王宮での謁見待合室での待ち時間では、俺一人がごく普通の平民の格好で、居心地が悪い。まあ、それも時間の問題であって、このあとステファニーの使い魔として付き添い、アンリエッタ王女との謁見に立ち会うことになっている。
ところが肝心のステファニーが
「ジュール・ド・モット様を迎えに行ってくるわ」
そう言って、ひとりぼっちでならばされている。謁見待合室で前に残っているのはあと3組で、いずれも貴族だ。その後に平民もいなかったわけじゃないが、貴族の従者らしきだったのが1組残っているぐらいで、純粋に平民でここにいるのは俺一人。本当に居心地が悪い。
そして、あと2組となったところで、ステファニーがモット伯をつれてきて、一緒に並んだが、これって新しいフラグを立てたような気がする。
それはよしとして、当面は、モット伯が女王と会うのに、わざわざここで並んで待っているというのが目立ちすぎる。今度は別の意味で居心地が悪い。
なんとか、アンリエッタ女王との謁見となったら、
「ミスタ・モット。なぜ、あなたがミス・モンモランシと一緒にきているのですか?」
「ミス・モンモランシに付き添いを頼まれましてな。なにせ話はゼロのことになるのではないかと聞かされましたもので」
ゼロと言われてアンリエッタがため息をついてから、人払いをおこなった。
「ミスタ・モット。あなたがゼロのことを、ミス・モンモランシに話したのですか?」
「いえ、逆でございます。ミス・モンモランシより虚無(ゼロ)の担い手の話を聞きおよび、最近は勅使の役目もひと段落ついておりまして、中々アンリエッタ様とも会う機会ができませんでした。かといって他国出身のマザリーニ様にも話はできず、私一人が話をかかえているよりは、より事情を詳しく知っているミス・モンモランシと一緒に謁見をおこなえばよりよろしいのではないかと思い、本日の謁見に付き添ったのでございます」
「そうですか。ミス・モンモランシにお聞きしたいことがあります。なぜ貴方はルイズのことを虚無だと思い、そして、相談をされたのはミスタ・モットなのですか」
俺はステファニーがどのように答えるかと思っていると
「それは簡単でございます。どうしたら、どのような呪文を詠唱しても、四系統の魔法で爆発をさせるのか不可能でございますから。そうすれば、虚無です。一部では先住の魔法を唱えられるように自身を改造される方もいらっしゃるようですが、ラ・ヴァリエール公爵ともあろう家系が実の娘にそのようなことはしないでしょう。さすれば、我が家に残っていた書物から彼女が虚無の担い手として未完成だったのは、容易に推測できるものです」
先住の魔法といえば、元素の四兄弟か。以前、噂で聞いていたが、多分、今は北花壇騎士団にいるんじゃないかとステファニーは言っていたなと思いだし、続く言葉を待っていた。
「そして、ミスタ・モットに相談したのは、同じ水系統でよく実家でお見受けさせていただいたこともありますし、何より王宮の勅使というお立場ならば、どのような国の秘密であっても、他に漏らすこともなく信頼できるお方だと思ったからですわ」
「そうですか。確かに、ミスタ・モットは勅使です。その彼を信頼せずに他国との使いに出すことはできませぬ。ただ、貴女をおよびしたのは、少々個人的なことでもあり、勅使とあっても席を外していただけないですか」
「ちょっと、お待ちください。アンリエッタ王女様!」
「なんでしょうか?」
「このまま、ミスタ・モットが退出してしまっては、ワルド子爵が危険にさらされます」
そっちの札をとうとう使うのか。けっこうステファニーもおいこまれていたんだな。
「彼は死んだのではないのですか?」
「私も初耳ですぞ。ミス・モンモランシ!」
「いえ、生きてアルビオンの中で間諜をおこなっているようですが、まだ信頼を完全に得ているわけでは無いようです。それは私目の使い魔であるバッカスが、アルビオンでしばらく一緒に行動をしていたので確かでございます。しかも、彼はわがモンモランシ家がレコン・キスタに組しているのではないかとの用心の入れようでございます」
「そうですか。少々、個人的なことだったのですが、その前にお聞きしたいのは、先ほどお話の中にありました、本はどうなっているのですか?」
「それが、父の使い魔であるスキュアに食べられてしまいました」
そんなベタな嘘が通用するのかと思ったら、
「まあ、本当ですか。その本から虚無のことが何かわかるかと思いましたのに」
って、信用しているよ。
ちなみにあとで、この本を食べたというスキュアというタコ人魚の件を聞くと、何冊か本を食べられたのは事実とのことだ。アルビオンではみなかったからよくわかっていなかったが、ステファニーの嘘って、どこまでが本当でどこからが嘘かわからんよなぁ。
計算した嘘と、天然の嘘が世の中にはあるらしいが、ステファニーの場合まじっているみたいだから考えるだけ無駄だという気もするなぁ。
「いえ、私が覚えている限りでは、4つの国に4つの秘宝と4つの指輪によって、虚無はよみがえることと、それぞれには虚無の使い魔が必要であるとのこと。そして、虚無の担い手として目覚めるのにトリステインでは、神の左手ガンダールブを召喚することと、始祖の祈祷書と水の指輪が必要とのことでした。しかも最初の魔法は小型の太陽ほどになる爆発の魔法が使えるということで、ミス・ヴァリエールの魔法に合致していたのです。それ以上となりますと……たしか、神の右手ヴィンダールヴに、神の頭脳ミョズニトニルンに記すこともはばかれる使い魔がいたとか。私が覚えている本の内容は以上でございます。」
