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No.18636の一覧
[0] 【習作】このMMOは荒れている[banepon](2010/05/24 01:01)
[1] 【習作】このMMOは荒れている2[banepon](2010/05/24 01:03)
[3] 【習作】このMMOは荒れている3[banepon](2012/10/22 00:58)
[4] 【習作】このMMOは荒れている4[banepon](2012/10/22 22:55)
[5] 【習作】このMMOは荒れている5[banepon](2012/10/22 22:56)
[6] 【習作】このMMOは荒れている6 おまけ追加[banepon](2010/05/24 01:30)
[7] 【習作】このMMOは荒れている7[banepon](2010/05/28 23:42)
[8] 【ネタ】このMMOは荒れている8[banepon](2010/06/07 22:14)
[9] 【習作】このMMOは荒れている9[banepon](2010/06/08 01:26)
[11] 【習作】このMMOは荒れている10[banepon](2012/10/22 20:02)
[12] 【習作】このMMOは荒れている11[banepon](2012/11/08 10:12)
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[18636] 【習作】このMMOは荒れている
Name: banepon◆67c327ea ID:ca9257c5 次を表示する
Date: 2010/05/24 01:01
修正しました。







0.始まりの大乱闘





「・・・なんでこうなった?」

半ば現実逃避にも似た困惑の声が思わず口から飛び出てしまったほど、眼前の光景は常軌を逸していた。






ここは大き目の体育館を縦に4つほど並べた程度の広さのある洞窟のような空間だった。

天井もそれなりに高い。ただし、壁といわず天井といわず、赤と黒を基調とした不規則で乱雑かつ意味を持たない落書きのような、不気味な文様が刻み込まれている。おまけにところどころ生き物の血管のように脈動していて気持ち悪い。

そして、その空間を無数に埋め尽くす奇怪な生き物の群れ。

原色のグロテスクな肌に、肉体のバランスを無視して不自然に膨れ上がった筋肉。見た目は極悪なほどに醜悪で、しかも爪や牙は実用性があるのかどうか疑わしくなるほどに長く伸び、口からはダラダラと生理的腱を催す大量のよだれをたらしている。おまけに手に手に血まみれ且つ錆まみれの鈍器を持っているので、なおさら絵面が酷い。



彼らは周囲に群がる人間に無差別に攻撃を仕掛けているのだが、・・・まあ、そんなものはこの際どうでもいい。

何より唖然とさせられるのは、その怪物どもをガン無視して、ド派手な殺し合いをし続けている無数のプレイヤーの群れだった。



一様に耳が長かったり、獣のような顔つきをしていたり、背丈が常人の半分ほどしかなかったりと、様々な種族が入り乱れている。共通する特徴は、そろえたように美形ぞろい(ただし、どこか画一的で、企画化された印象を受ける)であること。そして、その頭上に燦然と輝く文字が浮かんでいること。それは、彼らの名前である。

大半は、やたらとキンキラに派手だったり、逆に不気味だったりとデザインの方向性に差異はあるものの、いずれ実用性皆無の装飾過多な甲冑を着込んでいる。そして、もう半分はTシャツ、浴衣、メイド服にゴスロリドレス等といったコスプレ衣装を着込みながら殺し合いに精を出していた。酷いのになるとセーラー服や学生服、バニーにナース。極め付きはブルマに体操服だろうか。

さらにいえば、彼らが身に着けているアクセサリーの類も鼻眼鏡、うさ耳、眼帯、チェーンピアス等々、あまりに雑多で規則性がない。

顔だけは美形極まりない色物集団が、手に手にイカツイ武器を構えて全力で殺し合いをしている光景というのは、なかなかシュールだった。



そして、この大乱戦のさなか、その他大勢のご他聞にもれず、嬉々としてPKに走る馬鹿野郎三名。



一人は、やたらとキンキラと派手な鎧と片手剣に大型盾を装備した男性キャラ。

「なかなかやるな!」「俺の本当の力を見せてやる!」「俺をここまで追い詰めたのは、お前が初めてだぜ!」等等、痛すぎる言動を乱発しつつ、大剣と盾を振りまわし(この盾にも一応攻撃判定があるのだ)、攻撃スキルを連発している。

