第二章投下します。二章まとまった時点で、一章も1板にまとめようと思っています。
0.海は広いな大きいな
オッス、オラ、バネポン。
この間の騒動以来、すっかり人間不信になってます。
父上様、母上様、オンラインゲームは怖いところです。
今はこのココロの傷を癒すべく、ベルロンドの人気のない岬で渚の音に耳を傾けているのさ。
ドッバーン、ザザー
ドッバーン、ザザー
ドッバーン、ザザー
アホー アホー!
[全体]益田四郎時貞:廃人PT交代戦士様募集。直チャおね^^b
[全体]ぬこ無双:買)レッドハット(クリティカル率9%↑) 出)40M 直チャよろ
[全体]通りがかり:ラージシールド防御力10%等、噴水横で露天中。お気軽にどうぞ^^
[全体]カニ侍:レッドキャップス、ペットレベル3売ります。希望額を直チャよろ。22時〆
[全体]みなわの雪:神殿横でオークション開催中。参加者募集
[全体]mei:L51精神ビショ、裸族狩りPTありませんか?
[全体]わんちゃん:無差別PKギルド『OK牧場』ギルメン募集。プレデターとレンジャイ歓迎!PKという名の新たな刺激をみんなにプレゼントしましょうw
[全体]コロ助:↑の馬鹿どもはスルーの方向で^^
波の音にカモメ達の鳴き声、ひっきりなしに入ってくる全体チャットのカヲスぶり。
そして、浜辺で膝を抱えて蹲るBANEPON。現実の俺はクッションを抱えてあごを乗せ、コンビニで買ってきたワラビもちをうまうましている。
この海岸というフィールドは、ベルロンドの町から少し海側にいったところにあるのだが、見事に人気がない。
照りつける太陽と、青い海、白い砂浜がずっと続いているだけで、モブもいなければNPCもいない。カニや小魚が気ままに泳ぎ、海草が揺れ動くのみ。波打ち際では砂が波にさらわれていく。妙にリアルな風景だ。
その波音に誘われたのか、今の俺みたいに癒しを求めているPCらしきキャラが数名、互いに孤独を保てる微妙な距離をとって点在している。そして、時折、突発的に入水しようと海に向かい、やがて波に押し戻されて海岸に打ち上げられたりしているわけで。・・・同士よ、茅ヶ崎あたりに行くがよい。
この間の鍵テロでは、幸いにも手に入れたレアアイテムを落とすことはなかった。
だが、代わりに大変なものを奪われてしまった。そんな俺の心象を一言で表すならこうなる。
奴は大変なものを奪っていきました。俺の心です。
ほふう。
悩ましげなため息をつくBANEPON。こんなモーションまで用意した運営乙。
「・・・おまえ、何やってんの?」
「思春期かしら?」
そんな俺様を見つめる馬鹿二人。言わずと知れた青崎と白木である。
ジト目モーションを発動させているあたり芸が細かい。
二人の後ろには金魚のウンチのように黒澤が引っ付いているのだが、ボイスチャットからガチャガチャとキーボードをたたく音しかしないので、誰かと直通チャットでもしているのかもしれない。
「ローズヒップ氏が先に狩場確保してるですよ。あんまり時間空けるとソロだと思われて横殴りとか怖いです。さっさと合流しましょ」
「とりあえずPOT確保、と。あと火力が1人集まったら狩り行くぜ」
BANEPONの襟首をむんずと引っつかんで引きずるワンコ。渚には、引きずられていくわが尻のあとだけが続いていく。ドナドナドナ~ドナ~♪
どうやら俺には落ち込む権利すらないらしい。
つか、このゲームってこんな行動もできたっけ?
「ハングってスキル覚えたんだよ。本来は大型モブなんかの首を絞めて拘束するスキルだが、バグがあってな。こんな風に嫌がらせにも使えるんだ」
説明をありがとう、マイフレンド。そして、てめえの血は何色だ?
