誰を選ぶかで悩んでると思ってるらしい。
違うんだが、否定すると怪しまれるから、何も言わずに外に出る。
人影はまばらだが、全く無い、ってわけじゃねえ。
俺が姿を見せた途端、予想通りヒソヒソと話し出す。
話の中身に興味はないので、無視して、とっとと酒場へ向かう。


……しかし、少し考えりゃ分かりそうなもんだったな。
三日も寝てたせいで頭が役立たずだったらしい。
酒場に入った途端、俺に向かって話しかけてくる酔っ払い共に、
頭を抱えながら俺はそんなことを思った。
「結婚したら盾がもらえるし、ゆくゆくはあの家の財産もものに出来るからフローラだ」
という奴もいれば、
「だが、あのビアンカという女性も優しそうな人だしなあ」
と、唸っている奴もいる。娯楽に飢えてんのか。勝手なことばっか言いやがって。
俺に話しかけてきたのは最初だけで、後は客共が好き勝手言い放題だ。
まあ、おかげでそれなりに静かに飲めるわけだが。
「お客さんも大変ですねえ」
酒場の店主の苦笑いに、俺も苦笑いを返す。
こいつら、俺が盾盗んで逃げたらどんな顔をするんだろうか。
それを考えると、ちぃと楽しいかもしれんな。
他の奴だったら、ここまでお膳立てされたらどっちかを選ぶんだろうが、俺は違う。
「大変ですね、あなたも」
空いていた隣の席に座った奴が声をかけてきて、俺の思考は中断させられる。
「あ?」
「まだお若いのに、こんな形で結婚の相手を決めるなんて」
俺が怪訝な声を上げたのを、男は気にしない。
俺が置いてたグラスに、男が自分の瓶から酒を注ぐ。
もらえるんならもらっておこう。
「貴方も、旅の方のようですな。私も子供を連れて旅をしているものです」
子連れで旅。そう聞いたら、話を聞きたくなった。
どうせ、暇つぶしに酒を飲みに来たんだ。
「ほお?」
「本当は、数年前までは一人で旅をしていたんですがね」
「んじゃ、何で今は子連れなんだ? 女房に逃げられたか?」
からかい混じりに問う。男は、寂しげな顔で首を振った。
「……旅をしている間に、妻は、魔物に襲われたのです」
その言葉に、酒を飲んでいた手を止める。
「あんなことになるんだったら、一緒に、旅をすればよかった。
 傍に居て、守ってやればよかった」
「傍に居たって、守れるかどうかなんて、わかんねえぞ」
目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、あの洞窟でのことだ。
あれだけ傍に居たのに、俺は、あいつを死なせるところだった。
傍に居たって、守れるとは限らねえだろ。
「傍に居ないよりは、守れるでしょう」
湿っぽい話になりました、すいません、と男が酒を煽る気配。
目を閉じたまま、考えちまう。ああ、そうだ。
《あの時》に、《アイツ》の傍に居たら、きっと、守れた。
あの後、殺して回れたような奴らだ。俺が居たら、きっと。
……俺は、何をしていた。死に損ない共を嘲って、調子に乗って、
力だけが求められる世界になった、と笑っていた。
結果、どうなった。《アイツ》は、どうなっちまった。
「クソッ」
がしゃん、と音がした。握りしめたグラスが割れていた。
一気に、辺りがしんとなる。どうやら、騒いでることに対して、
俺が怒ったと勘違いしたらしい。酔っ払い共が恐る恐るこっちを見ている。
ああもう、これじゃロクに酒も飲めやしねえ。
「親父、勘定だ」
袋から金貨を取り出し、カウンターの上に置いて椅子から立ち上がる。
手から流れてる血は、ホイミを唱えて止める。
傷は塞がり、痛みはなくなる。魔法ってのはつくづく便利だ。
北斗神拳も相当便利だったが、これも大概だ。
「……チッ」
顔の左側がずきり、と痛むのは、思い出すな、という警告か。
思い出すな、なんて無理に決まってんだろうが。
『俺』は、《俺》なんだから。


