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No.18615の一覧
[0] 【ネタ】一般生徒チハる!【ネギま・ほぼフルTS】[Ryo-T](2010/11/01 23:44)
[1] 友達100人できるかな[Ryo-T](2010/05/08 17:54)
[2] 閣下担当委員 長谷川千晴[Ryo-T](2010/09/26 23:43)
[3] 中一なのに中二生徒セツな![Ryo-T](2010/05/23 05:58)
[4] 部活動烈風伝[Ryo-T](2010/05/23 05:53)
[5] 中学生日記(龍宮真也編)[Ryo-T](2010/06/06 12:54)
[6] ネギ・スプリングフィールド(♀)[Ryo-T](2010/07/28 03:24)
[7] 激撮!!広域指導員密着24時、改め――『撲殺熟女タカミちゃん』[Ryo-T](2010/08/26 23:37)
[8] バカとテストと吸血鬼[Ryo-T](2011/02/21 02:16)
[9] 中◯試験[Ryo-T](2010/10/04 02:48)
[10] 俺のおかんが見つけたエロ本を机の上に置かないはずがない。[Ryo-T](2011/02/21 02:52)
[11] アーティファクト 前編[Ryo-T](2011/03/23 23:28)
[12] アーティファクト 後編[Ryo-T](2011/03/26 04:31)
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[18615] 俺のおかんが見つけたエロ本を机の上に置かないはずがない。
Name: Ryo-T◆d978ac80 ID:80eb9b8e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/21 02:52

 そこに王国があると定義する。
 国内は一定の法則で統一され、多少の差異はあっても皆等しく一つの方向に向かっている。人種は違えど、同じように2本の足で立ち、統一された言語を用い、ただ一人の神を信仰している。
 優しい国であった。王は国の土台を興し、それぞれの人種が住みやすいよう整理を行なうだけでなく、国民全てに対して平等に権利を与えた。認められた権利は存在を保証できること。無限に拡張される世界の中において、均一の価値観を持って己の普遍的価値を認められる。近代の世に初めて認められた基本的人権が大前提となって最初から組み込まれているこの王国は、見る人が見れば楽園とも言えるほどに優しい国であっただろう。

 そう、見る人が見れば、だ。
 法の中にいるものには楽園なのだ。
 では、その法則の外にいた者たちはどうだったのだろうか。

 それでも王国は優しかった。異なる神を信仰し、法則を違える異端に対しても、国は消極的に許容することを認めた。幾つかのルールに従う。郷に従ってもらう。外的危機に際し、王国が崩壊しないよう、浸透し、帰化することで彼の者たちがそこに在ることを許したのだ。
 だからこそ、その隠れ里は生まれたのだ。外面だけ国民らしさを保った本来排斥されるべきであった異端の者共が、身を寄せ合って生まれた異端の集落。しかし、優しい王は単に目を瞑るだけではなく、時に彼らを重用することすらしてみせたのだ。国民に擬体することは彼らを侵害するものでは決してなく、寧ろ彼らの安寧を護るものであった。その国王の優しき意を汲み取り、国民が総じて彼らのことを受け入れたのも、この優しき王国においては必然と言えることであった。
 かくして、隠れ里は存在を許された。ただ、無論異端であるからこそ緊張感をもって留まり、だからこそ、多種多様な集落が存在していた中でも確かな存在感を持っていたのだ。
 それは普段目にも留まらないような些細な移動ですら、その王の目にはっきり映るほどに。

 そんな手厚く保護された異端の隠れ里。
 本棚という王国内に小さく、しかし確かな存在感を持ってそこに在るその隠れ里はその特性と装いを改めなければならないという特徴から、こう呼ばれていた。

