少し短いけど投下します。
レス返しはまた今度に。
7.中の人なんぞいない!!
白木の操るエルフの釣りによって、モブの殲滅力は一気にアップした。
俺のバネポンはもとより、殴殺は一瞬にして完了だ!とばかりに殺戮を続けるコボルトの『青汁』。
ハーフリングのやわらかタンク氏も、棍棒を手にすばやいフットワークでゴブリンをKOし続けている。
このパーティ、殲滅力が半端ねえ。
そして、何よりダークエルフたんの火力がすげえ。その魔法スキルは強力で、一撃で複数のモブをまとめて葬り去ってしまう。
だが、エルフがフィールドを縦横無尽に走り回り、絶えず新たなモブを供給し続けるので狩場が枯れることがない。
全員がひたすらモブを狩り続けるのに夢中で、地面に落ちたアイテムを拾う間も惜しかった。
それを察したのか、
『ペットだしますね^^』
ハーフリングが突如その場で軽くジャンプした。クルクルと回りながら、金色の星を降らせている。
マハリクマハリタヤンバラヤン・・・まるで魔法の言葉が聞こえそうである。おしい、手に持っているのが釘バットでなければ、もう少し絵になっただろう。
やがてキラキラが収まると、その場に不思議な生き物が現れた。
短い手足をプラプラさせながら、ケタケタと邪悪な笑いを浮かべたそれは、真っ赤な衣服に身を包んでいる。背丈はおよそバネポンの膝くらいだろうか。
顔立ちはほっそりとした女の子なのだが、その目には白目も黒目もなく、血の塊のような深紅で覆われている。
エラク不気味な生き物だが、これは、まさか妖精?
「ハーフリングの一次職『農夫(ハーベスト)』のスキルで、特定のモブを捕まえて家畜にできるです。プレイヤーをサポートしてくれる便利キャラですよ」
『か、家畜って言わなくても・・・・・・こ、この『レッドキャップス』は一緒にいると、飼い主の代わりに地面に落ちたアイテムを拾ってくれたり、モンスターの足を止めたりしてくれるんです』
なるほど、モブを洗脳調教するわけか。
なかなか便利なスキルじゃないか、やるなチミっ子w。
アイテムを拾わなくて良くなると、モブを殴るのに集中できる。
「バネ、そろそろお前も殴るだけじゃなくてスキル使えよ」
哀れなゴブリンどもを思う存分サンドバックにしたことで、多少は野生から戻ってきたのか、青崎のワンコ(ゲーム内では、コボルトは通称”ワンコ”と呼ばれるらしい)が話しかけてきた。
「パーティヒール取るために、スキル系統樹埋めてるから、どのスキルもレベル1だぞ。ステも初期値のまま振ってないしな」
このゲームでは、レベルが上がるごとにステータスポイントを4ポイント、そしてスキルポイントが2ポイント与えられることになる。
ステータスポイントを各種ステータス(力、敏捷、体力、精神、知能、運の6つだ)に割り振ってHPやMP、攻撃力、防御力なんかをあげたり、スキルポイントを使って新たなスキルを覚えたり、スキルレベルを上げたりするわけだ。
「1でもいいんだよ。使っとけばゲームそのものに慣れるだろ。若葉の内は何も考えずに殴るだけでいいけど、レベル10超えたらとたんにシビアになるぞ」
今の俺のレベルは6。ステは24ポイント分、スキルは12ポイント分たまっているのだが、今のところ使用しているのはスキルポイントだけだった。
スキルは白木や青崎から、「いいからパーティヒールだけ最優先でマックス!」と言われているので、進化の系統樹のようなスキルマップにスキルポイントを割り振り、パーティヒール(習得レベル10:パーティを組んでいる全員のHPを回復。回復量はスキルレベルおよびステータス精神に依存)の習得を目指している。
だが、ステはどのように振り分けていいのか分からなかったので、結局そのまま残していたのだ。
「ステは迷ったら体力に振っとけば、まず失敗しないよ。ヒラなら精神極ってのもありっちゃありだが、ヒラ死亡=全滅フラグだからな。ある程度は体力必須」
「ほほう、何をするにもまず体力と精神の力が必須というわけか。教育的だなあ」
そんな会話をしながらも、モブ共を千切っては投げ、千切っては投げ、たまに耐久力下がった武器なんかも投げ捨てて、俺達は狩りに熱中した。
夢中になって手を動かしていると喉が渇く。
俺は傍らに置いていたペットボトルの口を開け、コップに注ぎなおす面倒だったので、そのままラッパのみをした。中身は普通の紅茶(ノンシュガー、ストレート)である。
と、その時、不意にチャットウィンドウに白木からの直通チャット(任意の相手と1対1で会話ができるチャットシステム。ただしこれを使ったヴォイスチャットはまだ未実装)が表示された。
『PAICALさんから:ちょっとバネポン、この『ローズヒップ』ってキャラ要注意ですよ。たぶんネカマです。しかも廃っぽい』
ぶふう!!