だが、相手に与えるダメージは微々たるものでしかない。逆に、周囲からタコ殴りに殴られている(まあ、気持ちは分かる)のだが、どれだけ攻撃されても頭上のHPバーはほとんど減らず、少したてば元に戻ってしまう。

体力が高めに設定されたヒューマンという種族の中でも、さらに防御スキルに特化してパーティを守る盾となる職種、”肉団子”の愛称で知られる上位二次職『ディフェンダー』。ステ振り次第では、常軌を逸した物理防御力を持ち、どんだけ殴られようが生き残ることができる。そのため、最後には気絶や睡眠、スタン等の妨害スキルをかけられて放置されている始末だ。



もう一人は、真っ赤なタキシードのような服装に身を包み、同じく真っ赤なシルクハットを被った、狼のような顔つきの男性キャラ。

収支無言で、ふっとプレイヤー達の手前に出現しては、両手に装備した鉤爪状の武器を使った連続攻撃を叩き込んでいる。

対人戦闘に特化した種族、コボルトの上位二次職『プレデター』。その基本戦法は、ハイド(自身のレベル+5以下の相手に姿が見えなくなるスキル)で密かに忍び寄り、妨害スキルの嵐で反撃を封じ、その隙に高速の連打を叩き込むというものだ。一撃の威力は非常に小さいのだが、高確率で発生する強力なクリティカルによって、瞬く間に相手のHPを削りきってしまう。

このような乱戦において『戦っていたと思っていたら、気がついたら死んでいた。なにを言っているのかわからねぇかもしれないが(ry』な状態になったら、間違いなくこいつの仕業だ。



最後の一人は、片手に自分の身長の倍程もある巨大な石弓を携えた、笹穂状の長い耳が特徴的な女性キャラ。

戦場をすさまじいスピードで移動しつつ、ケタケタと謎の嬌声を上げては無差別にプレイヤーを狙撃している。

弓による遠距離攻撃を得意とする種族、エルフの上位二次職『レンジャー』。攻撃射程距離は全職中随一、しかも威力の高い単体攻撃スキルが豊富で、広いフィールドでの対人戦では最も恐れられている。何より、自身の移動速度と攻撃速度を倍以上に引き上げる特殊なバフスキルを持っているため、他職が攻撃できる距離に到達した頃には(大抵は近づく前に殺されてしまうのだが)、はるか遠くに逃げられてしまう。




・・・とまあ、ここまでくれば察しのつく方もおられるだろうが、これは、とどのつまり、とあるオンラインゲームの中の光景なのである。

友人たちと気楽な気持ち出始めた某大作MMORPG。広いフィールドに多種多様なモブやクエストを用意してあるため、あらゆるレベル帯のプレイヤーをあきさせず、また、生産や築城、商売クエスト等も完備していて、戦いを忘れてまったりしたい都市型プレイヤーにも配慮している。その他にも遊び的なコンテンツが充実し、あらゆるプレイヤーのニーズに答えている。

PVP要素にも重点を置いていて、ギルド戦、タウン戦、攻城戦等の大規模戦闘もあれば、街中や安全地帯を除くすべてのフィールドでプレイヤー同士の戦闘、つまりPK行為も可能である。



そして、上記の三名こそ、俺とともに一緒にこのゲームを始めた友人たちだ。

それが、どうしてこうなってしまったかというと、とにかくすべての始まりは、今をさかのぼること半年前。春の盛りも過ぎた頃のことだった。






1.麻雀なんて所詮は運だけのゲームさ!






「ロ~ン!リータンピンドラ1!」

俺の差し出したサンゾーに、耳障りなほど高い声でそう言ったのは、対面に座る白木だった。こいつはかなりの童顔+女顔で、声まで並の女より高いものだから、見た目殆ど女にしか見えない。だが、麻雀の腕はお粗末だ。

その場のノリと自らの手役だけを追いかけるので、手が読みやすく、下席に座った奴は好きなだけ鳴くことができる。だが、それだけに一度調子に乗らせると爆発力がある。事実、今日はこいつの連勝だった。

「裏ドラは・・・キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!ドラ3で跳ねた!」

ガッデム!

両サイドの怪しい動きを警戒して思わずションパイを切ってしまったのが不味かった(ドラ含みのイーシャンテンに目がくらんだというのもある)。よりによって白木ごときに高目を振り込んでしまうとは、俺様一生の不覚。

右席に座っていたロンゲ眼鏡こと青崎が、さも面白そうに自らの手牌を公開した。

「あひゃ♪赤羽ちゃん、油断したねえ」

ノーテンかよ!

