『3つの陣営が、国連管理下で軍事同盟を発表しました。これにより、史上最大規模の国連軍が誕生する事になります……』
「……どうやら、CBの筋書き通りに事は運んでいるようね。」
TVから流れるニュースを見て、シーリンが言葉を漏らす。
「ここ最近の過激な武力介入は、国連軍を統合させるための……」
「そう考えるのが妥当でしょうね。」
……世界を1つにまとめる……それがCBの目的……
でも、そのやり方はひどく乱暴なもの。
戦いで戦いを否定し、平和を勝ち取る……これが、あなたの求める世界だと言うの……刹那?
だとしたら……なんて、ひどく悲しいのかしら……
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「……ようやく計画の第1段階をクリアしたってところか……トリニティの行動が引き金になっているのが解せないがな。」
……矛盾しているのは分かっているが、あいつらのやり方は気に食わねぇ。
スペインの民間人襲撃はあいつらじゃないのかもしれないが……同じような事をあいつらはしてるんだ。
「……それにしては不可解だ。」
「何がだティエリア?」
「各国の軍事基地はトリニティによって甚大な被害を受けている。そんな状況で軍を統合させても、結果など出るはずがない……世界の反感を、失望を買うだけだ。」
……確かに、ティエリアの言う事も最もだ。
圧倒的な物量ならガンダムを消耗させる事はできるかもしれないが……トリニティの行動によってそれはできなくなっている。
じゃあ、いったい……
「……何か、裏がある……」
「あぁ。正直、僕は不安に思う……ヴェーダの情報に明示されていなかったトリニティと、そもそもデータ自体がないアンノウン、そしてヴェーダがデータの改竄を受けたという事実が……どうしようもなく、僕を不安にさせる。」
「僕…か。ティエリア、やっぱりその一人称は止めねぇか?なんか、どっかのアホがよりついてきそうだ。」
「人が真面目な話をしている時に茶化すなっ!!」
そして、ティエリアは顔を真っ赤にして怒り出す……だいたい、美人でスタイルもそこそこいいってのに性格がキツめだから近寄りがたい雰囲気を放ってるんだよな。
まぁ、そこがいいという奴がいるかもしれんが……フェルトが影響を受けないといいんだがな?
「……ん?」
すると、俺達の携帯に着信が入る。
これは……ミス・スメラギからか。
「スメラギ・李・ノリエガからの暗号通信……マイスターは機体と共にプトレマイオスへ帰還せよ。」
「オッケー、作戦会議だ。宇宙に戻るぞ。」
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「またJNNか?それに関しては一切答えるつもりはないと伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
……目の前では、ラグナ・ハーヴェイがため息をついている。JNNの記者か……恐らく、大将から連絡のあったあの女だな。
「人気者は大変ですなぁ?」
「……茶化すな。それより、機体の搬送は順調に進んでいるようだな。」
「代金の分の仕事はさせていただきますよラグナ・ハーヴェイ総帥。」
……さぁて、いっちょやるとしますかね。
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「はぁ……取材は空振り、どうすれば……」
ため息をついていると、ラグナ・ハーヴェイの別荘から一台の車が出てくる。
さっき、総裁は面会中だって……あっ!!
私はとっさに駆け出すと、車の前に立ちはだかる。車が急ブレーキをかけたのを確認すると、私は運転席の方へと向かった。
「あの……」
「何か、御用かな?」
運転席から顔を見せたのは、赤髪でどこか鋭い目付きをした男性。
……なんか、ヤバイ匂いがするわね。でも、ここで逃げてたら真実には辿り着けない……
「私、JNNの特派員なんですが2、3お聞きしたい事があるんです。よろしいでしょうか?」
「JNNの記者さんねぇ……かまいませんが、私は少し急いでまして。車内で宜しければ……」
「あっ……いえ、それは……」
「やめておきますか?」
……この男、明らかに挑発しているわね……いいわ、乗ってやろうじゃない。
「……では、お言葉に甘えて。」
私は車に乗り込むと、男と名刺を交換する。私の名刺を眺めながら、男は笑みを浮かべていた。
「絹江・クロスロードさんですか……いいですね、あなたのような美人の記者がいて。やっぱり、恋人とかいるんですかね?」
「そんな……まだ、独り身です。」
……口調は軽いけど、男の目つきは相変わらず鋭いまま……どこまでが本心なのやら。
「……で、私に聞きたい事とは?」
「……間違っていたら謝りますが、ビアッジさんは先程、トレイン公社の総裁、ラグナ・ハーヴェイ氏と会われていませんでしたか?」
「えぇ、会いましたよ?」
「どのような話を……?」
「私は流通業を営んでいましてね……物資の流通確認のために、総裁に報告に来たんです。」
「わざわざ総裁に?」
「えぇ。総裁とは個人的に話したい事もありましたから……何か問題でも?」
「……いいえ……」
……嘘はついてないようね……どうやら、ハズレか……
「……差し障りがなければ、その物資が何か教えていただけないでしょうか?」
「フッ…………GNドライブ…………」
「GN……ドライブ?リニアトレイン関係の機材か何かですか?」
「いえ、MSを動かすエンジンです。」
「MSの……?」
確かに流通業者が扱ってもおかしくないけど、そんなエンジン聞いた事が……
「えぇ。最新鋭のMS…………ガンダムのね。」
……ガンダムのエンジン!?
いったい、何者なのこの男は……?
