修正しました。
4.初めての×××
そろそろ狩場を移ろうかと白木が提案したのは、がっつんがっつんと犬と蜘蛛と蠍を殴り続け、レベルがもう三つほど上がった頃のことだった。
「ここじゃそろそろ不味くなってきましたから、外で狩るですよ~」
緑の返り血に染まったエロフ。この色が白かったらと妄想すると、俺様の○○○が少しヤバイことになっちまう。何せ、このゲームはマウスとキーボードと両方使うから、両手がふさがってしまうのだ。
「・・・そ、そうだな、そろそろ、緑以外の血が見てえ」
先ほどまで夢中になって甲殻類を刺し殺していた青崎も、我に返ったようにうなずいた。クケケケケと不気味な笑いも漏れ聞こえてくるが恐ろしい。ハアハアと息切れの音までマイクに拾われて響いてくる。・・・どんだけ興奮してるんだ。
こいつは途中から教授連中の名前だけでは飽き足らず、女の名前を(彼女か?ふられたのか?いい気味じゃあw)連呼してザクザクザクザクと何度も何度も刺突を繰り返していた。
ちなみに、青崎の選んだコボルトという種族は、平たく言えば狼人間で、灰色の毛に覆われた人間の体に、狼の頭が乗っかっているという外見をしている。
ギョロギョロと蠢く黄色い目玉や、びっしり生えそろった牙、そして真赤な舌が牙の合間から出たり引っ込んだりというモーションのオマケつきである。これがボイスチャットを通して聞こえてくる吐息と相まって、ただひたすら怖かった。
つか、青崎、思ってたよりあぶねえ奴だったようだ。
俺が友人のひそかな一面を見てドン引きし、関係を見直そうかと思案しているうちに、話はまとまったようだった。
「チュートリアルを抜けると各種族の街に飛ばされるです。みんな、街に飛んだら雑貨屋で『イタボン』行きのワープ石を買うですよ。イタボンは今オープンになってる都市の中では唯一種族に関係ない中立都市ですから、どこでもイタボン行きのワープ石が売ってるです」
「ちょい待ち、俺達ほとんど金ないぞ。そのワープ石はいくらするんだ?」
「だいじょぶですよ。100バカラもしないですから、さっきのドロップで十分買えるです」
バカラというのがこのゲームの通貨らしい。俺も蜘蛛や蠍を叩きながらドロップアウトした金貨なんかを拾っていたのだが、いつの間にか200バカラほどたまっていた。ついでにドロップアイテムをNPCあたりに売れば、もう少し金が手に入るだろう。
「この時間なら大丈夫だと思いますが、ラグったり落ちたりしたときは携帯で連絡するですよ。何せ、オープンテスト始まって日が浅いから、すっごい数のご新規さんいらっしゃい状態で、大きな町はラグりまくりです」
運営め、値踏みしてねーでとっとと鯖増やせやカス、という白木のボヤキを華麗にスルーしつつ、俺はマップボタンを押して町の場所を確認した。
ヒューマンの町は、マップの西側に位置する海に面した場所にあった。名前は、『ベルロンド』。どうやらこのゲームのフィールドは、西側を海に面した巨大な大陸の形をしているらしい。どことなくヨーロッパによく似ている。そういう意味で言えば、ベルロンドはスペインのあたりに位置していることになる。集合場所のイタボンは、ちょうどマップの真ん中、ドイツがある辺りだ。
・・・そういや、ラグって何だろう?
「特にバネポンは気をつけてくださいね。ヒューマンは一番人口が多いですから、街も混雑してるですよ。どの種族のどの職が強いか分かっていない現状では、HPにプラス補正のあるヒューマンは安牌なんで人気高いです」
なるほど。確かに俺もHPが多めって聞いて種族をヒューマンにしたからな。
で、ラグって何よ?
