正直放置で済みませんでしたと懐かしささえにじませて更新。
4.エロフの○○様
いつもどおり、カース・オンラインは多くの人でごった返していた。
時間は午後7時。社会人が顔を見せるにはまだ時間があり、廃人が起き出すには少し速いという微妙な時間帯。自然とインしているのは学生層が主体だろう。
つまり、基本的に俺TUEEE以外に興味がなく、マナーもクソもない厨二体質のプレイヤーが比率的に多くなるわけで。
ついでに言うと、奴らにとって支援職という地味めな職種は、自キャラの選択肢としてはアウトオブ眼中。もとより奴らにはヒラとは便利なアイテム以外の何者でもない。
故に、
『ぬこっとさんから:すみません、直チャ失礼します。キノコ狩りPTでヒラさん足りないのですお願いできませんか?><』
・・・まあ、こんな風に、誘われるならいざ知らず、
『アバランチさんから:ども、廃人狩りとかどうすかw』
とか。さもなくば、
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アルテマさんからパーティに誘われました。
パーティに加入しますか?
[Yes or No]
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・・・とまあ、このようにいきなり一言もなくパーティに誘われたりする。
無論のこと、全て断っているのだが、懲りずに何度もパーティを申込み、挙げ句の果てに、
『カール大帝さんから:ちょっと、さっきからパーティ誘ってるんだけど。さっさと入れよ』
とか言い出す馬鹿も出る始末。リアル厨房かも知れん。
人口多いメイジはともかく「マゾい上に金が貯まらん!おまけに装備が高すぎるんじゃゴルア!」と評判のヒラは、最近人気が低迷しており、おかげでパーティへの獲得競争が激化しているそうな。何それ怖い。
まあ、それはともかくとしても、今日は狩場に着くまでに強引な勧誘が多かった。
因みにこの混雑具合にも理由が在る。
世間様では、夏休み入り目前のこの日、カースオンラインでは初の大型アップデートが行われた。これまで立ち入りできなかったレベル60台以降の高難易度の狩場が開放されたらしい。
そうすると、今まで多少レベルの低い狩場での狩りを余儀なくされていた高レベル層が順繰りに適正狩場へ移動する。
そこで、低レベル狩場は逆に空くだろうと読んだ俺たちは、今まで人気が高すぎて近寄りもしなかった狩場に行くことにしたのだ。
フィールドの名前は『ピアーチェの町』。町と名の付くとおり、幾つ物建物が立ち並ぶ、タウンとして設定された場所である。
ただし、町の中にいても、非攻撃設定は適用されず、やろうと思えばPK行為すら可能な無法地帯、らしい。つか、それタウンとして設定しとく意味在るのか?運営、マジで(ry
一応、ゲーム内設定によれば、かつてこの町の中心部には膨大な魔力を生み出す魔力炉が建設されていたそうな。しかし炉心の暴走によって周辺が汚染され、元住民が突然変異してモンスターになったとか。ピザ食う亀でも沸いて出てきそうな設定である。
ちなみにこのモンスター、放射能漏れによって生まれたミュータントで、名前は『スープーキー』。モブレベルは30で、見た目はどこぞの世紀末救世主様に「あべし!!」状態にされた筋肉達磨である。頭髪が一本残らず抜け落ち、ボコボコと全身の筋肉と血管が醜く膨れ、左右非対称に肥大化した肉の塊・・・ココの運営は相変わらず斜め上に暗い情熱を注ぎ込んでいるらしい。
あれだ。どこぞの無限ゾンビ殺戮ゲームよりグロい!こいつらが廃墟と化したコンクリートジャングルのそこかしこからあふれ出てくる様は、ゲームを街が手いるとしか思えない。
この廃人ども、HPの量は少ないので、さくさく狩ることができるのだが、反面、攻撃力がやたらと高い。何より沸きが速くて量が多すぎる。ドロップも経験値効率も高い人気の狩り場なのだが、ヒラ(POT)とメイジ(火力)が必須だろう。
もともと数を狩るタイプの狩りでは、経験値効率はパーティメンバーがどれだけ働くかによって決まる。一匹だけのモブをひたすら殴るのと違い、モブがほぼ無数に湧き出すからだ。そして、廃人どもの攻撃力はやたらと高いので、気を抜くとすぐに全員の体力がレッドゾーンに近づく。
・・・つまり、わかるな?