俺は思わず、口に含みかけていたお茶を噴出した。
『PAICALさんから:言動がいちいち狙ってる感じがするし、AA多いし、ボイスチャットつかってないのが決定的です』
確かに、ダークエルフたんもハーフリングたんも会話するときは通常チャットだ。
だが、よりによってお前がそれを言うか?
『PAICALさんから:それに、このレベルにしては火力が尋常じゃないですよ。間違いなく魔法攻撃UP系装備で固めてるです。たぶん、他にもキャラ持ってて、稼いだバカラをこっちのキャラにつぎ込んでるんです』
なん、だと?
『PAICALさんから:結構多いんですよ。オープン初日から参加して、試行錯誤しながらキャラ育てたけど、ステ振りとスキル振り失敗しましたって人。それで、元から持ってたキャラをバカラ稼ぎ専用キャラにして、一から別のキャラを育成し直す廃人様が爆誕する、と』
・・・・・・。
『PAICALさんから:まあ、このゲームもオープンしてから日が浅いので、攻略サイトやBBSの情報も日進月歩で変わってるし、ステ振りやスキル振りをミスリードする人も多いですよ。廃人乙って感じw』
やられた。
こいつ俺の夢と希望をぶち壊しにしやがった!
そんなを指摘をされたら俺にはそれが真実にしか思えなくなってしまう。
俺はもう以前のように盲目的に黒エルフたんを愛せない。どうしてくれるんだ(゚Д゚)ゴルァ!
これじゃあ、ハーフリングたんのロリロリボディに走るしかないじゃないか!
俺はヤケクソのように茶を一気飲みした。
『PAICALさんから:あ、それとこっちのハーフリングも要注意ですよ』
ぶふう!
俺は再び茶を噴出した。
『PAICALさんから:ハーフリングは攻撃系スキル皆無のほぼ生産オンリーの種族です。ペットやPOT、素材系、あと上位職に転職すると強力な武器防具やアクセなんかも作れるのです。なので人気はあるですが、ソロはできないし、パーティでも敬遠されるので、普通はクエストや生産だけでレベル上げするですよ。かな~りマゾいらしいです』
・・・・・・・・・・・・・。
『PAICALさんから:ところが、時たま手っ取り早くパーティに混じって、レベル上げしようという猛者が現れるですよ。まだゲームに慣れてない初心者のうちにパーティに混じってフレを増やして経験値稼いで、それで味を占めるです』
・・・この世には、夢も希望もないというのか。
『PAICALさんから:フレンドリストに登録を求められたら注意してください。後々になっても寄生できるパーティの面子を確保しようとしている可能性があるです。ヒラは特に貴重ですから』
絶望したああああ!!!!
もはや我が気力はつきかけている。
『PAICALさんから:まあ、気付かない振りして話し合わせて付き合っておくのも手ですよ。何せ廃人様ってのは、装備自慢に合わせて適当に煽ててやれば、いい気になってアイテムとかポイポイくれるお調子者ばかりです。ハーフリングにしても、たまにパーティに入れてやって恩を売っておいて、生産代行なんかを頼むというのもありですよ。何せ生産系はマジでマゾ過ぎて、超貴重ですから』
この腹黒エロフは最後まで容赦することなく、俺のハートにトドメを刺した。
にしても、白木、ここまで悪辣に深読みできるこいつの腹黒さはマジで異常。このエロフのお尻には悪魔の尻尾でも生えているのか。
俺は少しばかりヤル気をそがれながらも、手を止めることなく狩りを続けるのだった。
「このっこのっ!!俺の青春をか~え~せ~!!」
ゴスッ、ゴスッ、グチャ!! 「グェエ!!」
ゴブリンの断末魔の悲鳴だけが俺の心を癒してくれる。
『Σ(゜Д゜ノ)ノ バネポンさん、ずいぶん気合が入ってますね』
「ふふふ、彼、ネットゲームってこれが初めてらしくて、かなり楽しんじゃってるんですよ。それより、フレンド登録お願いしてもいいですか?これも何かの縁ですし♪」
『ヽ(´▽`)ノ♪ もちろん!よろしくお願いします!』
和やかにお喋りする黒エルフと白エルフ。
先ほどまでのやり取りがなければ、それは心和む光景だったろうに。内心、ちょれえwと喝采している白木の呟きが聞こえてきそうだ。
その時、
『すみません、パーティあいてませんか?』
通常チャットで話しかけてきたのは、ローズヒップ氏と同じく『樫の杖』を持ったダークエルフの男性型キャラだった。
これが、波乱の幕開けだったのである。
作者注:「廃」「廃人」
MMORPGにおいて、キャラクターに経験値を稼がせてレベルアップを繰り返したり、装備を整えたりするためには、膨大な時間と労力を消費しなければならない。ゲームに重度にのめり込み、日常生活を犠牲にしてでも熱中するプレイヤーのことを、愛と羨望と畏怖と嘲笑をこめて、一般プレイヤーはこう呼ぶ。