しかも殆ど手になってねえよ!そのくせサンゾーとロッソーだけはちゃっかり抑えてやがるよコイツ!

人の河をちょくちょく気にしていたあの態度はブラフか (゚Д゚)ゴルア!罰符もんじゃあ!

常に人の手を読み、心理戦をしかけ、油断したところをダマで高目を食らわすこの男の麻雀は本当にいやらしいことこの上ない。いつか後ろから刺されんぞ。

「・・・な、なあ、もしかしてだけどさ、俺も上がってないか、これ」

左席の黒澤は黙って俺の切ったサンゾーと自分の手牌に視線を行き来させていたのだが、そう言うと牌をオープンした。

まさかダブロンじゃあるまいな(俺たちルールではダブロンは有りなのだ)、と思いつつ役を確認したのだが、

「馬鹿野郎!手になってねえじゃねえか!」

「え?なんで?ちゃんとテンパイしてるだろ?」

確かにテンパイはしているのだが、そもそも麻雀は役がないと上がれないということすら分かっていないらしい。誰だ、コイツを卓に誘おうなんていいだしたのは。

と、考えたところで思い出した。誘ったのは俺だ。今日はいつも麻雀を打つ面子がそろわなかったので、人数あわせに呼んだのだが、ここまでつかえないとは思わなかった。

「飲み物もって来るですよ~♪」

やたらと機嫌のよさそうな白木の声がまたムカつく。いつもは3着と4着の間を行き来してるくせに生意気な。

ちなみに、ここは白木の部屋だ。先ほどまで麻雀を打っていたコタツと、勉強用の机、そして机の上におかれたノートパソコン以外には特に何もない。俺も含めて他の面子の部屋は、その、なんだ。ほぼゴミで埋め尽くされているため、自然と麻雀を打つときは白木の部屋に集まるのが通例だった。

「あ~も~負け負け。ケツの毛までむしられて鼻血もでねえ」

『"ドラドラの実"の能力者』の異名をほしいままにする俺様だが、今日はとことんドラに嫌われているらしい。

ため息をつくと、白木の差し出した水割りを受け取った。薄めに割った『いいちご』が渇いた喉に心地いい。

「でも麻雀も飽きたな。金賭ければ違うのかもしれないけど、俺たち賭けられるほどの金ないしな」

「確かに、ちょっと食傷気味かな」

もともとこの面子は、アニメで火がついた某カードゲームの元ネタとなったTCG(トレーディングカードゲーム)をするための集まりだった。

ところが、カードゲームというのは次々に新しいカードが出てルールも変わっていくために、とにかく金がかかる。バイト三昧でも万年金欠の貧乏学生が続けるのは難しい。そこで、いつしかその他のゲームに手を伸ばし、ここ数ヶ月ほど麻雀にはまっていたのだが、それも徐々に飽きていた。俺たちはギャンブルよりも、純粋にゲームそのものが好きなのだ。

そのつぶやきに反応したのか、


「じゃあ、ネトゲとかどうですか」


焼酎の紙パックを片手に、全員分の水割りを作っていた白木の一言が、すべての始まりだった。

「ネトゲ?ギャザの新しいパックか何か?」

「違うですよ、バネポン。パソコンのゲームですよ。インターネットに繋いで、みんなでパーティとかして遊ぶです」

どうでもいいが、こいつの話はいつも要領を得ているようで分かりにくい。

「知ってる、女の子拉致監禁して、ひやっほう!するんだぜ。俺、もう200本くらい持ってるYO!」

急に目を爛々と光らせて会話に参加してきた黒澤。つか、鼻息が荒いぞコイツ。うぜえ。

「違うですよ。普通のRPGです」

オナニーマスターでもやっとれ馬鹿チンが、と白木がぼそっと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。一見、人畜無害そうな男だが、こいつの腹の中が真っ黒であることはすでにこの場の(黒澤を除く)全員が気づいている。