「バネ、ヒラくれ!」
「おま、今パーティヒールかけたばっかやん!」
「油断したじぇ!」
歯を白く光らせ、ムカつく笑顔の黒澤。ボイスチャットだけのいつもと違い、コタツに座った本人の顔を眺めながらの狩りだと余計にイラつくのが不思議である。
これこそが通称・ヒラ殺しとも呼ばれる、廃人狩りパーティの恐怖。
前回の悲劇を回避するため、白木、青崎あたりが一計を謀ったのはいうまでもないことである。
ぶっちゃけ忙しすぐる。眠気が襲う間もないわ!
数多の強引な勧誘に辟易しつつ町を抜け、狩り場までの長い道のりをひた走り、やっと狩り場についたところで、待っていたのがこの扱いである。
どうやらカオスに終わった前回の狩りの後、白木、青崎、ローズヒップ氏による悪のヤルタ会談が開かれたようなのだ。
その場に居合わせたものの、適当に騒いでいただけの黒澤を適当に煽ててゲロらせたところによると、『バネは暇な狩り場に置くと寝落ちするから、忙しい狩り場で死ぬような思いをさせるくらいでちょうど良い』ということらしい。所詮ネットゲーマーに真の友情など生まれないとでもいうのだろうか。
この世の無常に嘆きつつ、顔面から汗とか涙とか青春の幻影とかいろんなものを垂れ流しつつ、全自動回復ポットと化す俺様。
「ハバネロは例の範囲魔法で、足止め重視頼むな~」
『了解でーす。オンバシラーー!!!!』
絶妙のタイミングで、ハバネロ氏が新たに覚えた範囲魔法「ライトニングボルト」を唱える声が響き渡った。
独特の掛け声と共に、真っ白い巨大な杭の形をした稲妻が、地べたに突き刺ささりながら広範囲に雷撃をばら撒いた。周囲のモブどもに大ダメージを与えつつ、一定時間の間、スタン状態にする。ダメージ量もそこそこあるが、この追加効果のおかげでモブが数秒足止めされるのが地味に強い。
この一撃で、モブどもの体力は見た目半分くらいに減っている。
そこに群がって暴行を加え、止めを刺す物理職。
「ほれ、今じゃ、ぬっ殺せ!!」
『「「Kill them ALL!!!」』
・・・なんでこいつら、今日はこんなにテンション高いのよ?
例によって例のごとくアレな感じのアホ崎はともかくとして、今日は何故か白木がヤバイ方向にノリノリなのだ。対面に座る奴の顔があまりに恐ろしすぎて直視できません!
なんていうか、顔は紅潮し、目は大きく見開いているが瞳は虚空しか見ておらず、ほぼ白目の状態。笑み含んで大きくゆるんだ口元には舌が覗き、既にろれつの回らない状態で更なる快楽を求めて嬌声を上げている。
そげなお顔で殺意のオーラを放っているので、ぶっちゃけただの快楽殺人鬼である。
ちなみに、上家と下家に座る青崎と黒澤も、先ほどからディスプレイに顔を固定したまま、少しも微動だにもしていなかったりする。・・・うん、気持ちは分かる。
「・・・おい、赤羽根ェ。手、止まってんぞ」
あひぃい!!
