『宇宙暦101.3.10
一時期アリシアを避けていたように見えていたプレシアさんだが、最近はアリシアにべったりだ。
何故か、シホミ姉さんがいつも以上にニコニコしているように見える。
まあ、家族の仲がよいのはいいことだと思うので気にする必要はないだろう。
さて今日は、プレシアさんの職探しである。
元の世界で技術者をやっていたというプレシアさんの経験を生かすためにまずはジャンク屋ギルドを目指すこととする』
「わあー、すごーい」
ジャンク屋ギルドの本部であるコロニ―で活動する作業用に改良されたMSを見てアリシアが目を輝かせる。そしてその隣ではプレシアが目を丸くしている。
「話には聞いていたけど凄いわね。このサイズの人型の機械を造って動かすなんて」
プレシアが元居た世界で、魔法を使わない人型の機械と言えば人間をベースにしたサイボーグと言える戦闘機人が唯一のものだ。それに対して、この世界では全長20メートル近いMSやASが大量につくられている。それどころか一部には100メートルを超える巨大ロボットが実用化されていると知った時には彼女は心底驚いたものである。
「そういや言ってなかったけど、俺のヴァルホークだって、人型に変形するんだぜ」
「変形!? 本当に凄いわね。魔法を使わず、そんな技術を生み出すなんて」
カズマの言葉に再度驚くプレシア。その時、頭にバンダナを巻いた男が近寄ってくる。そしてその男はカズマに親しげに話しかけてくる。
「ようカズマ久しぶりだな」
「ロウ、火星行きの準備で忙しいところ悪いな」
「いや、気にすんな。俺も異世界の技術者さんには興味があるからな。この人がそうか?」
ロウが視線をプレシアに向ける。それに気付いたプレシアは手を差し出すと握手を求めた。
「ええ。プレシア・テスタロッサです。今日はよろしくお願いします」
「ロウ・ギュールだ。よろしくな」
プレシアの手を握り返し、挨拶を返す。そしてお互いに自己紹介を終えた二人は早速とばかりに自分対の世界の技術について話し始める。
「私達の居た世界では魔法と科学を組み合わせた技術を使っているの」
「なるほど。けど、魔法を使っていても、基本となるとこは結構変わらない部分もあるみたいだな」
「ええ、そうね。元々は魔法と科学はある程度平行して進歩していて、それが次第に融合していった形だから。それにしてもこの世界の技術は本当に凄いわ。純粋な科学力ならば私達の世界を凌駕している」
その間、他のメンバーは話について行けず、完全に置いてけぼりであった。特にアリシアは母親の話している内容がまったく理解できず、退屈そうにしている。それを見たロウの仲間であるキサトが彼女に声をかける。
「お母さんが話終わるまであっちでジュースでも飲もうか? 確かゲームとかもあったと思うし」
「えっ、ほんと、行く!!」
「あっ、あたしもそっち行こうかな」
キサトの言葉に喜ぶアリシア。そして同じように退屈していたアカネも賛同の意を示す。それを見て許可を得るためにホリスがプレシアに話しかける。
「ふむ、そうですね。プレシアさん、そう言う訳ですので、我々はあちらの建物の中で待っていたいと思うのですがいいでしょうか?」
「えっ、ああ、そうね。お願いします」
プレシアの承諾が得られたことでロウとプレシア二人を残した他のメンバーは建物中へと移動する。そして建物のドアをあけるとそこには灰色のネズミが立っていた。
「ふも」
「ボン太くん!?」
「うわあ。かわいい」
その姿を見て驚愕するカズマと先程MSを見た時以上に目を輝かせるアリシア。それを見てキサトが説明に入る。
「ああ、これ、中身リーアムだよ」
「なかみ?」
キサトの言葉に不思議そうな顔をするアリシア。その言葉を聞いてその場の年長組ははっとして声を合わせる。
「「「「中の人などいない!!!!」」」」
その言葉に更に不思議そうな顔をするアリシア。ごまかすためにボン太君が奇妙な踊りを始める。
「ふもっふもっ」
「かわいい!!!!!」
それを見てボン太君に抱きつくアリシア。それをちょっと羨ましそうに見るミヒロとほっと胸をなでおろす年長組。そしてカズマはアリシアに聞こえないようキサトの耳元に口を寄せると尋ねる。
「なんで、リーアムがボン太君に入ってるんだよ」
「いや、あれ、今ジャンク屋の中で流行ってるのよ。結構安いのに下手なASより強いから自衛手段にもなるし、水中でも宇宙空間でも活動できるし、小型だから狭いとこで動けるし。それにあの手の形なのに不思議なことに細かい作業もできるの。あれ着た状態で、米粒に字を書いた人、私知ってるよ」
「ま、まじかよ!? しかし、そんだけ高性能ならデザイン変えて売り出せば……」
「それがね。試した企業が居るらしいんだけど、デザインを変えたら何故か性能が6割ダウンしたらしいのよね」
色々な意味で内容に突っ込みどころのありすぎるヒソヒソ話を交わすカズマとキサトの横でボン太君と戯れるアリシア。その後、ゲームをしたりジュースやお茶を飲んだりして、時間を潰していると2時間程がたち、ロウとプレシアが戻ってくる。
「いや、なかなか楽しかったぜ」
「ええっ、勉強になったわ」
二人とも思いっきり話し、満足した表情だった。そして丁度ゲームに飽きていたころだったアリシアがプレシアの姿を確認し、抱きつく。
「ママ―」
「あら、待たせちゃってごめんなさいね。ロウ、今日は本当にありがとう。あなたからもらった参考書役立たせてもらうわ」
「こっちもな。火星行きの間に暇潰せるものができたぜ。返ってきたら何か一緒に造ろうぜ」
「ええっ。楽しみにしてるわ」
勉強用にお互いの世界の基本的な技術資料を交換したことをお互いに礼をいい別れと再会の約束を交わす二人。アリシアはボン太君(をきたリーアム)と別れるのが残念そうだったが、大人しくプレシアの言うことを聞き、ヴァルストークへと帰還する。
「どうしでした? ジャンク屋は。やってみたいと思いました?」
「ええ、こちらの知識も色々と勉強できそうだし、楽しそうだし。中々いいかもしれないわ。ただ、できればもう少し色々とこの世界の仕事を見て周りたいのだけれど」
「構わないぜ。仕事は誇りを持ってやらなくちゃいけないからな。じっくり考えて選べばいいさ」
ミヒロの問いかけにプレシアは少し申し訳なさそうに言う。プレシアの職探しは、一応仕事、後で報酬を支払うとはいえ、今は完全居候状態であるのだから、そう感じるのは当然のことであろう。しかし、カズマはきにしなくていいと彼女を後押しする。
「うん。気にしなくていいよ。けど、そろそろ財政がやばいから別の仕事を挟まなくちゃいけないかな」
「それだったら私にも手伝わせてもらえるかしら。できることなら出来る限り頑張らせていただくわ」
「私もがんばるー」
アカネもカズマの言葉に同意する。プレシアとアリシアはそれに感謝し、仕事の協力を申し出る。
「ああ、頼りにしてるよ。それじゃあ、ヴァルストークに戻ろうか」
こうして彼らはジャンク屋ギルドをあとにし、プレシアの職探しの旅が始まるのだった。