短めの閑話ですが、投稿させて頂きます。
3.閑話2 精神状態を整えておくのも、ネトゲするには重要だと思うんだ
翌日、俺は痛む頭を抱えながら、白木のアパートに向かっていた。
昨日はあの後、どこからともなく集結したニ○厨の一個大隊に取り囲まれ、延々と大合唱を聞かされ続ける羽目になったのである。早々に不貞寝してしまった青崎はともかく、俺は黒澤と白木&あみりあさんとともに、明け方までつき合わされたのだ。奴らのバイタリティはマジで異常。
朝一の授業に寝坊しなかったのが奇跡のようなものだが、お陰で今日の授業は睡眠タイムと化してしまった。思うに、明かりを落としてプロジェクターを使用した授業は、ただでさえ眠気を誘う授業を、破滅的なまでに眠くさせる効果がある。来週からテスト期間なのに・・・orz
時刻はすでに夕刻だが、そんなわけで未だに頭痛と眩暈がひどかった。ちなみに黒澤も白木も青崎も、今日は授業をサボって寝ていたらしい。
そんなこんなで足取りも重く、俺は白木のアパートを訪ねた。
「白木~いるか~?」
ドンドン!
「ん?何だ、あいてるじゃねえか」
鍵さえ開いていれば勝手知ったる他人の家である。俺は玄関のドアノブをひねると室内に侵入した、
「うちゅ?」
・・・ところで俺を出迎えたのは、ちっこい幼児だった。
ピンクのハート型玄関マットにちょこんと腰を下ろし、こちらを不思議そうな目で見ている。
年は、三つか四つくらいだろう。"菓子パンでできた自らの頭部を差し出す某ヒーロー"のパジャマを着ていて、真っ白のほっぺをプルプル揺らしている。黒くてクリクリした目といい、つぶらなほっぺといい、癖のない黒髪といい白木の面影がうかがえる。
つーことは、つまり、この子供は・・・?!
俺は自らの妄想力に恐れ戦いた。
これも寝不足の引き起こす幻想なのだろうか。
「落ち着けえ!こういうときはあの呪文を唱えて落ち着くんだ!」
と、いっても、別に素数を数えるわけではない。
「アンタップ、アップキーブ、ドロー、アンタップ、アップキーブ、ドロー、アンタップ・・」
覚悟完了。
「あ、バネポン、いらっしゃ・・」
そこにタイミングよく現れたのは、ピンクと白のストライプのエプロンをして、片手にお玉なんてベタな格好の白木。
ちなみにこの腹黒男の娘の家事スキルはちょっとしたもので、掃除洗濯はもとより料理も激ウマなのである。これで股間のブツさえ気にしなければ立派なお嫁さんになれるだろう。
だが、今はぶっちゃけどうでもいい。
「白木!ちょ、おま、これ、いつ産んだんだ?!!!」
俺は片手につまんだものを白木の目の前に掲げて見せた。
「ひんっひんっひんっ」
首根っこをつかまれたのが痛いのか、ひんひんと世にも切ねえ泣き声をあげる幼児。つぶらな瞳いっぱいに涙を浮かべ、ほっぺをふるふる揺らしている。
「きゃあ!とっしー!」
それを見たとたん、万歳して恐れ戦く白木。どうやらこの男の関係者なのは間違いないらしい。
「何するデスか?!」
慌ててお玉を放り出すと、俺の腕からちんまりとした生き物を奪った。抱っこして頬ずりをすりすり、ぐずる幼児をなだめている。ぶっちゃけ、どこぞの若くて綺麗なお○さんと言われても違和感がない。
すりすりすべすべぷにんぷにん
「・・・お前、人生設計はもっとちゃんと練ったほうがいいぞ」
「何ふざけたこと抜かしやがりますかっ!この子はお姉ちゃんの子供です!都合でしばらく預かることになったんですよ!!」
死ねばいいのに!と呟く白木。心なしか腕に抱かれた幼児も、こちらを恨みがましそうな目で見つめている。
この幼児は、緑川としあき君(3歳)。白木が産んだわけでも、産ませたわけでもなく、白木のお姉さん(2×才、既婚者)のお子さんらしい。お母さんが二人目の出産のために入院したそうで、単身赴任の父親に代わってしばらく面倒を頼まれたのだそうだ。