予定より少し早いが、俺はルドマンの家へ行くことにした。
宿に預けてある荷物は、ルーラの時に意識すりゃ持ってこられるだろ。
最悪、ピエールにでも取りにやらせればいい。
石橋を渡った先を見上げる。本宅の方は、家の灯りは消えている。
ついてたとしても、せいぜいベッドランプくらいだから、
盗みに入る分には問題なさそうだ。
「問題は、あっちだな」
地面に、俺の影を映し出す光。その出所は、別宅の方だ。
窓のところに、見慣れた人影がある。……あいつをどうにかしねえと、
盗みに入った後、逃げ出すのが難しくなりそうだ。
追いかけてこられちゃ、かなわねえしな。
……それに、きっとこれが最後になる。俺はお尋ね者になって、
こっちの大陸には戻って来ないだろう。だから、これで最後だ。
俺は、別宅へと向かう。窓から外を眺めているあいつはぼんやりしてて、気づいてないらしい。
ドアの側へと回り込み、開ける。ノックをするような躾けは生憎受けてない。
開けた途端、微妙に乱れたベッドが目に入る。
眠れなくて、何度も寝がえりを打つと丁度こういう感じになるか。
くそっ、なんか見てらんねえ。
「……ジャギ?」
流石に気付いたのか、階段の上からビアンカが声をかけてきた。
「おう」
とんとん、と階段を上がって、隣に行く。
見慣れた旅装束じゃなくて、寝間着姿だ。……微妙に目のやりどころに困る。
「大変なことになっちゃったわね」
窓の外を見たまま、こっちを見ずにビアンカは笑った。
「ったく、とんでもねえ話だ。あのおっさん人の言うこと聞きゃしねえ」
俺が考えてることは、もっととんでもねえけどな。
「でも悩むことないわ。フローラさんかデボラさん、好きな方を選べばいいじゃない」
その声が震えてるような気がするのは、気のせいだと思わせてもらおう。
「私なら大丈夫よ、今までだって、一人でやってこられたんだし」
一人じゃねえだろ、とは言わない。それは、俺が言うべきことじゃねえからだ。
「それにね、ジャギ」
突然、ビアンカが俺を見上げてきた。
「な、何、だよ」
真っ直ぐに、それでも寂しそうに、ビアンカが俺を見つめる。
「私、気づいてた」
気づいてた?
「何に、だ?」
「……ジャギが見てるの、『私』じゃない、よね?」
「ッ!?」
うろたえて後じさる俺に、やっぱり寂しそうに笑いかけながら、ビアンカは、言葉を続ける。
「ジャギ、さ。私を呼ぶ時に、よく、一瞬、別の人を呼ぼうとしてるんだもん」
「そう、だったか?」
「やだ、ジャギったら、自分で分かってなかったの?」
言われるまで、気が付かなかった。
ビアンカは、目を丸くした後で、細めて、語りかける。
「その人が誰で、どうなったのかは、聞かないよ」
そうしてもらえると助かる。聞かれても、答えられない。
「だって、ジャギ、そういう時、今みたいに、凄く悲しそうな顔をするもの」
だから聞かない、とビアンカは言って、笑う。
「……寂しいな。なんかジャギ、私の知らない所で、色んなことがあったんだもの。
 弟が成長して、手が離れちゃったような気分だよ」
「……悪ぃ、ビアンカ」
「謝らないでいいよ。ほら、ジャギはまだ疲れてるんだから、もう寝ないと」
ビアンカの笑顔が、痛い。ああ、ちきしょう。そうだよ。
どうせ俺は、金の髪をしてて、幼馴染だって、ただそれだけで、
お前にあいつを重ねちまうような、どうしようもねえ男だよ。
「ビアンカも、体が冷える前に、寝ろよ」
窓を閉める。今から俺がやることを、見られたくなくて。
ビアンカが知る、子供だったジャギのイメージを、台無しにしたくなくて。
《ジャギ》だったことを思い出す前の、『ジャギ』のことを、
ビアンカには、覚えていて欲しくて。
「うん……、おやすみ、ジャギ、また明日」
「……おやすみ」