「タンクさんもインしてるようですが、誘わなくていいですか?まあ、役立たずなのは毎度のことですけど」
相も変らぬナチュラルブラック白木。
俺様のささやかな抗議も完璧にスルーしている。
「タンクは生産クエやるから、今日はソロでいくとよ。お前らにもよろしく伝えてくれって、連絡あった」
あれ以来、妙にやわらかタンク氏と仲のいい青崎。
何気にフラグ立ててるとか、こいつのスキルも侮れねえ。
「あいあい、じゃあ火力募集かけときますね。ハズレじゃないことを祈りましょ」
[全体]PAICAl:ジャイアン狩PT、火力さん募集@1狩場確保済み、直チャおね^^v
手際よく全体チャットにメンバー募集の通知を書き込む白木。
しかし、野良PTは当たりハズレが大きすぎることを身をもって知ったばかりである。もう少し面子探しには気を使いたい。
できれば誰か信頼できる人を探して、なるべく固定PTを組みたいものだ。
「そういや、この間の『桃缶』とかってキャラ、2chと『しらたき』にさらされて炎上してたな。しかも、SS付で」
今思い出したとばかりに、さりげなく話題を振る青崎。
意味深な口調で、如実に貴様の仕業かと問うている。
「ですね~♪よそ様でも色々やらかしてたみたいですし、自業自得でしょう。もう、あのキャラじゃ野良PTには誘われませんよ。デリートして作り直したんじゃないですかねえ♪」
ケラケラと本当に楽しそうに笑う白木。
何のことでしょう、とあからさまに惚けている。
声とキャラの外見からは(リアルの見た目も、だが)可愛らしく微笑む女子そのものだ。それ故に正体を知っている身としては恐ろしい。
「・・・あいも変わらず敵に回すと恐ろしい男よ」
「人間って、普段の行動が大切ですよね~♪」
ですよね~♪
・・・確かにこの男だけは敵に回したくないものである。
「バネポン、なんか調子悪いなら今日はパーティ止めときます?」
天使のような透き通る声で問いかけるエルフ。
だが、ニコニした顔が妙に怖い。
目は笑っているのに、微妙に顔に影が射しているような気がするのは、PCに搭載した安物グラボのせいだけだろうか。
「い、いや、気が変わった。うん、今変わった。狩行くじぇ!」
俺のやる気は、たった今唐突に湧き上がった気がする。
「あら、そうですか。じゃあ、行きましょう♪」
そう言うと、エルフは片手をBANEPONに掲げた。
瞬間、青く透き通るような風が吹き、白い羽の舞うエフェクトがBANEPONを包み込んだ。『羽の生えた足』をデフォルメしたエフェクトが一瞬だけ出現し、ステータスウィンドウの移動速度が倍加する。
これは、弓使い(アーチャー)のバフスキル、スピーディフットだ。
一定時間の間、対象の移動速度を向上させる。上昇度合いと持続時間はスキルレベルに依存するため、躊躇することなくマックスまであげられる定番スキルらしい。
カースオンラインでは各種族の拠点となる大都市へはワープ石が完備していて、楽に移動することができる。だが、それ以外の小型都市や狩場へは普通に歩いて移動するしか術がない。しかもフィールドは狙ったように無駄に広い。
マップ上の一つのフィールドを直線移動するのに、通常の移動速度で走ると最短でも15分はかかるらしい。そのため、移動速度を上昇させるアイテムやスキルは重宝がられるのである。特にスピーディフットは効果が大きく、このためだけにサブキャラとしてエルフを選択する人も少なくないそうだ。
順番にバフをかけまわし、準備が整ったところで出発だ。
「じゃあ、先頭走るので、追尾よろ」
俺は即座にエロフの尻にマウスポインタを合わせて右クリックすると、『追尾』を選択した。
これで俺はなんの操作をしなくても、BANEPONはエロフの尻を追って「うおおー!!エロフ!うおおー!!」と駆け出すことになる。リアルでやったら通報されること請け合いの機能である。
「出発~♪」
ふりふり揺れる尻を追いかけながら(その後ろから、BANEPONの尻を追尾するワンコのことはもちろんアウトオブ眼中)、俺は志も新たに狩に赴くのだった。
結論:エロスはいいね。人類の生み出した文化の極みだよ。
そして、
「あ、待って!置いてかないで~~!!」
黒澤の間の抜けた声が、ベルロンドの郊外に響き渡るのだった。
第二章 「レベル上げは地獄だぜ!」編
1.キャラの育て方?・・・orz
GAOOOOO!!!