 “エロ本の里”と。















「―――いや、いやいやいやいや」

 長かったというか、色々ありすぎて長すぎた一学期がようやく終わって夏休みに帰省した時の話である。
 ちなみに、こういう普通のイベントを無意識で妨害してくれそうなエヴァはというと、件のカンニングで中間試験は乗り切ったものの、期末試験でたまたま巡回していた高畑に見つかり、なんか物凄い轟音と共にガラスをぶち破りながら窓の外に飛び出していった。自分でも言っててよくわからんが、無傷だったこともあり逃亡でも謀ったのだろうと思ってる。しかし、一瞬で飽きて教室に帰ってきて、水の入ったバケツと額に貼られた『吾輩はカンニングしました』札の装備で廊下に立ってフハハ笑いをしてた姿はどう考えてもいつものエヴァの奇行であったので不可思議な事象に首を傾げながらもクラス中が納得していた。
 そして、思いっきり邪魔なBGMをスルーしてテストがようやく終わった時、ありがたいことに尊敬する高畑大先生様はエヴァに夏休みの補習を申し付けてくれたのだ。あの人には本当に頭が上がらない。そんなこんなで、こうして俺は平和な夏休みを満喫するために久しぶりの我が家に戻ってきたという訳だ。
 そう、平和な我が家に戻ってきたつもりだったのだ。
 家に帰って、本棚の明らかな違和感に気付くまでは。

「そ、そう言えば、家出る前にバレないようにさらに場所を入れ替えたりとかしなかったかなー」

 あははー、参ったなー。とか乾いた笑いをしてみたが、まったくもって記憶にない。
 俺の記憶が正しければ、家を出るその日までしっかりとお世話になったお宝様は本棚の下から2段目の右から3冊目の――その奥にカバーを変えてしっかりと鎮座なさっていたはずなのだ。間違えるはずなどない。
 それが、右から5冊目に移動していたのだ。そう、えいえんはここにあったんだ。て、違う。
 問題は別にエロ本がよっこらせっくすと知らん内に動いてたことではない。いや、それも大いに問題だけど、違うのだ。最大の問題、その論点は別のところにあるのだ。
 問題は誰がこう動かしたのかという点だ。下手をすると家族会議で晒し首という可能性があるのだ。
 その犯人像に最も近いのは母親。元々、俺が麻帆良に行く前から留守中勝手に掃除をしてはハイエナのごとく、お宝を発掘してくるのだ。もはやおかんの掃除=トラウマという事象は確定事項で間違いないだろう。
 しかし、この度の事件に関しては疑問点がある。母親の発掘能力は折り紙付きだから俺の薄っぺらな嘘ドッキリテクスチャーでは誤魔化し切れないのは解る。だが、だったらどうして奴は本棚にわざわざそれを戻したのか。

 何故、見つけたお宝を、机の上に置かなかったのか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 そこまで思考して、俺はふと首筋にチリチリとした何かを感じた。
 思わず振り返る。だが、視界に映った光景はあくまでも在りし日の記憶のまま、何一つとして変わってなんかいない。
 幼い頃から過ごした2階にある自分の部屋の窓。少し傷んだ隣りの家の赤い屋根。その先に見える瓦と電信柱。そして、最近建ったマンションが、色とりどりの屋根の中でポツンと存在感を表している。
 慣れ親しんだはずの世界。でも、何故か俺はその風景に妙な違和感を感じていた。何処がおかしいとかはわからない。でも、確かにおかしい。何処かがおかしい。
 ゆっくりと学習机に戻り、昔使っていた少し型遅れのデジタル一眼レフを取り出す。感度を最低まで下げ、レンズを絞る。流石にやりすぎたのかシャッタースピードの遅さが気になったが、まあ構わないだろう。動きを撮る写真ではない。あくまでも、風景写真なのだ。
 撮れた写真をパソコンに取り込むと、画像編集ソフトを起動した。明るさ度外視で撮ったため、最初の仕事はコントラストの調整だった。一通り、違和感のない明るさになったところで画像を拡大する。
 念には念を入れてみたものの、別段おかしいところなんて見つからない。日々のアレな生活に追われて疑心暗鬼になっていただけかもしれない。そうだよなー。あっはっは。
 と、笑いながらもプレビューの位置をずらしていく。間違い探しをする要領で、目を凝らしていく。
 そして、画像としてはほんの小さな一点。何倍にも拡大しないと気付かないような。そこに明らかな違和感を覚えて、俺はその点をさらに拡大した。画質を上げておいて本当によかったと思う。粗い解像度なら、ただのボケで終わっていた。