「ん~~、ドラクエとかFFのキャラを、一人が一人づつ受け持ってパーティプレイする、と言えば分かりやすいですか?」

「俺は分かるよ。リネとかラグナロクとかだろ。実は前からやりたいと思ってたけど、種類が多いから、どれをやるか踏ん切りがつかなかったんだよね」

青崎が水割りのグラスを受け取りながらうなずいた。そういや、こいつもRPGとか好きだったな。

「バネポン、インターネットは部屋にあるですか。あとパソコン」

いまどきの学生だ。インターネットとパソコンくらいは普通に持っている。いずれ就職活動で必要になるからな。

俺がうなずくのを見ると、白木は机の上においてあったノートパソコンを起動させた。

「実は、僕も一昨日始めたばっかりなんです。ちょうど面白そうなゲームが、最近オープンテストを始めたんですよ~」

白木は慣れた手つきでブラウザを開くと、とあるホームページを表示させた。

「カース、オンライン・・・?」

『Curse Online』。やたら派手な装飾文字で画面には、そう表示されていた。

呪われたオンライン・・?デスゲームでも始まりそうなタイトルである。

「ああ、これなら知ってる。確か、一昔前に流行った洋ゲーが元ネタだろ。最近になってまた人気が出てきてた。そうか、ネトゲになったのか・・・」

青崎が感慨深げに画面を覗き込んだ。

「このページからアカウントの登録を行って、後はこのボタンをクリックするとゲーム本体をダウンロードできるです。テスト期間中は無料でプレイできますから、かなり遊べると思いますよ。まだ、妙な課金アイテムも出てないですし」

その分、ステ振りもスキル振りも失敗できないですけど~、などと妙にしたり顔でうなずく白木。

・・・まあ、どうせ暇だし、タダだというなら試しにやってやるのもいいだろう。

俺たちは今日の夕方(一晩中打ち続けたので、すでに日が昇っている)頃に、時間を合わせてゲームを始めると約束し、白木の家を後にしたのだった。






2.俺もエロフにすりゃよかったよ!






夕刻。

「この『信仰』ってところは埋めなくていいのか」

『そこはまだ選択できないですよ。ゲームを進めてレベルが20を超えないと選択できない仕様です』

「ん、じゃあこれでOKか・・・案外難しくなかったな」

件のホームページにアクセスしてゲームをインストールし、俺はなんとかキャラクターを作り終えていた(途中分からないところは電話で白木に聞いた)。

テレビゲームはドカポンや桃鉄、人生ゲームみたいなボードゲーム系が好きな俺だが、ドラクエくらいはやったことがある。特に、自分で好きなキャラを作れるⅢは大好きだったので、キャラの種族や職業、外見まで設定できるというのは新鮮な感動だった。

「バ、ネ、ポ、ンっと。おし、できた」

最後にキャラネームを入力し、俺は決定ボタンを押す。

『カースオンラインへようこそ!選ばれし勇者よ、これまでにない冒険の日々が、あなたを待っています!』

テンプレっぽい説明文とともに、俺の作成したキャラクターが、画面の中に登場した。

茶色っぽい皮製の鎧に身を包んだヒューマンの男性型キャラクター『BANEPON』。黒髪黒目の典型的な日本人の容姿だが、顔はもちろん超絶美形だ。しっくりとくる目と鼻と口、そして髪型の組み合わせを試して30分以上もかけただけのことはある。

俺がマウスを操作すると、画面の中のバネポンも動き出す。

「おお、できてる。動くじゃないか!」

さらにマウスを動かすと、我がキャラ・バネポンが画面の中を縦横無尽に走り回った。オラなんだかワクワクしてきたぞ!

俺は思わずガッツポーズのモーションをさせた。このゲームはとにかく無駄なほどモーションが豊富で、それだけでスキルスロットル(最大100個登録可能)が限界まで埋め尽くせるそうなのだ。

モーションを一通り試してみようと、屁をこいたり、土下座したり、インリンオブジョイトイ座りをしていると、別のキャラクターが走りよってきた。

それは、笹穂状の長い耳と、金髪の巻き毛(しかも縦ロール!)の女性キャラだった。確か、弓を使うのが得意な種族『エルフ』だ。

着ているのはバネポンと同じ初期装備の皮鎧なのだが、その上からでもムチムチバインなけしからん体形をしているのが分かる。しかも唇はピンクでぷっくりとしている上に青い目が扇情的で、まるで洋物AVの女優だ。その容姿といい、見事なオパーイといい、最近俺がハマッている某黒魔術エロアニメの登場人物を思わせる。

まったくけしからん。作ったやつ出て来い(注:褒め言葉)!

