作者注:このSSの8割位は、作者自身の経験したノンフィクションでできているかもしれません
2.狩の最大の敵、だと?
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。
いつの間にか目の前に尻と胸の大群が現れたんだ。ここは天国かと思ったら、気が付いたらキーボードに額を押し付けて突っ伏して、なぜかパーティが全滅していた。
な、何を言ってるのか わからねーと思うが、おれも何が起こったのかわからねえ。
「アホかぁ!!!!」
ボイスチャットの音量を下げないと鼓膜をやられそうな大音量で怒鳴る青崎、
「チネ、バカバネ!」
真っ黒なおなかをさらしたまま叫びだす白木に、
『・・・・。』
ローズヒップ氏は、わざわざ『・・・』をタイプしてまで無言の抗議を向けている。
まったく、元気のよすぎる死体共である。
そして、メタボ腹をゆさゆさゆらして周囲を我が物顔に歩き回る”二体”のモブ、ジャイアントオーガ。ときおりあくびをしながら腹をかく動作が憎らしい。
事の起こりはあまりにも不可解且つ不可思議であり、超自然的な力が働いているのは疑いようがない。
俺達は引き続き、いつ終わるとも知れないジャイアン狩りを続けていた。と言っても、基本ワンクリ放置の緊張感のなさ過ぎる狩だ。自然と俺の興味が他の者に向いてしまうのも仕方のないことだろう。
ごく自然に、俺の視線は共に戦う戦友達の方に向けられる。支援職であるヒラとしては、他の職がどのような動きをしているのかを見るだけでも勉強になるのだ。
そう、矢を射るごとにプリプリと揺れる尻。
スタッフを掲げるごとにやわらかく撓む胸。
ここは何処のパライソか、それとも時代がかったブラウン管式ディスプレイの見せる幻影か。
まさに、老いも病もない国である。
だが、ここで信じられないことが起こった。
なんと、尻と胸が徐々に数を増し、わが視界を占有しだしたのである!
お尻がひとつ、お尻がふたつ、
おっぱいがみっつ、おっぱいがよっつ
おしりがいつつ、おっぱいがいっぱい・・・・・・・・・・・
果たしてこれは、何かの心霊現象なのか?
それとも、電子の海が作り出す特異空間に影響されての幻覚か?
はたまた、尻と胸が人類に反旗を翻し、尻胸王国の建国を目指してDG細胞を取り込み、自己進化と自己増殖を開始したのか?
それとも、カースオンラインの秘められた機能がついに始動し、プレイヤーを取り込んだデスゲームの始まりだとでもいうのか!!
わが思考は増え続ける尻と胸に費やされ、脳は桃源郷を駆け巡る。
現代の科学では解明しきれなくなってきたジャイアン狩りパーティ。
この大宇宙の神秘を解明すべく全身全霊を傾ける俺の耳に、やがて遠くはるかな向こうから、なにやら別の音が聞こえてきたのである。
「おきやがれですぅ!!」
「ヒラがねるなぁ!!」
『バネさん━━━━(゚д゚;)━━━━起きて、みんな死んじゃうぅ~~~!!』
それは、ひっきりなしに響いてくる悲鳴と、画面を占領する巨大な二体のモブ。
すなわち、足元で騒ぐ憎いコンチクショウに自慢の金棒を振り回して、ゴミのように叩き潰すジャイアン達。ちなみに、今にもリサイタルを開きそうなくらい上機嫌なお顔である。
そして逃げ惑う、尻、胸、その他3名。
悲鳴、怒号、野次、騒音。
何事か、と俺が固唾を呑んで意識を切り替えた瞬間、前述の光景が展開されていたのである。
これだけをとってみても、この俺に責任がないのは確定的に明らかである。
「100%お前のせいだ!!」
「寝落ちとかありえません!!」
『30分に一回はジャイアン二体同時沸きがあるって、言ったじゃないですかぁ!!(#゚Д゚)』
30分に一回とか、その微妙すぐる沸き時間も俺が眠気の大攻勢を防ぐことのできなかった理由のひとつであろう。
「やかましい!尻と胸がいけなんだ!!俺をパライソへいざなうから!!」
「わけわかんねえよ!!」×5
チッ、心の狭い連中である。
続いて噴出す非難の嵐。誰か俺様にもヒールしてくれ。
だが、延々と続くかと思われた云われなき非難も、やがて死亡時の待機時間が差し迫ってくると、ピタリとやんだ。