「え?じゃあ俺も気をつけなきゃジャン!!」
「・・・僕とアオッチは不人気種族ですから、町にもあんまり人いないですよね」
「だな。むしろイタボンの方が危なくないか?中立地帯の方がジョブ関係なく人集められるから、野良パーティの募集とかで人多そうだろ」
同じヒューマンだが、黒澤のことはすでにアウトオブ眼中らしい。いや、気持ちはわかる。
そして、どうやら言動から察するに、黒澤にも『ラグ』なる現象がどういうものなのか、わかっているようだ。
畜生、黒澤ごときでさえ知っていることを、聞き返すのも恥ずかしい。
まあ、ラグというのが何かは知らんが、とりあえず落ち合う場所さえ知っていればどうとでもなるだろう。
俺は気楽に考えると、再びエロフの尻を追いかけて走り出した。
目指すは、だだっぴろい平原に、一つだけデデンと聳え立つ人工物。まるでフランスの凱旋門のような、大理石でできた白亜の門だ。その出口らしき部分には淡い光が満ちていて、その向こうの様子をうかがい知ることはできない。おそらくこれが出口だ。
その光の中に、俺の仲間たちは次々に飛び込んでいった。
「じゃ、向こうでな」
「何か分からないことあったら、直通チャットか携帯で教えるですよ~♪」
「いざ去らば!旅立ちの野よ!!」
俺も奴らの後を追い、光の扉をくぐった先は、
「おおおおお!こりゃ、マジですげーな!」
半分ほど海に突き出している巨大な円形状の広場だった。
思わずキャラの視点を変えて、辺りを見回すと、真っ青な青空にまぶしい太陽が輝いている。柵に囲われた広場から海を見渡せば、美しいコバルトブルー海原がどこまでも広がっていた。
よく見てみると、水は透明度が高く、リアルに描写されたイルカや魚介類が群れを成して泳ぎ回っている。海の中は美しい原色の珊瑚や海草が生い茂り、深い底のほうには鯨らしき巨大な魚影まであった。
一方、反対側の町並みを見渡せば、そこはかなりの幅があるメインストリート沿いに、ギリシャやローマ時代を思わせる白い漆喰の家々が建ち並び、その合間を大勢の人間が行き交っていた。多くは様々な意匠の鎧やローブに身を包んだプレイヤーキャラだ。
残念ながら、俺には海外旅行の経験はないが、地中海のあたりではこれと大差ない光景が広がっているのではないだろうか。ちょっとした観光旅行に来た気分である。
そして、
[全体]被殻は格:変態狩りPT、レベル20~30のヒラさん募集@1。送迎アチャ出ます。直チャよろ^^v
[全体]たぴるす:小型片手剣+移動速度10%↑を3Mで買います。直チャおね
[全体]煙:毒抵抗78%イヤリング売ります。神殿前で露天してますので見てください
[全体]HOAOH:配達クエストPT募集中@3。スピーディフット使えるアチャさん歓迎!
[全体]mei:ギルド『猫猫団』新規ギルメン募集中。中央噴水前で説明会やってます。興味ある方は話だけでも聞いてください
[全体]taku:hPと力うpのバフをお願いします。鍛冶屋前にいます。
物の売り買い、パーティへの誘い等等、さまざまな声がひっきりなしに飛び交い、町は活気に満ちていた。ボイスチャットだけでなく、通常のチャット画面にも大量の書き込みが現れては消えていき、ログが雪崩のように消えていく。
この活気ってやつは、コンシューマーじゃ味わえない。多くの人間がネットを介してその場に存在するからこそ生まれるものだと思う。
・・・なんだか、少し興奮してきた。
「うし!とりあえずワープ石ってやつを買うとするか」
適当に町をうろついてNPCショップを探そうとした、そのときだった。
ぴんぽんぱんぽ~ん♪
と、どこかで聞いたようなチャイムが流れた。
ん?迷子のお知らせか?ま、黒澤あたりならやりそうだよなwww
などと、考えたていた次の瞬間に、悲劇は起こったのだ。
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カースオンラインをお楽しみの皆様、
平素はカースオンラインをご愛顧賜り誠にありがとう御座います。
20××年○月△日19:30より、ネットワーク機器メンテナンスの為、
緊急メンテナンスを実施する事をお知らせ申し上げます。
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( ゚д゚) はい?
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メンテナンス作業中、カースオンラインをご利用いただくことができません。
お客様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご了承いただけますようお願いいたします。
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(;゚ Д゚) え? 何? だから何なのよコレ?
すっかりわけわかめな俺をさしおいて、辺りに屯するプレイヤー達から、一斉に叫び声が上がった。
「何だよ、これ!」
「バカヤロー!」
「またかよ!」
「運営もう少し考えて仕事しろ!」
「このドロップ消えねえだろうな!せっかく攻撃力+10%の神品ひろったのに!!!」
などなど、野次と怒号と悲痛な悲鳴をあげつつ、次々に消えていくプレイヤーキャラ。
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突然のお知らせとなり、お客様にはご迷惑をお掛けいたしますが、ご理解ご協力の程お願い申し上げます。
カースオンライン運営チーム
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そしてゲームウィンドウが強制的に閉じられる瞬間、俺には天から神の声が聞こえたのだった。
ググレカス、と。
(×××=鯖落ち。。。。\(^o^)/ )