そのけしからんエロフの頭上には、もちろんキャラクターネームが表示されている。

『PAICAL』

パイカル・・・?白乾児(パイカル)か?。俺は一発で誰だかわかってしまった。

『しらきか?』

「やっほ、バネポン。ようやくログインできたですね。アオッチもクロスケも、先にチュートリアルゾーンでレベル上げしてるですよ」

ぴょこりと片手をあげるモーションをするエロフ。同時に聞こえてきたのは、やはり白木の声だった。この男は無類の酒好きなのだ。

『しらき、だよな。こえとかでてるけど、それって、どうやれば、いいんだ』

俺はどうにか指一本で、それだけを入力した。

キーボードとかは苦手だ。声で会話できるならその方がいい。

「ボイスチャットをオンにするですよ。マイクはパソコンに内蔵されてるはずですから、コンフィグ画面からサウンドタブを選んで、『ボイスチャット機能を使用する』をクリックするです」

『ふんふん、これで・・・テステス、マイクのテスト中、本日は晴天なり。・・・よし。それにしても、お前のそのキャラ、ナイスすぎ。勇者だなあ、おい」

白木め、おとなしそうな顔してとんだムッツリスケベだぜ(注:超褒め言葉)。

「かわいいですよ♪」

どうせやるならムサイ野郎より女に決まってんだろボケ、と呟くの白木の声を俺は聞かなかったことにした。それにしても、こいつはこの声で女キャラなんぞ使うと、まるで中身まで女に思えてくるのが笑える。(後にこれがある悲劇を生むことになるだが、この時は俺にも白木にも想像することすらできなかった)

「それより、バネポンがヒーラーを選んだのが僕的に驚きです。この手のネトゲで支援職は茨の道ですよ」

白木は妙にあきれたようにそういった。

確かに、俺が選んだ職種はヒーラーだ。

事前にこのゲームの紹介サイトを軽く読んでみたのだが、回復系の魔法を使えるのは今のところこのヒーラーという職だけらしい。さらにレベルを上げて上位職に転職すると、ベホマズンみたいな全体回復呪文とか、フバーハとかマジックバリアのような防御呪文も使えるようになるという。それが楽しみでたまらない。

「馬鹿。どんなゲームだって、回復魔法使える奴が一番強いんだぞ」

そう、どんなRPGだって回復魔法さえあれば格上のモンスターとだって戦える。体力多過ぎのラスボスだって、ベホマを掛け回してればいつかは倒せるのだ。そこに気がついた俺様はやっぱりすげえ。(実際のところ、俺はこの大雑把な判断を、後になって猛烈に後悔する羽目になる)

「まあ、パーティには誘われやすいですし、バネポンの勝手ですけどね。・・・さて、とりあえずみんなと合流しましょう。この先のゾーンでクエストしながらモブ狩れば、すぐにレベルあがるですよ~」

こっちです~、っとやたら陽気な声で白木のエロフが走り出した。そのたわわにゆれるお尻を目掛け、俺もまた我がキャラ『バネポン』を走り出させたのだった。






3.レベル上げとか超うぜえ






ゲームを始めて最初にキャラクターが表示されたのは、四方を塀に囲まれた建物の中庭のような場所だったのだが、その塀に丸く空けられた穴を通ってしばらく進むと、開けた場所に出た。

むちむちエロフのお尻に着いていった先は、やわらかい芝生の生えた野原だった。背の低い木々がまばらに生えていて、そこら中に小型の犬や、それと同じくらいの大きさの蜘蛛、あるいは蠍が這い回っている。おそらくこれが最初のモンスターなのだろう。

正直キショイ。犬はともかく蜘蛛やサソリは生理的嫌悪感を催すほど画像が作りこまれている。大きな足や鋏をウゾウゾと蠢かせているところなど鳥肌ものである。

この場所には俺達のほかにも、何人もの先客がいた。おそらく、俺たちのようにゲームを始めたばかりのプレイヤー達だ。

みんな、足元を這い回る生物を各々の武器で叩いて潰し、緑色の花を咲かせている。ちなみにこのモンスターがつぶれる時のモーションがまたキショイ。グエって感じの悲鳴を上げながら、全身から緑色の液体を撒き散らして消えていくのだ。頭蓋骨から目玉とか舌とか飛びでるモーションはとてもリアルで恐ろしくグロイ。ここの開発スタッフは妙なところに気合を入れているらしい(エロフの尻とかな!)。