このままでは町に戻されてしまう。それが何を意味するのか、わからないものはこの場には一人もいなかった。
「誰か、ヒラのフレいないか?死に戻りすると、その間に狩場とられるぜ」
現在、カースオンラインでは狩場が慢性的に枯渇している状態にある。
ゲームにログインしてくるプレイヤーに対して、経験地獲得効率のよい狩場の数が圧倒的に不足しているのだ。そのため、狩場待ちの長蛇の列ができたり、一度狩場を確保したら欲張って延々と狩をし続けて、寝落ち全滅フラグを打ち立てる勇者が後を絶たないという。俺達のパーティに怒った悲劇も、そんな氷山の一角なのである。
特にジャイアン狩りは、低レベルパーティの超人気スポットなので、ゲームにインしたものの狩場の空き待ちだけで時間がすぎていくのもザラなのである。
今でさえ、俺達の様子を伺っているらしきキャラが視界の隅で右往左往している。
「とりあえず、僕が暇してそうなヒラのフレを当たってみます。誰か来てくれるかなあ・・・」
狩場で寝るヒラはただの豚!と、いつもにもまして内心の発露を抑え切れていないらしい白木。ボイスチャットを通じて流れた腹黒ボイスに、慣れていないローズヒップ氏やハバネロ氏がビビリまくっているのが手に取るように伝わってくる。
それにしても、なるほどやつが積極的にフレンドリストを埋めていたのはこのためか。さすが白木、抜け目ねえ。
そして、
「助かりました。本当にありがとうございますです、あみりあさん」
「ありがとうございます」
『あ(・∀・)り(・∀・)が(・∀・)と(・∀・)う!』
『ありです><』
あみりあ様光臨。
先日の白木のフレンド登録がいきなり役に立ったようだ。
慈愛の光を降り注がせ、次々と倒れた冒険者達を復活させていくあみりあ様。なにやら後光がさしている気がするのは気のせいだろうか。
ちなみに、ジャイアン共はあみりあ様に適度にボコボコにされた後で結界によって拘束されている。ビショップの持つ拘束スキルだというが、なるほど、こういう戦い方もあるのか。勉強になるものである。
「寝る直前だったんでしょう?ずっとパーティしてて疲れてるところを本当にありがとうございますです」
「いえいえ~♪」
借りてきた猫のようにしおらしい白木。腹の中は真っ黒でも、大抵の人間はこれにだまされるのである。
「BANEPONさん」
ふと、あみりあさんは人差し指をBANEPONの額に突きつけた。
「めッ!」
続いてプンプンと「私怒ってます!」的モーションを発動させるあみたん
(´Д`;)テラカワユス。
こんな動作もあるとは・・・これだからカースオンラインは侮れねえ。
「このくらいのレベルだとヒラの動きって単調ですから、眠くなるのはわかります。私もかつてはそうでした」
超いい笑顔のあみ様。
「眠さを堪えて、祈りとパーティヒールの繰り返し。時たまモブに突っ込んでは玉砕される前衛職の方々に罵倒され、あげくは単なるポット扱いされるのがヒラの道」
なにやら、遠い目をしているような気がするが、それも現代の3D技術が生み出した幻影なのだろうか。
「やがて襲って来る眠気、眠気、眠気。常に自分との戦いです。そう、ヒラの最大の天敵は、眠気」
芝居がかった調子でそう断言するあみりあさん。
なんだろう、すごい既視感を覚える。
「眠くて、そろそろ落ちようかと思っても容易には寝かせてくれない、元気よすぎるニート達。あの手この手でパーティに引きとめようとします。『ポット』がなくては狩はできませんから。しかも、深夜のパーティです。ヒラの交代要員もなかなか見つかりません。叫べども、叫べども、直チャは一向に帰ってこない。でも、私が寝たらみんな死んじゃう!」
最後の一言に、力をこめてあみりあさんは、そう力説した。
俺は、ゴクリ、と自分の喉が動く音を聞いた。
「そして、ある時、気がついたんです。そんなヒラの必須装備を!」
そんな役立つ装備があるのだろうか。同じくヒラの道を歩むものとして、ぜひとも拝聴したいものである。
「ゲーム画面を全画面からウィンドウ表示に切り替えて、コーヒー片手にニ○ニコ動画。ヒラの最良装備です!」
ぶふう!!