・・・リアルで失禁しかけたのは、初めての経験です・・・・orz
「すみません、皆さん、パーティヒールが届かないのでもう少し固まってください、ごめんなさい。不出来な俺でごめんなさい!!回復するので殺さないで!」
『き、今日はみなさん、いつもよりハイテンションなんですね(・ω・;)』
「アレはただのポットですから、気にしないでください。それより、ローズちゃんは今29だから、次レベル上がったらギルド作成クエ受けられますよね?今日中にいけそうですか?」
『はい!この調子なら@1時間くらいでいけると思います!』
「ですよね~~!私も後2レベルです。ポットを寝かす気ありませんので、時間の許す限りがんばりましょ♪」
声音だけは天使のようなそれで会話する白木とローズヒップ氏。俺の人権かむばーーっく!!
白木はともかく、ローズヒップ氏が真っ黒なおなかをさらけ出す白木のあしらいに手馴れてきたような気がするのは気のせいであろうか?これが噂の確信犯?
・・・狂気だ、MMOの世界はまだまだ狂気に満ちている。
「くそう、くそう。マウスの動かしすぎで手が痛くなってきたわ!」
「バネ、あきらめろ。人生諦めが肝心だぞ」
「諦めたら それまでだ!奇跡も魔法もあるはずだじぇ!」
「・・・おま、リアルに泣くなよ」
くそう、目から汗が吹き出てくるわい。
というか、心の傷に塩を塗りこむ白木の仕打ちは別にしても、忙しすぎる。
元々、数を狩るタイプの狩りである。右往左往してモブを追わないといけないから、沸き待ちの狩りと違って全員が多かれ少なかれ忙しい。
しかも、モブの攻撃力がとにかくやたら高いので、油断して突っ込みすぎるとすぐ死ねる。経験値は確かにおいしくて、さっきから目に見えて経験値バーがぐいぐい上がっているのだが、これ狩場維持がシビアすぎじゃね?
額に浮き出た汗をぬぐう暇もない。つか、ちょっとMP回復とヒール連打のタイミングがずれたら、たぶん全滅する。
さすがの黒沢も、何十回目かの突撃→ご臨終を経験し、経験値バーの減少(デスペナ)に恐れおののいたあとは、控えめにちくちくと地味な攻撃を繰り返している。馬鹿に物を覚えさせるには、厳しい鞭が有効だという証であろう。
まあ、黒澤がアホなのはいつものことなのだが、何よりも今回のパーティで障害となるのは・・・
「ひんっひんっひんっ」
つぶらなお目目に涙をためて、ふるふるとほっぺを揺らして泣く幼児であろう。
あろうことか、俺様の服のすそをくいくい引っ張りつつ、めそめそと泣いておる。ちょ、今、腕引かれてヒール空振りした!!
なぜにこっちくるのよ!あっちいけ、クソジャリめえ!ただでさえこっちは修羅場モードなんじゃあ!!
俺様としてはリアルに狩りの邪魔するチミっこをつまみ出したいところなのだが、
「アぁん?」
ジロ~リと、そこに突き刺さるのは、地獄の白木の殺意の視線。
微妙に前髪に隠された黒いお目目が、じと~っとした陰湿な殺意を向けてくるわけで・・・いあ、そんな呪ま~すされても困る!
ちょっ、今回俺はは何にもしてねえですよ!だから、親の敵を殺そうとするのはやめれ!
当の餓鬼は白木の視線についてはアウトオブ眼中らしく、なおも俺様のすそを引っ張っている。
「ひぐっ、ぐしゅ」
そこで白木が夜叉のような顔を一転。
「おーいーでー♪」
ほっこり、と(ぺ)天使も騙されるこの笑顔である。
カモン・ベイビイとばかりに広げられた両腕に、てててっと走ってその胸にぽふっと飛び込むクソジャリ。
よちよち、いい子とばかりに幼児を慰める白木。母性本能全開な笑顔であるが、それは夜叉を隠し持つが故の慈愛であろう。
「おなかへっちゃの・・・」
へみへみ、ぐしゅぐしゅと涙目で上目遣いに白木を見つめるジャリ。
「何食べたいですか~?」
「・・・ちゃまご」
卵のことらしい。そして、このクソ餓鬼は、あま~いオムレツが大好物らしい。
「すぐおいしいの作ってくるから、いい子にしてるですよ~」
そのとたん、ほこっと笑って泣き止む幼児。
がきんちょが、計算通り!的な笑顔をしている気がするのは、俺様の心が穢れているからなのだろうか?