また明日、は、ねえけど。


ビアンカとの別れは、済んだ。最後にビアンカが笑っていたから、少し救われた。
とにかく、これで後は、盗るもん盗ってとんずらこくだけだ。
それで、この一連の訳の分からない騒動は終わりだ。
ルドマンの家の扉は、あっけなく開いた。
いっそ閉まってて欲しかったなんて、考えるのは、どうかしてる。
目当てのものは、自分がこれから盗まれるなんてことも知らずに、
堂々と応接室に鎮座している。
ご丁寧に、指輪はテーブルの上に二つ並んで置かれている。
これを盗って、玄関へ出て、ルーラ。それで、終わりだ。
宝箱に、そろそろと、手を伸ばした。
「何やってんのよ」
心臓が喉から飛び出かけた。
何時の間にか、階段のすぐ隣に、デボラが立っている。
「何、って……盾盗んで逃げようとしてるんだが」
何故か、ぽろりと口から漏れた。
「……何でよ」
室内用の小さなランプを手に、つかつかと歩み寄ってくる。
ランプはテーブルの上に置かれ、部屋の中を照らす。
暗闇に、ゆらゆらと揺れる、二つの影。
「こうでもしねえと、盾が手に入らねえだろ。
 これは、俺の探しもんの、手掛かりなんだ」
「結婚したらアンタのもんだ、ってパパ言ってたじゃない」
デボラが渋い表情を見せる。
「結婚なんざ、めんどくせえこと出来るかよ」
ゆらり、とランプの中の炎が揺れた拍子に、デボラの顔が影になった。
その一瞬に、辛い顔をしていたように見えた。
「ちょ、ちょっと、私の顔に泥を塗るつもりなの?
 婚約者候補に逃げられた、なんて冗談じゃないわよ!」
だが、その陰はすぐに消えて、声を荒げて、睨みつけてくる。
その目尻で何かが光っているが、化粧だろうか。
「ああもう、うっせえな! こんな顔の相手と、結婚出来るっていうのかよ!」
こうなりゃヤケだ。顔に巻いていた布を取って、傷跡を晒す。
照らし出された俺の顔を見て、デボラが息を飲むのが分かる。
「その、傷、なによ」
分かりやすい反応だ。そりゃあそうだよな。
「ハッ。ビビったか? ビビったよなあ。こんな、二目と見られない傷!
 この傷を見て、吐いたりわめいたりする奴が、今までに大勢居た!」
《あの頃》も、それが嫌で、寝る時は顔に布をかけていた。
ぎゃあぎゃあわめいた奴は、不快だったから、殺した。
きっと、こいつも悲鳴を上げるだろう。そう思っていたが。
「え……?」
返ってきた声に含まれるのは、明らかに、恐怖じゃなくて、困惑だった。
その反応に、逆に俺が戸惑う。
「言う程、ひどい傷には思えないわ」
「ッ、んなわけねえだろ!」
どんだけ世間知らずなんだこいつは!
「何処に目ェつけてんだ! 調子に乗って、親死なせて、
 その挙句、こんな醜い顔になってんだぞ!? そんな俺と、結婚したい奴なんざ」
「ジャギ、私の目を見なさい」
居るわけねえ、という言葉が、遮られる。
デボラの、白魚みてえな細い指が、がっちりと俺の顔を捉えている。
「何しやがんだ」
「目を見なさい、って言ってんのよ」
その指が、左の眼の横を、つ、となぞる。
「ここに、一本傷があるだけ」
「……は?」
何を言われているのか、理解できず、間抜けな声が出た。
「あんたには、あんたが思ってる程、醜い傷なんて、無い」
「んなワケ、ねえだろ。だって、いつも、醜い顔が、水とか、鏡に、映って、見えて」
「あんたの顔を見て、醜い、って言った奴が本当に居た?」
デボラの言葉に、雷に打たれたような、衝撃を受けた。

「……居な、い」

ヘンリーも、ビアンカも、傷が、としか言わなかった。

その傷が醜いとか、酷いとか、そんなことは、言わなかった。

「私の目に映ってる顔を見なさい。ただの、小魚みたいな顔よ」

ちらちらと揺れる火影に照らされた、青い瞳の中。

そこに居たのは、『父さん』によく似た、傷が一本あるだけの、男だった。

「……はは、なんだ、そりゃ」
体から力が抜ける。立ってられなくて、テーブルに寄りかかる。
「幻、だったってのかよ、あの顔は」
俺が馬鹿だから、俺のせいで、『父さん』が死んだから。
だから、俺は傷を負ってなきゃいけなかった。醜い顔をしてなきゃいけなかった。
罰を、背負ってなきゃいけなかった。
そう思いこんで、俺は、自分で醜い顔を作り出していたってのかよ。
「馬鹿みてえ……、いや、馬鹿そのものじゃねえか」
肩を落として呟くと、デボラからため息が聞こえた。
「黙っておいてあげるから、今日はもう宿に帰りなさいよ」
ぺしぺし、と俺の頬を軽く叩く。
「明日まで考えて、結婚が嫌だってんなら、私からもパパに頼んであげるから」
でも、と言葉が続く。
「あのビアンカって子、あんたのこと好きよ。もう傷のことは気にしなくていいんだから、
 明日、はっきりあんたの答えを出した方がいいと思うけどね」
それだけ告げて、背を向けるデボラ。
まるで、俺がもう盗んで逃げたりはしないと、信じているかのように。
「なあ、テメエは、結婚する気はねえのか?」
「……相手がいたら考えるわよ」
階段を上がる背中から、そんな声が返った。
「……そっか」
小さく呟く。左の顔に手を這わす。この間まで感じていた、デコボコした傷跡の感覚がない。
あれすら、錯覚だったのだろう。あるのは本当に、ただ一筋の跡だけ。
「……そっか……」

