……アザディスタンでのミッションから数日後、俺はイノベイター組が拠点にしているコロニーに訪れていた。
絹江達には長期の出張、刹那にはCBのメンバーと接触すると言っておいたが……まぁ、信じてくれるだろう。
しかし、なぜルイスの母親はクロスロード家にいるんだか……絹江は絹江で最近家に帰ってないみたいだしな。
「やぁ、よく来てくれたねヴァニタス。」
「それで、わざわざ俺を呼び出したのはどういう事だ?」
「もちろん、君にしかできないミッションを頼む為だよ……まずは、これを見てくれ。」
すると、リボンズの後ろにあったモニターに映像が映し出される。
「……これは……」
それは、格納庫のハンガーに固定された白銀のMS。
全体的なシルエットはジンクスに似ているが、パーツ単位で見てみればスローネ系列の機体という事が分かる。
なにより頭部デザインはゼータガンダムのようなフェイスに変更されており、より禍々しさを増している。
「GNX-509TC・スローネヴァラヌスカスタム……廃棄されるはずだったものに太陽炉始動装置を装備させた特別仕様の機体さ。」
「……あの金ピカ大使の所からかっぱらってきたのか。」
「有効利用と言ってくれ。アレハンドロ・コーナーは僕らの大事なスポンサーだからね……」
「……俺に頼みたいミッションってのは、トリニティを指揮する事か?その為に、奴らと同型の機体を用意した……そんな所か。」
「相変わらず、察しがいいね。もちろん、君が用済みという訳ではない……これは、君の働きに対するご褒美みたいなものさ。絹江・クロスロードとルイス・ハレヴィの幸せな未来……君の働きへの対価としては、むしろ少なすぎるくらいだ。」
「そりゃどうも……」
ハレヴィ家への襲撃は俺自身で止めろって事か。まぁ、別に構わないんだが。絹江の命が保証されているだけましだ。
「その機体の試運転も兼ねて、この合流ポイントへ向かってくれ。後は、君の活躍を期待するよ。」
「了解した。」
……うん、リボンズに原作知識を持たせるとどうなるかと冷や冷やしていたが、なかなか話の分かる上司じゃないか。
「…………そういえば、ヒリングとリヴァイヴが君に会いたがっていたから顔を見せてやってくれ。」
「……?あぁ、わかった。」
ヒリングはともかく、リヴァイヴはついこの間一緒に行動していたはずなんだが……はて?
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「……ふふふ……話の分かる上司か……当然だよヴァニタス。君は特別な駒だからね……」
ヴァニタスが部屋を出るのを見送ると、思わず僕はそう呟いてしまう。
彼の持つ『原作知識』や考え方は、本来は存在しないイレギュラーなものだ。
以前、彼の思考をデータ化してバックアップを作ろうとしたが……結果は失敗。生まれたのは、グラーベ・ヴィオレントと同じ思考パターンを持った存在だった。
つまり、彼は『規格外品』であり『欠陥品』なのだ……ゆえに、特異性しか持たない。
他のイノベイドとは違い、彼には代用が効かない。ならば、彼の扱いには細心の注意を払わなければならない。
幸い、彼は僕らにその知識を提供する事を自分から行ってくれたので大掛かりな精神操作を行う必要はなかった。
念には念を入れて多少僕に協力する義務感を植え付けはしたものの……正直、うまく機能しているとは思えない。なにせ、行動が変わらないのだから。
「さてと……」
思考を切り替えると、僕は通信回線を開いてある人物にコンタクトを取る。
『……よぅ、待ってたぜ?』
「はじめましてと言うべきかな?アリー・アル・サーシェス」
『んなこたぁどうでもいいんだよ……それで、アンタにつけば戦争を好きにやらせてくれるってのは本当か?』
「もちろんさ。ただし、守ってもらう事がいくつかあるんだけどね。そうすれば……いずれ、君にガンダムと戦う力を与えてあげるよ。」
『……そりゃあいいっ!!アンタ、最高だぜっ!!』
彼を引き入れるのも、計画の内だ。ヴァニタスという存在を僕の手から逃がさないためのね。
…………………そういえば、彼はあれを気に入ってくれるかな?
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「珍しいね、君がここにいるなんて」
「まぁな……」
ヒリングとリヴァイヴを探して歩いていると、俺はリジェネと遭遇した。
……そういや、コイツとはあまり話をしてなかったな……でも、今はヒリングとリヴァイヴを探すのが先だ。
「……リジェネ、ヒリングとリヴァイヴを見なかったか?」
「あの二人かい?……プ、クク……あぁ、あの二人ならラウンジにいたよ。まだ居るはずだから行ってみるといいよ。」
そう言うと、リジェネはくすくす笑いながらその場を後にする……ラウンジ?
ともかく、リジェネの言葉を信じた俺はラウンジへと足を運ぶ。
「……あ~イライラするっ!!もう無理ぃぃぃぃぃっっっっっっ!!!!」
「ちょっと待てヒリングッ!?外に出たら……」
ちょうどラウンジの前に来ると、ドアが音を立てて開き……
「「あ。」」
「……お前らにそんな趣味があったとはな……」
なぜか、メイド服を着けたヒリングとリヴァイヴが居た。
「……ヴァ、ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァニタスッ!?!?」
「ちょっ!?!?なんでアンタがここにいるのよっ!?あと、勘違いすんなっ!!これは、リボンズに言われて仕方なく……」
「皆まで言うな、俺は分かっているから……そうだよな、いくらイノベイドだからってヒリングは女の子だからな……たまにはイメチェンしたくなるよな。」
「全然わかってないでしょうがっ!?」
だがしかし……残念な事に、その胸を強調するような衣装の良さを活かしきれてないぞヒリング……貧乳のお前ではな。
リヴァイヴはというと、なぜか胸に詰め物までしてメイド服を着ている……リヴァイヴは元々細いからな、似合ってはいるんだが……
「ちょっとヴァニタスッ!!アンタ、今変な事考えたでしょっ!?」
「……しかし、リヴァイヴまでコスプレをするとはな……しかも、胸に詰め物まで入れて。」
「無視かっ!?って、ちょっと待……」
ヒリングがなんか言ってるが、俺はリヴァイヴの胸に手を当ててみる。
ぷに
……ぷに?