 拡大して気付く違和感の正体。新しいマンションの近くにある、ややくたびれた感のあるアパートの廊下。
 人が写っていた。それだけなら、ただの住民で終わる。だけど――。
 その姿に、俺は見覚えがあった。

 全力で。もう一度、今度は双眼鏡を手に窓へと走る。そして、先ほどの作業のような精密さをもって、アパートの隅から隅まで、その人間を探した。
 たまたま着替え中のおねいさんの姿なんかも見つけてしまった訳だが、普段なら凝視するムッツリな俺もすぐに視点を他の場所に移す。
 そうしなければならないほど、その人間がここにいることはやばかった。されども姿は見えず、半泣きになりながらもう一度ディスプレイに視線を向ける。
 綺麗な長い髪に、浅黒い肌。モデルガンにしてはやたらとごついスナイパーライフルのスコープを覗きこんだ謎の男が画面に映し出されている。謎の男と言ったが、行動が謎なだけで、別に見たことない人間だった訳じゃない。その人間とは会ったことがある訳で、むしろ毎日のように見かけている訳で。というか、クラスメイトな訳で。

 言うまでもない。
 どこからどう見ても、龍宮真也だった。
 重度中二病患者のバカが、ゴルゴスタイルであからさまに俺のタマ狙っていた。

 /(^o^)\ナンテコッタイ













 寮までの距離がもどかしい。それでも走り続けるしかなかった。軋む両足はもとより、激しく鼓動する心臓はとうに限界を自分に伝えていた。でも、それを他人ごとのように受け取って、一歩でも前へと進むしかなかった。
 転がり込むように自分の部屋へと戻る。そのままベッドに倒れ込みたくなる衝動に駆られたが、なんとか奮い立たせて机へと向かうことができた。激しい呼吸が喉を枯らし、咳が出るたびに痛みを覚える。だけど、今は1秒でも惜しかった。刹那でも早く、それを使わなければならなかった。

「……あった」

 我が子を抱きしめるように、机の中から探り当てたものを抱きしめた。それはたった1枚の紙片。一度グチャリと丸めた跡が残る皺くちゃなメモ用紙だ。
 でも、わざわざ実家から麻帆良まで、ほとんど休む間もなく、文字通り飛んできた価値がこの紙片にはあったのだ。
 そこに書かれていた無駄に達筆な文字を何度となく復唱する。誤りがないことを確認し、ポケットの中にあった携帯電話を取り出した。
 そう、紙片に書かれていたのは昨日までは死んでも電話なんかしたくないというか、したらますます懐かれそうで危険な相手、エヴァンジェイル・A・K・マクダウェルの電話番号が書かれていた。
 龍宮真也という生まれる国を間違えたキ印バカに対抗するためには、さらに上を行くキ印を用意するしかないという考えである。というか、友達少ない俺に他の人の携帯番号きくなんてありえないさ。ハードルが高すぎる。
 ちなみに、エヴァの番号もこっちから聞いたわけではない。押し付けられたものだ。どんだけ迷惑だったかは、この皺くちゃさが物語っていよう。でも、俺は言いたい。当時の俺、捨てないでいてくれてありがとう! エヴァみたいなのと友だちになってくれてありがとう!!
 てか、そもそも龍宮はなんで俺狙うのか。スイス銀行に全額振り込むからやめてくれと言いたい。もしくは戦争したいなら、中東辺りに行ってくれと言いたい。俺を巻き込まず、人知れず楽しい戦争をしてきて欲しい。

 ともあれ、今は電話するのが先だ。ロポコップなんて最新鋭なのか古いのかさっぱりわからないロポを引き連れてるくせに、何故か家電なエヴァ宅へ電話をする。嗚呼、これで救われる。あのバカは、バカだけどきっと俺を助けてくれるはずだ。めんどくさいし、気狂いだし、近寄りたくないし、バカではあるけれど、実は意外といい奴だってことも俺は知っている。
 何度かのコール音。焦れた手が何度か机の上を叩く。そして、もう何度かコールが続いた後、ガチャっと受話器を取った音が聞こえた。
 安心から、満面の笑顔に変わった俺。そう、やっぱ神は見捨てない。一瞬、実家帰ってたらどうしようかと思ったけど、神は死んでなんかいなかった。ざまぁ、ニーチェ!!