白木の親戚の間では、久々に現れた小さな子供というのもあって、アイドル扱いだそうな。
「・・・んで、なーにしに来やがったデス?」
抱きしめた幼子の頭をいい子いい子しながら、こちらに悪鬼もかくやというおっそろしい顔を向ける白木。可愛いものに目がないこの男にとって、この小さな甥っ子は相当お気に入りらしい。
やべえ、特大の地雷を踏んだようだ。
「あ、いや、その、ほら、今日はお前んちで、パソ持ち寄ってパーティしようかって、話してただろ」
そう、今日は金曜日。夜更かし最高、明日は授業もナッシングなナイトフィーバーである。
以前は、この日は白木のアパートに集って、白木の料理を肴に酒を飲みつつ、麻雀を打つのが習慣だった。
だが、今日は青崎と黒澤が用意したノートパソコンを持ち寄って、リアルで集まりながらプレイしようと決めたのだ。気分は、正月等にPS○を持ち寄って、親戚の家に集まってプレイするモンスター○ンターに近い。ちなみに、ブロードバンドを引いているが白木の家だけだったというのも重要な理由の一つだ。
「・・・もうアオッチもクロスケも来ているデスよ。もうすぐポトフが煮えますから、入るです」
その声を聞いたとき、なぜか背筋に冷たい汗が伝った。
大皿にいっぱいのポトフをむさぼりつくし、デザートのコケモモジャム(白木の手製らしい)付きヨーグルトも完食して、俺たちはしばしまたーりとした時間をすごしていた。
・・・ところで、人生には”心の余裕”を充填できる時間が必須なのだと思う。いや、マジで。
『エイ、エイ、この!!所詮、あなたはカモなのにゃ♪』
ゲーム機を繋がれたテレビ画面には、ナイスバディだけど頭軽そうな薄着の姉ちゃんが、鉢巻に学ラン姿で手から炎を出す万年留年高校生をボコボコにしている。
画面の前に正座して対戦しているのは、青崎と黒澤だ。
アンチェインとも呼ばれる無限コンボを容赦なく使いこなす青崎は、むちゃくちゃにボタンを押し捲るだけの黒澤には荷が重い。時折、溜まったゲージを利用して超必を仕掛けようとしては、悉く出始めを潰されている。もはやコマンド入力ゲーと化した感のあるこの手のゲームで、青崎に勝つことは不可能に近い。
「ケケケケケケケケケッ!」
憎らしい高笑いする青崎に、
「喰らいやがれ!!」
顔面を珍妙に歪ませて我武者羅にコマンドを試す黒澤。
むやみにコントローラーをガチャガチャしていて、今にも壊しそうである。この男には発売当初の某W○iのコントローラーをすっぽ抜けさせて、テレビ画面にダイレクトアタックをかました前科がある。
むやみやたらと熱い二人はさておいて、俺はというと、食器の片付けられたちゃぶ台の上に自前のカードを並べ、久々のデュエルに精を出していた。いや、白木を相手に連敗記録を更新し続けている、というのが正確だ。
先ほどから、俺の”心の余裕”はガリガリと音を立てて削られ続けている。
「・・・で63マナ出して、"天才のひらめき"をキャスト。デッキから60枚引いてください」
超ニコニコ顔でご機嫌な白木。
先手第一ターン、数分にわたるソリティア(カードゲームで、デッキの動きを確認するため、1人でゲームを行うことを指すゲーム用語。「一人遊び用ゲーム」の総称。 転じて、自分のターンを延々と続けたり、相手に行動の機会をろくに与えない、1人で行動し続けるようなタイプのデッキも指す。もちろん、これは強烈な皮肉だ)の後、容赦なく1ターンキルを宣言した。
「一応聞きますけど、カウンターか何かありやがるデス?ないデスか。ないデスね」
DEATH、DEATHと響く悪魔の声。
恐らく、これは獲物を見つけた殺人鬼だけが浮かべることのできる凄惨な笑顔という奴だ。唇に一本加えられた髪の毛が男とは思えない艶と共に、心中の煮えくり具合を示している。