「他の国にも、虚無の担い手がいると貴方は申しているのですか?」
「本を読んだ記憶によれば、その通りでございます」
「そこまで知っているのですね。そしてアルビオンにも虚無……」
「これは、申しわけございませんでした。ミス・モンモランシよりマザリーニ様にはお伝えしておりましたが、アンリエッタ王女が『アンドバリ』の指輪によって生き返ったウェールズ皇太子にかどわされるのではないかとマザリーニ様へ具申させていただいたのですが、事件が発生する前にアンリエッタ王女がさらわれてしまって、それが伝わっていないようで。まことにもうしわけございませぬ」
「そうですわ。今の領主はラグドリアン湖の湖面の上昇をとめるどころか、その原因も探れずにいます。それに対して我が姉であるモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシが、湖面の上昇どころか、元の水位まで戻すのと、『アンドバリ』の指輪のことも気難しい水の精霊から情報を得ました」
いや、ほとんどがサイトだろうとつっこみたいが、やめておく。
「そこで姉が女領主となりましたら、また、ラグドリアン湖の交渉役としてふっきさせてほしいのですが」
「今回は、そのような政治のことではなく、本当に私人として呼んだつもりなのですが、その件は考えておきましょう……いえ、現モンモランシ家領主を、そのまま交渉役にすれば問題は解決ではありませんか?」
「私が申すのもなんですが、残念ながらの気性では、また水の精霊と仲たがいを起こすでしょう。なので姉が女領主となってからと考えております」
どうも、アンリエッタ女王はモット拍に話は聞かせたくはなさそうだ。そこで俺は杖を掲げるのはさすがにまずかろうと思い、挙手をした。
「そこで手をあげているミス・モンモランシの使い魔であった……」
「ステファニーの使い魔であるバッカスでございます。発言の許可をお願いいたします」
「よろしいでしょう」
「平民なので、このような場での発言の仕方に失礼があるかもしれませんがあらかじめご了承願います。今回は、我が主人であるステファニーに必要最低限のことをお伝えしていただき、また改めてミス・ヴァリエールと一緒に話をされてはいかがでしょうか」
「……そうですね、ミス・モンモランシ。実は貴方にお願いごとがあります」
「私目などにひきうけられることでしたらなんなりと」
うーん。ステファニーって、どこまで本気だ?
「ミス・ヴァリエール。いえ、ここではあえてルイズ・フランソワーズと言わせてもらいますわ。お友達である彼女ですが、少々融通の利かない面があります。彼女には私直属の女官として可能な限りの権限を彼女に認めた許可証を渡しております。ただし、彼女の場合、必要そうな時にでも、それを使わないことが考えられますので、貴女の判断のもと、ルイズ・フランソワーズにその許可証を使用するよう促す許可証を渡します」
アンリエッタ王女って案外したたかだな。一見するとルイズへの命令権があるようにもみうけられるけど、その最終判断はルイズに任せると言う意味で、ステファニーを完全には之繞しきれてはいないのだろう。それでも、たいした出世だが。
「わかりました。このステファニー・ポーラ・ラ・フェール・ド・モンモランシーは、可能な限り、ミス・ヴァリエールのそばにいるようにいたしましょう」
「ありがとう。私のお友達に貴女のような方がいることを誇りに思います」
目いっぱい勘違いしているような気がする王女に憐みの目を送りたいが、ステファニーが先ほどの俺の発言から俺に対して目で牽制しているから無関心を装っている。
無事に3人ともアンリエッタ女王との謁見が終わってからモット伯の執務室へと部屋を移動し、
「ありがとうございます。ジュール様」
「なに、たいしたことはしておらんぞ。かえっ私の信頼があがったであろう」
「いえ、勅使を信頼できない女王だなんて、亡国へまっしぐらですから……私はそのようなことをのぞみませんので」
「何か、また要件があったのなら頼って来るがよい」
「いえ、ジュール様がいたからこそ、今回の女官の任命をいただけたのですわ。何かありましたら、頼らせていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします」
そうして、王宮から離れて魔法学院へ馬で向かうが
「魔法学院の授業をさぼってまできたかいがあったなぁ」
「まあ、予想外の収穫だわ」
「まあ、あそこまでよく口八丁で女王とモット伯を信頼させられたな」
「ふーん。貴方はそんな風に考えていたのね。バッカス」
「いや……その……」
口は災いの元。俺が直接管理できる給与は半分から3分の1に減った。
泣けるぜ。
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久々の更新です。悪人期待するなら、ステファニーだもんな。
ただ、この娘フラグたてまくっているけど、なんか天然でぶっ壊している気もする。
2013.11.03:初出