「もしもし、エヴァか! 今語るも恐ろしい事態がはっs」
『フハハハハハ! 吾輩は留守である!! 用があるのなら言ってみるがいい! 聞くだけなら聞いてやろう!!』

 そのまま、フハハ笑いがハイテンションのまま続いてたが、伝言など残さず切った。
 やっぱ神は死んでた。
 信じた俺がバカだった。
 というより、エヴァみたいな変態を信じた俺がアホだった。

 そして、また違和感。なんかもう、慣れたものでささっと実家から持ってきた双眼鏡を構える。
 こんなにあっさりと慣れたのは、別に俺の順応性が高いとかじゃなくて、単に何度となくそんな違和感を感じていたからだ。違和感というか、視線。メンチビームみたいな。首筋をジリジリと焼くような感覚には幾度となくさらされていたのだ。
 で、今日、その正体がなんだったのかわかった訳で。あー、俺ずっとあんな風に狙われてた訳ね。エヴァと餡蜜食ってた時に見てた気狂いってこいつだった訳ね。てか、知ってたんなら教えてくれよエヴァ。というか、さっさとスカル・クラッシュなり、アクマイト光線なりで始末してくれよ。アイツ殺るとか俺絶対無理じゃん。というか、アイツと関わったら俺の中に眠る黒歴史が蘇ってきて、悶えて死ぬじゃん俺。

 という訳で見た。
 えらく遠い木の上に2人いた。
 2人?

「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 そう、気狂いは2匹いたのだった。
 先ほどと同じスタイルでスコープを覗く龍宮。
 そして、その隣で幹にもたれながら、明らかに日本刀と思われる白鞘を手にこちらを見ている桜咲。
 ……増えやがった。
 それが正直な反応だった。1匹でもやばいのに2匹とかおま。無理。絶対無理。中二2人とかマジ無理。というか、あれは多分アレだよ。奴らが光の勇者の末裔で、俺が実は異世界の魔王の生まれ変わりなんだとか、もしくは俺がラピュタ王の末裔だとかそんなんだよ。『今はまだ俺達しか気付いていないが、奴が目覚めることで世界が滅びる。世界は、俺達が護らなきゃいけない』とか『あの言葉を教えて。俺も一緒に言う』とか言っちゃってるんよ、きっと!! ぐぎゃぁああ! 目がぁ! 目がぁああああああああ!! らめぇええええええええ! 俺しんじゃうぅぅぅうううううう!!

「さらば!!」

 なんか過去のアレな記憶がふつふつと蘇ってきた俺は、それを振り払うように部屋を飛び出した。人間若気の至りくらいある。そうだよ、これが若さ故の過ちって奴さ。だから、おまいら頼むから俺を巻き込まんでくれ。じゃないと、疼くから。―――そう、俺の過去あやまちって奴が、な。

「て、ぎゃああああああああああああああああん!!」

 やばい。やばすぎる。少しずつぶり返してきてる気がする。
 とにかく、離れなければ俺が死ぬ。ともかく、奴らのいない場所へ。
 俺は、全力で走った。ただひたすら、前だけを見て。
 そう、若さとは振り向かないものなのである。














 とはいえ、逃げ場なんてなかなかないもので。
 頼みの綱だった職員室には誰もいなかった。補習はもう終わってしまったらしい。という訳で、第一目標であった絶対無敵高畑先生は叶わないが、それなら第二目標の本来なら暇真っ盛りのはずのエヴァに今度こそ頼るのが自然ではあった。エヴァいなくとも、茶々丸なら何とかしてくれそうな気がするからだ。でも、残念ながら俺はエヴァの家など知らなかった。遊びに来いと誘われたことは多々あるが、当然のごとく行く訳ねぇ。てか、悔いてもしょうがない。それに、きっとエヴァも流石に親元に帰ってるだろう。アレの親とか想像するのがえらく怖いけれど。
 そんなこんなで。
 悩んで行き先もなく走って、ようやく視線を感じなくなった。どうやら撒いたらしい。ホッと一息吐いて、周りを見渡す。
 森だった。
 というか、山だった。
 振り返っても森だった。
 鬱蒼と茂った森だった。