おぞましい雄たけびを上げたのは、紫の肌に茶色の毛皮を袈裟懸けに来たモンスターだ。
片手には黒い鉄の棍棒を持ち、ぶよぶよと脂肪の詰まった腹を揺らしてこちらを目指して駆けてくる。見事に禿げ上がった頭部には小ぶりの二本の角があり、黄色くにごった目には知性のかけらも感じられない。
イタボンから程近い『廃人遺跡』、その地下二階に生息する人型モンスター、ジャイアントオーガである。
通常のモンスターよりも強めに設定されたネームドモンスターという種類のモブで、ボス、セミボスに次ぐ強さを持つが、沸きは通常通り。倒してから数時間、もしくは数日の時間を必要とするボスクラスとは違い、倒せば数分で新たなモブが沸いてくる上に、手に入る経験値が多く、しかもレアアイテムをドロップする確立が高いという人気者だ(実際に、いくつかのパーティが他の沸きポイントでジャイアンを殴り殺している)。
ジャイアントの名前にふさわしく、外見は通常のPCの3倍ほどの巨体だ。見た目は日本昔話に出てくる鬼のイメージに近い。もしくは、ずんぐりむっくりとした体系から相撲取りを連想させる。
移動速度はのろいのだが、巨体が地響きを立てて迫ってくる光景というのは恐怖心を芽生えさせるものだ。実際、最初にこのモブを目にしたときは、軽く鳥肌が立ったものである。
「沸いたぞ!」
犬のような顔つきのキャラクターは、ボイスチャットで警告を発するやいなや、突如として出現した大型モンスターに取り付き、その首元に片手を差し込んだ。
コボルトの一次職『盗賊(シーフ)』のスキル、『ハング』である。対象モブの首を絞めている間、移動を不可能にし、攻撃速度を半減させる効果があるという。大型モブを倒す際には定番の拘束スキルだそうだ。
ぶっとい首をつかむには、ワンコのその手はあまりに小さいのだが、首をつかまれたオーガは苦しげに身をよじり、その場にひざを着く。だが、その姿勢のまま、棍棒を振り回してくるので危険である。
「グロ澤!」
「任せろ!!」
青緑色をした『青銅の鎧』に身を包んだ一人の戦士が、拘束されたモブの前に躍り出ると、中指をおったてた。
これは単なる挑発行為ではなく(他の職種でも、同様のモーションをすることはできる)、『タウント』というヒューマンの一次職『戦士(ファイター)』の基本スキルだ。モブの敵対心を煽り、使用者にターゲットを向けさせる効果がある。ボス、セミボスクラスには効果がないが、幸いジャイアントオーガには通じるのだ。
その場に拘束されたまま、戦士に向かって届きもしない棍棒をむちゃくちゃに振り回すジャイアン。なかなか愛嬌のある動作である。
「固定完了、殴れ!」
その掛け声に、周りを囲んでいた俺たちは、いっせいにジャイアンへの攻撃を開始した。
「あい~」
白木のエルフが弓を射掛け、
『私、ワンクリ放置してトイレいてきます~>ω<』
ローズヒップ氏が魔法の炎を降り注がせる。
「いてら~」
『侍』
俺たちのパーティの平均レベルは12を超えた程度。比してジャイアントオーガのモブレベルは18になる。
明らかに格上の相手を前に、全員が緊張感をみなぎらせつつ、ジャイアンへの攻撃を続けている。
「ローズさん、戻ったらバフ更新よろ~♪」
『了解^^b』
ちなみに、白木の操るエルフはまだ攻撃スキルを覚えていないとのことで、通常攻撃(つまり、マウスでワンクリ放置)のみである。
広いフィールドで複数のモブを倒すような狩りでは、射程の長さを生かしてモブを集める『釣り』役をするのだが、このように1匹の大型モブを小突く際には、ただの火力である。常に走り回る『釣り』よりも動かず狩れるジャイアンの方が楽らしく、レベル10を超えてからは常にジャイアン狩りを推進する急先鋒だ。
「ケッ、絞め殺すだけじゃイマイチおもしろくねえなあ」
逆に、この狩では黒澤と共にモブの足止めに終始する青崎は、直接モブを殴りにいけないためにフラストレーションが溜まるらしい(まあ、俺的にはこのほうがおとなしくていいのだが)。