「それともう一つ、あなたにお教えしておきましょう。」
「……なにをですか?」
「……アンタ、知りすぎたんだよ。知ってるか?米軍基地が襲われた理由……あれは、アンタみたいにCBの秘密に迫った奴を殺すためだけの襲撃らしいぜ?」
「……なん……ですって……?」
……落ち着きなさい絹江、この男の言っている事が本当と決まった訳じゃ……
そんな事を考えていると男が突然急ブレーキをかけ、私は前につんのめる。
「な、なにを……」
「お迎えが来たようだぜ?」
「……ご苦労だったな、アリー・アル・サーシェス。」
男の言葉と同時に助手席のドアが開くと……耳に覚えのある声。
「…………え?」
そこに立っていたのは……右手に黒い長方形の物体を握りしめた……ヴァン。
「……なんで……あなたがここに居るはずは……」
「…………絹江・クロスロード。悪いが眠っていてもらおう。」
ヴァンはその黒い物体を私の首元に押し付けると、バチンと弾ける音が聞こえる。
そして、私の意識は……闇に閉ざされた。
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「……わざわざ、アレハンドロ様が同行なさる必要はないと思いますが?」
「君が苦労して手に入れてくれた情報だ、この目で見させてもらうよ。それにこれは……コーナー一族の長きにわたる悲願なのだから。」
「アレハンドロ様……いえ、コーナー家は何世代も前から計画への介入を画策していたのですね?」
……まったく、実に愚かな事だ。どうやら、コーナー家は野心にあふれた小物ばかりのようだね。
「その通りだ。だが、ヴェーダがある限り私達にはどうする事もできなかった……そんな時、偶然にも私の前に天使が舞い降りた。君の事だよ、リボンズ・アルマーク。」
「拾ってくださった事へのご恩返しはさせていただきます。」
……まぁ、つかの間の夢は見させてあげようか。彼の家が持つ資産は必要だからね。
「しかし、よもや本体の場所を突き止めようとは……」
「時間がかかって申し訳ありませんでした。」
「フ……リボンズ、君はまさしく私のエンジェルだよ。」
……遠隔操作する形で助かったよ。事が終わったら、このサブボディは廃棄しなければね。
“こちらグラーベ、目標の確保に成功した。”
そうか……丁重に扱ってくれよ?彼女はヴァニタスの大事な存在だからね……
しかし、ヴァニタスを無事救助できてよかったよ。彼というイレギュラーがいなければ、アンノウンには対抗できない。あの思考は僕達には理解できないからね……
ヴァニタスのマスクには洗脳効果を強める装置を組み込んでいたけど、あれは失敗だったね。指揮官としての能力は増したがヴァニタスが持つ本来の良さを失ってしまった。
……そこまで考えて、僕は自分の考え方が変わっている事に驚く。
彼の事は、道具としか見ていなかったつもりなんだがね……いや、『人間』の事すら僕は見下していたはずだ。
それなのに今は……………………人間が持つ可能性に期待している?この僕が?
「……フ…………フフ……」
「……どうかしたかね、リボンズ?」
「申し訳ありませんアレハンドロ様。少し思い出し笑いをしていたもので……」
おっと、いけないいけない。ついつい声が漏れてしまった……
でも、こういうのも悪くない。形はどうあれ僕はイオリア・シュヘンベルグの計画を受け継ぐんだ……ならば、彼の意志を受け継いでみてもいいか。
……アンノウン、これ以上は貴様の思うとおりにはさせない。
最後に笑うのはこの僕……リボンズ・アルマークだ。
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「トリニティ、戦闘空域から離脱した模様!!」
「まさか、撤退?」
「何があった?」
「……人革連側が、太陽炉搭載型MSを投入したのよ」
スメラギ・李・ノリエガの言葉は、ブリッジに衝撃をもたらした。
「太陽炉……」
「そ、そんな……」
「やはり、ヴェーダから情報が……」
「これからは、ガンダム同士の戦いになるわ。」
「ガンダムと……」
…………違う、私達がガンダムだ。
私達は……負ける訳にはいかないんだ。
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「こんなにも世界が変わっていく……その向こうには、一体何があるのかしら?」
「さぁねぇ?でも……今よりもぉぉぉっっっと楽しくなると思うわよ?」
……私のつぶやきに、彼女は楽しそうに嘲う。
「……でも、この世界はつまらないわ。」
「それは、あなたが傍観者の立場だからよ……でも、今はまだ辛抱よ?いずれあなたは……世界を変革する立場になる。その為の私で……アルマロスなんだから。」
「…………そうだったわね。」
……彼女とは、ずいぶん長い付き合いになる……初めて彼女の知識に触れた時は、全身を歓喜の感情が包み込んだほどだ。
彼女となら私は……この世界を、変えられる。
「……期待しているわよ、リュミナス?」
「もちろんよ留美……私とあなたは運命共同体なんだから。私が世界を混沌に包み、その世界にあなたが秩序をもたらして……そしてあなたは、この世界の支配者となる。」
「……ク……クク…………アハハハハハハハハハハッッッッ!!なんて、なんて素晴らしい響きなのかしらっ!!」
私の思うままに世界を変える……これなら、王家の立場など今は我慢して受け入れようっ!!
いずれ私は………………世界を支配するのだからっ!!
「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッ!!!!!!」」
そして、私と彼女の嘲い声が静かな空間に響き渡り、私達の目が……金色に輝いた。