 ……どこさ、ここは。

 振り返らず走ったら、道に迷ってしまったらしい。
 まったく、だから若さってのは恐ろしい。

「だれかーーーーーーーーー!!」

 迷わず叫んだのであった。というか、完全インドアな鍵っ子千晴くんがこんな山の中で遭難して生きていける訳ない。
 というか、ここまで走ってこれたのだって奇跡だ。正直な話、もう一歩も動ける気がしない。
 仰向けに倒れたまま、俺はたった独りだけ世界に取り残されてしまったような、そんな感傷を覚えた。
 木の幹に頭を打ちつけて、なんとか我に返る。今度はセカイ系とか。なんかもう、割と重症っぽいのである。
 手のひらを顔に置いて、瞼を覆った。そのまま、上がった息を整える。
 完全に視界を奪ったことで、逆に世界が広がる。まるで、大地に体ごと溶け込んでしまったかのように、自分の周りのことが手に取るようにわかった。先程までは聞こえてこなかった森の息遣いを感じる。優しい土の温もりを感じる。そして、獣たちの脈動する音が聞こえる。
 ――て、獣か。
 ここら一体に、人を食うような動物はいないはずである。でも、停止しかけた思考がどうしてもその警笛を打ち鳴らしている。なんとなく、食われるかもなぁ、とか他人ごとのように感じていた。
 もしくは、このまま朽ち果てて、死ぬかもしれないなぁ、とか。
 なんとなく、それでもいいかと思った。
 学校には友達いないし、変なのばっかで気が休まる暇はない。楽しいことより辛いことのほうが多いこんな世界に未練なんかない。
 もう、いいか。と、そう思った時だった。もう、十分頑張った、と諦めた時だった。

「―――声が聞こえたので来てみれば、千晴殿ではござらんか」

 誰かが覗き込んでくる。その声に、一気に思考力が戻った俺は、覆っていた手を退けて、閉じていた瞼を押し上げた。

「こんなところで寝てたら、風邪をひくでござるよ」

 そう言って、いつも通りの忍者スタイルでかんらかんらと笑う長瀬を見て、何故だか涙が込み上げてくるのを感じていた。



















 それから、俺は長瀬についていくことにした。
 どうせ帰る場所なんかない。いや、ないことはないけど、アレ2匹がまだ張ってるだろうと思うと、気が重かった。というか、ここで長瀬と会ったことも何かの縁だろう。そう思って、長瀬についてきたのだが――。

「いや、お前、すっげぇ忍者な。もう、一点の曇りもなく忍者そのものなのな」
「はて、何のことでござろうか」
「いやいや、分身と隠れ身も焦ったけど、やっぱいるのな忍者って。俺は素ですげぇと思うよ」
「いやはや、千晴殿が何を言っているのか、拙者もよくわからないでござるが、褒められたことは素直に嬉しく思うでござるよ」