「バ~ネ~、ようやくかよ。お前キャラ作り遅すぎ」

「BANEPONって、そのまんまじゃんw」

いきなりやってきて口々に文句を言い出す馬鹿二名。考えるまでもなくアホ崎とグロ澤だ。

二人のキャラも初期装備の皮鎧を装備しているが、手に持った武器と、鎧からはみ出た顔や手足に違いが伺える。

どうやら青崎は獣人種族のコボルトを選択したらしい。職業は盗賊(シーフ)だろう。両手に小型のナイフを持っていて、ザクザクと犬を刺し殺している。キャラクターネームは『青汁』。なにやら健康になれそうだ。

黒澤の方は俺と同じヒューマンなのだが、こいつは物理攻撃オンリーの職種、戦士(ファイター)を選んだようだ。小型の片手剣に皮の盾を装備していて、防御力が高そうだ。キャラネームは・・・・・・『ブラックナイト3世』。厨二病全開なのがこいつらしいとえばらしいが、本気で残念な子だなあ。

「とりあえず全員そろったところだし、レベルあげ続けるですよ」

白木はのんきそうにそういうと、自分の二の腕くらいの大きさの弓を取り出して、手近なモブを殴りだした。

・・・あれ?

「ちょ、おま、弓って殴る武器じゃねえだろ!」

そう、このエロフは弓を鈍器代わりにザクザクとモブを殴りだしたのだ。

「弓は近接武器にもなるですよ。初期のうちは下手な近接武器よりずっと役立つです。それに矢は消耗品ですから、ここでドロップ品をいちいちひろうのも面倒です」

そういいつつ、笑顔でモブをザグザグするエロフ。緑の返り血が顔に付着して(すぐに消えるのだが)、すっげえいい笑顔である。

「いいからバネポンも殴るです。2~3レベルくらいはこうやって殴ってればすぐ上がるですから」

俺が手に持っている武器も、青い水晶玉が先端についた短杖(ワンド)だ。明らかに近接武器ではないが、まだ魔法スキルも覚えていないので、現状では鈍器代わりにしか使えない。

俺は覚悟を決めて杖を振り上げると、手近な蠍に振り下ろした。

グチャっ!!

やたら不気味なな効果音が鳴り響く。

リアルなエフェクトに、肉を潰す感触すら伝わってきそうだった。

続けて攻撃すると、やがて蠍はつぶれて地面に解け消えるようにいなくなり、代わりに画面に表示されていた経験値バーがぐいっと上がった。なるほど、レベル1だけあってすぐに経験値が上がるようだ。

さらに続けて手近なモブを殴っていると、

チャーチャチャチャチャチョリ~~ン!!

やたらと派手な効果音とともにバネポンの体が一瞬だけ光り、頭上のレベル表示が1から2に上がった。

と、同時に

「おめ~」

「おめでとうございます」

「おめめw」

「おめっとさん」

あたりで狩りにいそしんでいたプレイヤーから「おめ」の嵐。

・・・なんだろう。すっげえうれしい。

「あ、あっざーす!!」

思わず最敬礼のモーションを発動してしまった。

そうか。これは確かにネットゲームならではの楽しみだ。普通のテレビゲームじゃ、レベルが上がってもだれも祝ってくれないもんな。

「ね、簡単にレベル上がるでしょう」

妙にニコニコとしているエロフ。

「この調子でサクサクやるです。ここでレベル5くらいまでは余裕ですから」

「お、おう!」

俺は改めて初めての狩りにいそしんだのだが、ふと周囲を見回せば他の二人も各々の武器を手にして、先ほどから甲殻類をザクザク狩っている。

「シネシネシネシネ、物理Ⅱの田村シネ!」

両手に武器を持って、どこぞの単位くれない教授を刺し殺す勢いの青崎に、

「俺の伝説はここからはじまるんじゃぁぁ!!!」

勇者様ゴッコで悦に入る黒澤。

・・・明らかに他のプレイヤーからもひかれている。

コソコソと他人の振りをしながら、俺は蠍退治を続けたのだった。


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