「Fuck You!!」
どんなときでもテンション高過ぎの黒澤。
何気に帰国子女らしく、発音も完璧な本場の煽りを見せてくれる。
そして、
「ヂックショー!!」
渚に捨て切れなかった、行き場所のない怒りをモブにぶつける俺様。
新たに手に入れた『珊瑚の棍棒』(装備レベル:12)を手に、勇ましくジャイアンに殴りかかっていく。
「バネ!お前は殴りに参加しなくていいから、祈ってパーティヒールだけかけてろよ」
ちなみに、『プレイ(祈り)』とはMPを回復させるヒーラーのスキルのことだ。
「やかましい!!何かしてないと眠気に襲われるんじゃあ!!」
基本、ジャイアンはワンコとファイターにサンドイッチにされたまま完璧に拘束されるので、誰かがダメージを受けることもない。ぶっちゃけ暇だ。
時折、ジャイアンの敵対心が高まりすぎて拘束が解けたり、タゲが火力の強いローズヒップ氏や白木のエロフに向くこともあり、そうなると彼らがHPを削られることになる。腐ってもネームドボスであるジャイアンの一撃は強力で、ただでさえ紙装甲のダークエルフやエルフでは2、3発も殴られるとチンでしまうのである。
そして、もし死んでしまったら、非常に面倒なことになる。デスペナルティが発生するのはもちろん、その場でキャラ復活をさせられるレザレクションというスキルをヒラが覚えられるのはレベル28以降であり(復活アイテムもあるにはあるが、非常に高価なので使う奴は、まずいない)、つまり死んだら町まで『死に戻り』するしかない。エルフはスピーディフットを死亡したキャラにかけに町まで戻らなくてはならないし、万が一、拘束役のワンコか戦士が戦死したらパーティ崩壊の危機にもつながる。
青崎はそういう事態に備えて、待機しろといっているわけだ。
「ヒラが死んだら、誰が回復するんだ!」
まさに正論。
どこぞの婆忍者様のようである。ワンコの癖にぃ。
だが、モブのタゲが外れるような事態というのは滅多にあることではなく、本当に退屈な狩なのだ。ジャイアン狩りはヒラと火力職の『寝落ち』を誘うと有名である。
「くそう、ヒラはただのポットだとでもいうのか」
「何をいまさら。このゲームじゃヒラは"ポット"でエルフは"足"扱いですよ。支援職はいつの世も茨の道なのです」
ケッ、効率厨共め、と吐き捨てるエロフ。狩りに夢中になっているのか、幸い他の面子には聞こえなかったようだ。
『ただいま (*゚∀゚)ゞ 』
「おかえりなさい」
「おか」
トイレから帰ってきたローズヒップ氏を迎えた後は、会話らしい会話もなく無言でジャイアンを殴るのみ。本当に暇な狩である。
『ローズさんて、火力がすごそうですが、知能型ですか?』
よほど暇をもてあましたのか、そう通常チャットに書き込んだのは、野良で参加のダークエルフ『ハバネロ』氏だ。名前はアレだが、中身は普通の人だ。いつぞやのこともあって、ダークエルフには偏見のある俺だが、この狩では特にトラブルが起きることもなかった(退屈な狩だからというのもあるだろうが)。
『いえ、実はまだ体力にしか振ってないんです。転職後を睨んで精神に極振りしようかと思ってますが』
それでその火力とは、いったいどんだけ良装備で身を固めているというのだろうか。
『あらwじゃあ、もしかしてメテオ目指してます?』
『ですです。転職したらメテオストライク覚えてガンガンいきたいですね(*`・ω´・)b』
メテオストライク。通称、マダンテ。
すべてのMPを一気に消費し、消費したMPに応じたダメージを与えることのできる範囲攻撃魔法。ダークエルフの二次職『ウィザード』のスキルだ。きわめて効果範囲が広い上に、魔法攻撃スキルとしては最強クラスのダメージを叩き込むことができる。その特性から、ついたあだ名が『マダンテ』。