 なんか頑なに忍者と認めようとしない長瀬だったが、やってることは忍者そのものだった。
 今も、川に向かって手裏剣投げているし。しかも、全部命中してるし。

「で、お前はこんなとこでなにしてたんだ。やっぱ修行とか?」
「そうでござるよ。拙者は田舎で育った故、山に来ると身が引き締まるでござる」

 今度は否定されなかった。忍者はダメでも修行はいいのか。正体を隠すにしても、修行とか今のご時世、坊主くらいしか使わないと思うんだけど。て、やっぱダメ。なんか使いそうなのいっぱいいそうだ。例の中二とか、中国な奴とかが。
 てか、修行かー。と、俺は思った。
 長瀬の動きはインドア派で、スポーツは深夜アニメの天敵という認識しかない俺からしてみても、常軌を逸したものだと思う。
 てか、今も3メートルくらい飛んでるし。しかも、木と木を跳ね回りながら宙返りとかしてるし。俺の目が腐ってないなら、水の上に立ってる気がするし。
 間違いない。長瀬は忍者かどうかは知らんが、本物の達人であるのは間違いない。
 そして、それを修行で身につけた、と。エヴァ辺りが同じことしてたら、まあエヴァだしな、で納得したが、長瀬は間違いなく俺と同じ人間だ。
 だったら、俺にだってできるかもしれない。
 例え、長瀬のようになれなくても、少しでも今より力を身につけられたのなら。
 あの気狂い2匹から、今よりしっかりと逃げられるようになるかもしれない。
 でも、と俺は嘆息した。
 以前、テスト前のあの時、長瀬は俺にこう言った。
『真也が言うには千晴殿なら大丈夫でござろうし、教えても構わないでござるよ』
 それは、長瀬もまた、俺を魔王の生まれ変わりとか、なんかの末裔とか思ってるのかもしれない。
 もしくは、エヴァと同じように、やたら俺が強いとか思ってるとか。忍者であることを隠してる様子から見るに、あの隠れ身も分身も普通の人間には見せないものであったのだろう。だとすれば、俺のことを妙に買ってるのは間違いない。
 そんな奴に事情を話して、一から修行をつけてもらえるのだろうか。万が一、魔王の生まれ変わりとか言う戯言を信じてたとしたら、そんな悪い奴に自分の努力の結晶を教えるのだろうか。
 でも、四の五の言っていても始まらない。
 そう思って、俺は飛び回る長瀬を必死に目で追いながら、俺は必死になって言った。

「なぁ、長瀬。龍宮から何を聞いているのかは知らないが、実は俺は――」
「――実は、弱いのでござろう。千晴殿」

 目を見開く。
 長瀬が輝いて見える。
 理解者が、求めて止まなかった理解者がそこにいた。

「拙者の隠身や分身に、心底驚いていた様子でござったからな。それに真也や刹那が言うほど――」

 空中で振り返って、彼は俺の方を見ていた。
 その動きがどれだけ素早くても、俺がどれだけどん臭くてもわかるような、溢れんばかりの笑みを浮かべて。

「千晴殿は悪い人間には見えぬでござるよ」

 長瀬はそう言ったのであった。
 そして、俺は前に自分が感じた印象が間違ってなかったことを今更ながら知った。

 長瀬は、本当に――バカらしくなるくらいにいい奴だった。
















「で、拙者に修行をつけて欲しいと」
「そうなんだよ。あの2人から完全に逃げられるようになりたいんだ」
「――まあ、今更拙者が説得したところで2人とも納得はせんでござろうな。構わぬでござるよ。かと言って、僅かな修行で千晴殿が逃げられるようになるかはわからぬでござるが」

 と言って、修行をつけてもらった、数時間後。

「千晴殿」

 ゼイゼイと息を切らす俺を見て、長瀬は――。

「完全無欠に、一寸たりとも、これっぽっちも才能がないでござるな」

 匙を投げたのであった。

「いやいやいや! 最初だし、できないのは当たり前だろ!!」
「それにしても、才能の欠片も見当たらんでござるよ。このまま修行して50年過ぎても、あの2人から逃げるのは叶わないでござる」
「いやいや、もうちょっとまけろよ! ケンイチ式でも、ドラゴンボール式でもなんでもするから、血反吐吐いてでも身につけなきゃいけないんだよ!!」
「いやー、覚える前に千晴殿が死ぬでござるよ」

 絶望した! 自分自身に絶望した!!
 というか、薄々は感じていたんだが、もしかして、もしかすると。

「なぁ、長瀬。ぶっちゃけ嘘だと言って欲しいんだけど、あの2人って強いのか」
「ふむ、しあったことがないので具体的にはわからぬでござるが」

 しあうとか、多分アレですよね。試合うとかじゃないですよね、死合うですよねー。なにそれー、こわーい。

「恐らく、真也は拙者と互角以上の使い手でござるよ。刹那も身に纏う気の質量からかなりできると思うのでござる」
「うあーい。最高に最悪ってやつですねー」

 俺自身がアホになるくらいに最悪だった。
 もしかしたら中二ではないかもしれない。精神的な死が遠のくので、それは確かに喜ばしい。
 だが、もしアイツらがガチで長瀬級の達人で、ガチンコで俺のタマ狙ってたとしたら。
 最悪である。末路は射殺か斬殺しか想像できない。
 というか、何で普通のクラスメイトには空気扱いなのに、エヴァとか茶々丸とか桜咲とか龍宮とかの変なのばっかから、こうもモテるのであろうか。
 放っておいてくれればいいのに。
 というか、俺は空気になりたい――。