外に出る。空を見上げる。見慣れた星はないが、星は輝いていた。

それを確認して、俺は、宿へと戻った。

部屋に戻って、鏡を確認する。あの醜い顔が、一瞬だけ浮かんで、消えた。

大丈夫だ、と思う。あれはきっと、悪い、夢だったのだ。

そうして、俺を悪夢から引き揚げてくれた奴が、居る。



翌朝。荷物を持って、宿を出る。布は、まだ巻いている。
「答えは決まったかい?」
「ああ」
常にない晴れやかな気分で、答えて、宿を出た。
昨日とは違った、後ろめたさも、イライラもない足取りで、ルドマンの家へ向かう。
街の奴らの声も耳には入らない。視線も気にならない。答えは、決めている。
メイドに案内され、応接間へ通される。
階段の所に立つ、デボラ。テーブルの右側にビアンカ、左側にフローラ。
そして、中央に座っているルドマンの前に、俺は立った。
「さて、ジャギ。よく考えたかね」
「ああ」
「それでは、答えを教えてもらおうか」
昨日の夜から考えたことを、俺は吐き出す。
「正直に言う。俺は、盾が欲しいだけ。結婚なんて、する気はない」
部屋の中で、全員がぎょっと目を剥いたのが分かる。
それでも構わずに、俺は話し続ける。
「……って、思ってたんだけどよ」
しゅるり、と音を立て布を解く。
「こうやって、俺が傷を晒しても、平気だ、と思わせてくれた奴がいた。
 晒せるような傷だ、と教えてくれた奴が居た」
話しながら、俺は階段の方へ足を進める。
寂しげな顔をされたのは、見ないふりだ。
「俺は、そいつと以外、結婚しよう、なんて思わない」
歩みを止めて、目の前にある青い瞳を見つめた。
「俺と結婚してくれ、デボラ」
パチパチ、と長いまつげの生えた目が、二、三度瞬く。
それから、ニヤリ、と口元に笑みが浮かんだ。
「……ふつつかっぽいけど、ま、いいわよ。ちゃんと面倒見てあげるわ」
了解ってことだよな、それは?
「なんと! デボラと結婚しようとは、正気かね!?」
「それは自分の娘に対して酷くねえか?!」
一世一代の告白を終えて気が緩んだのか、即座に突っ込みを返しちまった。
「むむむ、ジャギよ、見込んだ以上に勇気のある男だったようだな!
 よろしい、デボラとの結婚を認めよう!」
ルドマンの声に、俺は今度こそ緊張の糸が切れて、力なく笑った。
「おめでとうございます、デボラお姉さん」
フローラが、何故かにこり、と意味ありげな視線を俺に送る。
何故か顔を真っ赤にしたデボラが、ばしばしとフローラを叩く。何だってんだ?
「……おめでとう、ジャギ」
声をかけられて、振り向く。そこに、一瞬《アイツ》が見えた気がした。
でも、錯覚だ。目の前にいるのは、《アイツ》じゃなくて、『ビアンカ』だ。
「ありがとよ、ビアンカ」
「幸せにしてあげるのよ?」
「おう。式には出てくれよな。友達なんだから」
「……ええ」
「さあて、それでは早速結婚式の準備だ! 忙しくなるぞー!」
はしゃいだ、ルドマンの声が、屋敷中に響き渡った。



──────────────────────────────


※作者からの一言二言※

なんかもう各所から「それはねーわ」って声が来そうだ。
だが、私は謝らない(キリッ
嘘ですすいませんスライディング土下座です。
というわけで、これのジャギ様は顔に傷が(ほとんど)ありません。
無茶な設定ですいません。あとビアンカ派の方ハーレム派の方すいません。
うちではこの設定で押し通させていただきます。


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