通常、魔法スキルによるダメージは知能のステータスによって上昇するのだが、このスキルだけは消費MP量に依存する。そこでMP量を上昇させるためにステータスを精神に極振りしつつ、MP上昇系装備を揃え、メテオストライクのみを連発するメテオWIZというスタイルが成立するのである。
もちろん、一発打ったらMPは空になるので、使用後はMPポットをガブ飲みしつつ逃げ回ることになる。ステは精神に極振りするので他のスキルの威力が雀の涙になるそうで、次弾装填までの間はほぼ無防備になってしまうからだ。
だが、それでもMP量を上げることにこだわり、一撃の威力にすべてをかけてこそのメテオWIZ。
ある意味もっとも漢らしい戦い方である。
「豪快ですね。そうか、ローズちゃんはメテオWIZかあ」
『パイちゃんは、レンジャイ志望でしたっけ?』
「ですよ。対人も楽しみたいので♪」
中の人さえ気にしなければ、和やかな光景なのだろうが・・・まあ、プレイ方法は人それぞれだ。俺も丸くなったものである。
「レンジャイか。対人職とはお前らしい。俺もプレデターになるつもりだから、育ったら勝負な」
青崎も会話に参加してきた。ハングしているだけというのも暇なのだろう。
ちなみに、レンジャイとはエルフの上位二次職で、全職中最大射程距離を持つ物理攻撃ができる。また、プレデターとはコボルトの上位二次職で、一対一戦闘を補助するスキルを豊富に持っている。
この二つは、カースオンラインの中でも1,2を争う対人職らしい。まったく、こいつらにはふさわしいとしか言いようがない。
「あいあい、お手柔らかにお願いします」
犬コロ風情が生意気な、と呟くエロフ。両者の間で見えない光線が飛び交うのが目に見えるようである。
それにしても、育成か。
どの職にもいえることだが、このゲームではレベル50代を超えると転職クエストを行って、上位二次職にジョブチェンジすることができる。
そして、我がキャラBANEPONは、治療師(ヒーラー)である。回復スキルを使用できる唯一の職だが、ヒラが上位二次職になるにあたっては、二つの選択肢が存在する。すなわち、『ビショップ』と『テンプラー』だ。
ヒーラーの上位二次職である『ビショップ』は、まさに究極の支援職ともいうべき職だそうだ。
他者に使用できるバフスキルの数は随一、その大半は防御系スキルとのことで、モブの強さが増すレベルの高い狩場へ行くほど需要が増すらしい。ダークエルフの二次職『ウィザード』と並んで、狩場の人気職だそうだ。だが、攻撃力はほぼ皆無。ソロはできず、パーティでは忙しい。必然的にお金がたまらない不遇職でもあるらしい。
もう一方のテンプラーは、方向性がビショップとは180度異なる。
言ってしまえば、最強アタッカー。鈍器を使用した一撃の威力は他職を圧倒し、盾を装備できるために防御力も高い。回復手段も持っている。
だが、ボス狩りや対人戦で大活躍できる反面、装備に非常にお金がかかるらしい。また、知能に振る必要があるために回復スキルの効果は低く、パーティでは"似非ヒラ"、”偽者”と呼ばれて嫌がられるそうだ。白木によれば「天ぷら育成に必要なのは、何を言われても気にしない"面の皮"です」とのこと。
ゲーム開始直後の俺なら、迷わず『テンプラー』を選択しただろう。
だが、つい最近、実際にこの二つの職についている人物を目の当たりにする機会があったのだが、そのときの経験が俺に"待った"をかける。
一人は、この間の鍵テロで知り合ったビショップの『あみりあ』さん。自愛あふれる天使。心まで癒してくれる。
もう一人はテンプラーの『†闇のプリースト†』。廃装備に身を包んだ、痛いと評判の有名人だ。ああは、なりたくない。
今のところ、俺は獲得したステータスポイントを体力にのみ振っている。どちらの職を選ぶにしろ、ある程度は体力が必要だからだ。
果たして、俺はどちらを選ぶのか。
GAOOOOO!!!
と、そんなことを考えているうちにも、新たに沸き出したジャイアンを殴り殺すのであった。