「――ッ! 千晴殿!!」

 いいよ、長瀬。もう疲れたんだ。
 行こう、パトラッシュ。

「凄い才能でござる! これなら――これなら例え拙者からでも逃げられるようになるかもでござる!!」
「ふぇ?」

 今、なんて言った?
 長瀬からでも逃げられる、だと?
 それはつまるところ、同レベルの桜咲龍宮からも逃げられる、と?

「その才があれば可能でござる。拙者もこれほどまでの天性と出会ったのは初めてでござるよ」
「マジで?」

 もしかしなくても、俺は生きてていいんだろうか。
 というか、すげーね俺。そんなに才能あったのね。
 やはり隠れていた才能が命の危機に晒されて発芽したのだろうか。今まさに死ぬほど命の危機感じたから、間違いない。
 で、俺はどうすれば、奴らから逃げられるのだろうか。
 その問いに、長瀬は屈託のない笑みを浮かべて応えたのだった。

「隠身の術でござる」

 隠身とな。あの天井で見せてくれたアレ?
 なるほど。確かに、アレで隠れたら奴らから逃げるのも可能かもしれない。
 でも、バレるのでは。
 素直で、心から俺を心配して、修行までつけてくれる長瀬というナイスガイは、笑顔でその疑問を否定してくれたのであった。

「それ程までの影の薄さ。忍ぶにはこれ以上もない才能でござる」

 長瀬は素直な男だった。
 だから、何の悪気もなく、そんな死にたくなるようなことを言っちゃうんだ。
 嗚呼、俺は貝になりたい。
 もしくは、くらげ。




















 で、後日。



「糞ッ! 見失ったか!! 奴め、どうやって!?」
「まあ、待て刹那。長谷川千晴がどんな手段で姿を消したのかはわからないが、この俺の魔眼をもってすれば、捉えられないものなどないよ」
「助かる。では――わかるか、龍宮」
「ふむ、なるほど。どうやら、すぐ近くに……そこだッ!!」
「いないじゃないか」
「ふむ、おかしいね。確かにそこにいたはずなんだが」
「仕方ないな。とりあえず、教室に戻ろう」
「休み時間の終わりも近いしね。まあ、長谷川千晴もどうせ戻る。監視はそれからでも遅くないさ」
「そうだな――」







 と、2人が去った後、先ほど龍宮が銃撃した木の皮がペラリと剥がれる。

「あ、あぶねぇええええええええ!! てか、何あのエアガン! 幹貫通してんじゃねえか!! 死ぬだろ! これ死ぬだろ!!」

 修行の成果はというと、俺は長瀬からお墨付きを貰えるほどの隠身の術を取得した。
 だが、龍宮の魔眼(笑)はどうやら本物だったようで。
 確実に俺がいるところを射撃してくる龍宮。隠身したまま、間一髪かわす俺。
 隠身は1ミクロンも役に立ってないが、おかげ様で異様なほどに俺の回避能力は向上していた。
























<後書き>

 ご無沙汰してました、Ryo-Tです。
 えらい間が開いたのは以前からちょくちょく言ってた転職の件でして、結局転職やめて社内異動でケリを付けました。
 ただ、引越し、引継ぎの上、完全に業種が違うので、仕事を一から覚える作業が。いや、まだ全然覚えられてないんですが。
 ともかく、そんな理由です。インターネット繋がったのが最近なのも原因。フヒヒ、サーセン。

 なんらかんらで、のんびりやっていければ、と思います。プロットは完全に固まってますので、第一部完結まであと3話。なんかこの前3話とか言ってたけど、気になさらず。
 とりあえず、ゆるりとお待ち下さいませ。そして、しょうもないことで結構です。感想乞食カコワルイと思いながらも、やっぱ乞食ですんで、是非とも感想、宜しくお願い致します。




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