「あ、ニコ○コ組曲とかいいですよ。あの大合唱聞いていると、無闇にテンション上がるから。ふふふ」
ヤンデレ風な目つきで語るあみりあさん・・・・orz
どうやら、眠気が突き抜けて、いい具合にラリっていただけのようだ。ちなみに今現在の時刻は午前の2時である。
「ニートがいいっぱあい、ニコ○コ動画~♪」
きし麺!と叫びだすあみりあさん。
妙なスイッチが入ったようで、そのまま歌いだす始末である。きっとこの人、カラオケでマイク手放さないタイプだ。
しばらくあみりあさんが落ち着くまで待とうと思ったそのとき、もう一人、釣られて歌いだす馬鹿がいた。
「ヤンマーニ ヤンマーニ ヤンマーニ ヤイーヤ」
白木である。
幼い時に戦火の中を彷徨っている所をSSSに拾われ、雇われの凄腕エージェントとなった女性のように、いきなり意味不明の造語を連呼し始めた。
「・・・あ、おい、バネ。まずいぞ」
心なしか青崎の声が上ずっているが、俺も全力で同意である。
声だけ聞けば完璧な女性ボイス且つアニメ声の白木。
たまにカラオケに行けば、延々と持ち歌のすべてを歌いつくすまで決してマイクを手放さず、俺と青崎は背景と化す。レパートリーがどれだけあるのか本人もいまいち覚えてないらしいが、一昔前のアイドルから、流行の女性アーティストまで、完璧に歌いこなす白木を止められる者は誰もいない。
全力全快でアニソンオンリーの黒澤と並ぶ鬼門なのである。
「速攻魔法発動!バーサーカーソウル!」
そして、音程をはずしながらも、いきなりどこぞのアニメの名台詞を叫びだした黒澤。どうやら○コ厨としての対抗心が刺激されたらしい。
ちなみに、この男は20年以上の歴史ある元祖TCGを裏切って、漫画とアニメで火がついたお子様向けカードゲームもどきに走った裏切り者なのである(異論は認める)。リチャード・ガーフィールドに全力で謝れ!!
とにかく、こうなってはもはや黙って見守るしかない。青崎もどう対処していいのかわからずに途方にくれている。
ところが、
[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!!
[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!!
[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!!
[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!!
結構ノリがいいのか全体チャットに連続で書き込み続け、弾幕支援し始めるローズヒップ氏。一万年と二千年前から続く俺への愛の告白だろうか。”彼”の正体を知る前の俺なら狂喜乱舞しただろうが・・・・orz
つか、なんで全チャ?!
と、思ったら、これが意外な効果を生み出した。
[全体]netz:愛してる~~~!!
[全体]なのねん:愛してる~~~!!
[全体]K’:愛してる~~~!!
[全体]しゃどむん:愛してる~~~!!
[全体]ジキル:愛してる~~~!!
次々に連投される『愛してる』の嵐に( ゚д゚)ポカーンな俺様。
周囲でパーティをしていた連中や、狩場待ちをしていた連中が一緒になって歌いだしたのだ。
眠気と単調な狩りの繰り返しで、みんな脳がいい具合にラリってるんじゃあるまいな。
「なんて友愛と献身・・・・狩場の大気から、眠気が消えていく・・・・・!! 」
混乱して大好きな名作アニメのセリフを呟いてみたりする俺様。
どうやら俺の脳もすでにこの異様な空気に犯されているようだ。
『このパーティ、マジカヲスwwww』
初参加のハバネロ氏に至っては、超ご機嫌ではやし立ててる。
次々に歌いだすパーティメンバー達に、俺様もうヤケクソである。
「億千万!!!億千万!!!」
最後に、ああ、これで今日のパーティも終わりだなぁと、青崎が悟りきった調子で歌いだしたのだった。
『『「「「「「直ぐに呼びましょ陰陽師 Let's Go!!!!」」」」」』』
・・・・orz
(作者注:時折、いろいろと何かが前後しているかもしれませんが、作者の悪ノリということでひとつご勘弁を(汗汗汗))