右手に伝わった感触がおかしくて、俺は確かめるように手を動かす。
ぷにぷに
無駄にこだわってるなこのパッド。そこまでして女装したかったの……
「………あ………あぅ……」
………リヴァイヴさん、どうして顔を赤らめているんでしょうか?え、訳がわからないんだが……?
「いい加減に手を離せこの馬鹿ぁぁぁぁっっっっ!!」
「ごふっ!?」
そして、ヒリングの空中回し膝蹴りがこめかみに直撃し、俺は吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫リヴァイヴ!?……アンタ、なにしてんのよいきなりっ!?」
「あ……あぅ……あぅあぅ……」
「……い、いやちょっと待ってくれ……状況が分からん……」
ただでさえお前の一撃で頭がふらついているし、うまく考えがまとまらん……
“そういえば、言い忘れてた事があったよヴァニタス………………実は、ヒリングとリヴァイヴの性別を女性で固定したんだ。”
すると、リボンズが楽しそうな声でそんな事を知らせてくる…………リィィィィィィィィボォォォォォォォォォンンンンンンンンンズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
「……という訳で、申し訳ありませんでした……」
とりあえず、俺はリヴァイヴが許してくれるまで土下座をし続けました。
うん、知らなかったとはいえこれはやってはいけない事だしなっ!!
「い、いやそこまで謝らなくていいぞ?伝えてなかったリボンズが悪い訳だし……それに、お前になら別に……」
「も~、リヴァイヴは甘すぎるのよっ!!」
……うん、GJだヒリング。リヴァイヴが呟いた言葉は聞こえなかった事にしよう。
……ところでリボンズ、ヒリングはまぁいいとしてリヴァイヴの性別は戻すのか?
“何を言ってるんだい、戻す訳ないだろう?だって……その方が面白そうだからね。期待してるよ、ヴァニタス”
……テメェ、俺に何を期待してやがるっ!?
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……さて、リヴァイヴとのハプニングも一段落を終えて、俺は今スローネヴァラヌスカスタム(長いのでスローネVCと略する)にを駆ってトリニティとの合流ポイントへ移動していた。
合流ポイントにたどり着くと、そこにはスローネ三機とその母艦が停泊していた……ふむ、一応こちらを歓迎する気はあるようだな。
俺がスローネアインに回線を繋ぐと、画面にヨハン・トリニティの顔が映し出される。
「……君達がチーム・トリニティだな?私はマイスターW……君達の指揮をする為に、ラグナ・ハーヴェイによって派遣されたガンダムマイスターだ。」
『はじめましてマイスターW。こちらもあなたについては聞いています……しかし、そのマスクはいったい?』
画面上のヨハンが訝しげな表情を見せるのも無理はないだろう……今の俺はパイロット用のヘルメットではなく、顔を隠すようなタイプのヘルメット(例えるなら、戦隊ヒーローのようなマスク)を被っているからだ。
理由?そんなの顔をばらす訳にいかないからに決まってる。トリニティってたしかトレミーとも接触してたよな?刹那が居るってのに素顔を晒す訳にはいかないだろ。ちなみに、声もボイスチェンジャーで変換済みだ。
「……事故で再生医療が出来ないほどの傷を負ってしまってな。このマスクは視覚補助等の役割も兼ねている、気にしないでくれると助かるが……」
と言うことで、最もらしい嘘をついておく。まぁ、視覚補助ってのはある意味正しい。
『いえ、こちらこそ不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした。』
『んな事はどうだっていいんだよっ!!』
すると、通信に割り込んでくる奴がいる……映ったのは、ミハエル・トリニティ。
『ミハエルッ!!』
『いいか、俺達はずっと3人一緒だったんだ……急に、アンタみたいな訳のわかんねぇ奴に割り込んで欲しくないんだよっ!!』
『ミハ兄ぃに私もさんせ~いっ♪』
……まぁ、だいたいわかってたけどな……
「……つまり?」
『察しが悪い奴だな……俺達の上につくってんなら、それ相応の力を見せろってんだよっ!!』
そして、スローネツヴァイはGNバスターソードを振りかぶるとこちらに突撃してくる。
「やれやれ……ずいぶんと血気盛んだな。」
『なっ!?』
俺はスローネVCを動かすと、GNバスターソードの一撃を躱しつつ右膝に固定されたGNビームサーベルを抜いてスローネツヴァイのコクピットに突きつける。もちろん、ビーム刃は展開していない。
「これで満足してくれたかな?まだ気が晴れぬようなら、今度はシミュレーションでお相手をしよう……くだらない事で双方のガンダムを消耗させても無駄だからな。」
『ちっ!!』
『ミハ兄ぃ、かっこわる~い。』
『ダセー、ダセー!!』
『お前達、いい加減にしろっ!!……すみませんマイスターW。後は、我々の母艦で話をしましょう。』
こうして、ファーストコンタクトが終わった訳だが……ヨハンはいいとして、ミハエルとネーナが問題かな?
せめて、命令だけは聞いてくれるといいなぁ……
(つづく?)