額には極太の青筋が浮かび、その背の後ろには、件のとしあき君が白木の白いセーターの裾をきゅっと握りながら、こちらを恐々伺っている。俺様、完璧悪者扱いである。幼子の怯えきった瞳が心に痛い。先ほどから俺の胃はキュッと奇妙な痛みを訴えている。
つか、俺も正直ガクブルがとまりません((((゜Д゜;)))))
「じゃあ、次はひっさびさにネクロドネイトでも使いましょか。ああ、メグリムジャーか、ロングデック、親和にTinkerも捨てがたい」
相変わらずの超いい笑顔で「さっさと次のデュエル始めんぞ、コラ」と視線で命令する白木。俺様に拒否権はないらしい。
つか、そりゃ身内だけのデュエルだから堅いことはいわないけど、それでも禁止カードを惜しげもなく搭載した極悪なコンボデッキばかり好んで使いたがるこの男は、本当に鬼畜すぐる。
だれか何とかしてくれ。
ウィニーやバーン、ステロイド、スライ系統のひたすら攻撃的なデッキを好む俺様だが、この大魔王の群のようなデッキ軍団には完敗である。(ちなみにポンザも大好物)。
ぶっちゃけイジメである。カッコ悪い!と己の意思を表に出せないチキンな自分が恨めしい。
俺はこちらに背を向けてPS2で格ゲーに精を出す青崎と黒澤に、アイコンタクトを試みた。友情とは、こういうピンチのときにこそ試されるのではあるまいか。
ザ・懇願!いい加減、助けに入ってくれてもいいじゃまいか!!
白木から見えないように、顔面からありとあらゆる体液を垂れ流しつつ、全身全霊で己の意思を表現する俺様。
だが、
『泣け、叫べ、そして死ね!』
「・・・なあ、青崎、八酒杯から八稚女につなげるのナシにしねえか?」
「気にするな、俺は気にしない」
決してこちらを振り向かないように、顔を画面に固定しつつ、さり気なく格ゲー談義に興じる裏切り者二名。友情とは無情の同義語であるらしい。
そして、悪夢の二時間後、
「とっしーも寝たことだし、そろそろゲーム始めましょ」
超いい笑顔の白木。
つやつやと顔が輝いている。逆に俺は枯れ木のように青ざめた顔をしているのが自分でも分かる。
その膝の上には、安心しきった顔で眠りの世界に旅立つ幼児。天使のような寝顔だが、この餓鬼は俺がコテンパンにノサれる姿を見ると、泣き顔を一変させてキャッキャと歓声を上げていたのである。そのうち立派な白木二世になるに違いない。このお年からお腹の中が黒いとか、白木一族は化け物か。
「・・・おお、終わったか」
延長戦に突入したプロ野球中継が終わるのを待っていた、とでもいうような気楽な口調の青崎。この冷血漢に対して、俺は言うべき言葉を一つしか持たない。
「裏切りもの!」
ハンケチの端をかみながら、ムキー!と涙を流す俺様。
「勝てない勝負はしない主義だ」
飄々とした、このロンゲ眼鏡も相当黒い。俺様はなんて友人に恵まれないのだろう。
ちなみに、黒澤は自前のノートパソコンをネットにつなぎ、先ほどから某大型掲示板になにやら書き込みをしているらしい。一体何があったというのか、顔を真っ赤にしながら「クソがッ!!!」とか「工作員自演乙!!!!」、「だっておwwwwwじゃねえ!!!!! 」等等と奇妙な独り言を漏らしている。血管がブチ切れそうな勢いである。無駄にテンションが高いのはいつものことだが。まったく使えない野郎である。
戦いに赴く前から相当なMPを消費してしまった感じの俺様。
だが、これがきっかけというわけでもないが、今日はゲームを始める前から、妙に嫌な予感がしていたのも事実であった。
そして、不幸にもその予感はドンピシャで的中してしまうのである。
続く?
(作者注:今回、やたらと某TCGネタが多く出ましたが、ついノリでやってしまいました。ゲーヲタ乙と笑ってくださいませ・・・orz)