「すみません、ちょっと離籍しますです」
『イ寺』
『てらり~>ω<b』
「あいあい」
あまりに沸きが酷いので、釣りもそこそこに半ば火力と化していたムチムチエロフこと白木の『PAICAL』。
だが、一人火力が抜けると、その分殲滅時間がかかる上に一人当たりに割り振られる被攻撃確立もあがる。つまり、俺様の負担がさらに増えるということで・・・orz
「ん~、地味に火力高いアチャが抜けるとなると・・・いけるか、バネ?」
「うぃ、ちとキツいわ。一旦、下がれないか?」
「廃人はヘイトがすぐ溜まるから、逃げずらいんだ。おまけに足もそこそこ速いから逃げる間にディスられる」
「了解、少し固まってくれ。パーティヒールの取りこぼしが在るとまずい」
「あいあい、みなの衆、そういうことでヨロ!」
『了解です!』
『あい~~』
さて、上記のやり取りは一部始終がボイスチャットを通じてパーティメンバーに流れていたりする。リアルタイムに目の前で何が起きているのか"見て"いた俺たちはともかく、問題はボイスチャットで会話のみ聞いていた他のパーティメンバーだった。
故に、
『ハバネロさんから:BANEPONさん』
ん?
この忙しいのにわざわざ直チャするんじゃねええ!キータッチする暇なぞないわい!
これは、あれか?嫌がらせか?嫌がらせなのか?嫌がらせだな?死ねェ!!
『ハバネロさんから:ちょっとお聞きしたいことがあるのですが』
俺様の内心の呟きを意に介さないハバネロ氏。
もちろん、画面の中でキャラも手を止めて棒立ち状態に成っている。
おま、メイン火力の癖に手ェ止めんじゃねえ!!
『ハバネロさんから:PAICALさんって、もしかして、リアル人妻っすか?ワクワク (0゚・∀・) テカテカ』
ぶふうぅ!!
思わず俺がマウスを握りつぶしてしまったのも仕方のないわけで。
『ハバネロさんから:エルフの若奥様キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !』
そう、例のとしあき君と、声だけ聞けば完璧な女性ヴォイスな白木の会話。それはパソコンに装備されたマイクに拾われ、パーティチャットを通して他の面子にもまるっと聞こえていたのである。
・・・ああ、そうか、そうだよな、声だけ聞いてりゃそういう結論にもなるわな・・・・・orz
もはや突っ込む気力もない。
「おい、バネ!ヒール止めるな!!」
「ごめん、マウスが死んだんだ、アハハハハh、ウフフフフ」
「え、ちょ!!それ、なんて全滅フラグ?!」
『バネさんが壊れた~~~!!!@Д@;』
さすがは高校時代に卓球部で鍛えに鍛えた俺様の握力!
クリックボタンがパカラっと馬鹿になって用を果たさなくなったマウスが憎い!
「みんな、ココは俺に任せろ!」
あ、黒澤が突っ込んだ。
また町まで死に戻りでもする気だろうか。いい気味じゃあ~~wwww等と現実逃避をしている間に、
「おいおい、バネ!あとハバネロも手止めてんじゃねえ!!」
『叩いて~~死んじゃう、死んじゃうよ~~~叩いて~~>ω<;;』
「この俺の本当の力を見せてやる!!」
多くのMMOおいてそうであるように、このカースオンラインでもまた悲劇が繰り返されたのであった。
「チッ!」
『うにゃあぁぁ(TωT)ノ』
「このままでは終わらんぞ~~!」
赤黒い肉の塊どもに、全員ごゆるりともぐもぐ頂かれててしまいましたとさ。
『ハバネロさんから:彼女は最高よ!』
合掌。
○○=若奥
世代的に分からん人にはわからんよなあ・・・orz
致命的なコピペミスを修正・・・orz